眠りに落ち、丁は夢を見た。
それは楽しいものではなく、過去の恐怖を呼び起こすような最悪なものだった。
夢から抜け出せなくなった丁は、必死に白澤に助けを求める。
※白澤+丁
※丁視点
戌の刻・・・
風呂から上がって、はくたくさまに仕立ててもらった襦袢を着て、居間に行った。
「はくたくさま、お風呂ありがとうございました。」
「いいえ。ちゃんと温まったかい?部屋は寒くない?」
はくたくさまは書き物をしていた手を止めて、私を見た。
「はい、大丈夫です。」
「おや・・・丁、おいで。」
「はい、はくたくさま。」
はくたくさまがわたしを手招きして呼んだ。
わたしは彼のもとへ小走りで行った。
「襦袢の襟元が崩れてるよ。風邪を引いたら大変だ・・・よし、いいよ。」
彼は私の身長に合わせてしゃがみ込み、襦袢の襟合わせを整えてくれた。
「あ、あの・・・ありがとうございます。」
他の子にとっては当たり前であろうことでも、
人に優しくされることに慣れていないわたしには大層なことであり、反応に戸惑ってしまう。
「どういたしまして。さあ、もう寝ようか。」
はくたくさまがわたしを抱き上げた。
「はい・・・。」
抱っこも最初は怖かったけど、今は平気だ。
はくたくさまの腕はいつも優しく、安心できる。
ああ、眠くなってきた・・・
「ふふふ。目がとろんとしてる・・・。眠いんだね。もうすぐ寝室だからね~」
はくたくさまはわたしの背中を優しくさすってくれた。
寝室に着いて、はくたくさまは既に敷いてあった布団の上にわたしを下ろした。
「あ、お布団・・・。すみません、自分で敷けばいいものを・・・」
「え?そんなこと気にしなくていいよ~」
はくたくさまは、子どもは大人に甘えてればいいんだよ~と笑いながら言った。
「ありがとう・・・ございます・・・」
わたしはそのまま布団に潜り込んだ。
「あれ~?丁はもう寝ちゃうのかな?じゃあ、僕も寝よ~」
はくたくさまは私の隣に潜り込んできた。
「は、はくたくさま?!」
そのままわたしを抱きすくめた。
「今日はぎゅ~ってして寝よ?今夜は肌寒いし、ね?」
「あ・・・・あ・・・の・・・!」
「ん~丁はあったかいね。ふわふわするし。」
何だか、はくたくさまの行動が幼子のそれのように見える。
でも、はくたくさま、とてもあったかい。
こんなにあたたかいのなら、どんなに寒くても平気だ。
「ん・・・・・・」
ああ、本当に眠い・・・
もう少し、はくたくさまとお話ししたいのに・・・
瞼の重さに抗えず、目を閉じた。
はくたくさまの手が頭を撫でてくれている・・・
気持ちいい・・・
「可爱的孩子・・・(愛しい子・・・)」
はくたくさまが何かを呟いたが、中国語だったので、意味が分からなかった。
そこでわたしの意識は途絶えた。
・・・・・・。
『・・・・・・!!』
ん・・・?
はくたく・・・さま?
此処はどこだ・・・?
森・・・?
『丁!!』
「え・・・?」
『貴様、今まで何処に行っていた!!』
なんだ・・・?
「なんで、わたし・・・・・・」
『今夜は大事な儀式があるのだぞ!手を焼かせるな!』
儀式・・・?
まさか、雨乞いの・・・?
「どうして・・・?!」
『さっさと帰るぞ!!』
強く手首を掴まれ、引っ張られる。
「ぁ・・・・・・!」
痛い・・・!!
なぜ、村人がここに・・・?!
わたしは、はくたくさまと暮らして・・・
・・・!!
はくたくさまは?!
『ほら、さっさと歩け!』
どこ・・・!?
「はくたくさま!どこにいらっしゃるのですか?!」
わたしは必死にはくたくさまの姿を探した。
「丁・・・」
「!!」
はくたくさまがわたしの前に現れた。
「はくたくさま・・・!」
「丁・・・今日で、さよならだ・・・。」
わたしと目を合わすことなく、彼はそう言い放った。
「え・・・?」
「僕は、神だ。人間の事情に干渉してはいけない。」
そんな・・・はくたくさま・・・
「お願いです!助けてください・・・!」
「・・・・・・」
『いい加減にしろ!この餓鬼!!』
またも強い力で手を引かれた。
「はくたくさま!!いや・・・!!」
「丁・・・。強く生きなさい。」
はくたくさまはそれだけ言うと、踵を返した。
「行かないで・・・!お願い・・・っ!」
わたしは力いっぱい手を伸ばしたが、彼には届かず、虚しく空を切った。
「いやだ・・・死にたくない・・・!」
はくたくさまは振り返らない。
嗚呼・・・。
また、地獄に戻ってきてしまった・・・。
「いや・・・いや・・・!たす・・・け・・・て・・・」
わたしのこの声だって、虚しく風に混じるだけ・・・。
もう・・・どうでも、いい・・・
瞬間、頭に激痛が走った。
今度はなんだ・・・?
嗚呼、此処で死ぬのか・・・
わたしは目を閉じた。
全てが真っ暗になった。
『丁!起きなさい!!僕はここだ!戻って来い!!!』
はくたくさまの声・・・?
どうして・・・?
はくたくさまとは、さようなら…した筈なのに・・・
・・・。
やっぱりはくたくさまと・・・さようなら、したくない・・・。
『丁!丁!!こっちに来なさい!!』
嗚呼・・・
はくたくさま・・・・・・
「ん・・・」
重い瞼を開けた。
身体を強く引っ張り出されたような感覚が微かに残っている。
「あ・・・」
はくたくさまだ・・・。
「丁!!ああ、よかった・・・!」
わたしは堪らずはくたくさまに縋り付いた。
涙が溢れてくる。
「お願いです!丁を捨てないで・・・!何でもしますから・・・!」
「丁・・・」
はくたくさまは強い力でわたしを抱き込んだ。
「丁・・・丁・・・!聞きなさい・・・!」
「おねが・・・ぃ・・・!死にたくない・・・いやです・・・いや・・・っ・・・」
はくたくさまの言葉なんて聞こえていなくて、髪を振り乱しながら懇願した。
「落ち着きなさい!丁・・・!」
彼はわたしの耳元に唇を寄せた。
「大丈夫・・・お前を捨てたりなんかしないよ・・・絶対に・・・」
「かみ・・・さま・・・」
「ああ、神の名に懸けて誓おう。この先、どんなことがあってもずっと側に居るよ。ずっと守ってあげる・・・。」
大好きなはくたくさまの声が、耳に流れ込んでくる・・・
心地良い・・・
「お前は悪い夢を見ていただけだ。なにも心配することはない。」
はくたくさまの指がわたしの頬をなぞり、涙を掬い取った。
「はくたくさま・・・」
まだ、頭が重い・・・・・・
「大丈夫、ずっと抱きしめていてあげるから、もう泣くのはお止め・・・いい子だから・・・ね・・・?」
嗚呼・・・良かった・・・
わたしは、彼の言葉とぬくもりに身を任せて再び意識を手放した。
今度は大丈夫・・・
神様が・・・はくたくさまがずっと側に居てくれるから・・・
終