とある無能力者の生き方   作:異端者

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幻想御手③

「各々方、配置につかれたでしょうか?」

 

コールセンターで働く人がつけるような無線機を耳に装着したレオンが話す。

彼女だけではない。

実際に取引をする天谷を除いた全員がそれを装着している。

目的は一つ。

取引相手から確実に情報を聞き出す為に、取引場所を囲むように水も漏らさぬ配置をとっている。

これから出てくる相手が空間移動系の能力者でもない限り、逃走は不可能だ。

 

『何かわくわくするの』

 

無線を通し、美空の声が聞こえる。

 

『美空、遊びじゃないんですよ』

 

鈴科の声も聞こえてくる。

この無線は優れ物で、周波数を合わせる事で複数の無線機との通信が可能な代物だった。

 

「では、手筈通り進めましょう。ご主人様の行動に合わせて我々が動く、よろしいですか?」

 

レオンは結構真面目に進めようと考えていたのだが、

 

『いやー、俺としては百合子ちゃんが第一位に似てるのには驚いたね』

 

『いえ……。そんな』

 

『美空ァ、邪魔しやがったら容赦しねェからなァ?』

 

『それはこっちの台詞じゃ。愚か者』

 

全く話しの聞く気配の無いこのメンバーに不安を覚える。

こんな事で大丈夫か、などと考えるレオンだが。

元々、まともな人間がいないこの状態で普通に作戦通り行く方がおかしいか、と一人諦めるレオンだった。

 

そして天谷は。

 

「よお、お前が『幻想御手』を欲しいって奴か?」

 

目の前にはいかにもな不良が三人。

そのへらへらした態度にわずかに苛立ちを覚える天谷だったが、

 

(弱そうな学生、弱そうな学生……)

 

天谷なりにどうにかして話しを円滑に進めようと必死だった。

ここまでは予定通り。

あまり露骨にこちらの戦力を見せ付ければ、相手は先に逃げるかもしれない。

また、こちらの身元を調べられ、高位能力者である事がばれても相手は来なかっただろう。

だから無能力者である天谷がこの役を任されたのだが、

 

「は、はいい……そ、そうです、け、けど……」

 

何かたじたじでぎこちない感じだった。

それを囲むように見ているレオン達は、

 

『おい、レオン。慶の奴大丈夫かの?』

 

『……何とも言えないのが不安です』

 

さすがに美空も不安だったのか、黒夜との言い争いを中断し、司令格のレオンへ無線越しに話しかける。

それでも、垣根なんかは、気にしないようで、

 

『今度、食事でも行かないか? おごるからさ』

 

『え……でも、その、悪いですよ』

 

勝手に鈴科を食事へ誘うなど、もうやりたい放題だった。

しかも最初に遊びじゃないと美空を叱った比較的常識人の鈴科までが話しにのめりこんでいる。

 

『垣根様。あまり百合子様にちょっかいを出さないよう。鈴科様も答えなくていいですから』

 

声色に若干怒りが混じっている事に気付いた二人は会話を止める。

レオンとしては最大の戦力である垣根がこんな事で大丈夫かと不安でならなかった。

 

そんな事をしている間にも事態は進展する。

 

「さっさと済ませるぞ。金を出せよ」

 

力が無いと侮っているのか不良は強気に要求してくる。

天谷は相手にそう思わせるように弱気な調子で、

 

「は、はい……。えっと、それで『幻想御手』は……」

 

金の入った茶封筒を渡し、問いかける。

受け取った茶封筒に金が入っている事を確認した不良はにやりと笑い、

 

「あー、悪いな。今からこいつは値上がりだ。欲しけりゃあもう十万持ってこい」

 

やはり、と天谷は内心ほくそ笑む。

相手が弱く、金を持ってくる程『幻想御手』に縋り、手に入れたいならこういう連中は必ず、その思いを踏みにじって甘い蜜をすすりたがる。

確かに、天谷が『普通』の無能力者ならここで詰んでいただろう。

しかし、彼のバックには複数の高位能力者。

さらには天谷自身の戦闘スペックもかなり高い。

ならば最早、下手な演技は必要ない。

 

「いやー。俺さ。それ以上金出す気ないから。さっさと渡してくんない?」

 

いつものくだけた調子で話す。

雰囲気の変化を感じ取ったのか。不良は笑って、

 

「はあ? 何調子こいてんだよ。何の力もねえくせに調子こくな」

 

そう言って掌に炎を出す。

発火能力者。出力的にはレベル3前後だろうか。

しかし、この程度では天谷を驚かせるには力が弱い。そして、その様子を遠目に見ているメンバーも驚きはしないだろう。

そんな事にも気づかない哀れな不良は天谷が何の感情も抱いていない事に気付かない。

取り巻きの二人もにやにやと笑う。

 

「どうしたぁ! ビビってんのかぁ!? ぎゃははは!!」

 

茫然とその炎を眺めていた天谷はその目に失望を浮かばせる。

 

「ったく……。レベルが上がるっていう前評判だからどんな物かと思って蓋を開ければこの程度か? この程度の力で満足するような奴らが扱う代物なのか? ……だとすれば残念だな。非常に残念」

 

天谷は心底残念そうに首を振る。

それを見た不良は沸点に達したのか掌の炎を放つ。

ブオッ!! という音と共に炎が天谷に迫った。

だが、ある意味ではこれが合図となった。

その場を取り囲むように陣取った全員が動いた。

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