学園都市の『闇』は一個人が認識するより、はるかに深く、どす黒いだろう。想像の一回りも二回りも。
垣根にもその事はわかる。何年も裏で生きてきたのだから。
垣根帝督は少々後悔していた。
安易に『幻想御手』の調査を受けてしまったが、垣根は元々そういう仕事はしないしあまり得意でもない。
学園都市第二位の超能力も意味を成さない。
「さーて、どうすっかな」
垣根は道を歩きながら、首をコキコキ鳴らす。
実際にこれといった条件がない依頼ではあるので出来ない事もないのだろうが。
(実際に何のヒントも無いし、まずは情報収集からか)
常識が通用しない能力を持っている垣根だが、別に垣根自身に常識が通用しない訳ではない。
こういったものには相応の手順というものがある。
垣根は近くにあるネットカフェに足を運ぶ。
来たこともない場所だったので(この後来るとも思えないが)適当に三時間程時間をとる事にした。
暇つぶしにもなるだろう。
そんな訳で適当に調査を開始する。
「……レベル、アッパー、と」
慣れた手つきでカタカタとタイピングをしていく。
パソコンの画面としばらく格闘した後、垣根はわずかに眉をひそめる。
情報が少ない、からではない。むしろ逆。
「情報が広がりすぎてやがる」
当たり前と言えば当たり前だった。
学園都市は六段階の能力の評価で個人の価値が決まってしまう。
その為、能力者と無能力者の間では自然と確執が出来てしまったりしている。
垣根と天谷のような例外も存在するが。
とにかく画面には様々な情報が飛び交っていた。
曰く、それは食事の方法だとするもの。
曰く、それは音楽ソフトだとするもの。
曰く、それは存在などしていない。
最早、垣根の頭脳をもってしても情報の取捨選択は不可能な程、膨大な量だった。
「まあ、こんな便利な物がありゃあ誰でも食いつくか」
学園都市第二位の垣根にとってはこんな外付けの力など邪魔でしかないが、無能力者、あるいは非力な能力者などにとっては喉から手が出るほど欲しいだろう。
作った人物の特定。これも、優先度が高いと言えるだろう。
垣根の直感としては。
(これはほぼ間違いなく存在する)
学園都市の都市伝説には様々な物がある。その数も多い。
おそらく、この『幻想御手』も都市伝説の域を出ていない。
しかし、火の無い所に煙は立たないという言葉もある。
さらに木原唯一が食いついた案件。これが決め手だろう。
「そんじゃ、始めるか」
そう言った垣根は予定より一時間程早く、店を後にする。
そして、
「だけど『木原』も何も関係ねえ。俺のやりたいようにやらせてもらうぞ」
学園都市第二位が本格的に動き出す。
何気ない風景もよく見れば思いがけない発見ができる事もある。
それをより強く感じさせる一コマだった。
街を一人の少女が練り歩いていた。
「ったくよォ……せっかく外に出たってのにやる事ねェよなァ」
黒夜海鳥。
かつて天谷と同じ『暗闇の五月計画』の被験者の一人。
一方通行の『攻撃性』を受け継いだ者。
能力の『窒素爆槍』は手に窒素の噴出点を作る事により槍のように襲いかからせる。強度は大能力程だろうか。
一見すればヘソを出したり、パーカーを頭からかぶったり、イルカの人形を持ち歩くなど色々と違和感はある。しかし、それらは黒夜の十二歳程の見た目を鑑みれば大して気にする程の事でもない。
問題は彼女の纏っている雰囲気だ。
『その道』の人間ならわかる彼女の殺気が『闇』を匂わせる。
そしてさらに質の悪いのが一方通行より受け継いだ『攻撃性』である。
単純に言えば悪意の塊。そんな人間が街を歩く。
「なァーンか……ねェかァ?」
その声は何かを捜しているというより、何かを見つけたという感じだった。
にやり、と。
少女とは思えない程の笑みを浮かべる黒夜の視線の先には。
学園都市第二位の超能力者。
「あァーれェー? 誰かと思えば帝督か」
相手はまだ気付かないのか黒夜に背を向けている。
それを見て黒夜はまたにやりと笑う。
「はい、ドーン!!」
掛け声とともに垣根に突進していく黒夜。
しかし、それを垣根はすっと横にずれかわす。
垣根が軌道から外れた事により、黒夜は虚しく地面をヘッドスライディングする。
ズシャア!! という音が響く。
それに周囲の学生たちも一瞬時間が止まったようにそちらを向いた。
「帝督ゥ?」
ぎろりと地面に伏したまま垣根を睨みつける。
垣根はそれを無視してスタスタと歩を進める。
「おいィ! 待てやゴラァ!!」
めげずに追いかけてくる黒夜をうっとおしく思ったのか。
垣根は面倒そうな調子で、
「……何だよ」
「何か面白そォな事してンだろォが! 私も混ぜろ!!」
異様にテンションの高い黒夜に若干引き気味の垣根。
何故かと一瞬判断がつかなかったが、
(コイツ……俺といれば慶に会えるとか思ってんな)
ウキウキしてる黒夜を見ながらそんな事を考え、ため息をつく垣根だった。