天谷は全力で研究所の狭い通路を走っていた。
天谷が最も嫌うものが、目の前で起きようとしていたから。
悲劇。
それを嫌うのは過去にそれを味わったとかそんな重たいものではない。
ただ楽しいことが好きでその正反対が嫌いというだけ。ただそれだけ。
しかし、その単純な原動力は天谷にとっては大きな力となっていた。
走る。走る。走る。足の痛みなど無視して。
「クソッ! あんな能力持った奴なら麦野とか殺されちまうだろうが!!」
さっきまで自身の命を狙っていた人間を気遣うのもまた天谷の特徴と言えるだろう。
(何がセカンドシーズンだ! 大層な名前付けて、やりたい放題やりやがって!)
タンタン!! と通路を流れるように駆け抜ける。
そして、地下区画のある東ブロックへとつく。
そこには、
「お待ちしておりましたよ。ご主人様」
一人の女性の周りに横たわっている二人の少女の姿があった。
「誰がご主人様だ。お前を雇った覚えはねえよ」
目の前の光景に苦笑いをしながら天谷が答える。
「私が勝手にそうしたいと思っているだけですのでお構いなく」
そう言ってほほ笑むレオンを見て思う。
こいつは食峰に似ている、と。
つかみどころが無く、思考の読めない。そういう人間だと。
「……お前、面白いな」
素直にそう呟く。
ダダン!! とレオンを目掛け真っ直ぐに走り出す。
対して、レオンは柔らかい表情のまま。
そして、天谷の腹のド真ん中を衝撃が襲った。
「グッ……!」
鈍く走る衝撃に顔を歪める天谷。
しかし、いつまでも痛みに悶えている場合ではない。
ゴッ! と殴られたかのような衝撃が連続して天谷を襲った。
それも、骨に異常をきたしているであろう右腕にである。
「グ……。ハァ……。くそったれ」
あまりの痛みに額に嫌な汗が浮かぶの天谷は自覚する。
「性格悪いな。ケガしてるところに攻撃はタブーだろうが」
苦笑いしながら天谷が言う。
「そういうものでしょう。殺し合いとは」
レオンも飄々とした表情で答える。
「そうかよ」
再び、天谷は駆け出す。
レオンも全く表情を変えることはない。
そして衝撃が天谷を襲う……。
かに見えた。
「なっ!」
初めてレオンの表情に焦りが浮かんだ。
天谷はレオンが能力を使う間合いを読んで、それをかわしたのだ。
そのまま、レオンのもとへ距離を詰めていく。
拳の間合いに入る。痛めていない左腕をレオンにぶつけるべく振りかざす。
だが。
レオンがにやり、と不気味な笑みを浮かべた。
「ご主人様が私の能力を見抜くことは計算済みですよ」
フッ、と能力が発生する前兆が天谷の頭部の真横で起きる。
突然の不意打ち。
天谷にはかわせないはずだった。
しかし。
天谷もまた不気味な笑みを浮かべていた。
「それはこっちもだバカ野郎」
突然踏み込むのをやめる。
能力によって発生した衝撃は何もない空間を横切るだけだった。
今度こそ。
今度こそ、天谷の拳がレオンへと迫る。
レオンはまた不気味な笑みを浮かべる。
「残念ですがご主人様の負けです」
完全に勝利を確信した顔だった。
天谷がその声と表情を読み取った瞬間だった。
拳が不自然な形で受け流されるように右へそれた。
「なっ……!」
突然の出来事に天谷は何が起きたのか認識することができなかった。
そして本当に天谷の頭部に衝撃が走り。
天谷の意識は途絶えた。