とある無能力者の生き方   作:異端者

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幻想御手⑥

地を這うようにして放たれた垣根の『未元物質』が弾丸のように不良の一人に直撃する。

声にならないうめき声をあげて、ごろごろと転がって行った。

 

「おお? 結構吹っ飛んだな。十メートルって所か?」

 

「くそ、調整がうまくいかねえ。予定では空の塵にしてやるつもりだったんだが」

 

そう言いながらゆったりと歩く。

その挙動は不思議な雰囲気だった。

 

「垣根、そろそろ俺が行きたいんだが」

 

天谷がぶんぶんと肩を回しながら言う。

傍らにはきょとんとした様子で二人を見つめる、少女と男。

 

(大方、『幻想御手』の売買で巻き込まれたってところか)

 

黒髪にロングストレートの少女とおかっぱ頭の男にミスマッチ具合から知り合いではないのか? とか勝手に予想をつける。

垣根はまだ何かがうまくいかないと言いたげな様子で首を傾げている。

どちらが何をしたのかは二人にとってどうでもいい。

目の前にいる人間にどこまでの価値があるかを知りたいだけだった。

 

「言葉を聞く意味は無い。お前らのような連中の言いたい事は知っている。……それが大口にならない事を期待するぞ」

 

垣根は本来振るうべき三対六枚、純白の翼をあえて展開しない。とことん遊ぶつもりだ。

天谷も特に力なく声を出した所を見ると、それほどのやる気を感じられない。

 

そして数分後。

 

「いやー、いい調整にはなったのか?」

 

垣根が不思議そうに声を上げる。

最早、戦闘というよりは一方的な拷問に近かった。

一方的に垣根が『未元物質』をばら撒き、天谷が適当に数発殴るだけで呆気なく沈んだ。

天谷は気絶した不良の懐から音楽プレーヤーを探している。

 

「お、あったあった。……これ使ってるくせに滅茶苦茶弱かったな」

 

「三分の二が無能力者の街だぜ? そうそう出会えるかよ」

 

学園都市第二位の超能力者にそんな事を言われても全く説得力に欠けるわけだが。

 

「……思ってたより効果が大きい訳じゃないのか」

 

天谷と垣根はその場を離れる為に、歩きだす。

ポカーンとした様子で眺めている二人など完全無視だ。

 

「いや、もしかしたら高位能力者になれねえ原因があるとか」

 

「少しよろしいでしょうか?」

 

「……脳波をつなぐって事は代理演算まがいの方法で、そうか、この理論なら」

 

「人の話を聞いてますの?」

 

後ろからの声が聞こえないのか、二人は推測だけで『幻想御手』の根幹へと近づく。

 

「多分、能力の強度じゃなくて……」

 

そこまで言って初めて気付く。三人目の声が混じっている事に。

振り向けば、常盤台の制服を着た少女が一人。腕章を見るに風紀委員だろうか。

 

「申し訳ありませんが、少々お話を……」

 

 

というありがちな展開も偶然の一言で片づけておく事にする。

支部に連れてこられた二人。

こういう経験は無かったので、あえて抵抗もせずについていく事にしたのだが。

 

(まさか空間系の能力者……それも大能力者相当とはな)

 

これならこっちと戦いたいぐらいだ、と嘯く天谷を見て垣根はやれやれと首を振る。

 

「えーと垣根さんと天谷さん……」

 

かたかたとパソコンを操作する花飾りの少女を見て垣根が呟く。

 

「俺の能力も大概、メルヘンだがあの花飾りにゃ届かねえな」

 

コーヒーに口をつける。好みの味だったのかわずかに目を細めた。

天谷はだるそうにソファに寝転がる。

 

「そういや、何で俺らこんなトコいるんだ?」

 

天谷が心底疑問そうに呟くが、その様子を少女が呆れ気味で眺める。

 

「『幻想御手』の取引現場にいて何も言われない方が不自然とは思えませんの?」

 

んー、と天谷は少し考えてから少女に同意する。

実際は『幻想御手』の全貌、仕組みをつまびらかにし、後は実証するだけの彼らにとってこの時間は無駄でしかないのだが、何かと寄り道してしまうのは悪い癖だ。

 

「えっと、名前はオセロであってるよな?」

 

「違いますの!」

 

垣根が意地の悪い目で言った言葉に少女が必死で反論する。

 

「パンダ?」

 

「……違いますの」

 

「囲碁?」

 

「……違いま、す、の」

 

「帝督。そういう事言うなって。さっき言ってたろ。コイツの名前は白井黒子だよ」

 

「違い……そうですの!」

 

どこか美空とかぶるような物言いに天谷はこみあげる笑いを抑えながら垣根とハイタッチをする。

 

「? 何ですの?」

 

「作戦成功ってやつだよ」

 

その時。

ドアが開いた。

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