大きく、平坦な更地で学園都市第三位の超能力者である御坂美琴と一万の脳を自身のネットワークに取り込み、前人未到の『多重能力者』へと変貌を遂げた木山春生は向かい合っていた。
そこへ。
「ど、どいて~~~」
気の抜けるような声が御坂と木山の耳に飛び込んできた。
直後。
ズザァァァァ!! という音とともに無能力者の少年、天谷が盛大に墜落した。とはいっても着地の衝撃が想像以上でこけただけだが。
そして彼女らと彼の距離は十数メートルもあるのになぜ『どいて』など言ったのか。天谷の思考回路など知ろうとするだけ無駄なのかもしれない。
パンパンと服についた砂埃をほろう。
上から垣根が笑っているようにも感じられたが天谷はそれを後回しにする。
それよりも求めている物が目の前にある。それは自分よりも明らかに強い力を持つ者。
これだけの経験はおそらく天谷にとっては初めてだろう。
だからこそより体が震え、興奮が沸き起こる。
「初めまして、ですね。木山先生。今のあなたなら俺がどういう人間か多少なりとも理解できると思いますが……。学園都市が誇る最弱。天谷慶ですよろしく」
「…………」
突如現れた天谷を木山は冷静に観察する。
目的を果たす為に万が一のミスも許されない。相手が自身を無能力者と言ったのだって自分をだます為の嘘かもしれない。本当はかなりの能力者なのではないか。木山の思考は冷静に組みあがっていく。
しかしそれこそが天谷の狙いであり常套手段。あえて自分が無能力者であると言う事で敵に不必要な警戒感を持たせ、その隙をつく。逆もまた然り。自分が無能力者と気付かれてもその油断を叩く。それこそが天谷の戦い方なのだ。
「そンな訳でェ……行くぜェ」
天谷が両手を翼のように広げる。
その様子に木山は御坂のみの警戒から天谷へとそれを分散させる。
ダン!! と天谷が一歩目を強く踏み込むのとほぼ同時に木山も複数の能力を放つ。
水、瓦礫、火、電子、ありとあらゆる能力が無能力者である天谷を囲む。
ズガガガガ!! というまるで機関銃の銃声を遠くで聞いたような音と共に能力に押し込まれた天谷が数メートル程後退する。
「アンタは……何で!?」
偶然、横にいた御坂が驚いた表情で尋ねる。
しかし、スイッチの入ってしまった天谷の耳にその言葉は届かない。
再び天谷は駆け出す。
(本当に無能力者なのか……?)
さすがに科学者だけあって木山は優秀だった。初手で天谷が無能力者である事に気付きかける。
もう一度、慎重に能力を使う。
やはり、結果は同じだった。ただ吹き飛ばされるだけ。
そこで木山は疑問を発する。
「君は本当に無能力者のようだが……何をしにここまで来たんだい? まさか友人が『幻想御手』を使いでもしたのかい? それなら全てが終わった後……」
そこまで言ってハッとする。
目の前の少年から尋常ではない程の殺気……威圧感とでも言うべきか。とにかく異能ではないものが彼の中に満たされている。他の無能力者からは感じられない程の雰囲気に木山は思わずたじろいでしまう。
「どォしたァ? 擬似的な『多重能力者』と言っても、強度はよくて大能力者……」
天谷は自身の言葉をもう一度吟味する。どれ程の価値があり、どこまで強いかを思考で組み上げていく。
(仮にアイツの能力がその程度だとしても俺の不利に変わりはねェ……その上でどォするか、という事だが)
天谷は視線だけを御坂へ向ける。
まだ状況が飲み込めていないのか、多少茫然としているその少女に話しかける。
「おい御坂美琴」
「な、何よ」
「こンな時に悪いがちょいと耳貸せ」
グイっと無理矢理御坂の耳を自分の口元に引き寄せる。
抵抗する御坂にそそくさと言葉を告げると、天谷は三度目の突撃を敢行する。
「御坂美琴! さっさと動け!!」
天谷の声に反応したように御坂もあわてながらも動く。
天谷は前へ。御坂は横へ。
木山は双方へ警戒しつつも天谷へ狙いを定める。
だが。
天谷は飛来してきた水を流れるような動作でかわしながら近づいてくる。
(ふむ……)
少し予想外だったのか考えるように天谷を見る。
しかし、木山の手札が切れた訳ではない。このまま能力の手数で押しこむ事も可能だ。
横合いから放たれる電撃をいなしつつ木山はさらに組み立てる。勝利の方程式を。
(やはり問題は第三位だな。あれだけの馬力では押し切られないとも言いきれん。ここは……)
誰にも悟られる事なく木山は一つの空き缶を放った。
ゆったりとした速度で、しかし確実にその空き缶は御坂の懐へと潜り込む。
直後。
ドゴォォォォン!! という爆音とともに御坂が砂塵に飲み込まれた。
「――――ふむ。もう少し苦戦すると思ったが……意外に大した事はなかったな超能力者」