とある無能力者の生き方   作:異端者

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新たなる闇①

麦野は扉の奥へと目をやる。

最早、原型をとどめていない扉の奥へと。

ゆらり、と今度こそ確定的に人影が蠢く。

ボシュゥゥ!! と問答無用で麦野が『原子崩し』を放つ。

そのまま、闇へと消えていく。

 

(……この研究所は思ったよりも広いようね)

 

闇へと消えた『原子崩し』を見ながら、麦野はそんな事を考える。

何も反応がなかったとは言え、その先に誰かいるのは確実だ。

邪魔するなら排除する。そう麦野が判断した正にその時。

再び、麦野の脳が揺さぶられる。

 

「クソがっ!!」

 

同じことの繰り返しに麦野は激しい苛立ちを覚える。

視界がぐらつくのを覚えるがそれを無視して、麦野は前よりも巨大な『原子崩し』を放った。

大きな爆音とともに、扉があった部分の周りの壁も溶けていく。

今度こそ、扉の奥の空間があらわになる。

 

「やれやれ、さすがは第四位といったものですか」

 

女性らしき声が響いた。女性らしいと言うものの、可愛らしいというより凛々しいと言った方がピッタリな声である。

姿も見えた。顔は女の子というより美少年。執事のような真っ黒な服を着ており、とても上品な雰囲気だった。

 

「姿を見せない非礼はお許しを。戦場とはそういう物だと認識していますので」

 

その女性(少女や女の子と呼ぶには大人びている)は丁寧に頭を下げる。

 

「何? アンタ?」

 

たった一言だけ聞いた麦野の目はとてつもない威圧感があった。普通の人間なら、恐れを抱き逃げだしてしまいかねないほどだった。

しかし、女性は何事もないかのように答える。

 

「何、という質問の意味は汲み取りかねますが……。私は……そうですね、『レオン』。そう呼ばれておりましたが」

 

そう言って、またペコリと頭を下げる。本当の執事のような挙措だった。

それがまた、麦野を刺激する。

何の前触れもなく放たれる『原子崩し』がレオンと名乗る女性へと迫る。

レオンはほほ笑んだ表情を崩さない。

グリン!! と麦野の放った莫大な閃光が捻じ曲げられる。それも別の力で強引に捻じ曲げたというような印象だった。

どうやって? という疑問が麦野の頭をよぎる。

麦野の『原子崩し』は電子でも原子でもない曖昧な状態で放たれる。そういう特殊性だけではなく、第四位の能力は強力だ。おそらく、直接的に干渉できるのは第三位ぐらいのものだろう。

しかし、目の前の女性はそれを難なくやってのけた。

麦野の第四位の頭脳は目標の能力を探るべく、回転する。

 

(何の前触れもなく発生した衝撃、捻じ曲げられた『原子崩し』……)

 

全ての『点』を一連の『線』へと移行させる。共通点を見つけ、そこから能力をあぶりだす。

 

「させると、思いますか?」

 

レオンはそう言ってほほ笑む。ふっと笑うと右手を軽く横に振るう。

それだけで、麦野の体が吹き飛ぶ。

 

「グ、ガァ……!」

 

自分の体が吹き飛んだのに気付くのは早かった。だが、受け入れられない。第四位の自分がこうもあっさり吹き飛ばされることが。

 

「相手は麦野だけではないですよ!」

 

横から絹旗が不意打ちをかける。

レオンはそれを何でも無い事のようにかわす。

直後に、絹旗の体がぶわっと浮き上がった。

麦野と全く同じ現象だった。確実にレオンという女性の能力だろう。

絹旗は『窒素装甲』があるためダメージ自体はないのだが。

しかし、二人ともレオンの能力が何なのかを判別できない。

 

「何とやりきれない。ご主人様ならとうに私の能力など見抜いているでしょうに……」

 

やりきれない、といった表情で麦野と絹旗を交互に見やる。

ご主人様。その言葉にも疑問はあるだろうが麦野にとってそんなものはどうでもいい。

自分が小馬鹿にされた。その事実で麦野の感情は沸点に到達した。

 

麦野は今度こそ全力で『原子崩し』を放った。

 

 

――――――――――――――――

 

天谷は一つのデータを見ていた。

木原病理から送られてきたものだ。

 

「ふざけるなよ……。何だよ、これ」

 

天谷は珍しく怒り、歯ぎしりさえしていた。

研究所の端末に送られてきたそのデータを見ながら天谷は激しい怒りを覚える。

 

そこにはこう書かれていた。

 

『暗闇の五月計画・セカンドシーズン』について

 

ファーストシーズンによって『ベクトル操作』を発現させた天谷慶の実験データをもとにセカンドシーズンへと昇華させる。

 

その目的はただ一つ。

一方通行と同じ『ベクトル操作』を持つ能力者を量産させるために一方通行の『自分だけの現実』を強制入力することです。

 

「ふ、ざける、なよ……」

 

そして研究立案者は木原。木原病理だった。

 

「病理ィィィィィィィィィィィィ!!!!」

 

怒りのあまり端末を地面に投げ捨てた天谷の叫びは監視室に虚しく木霊するだけだった。

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