とある無能力者の生き方   作:異端者

18 / 97
垣根帝督③

何の変哲もない喫茶店だった。

そこに一目見るだけでは気付けない異常な組み合わせがまぎれている。

黒夜海鳥と垣根帝督。

この本来ならあり得ない二人にも共通項がある。

天谷慶という無能力者の少年である。

 

「ふむふむ。つまりこの『幻想御手』とかいう物の製作者をとっちめりゃいいンだなァ?」

 

そう言って上機嫌に何度も頷く黒夜。

それを見て垣根は何度目かわからないため息をつく。

こんな事なら話さない方が良かったのではないのか。

黒夜は少しこの事件を軽く見過ぎている。

どこかの不幸少年ではないが、とてつもなく不幸な気もしてくる。

 

「おい、そろそろ行くぞ」

 

そう言って垣根は立ちあがる。

こうなっては最終手段を行使するしかないと第二位は判断する。

黒夜は天谷に会えると思ったのか目を輝かせて、イルカの人形をバタバタさせながら立ちあがる。

 

「慶の家かァ? だよなァ!」

 

「わかったから。慶だからさっさと行くぞ」

 

馬を落ち着かせるような動作で黒夜を落ち着かせる垣根。

天谷の家に向かいながら情報を頭の中で情報を反復する。

 

(まず、大前提として『幻想御手』は存在する。これが決まらねえと話しにならねえ。でも、それがどんな物でどういう風に使われているかは不明。また製作者も不明。……だとするなら実際の使用者に当たるのが妥当、か)

 

「なァ、帝督」

 

考え込む垣根に黒夜が声をかける。

 

「なんだよ」

 

「これって変じゃねェか?」

 

黒夜が言いたい事は垣根も引っ掛かった部分だ。

情報拡散の早さ。

こんなものは子供にもわかる。

明らかに情報量が多すぎて、情報が広がるのが早すぎる。

明らかに人為的な意思の入り込む余地があった。

そしてこの状態がいつまでも続くと思っている実行者も間抜けの一言だろう。

学園都市のネットワークは蜘蛛の巣のように張り巡らされている。下手な事をすればすぐにばれる。

だが現に『幻想御手』は実体さえつかめていない。

 

「……あのムカつく統括理事長なら気付いているかもな」

 

垣根はわずかに考え、その人物を口にする。

確かに学園都市を完全に掌握し、ありとあらゆる機構を組み上げるあの人物なら可能性はある。

しかし、教えてくれるわけでもない。

そんな事を考えていると、

 

「どわい! あの、ちょ……ストーップ!!!!」

 

垣根の見知った声が響き渡った。

直後。

ドゴンバガンズドン!! と。

結構洒落にならない音が垣根と黒夜の鼓膜を揺さぶった。

何かから必死に逃げる天谷が走ってくる。

 

「どうしました! あの時はもっと強かったじゃないですか!」

 

後ろから何か執事みたいのが追いかけていた。

彼女の能力なのだろうか。

天谷を追うようにアスファルトに十センチ程の穴があいていく。

 

「くっそ! 前よりえげつねーなおい! ……と思ったら帝督! ヘルプミー!」

 

男なのか女なのかよくわからない執事に追われながら、最後の希望を見つけたように必死に手を振ってくる。

そんな天谷を垣根は。

 

「……」

 

他人のフリで一蹴した。

 

「ぇぇぇぇぇぇええええええ!!?」

 

最後の砦を失った天谷は。

ブゴン! という音と共に宙を舞った。

 

そして数分後。

黒夜にツンツンとつつかれながら、天谷は公園の地面に倒れ伏していた。

傍らでは垣根とレオンが意気投合したように談笑している。

天谷は目を覚ますが、立ち上がらない。

 

「あ、起きた起きた」

 

「……海鳥、か」

 

そう言って体の調子を確かめる。

体の機嫌がよくないのか、天谷はわずかに眉をひそめながら、

 

「つか、何でこんなところに帝督と海鳥がいるの?」

 

「ああ、それはな」

 

垣根は思い出したように、レオンとの談笑をやめ呟く。

 

「実は『幻想御手』ってのを調査してんだけどさ」

 

その単語に天谷はわずかに眉をひそめた。

 

「……能力向上装置みたいなやつだっけ。何でそんな事を?」

 

「唯一の野郎が依頼してきやがった」

 

「あいつか。あいつも何考えてんだか……」

 

天谷は地面をごろんと転がり、仰向けになる。

わずかに考える。

それはどこまで、どれほど、どのくらい楽しめるかを。

 

「……よし、やるか」

 

その言葉に垣根はにやりと笑った。

 

「そう来ると思ったぜ」

 

その情報で笑ったものがいた。

木原唯一。

他でもなく垣根に依頼した張本人。

 

「いやー。やっぱこっちの方がいいですよね」

 

彼女は『木原』として言葉を紡ぐ。

観葉植物に資料の詰まった棚。デスクにはパソコンと何の特徴もないオフィスで。

 

「慶君と垣根君が『木原』に吸い寄せられる事はもう防ぎようもないでしょうからねえ……。下手に遠ざけて不意打ちを食らうくらいなら、こちらから近づけてしまった方がやりやすいというもんです」

 

木原唯一はわずかに間を開けて、

 

「それにしても『幻想御手』ですか。また素晴らしい偶然です。脳波の相互干渉の理論を応用する。何の理論を素体にしてるかは一瞬で気付ける程度の物ですが、これから産まれる副産物を鑑みれば垣根君に持ってこい、といったところでしょうか」

 

最後に彼女は『木原唯一』として言う。

 

「……出来る事なら死なないでくださいね。……二人とも」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。