とある無能力者の生き方   作:異端者

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絶対能力進化実験
新章開幕


学園都市にも路地裏、なんてものはいくつも存在する。その数をいちいち数えるなど億劫というものだ。

ぐちゃり、と。

真夜中の学園都市の路地裏で湿った音がわずかに響いた。

白い翼がスーツを着た男に突き刺さったのだ。

そして、この学園都市がいくら超能力の街と言っても、この白い翼を扱える者は一人しかいない。

垣根帝督。

学園都市第二位の超能力者。

彼の持つ『未元物質』はこの世に存在しない物質を生成する。そして同時に一定の出力を超えると、垣根の意思に関係なく展開されるのがこの白い翼だ。

下らない物を見るような調子で男が死んだ事を確認すると、垣根はその血の匂いの残る場所を後にする。

懐から携帯端末を取り出し、軽い調子で、

 

「心理定規、いつも通り回収班を回せ」

『わかったわ。帰ったらシャワーでも浴びる?』

 

端末の向こうから聞こえる少女の声にああ、と相槌を打つと垣根は通話を切る。

最初に出てくるのはため息だ。

『幻想御手』が解決した途端に再び暗部の仕事が増えた。能力を強化するネットワークシステムを基に情報を手に入れ、持ちだそうとする輩が増えたからだ。垣根がリーダーを務める暗部組織『スクール』は危険因子の排除を中心に活動している。仕事が増えるのもやむを得ないと言えばその通りだが。

それでも垣根は気に食わなかった。垣根はもっと別の何かを求めていた。

力はある。有り余って仕方ないくらいだ。しかし、それを全力で振るう相手がいない。

 

(つまらねえ……)

 

思考の内側にある本能の部分では理解していた。しかし、わずかばかりの躊躇いという理性がそれを拒否していた。

答えは出ているのに。

何がしたいのかは決まっているのに。

垣根はその願望を叶えられない。叶えたくないという理性がわずかに働く。

 

――――第一位と、殺し合いたい

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

八月も半ばまで来ていた。同時に夏休みも半ば程を過ぎた。

宿題を済ませ、残りを満喫する者がいたり、これから宿題をやり、ぼちぼち追いこみをかけようかなー、なんて考える者がいたりと千差万別だろう。

そんな夏休みを満喫し、どこか浮かれ気味の学生とは真逆に天谷は不機嫌だった。どことなく情緒不安定と言うのだろうか。とにかくあまり思わしくない感情が渦巻いている。

 

(クソクソクソクソ! あのバカ木原が! 俺を舐めやがって……今度、会ったら絶対ぶっ潰す!!)

 

無表情で街を歩きながらもその内側にはどす黒い感情が渦巻いている。

それでも殺すと言わない所がこの少年の特色とも言えるだろう。

しかし、それでも感情はおさまらない。いずれ、木原龍華にひと泡吹かせるのが天谷の当面の目標となっていた。

そこに。

 

「あれぇ? 先輩じゃないですか☆」

 

最早、返答する必要すらなかった。

問答無用で首に手を運ぶ天谷。

しかし、一つの誤算があった。

 

(マジィ!? チョーカーがねェぞ!!?)

 

目の前に現れた常盤台の超能力者……食蜂操折は学園都市最高の精神系能力者だ。その能力を防ぐことができるのは発電系の高位能力者(食蜂の場合は格上の第三位、御坂美琴)か、同じ精神系の能力者だけだ。

無能力者である天谷が彼女の能力を防ごうと思えば彼自身が作った専用のチョーカーを使う必要がある。

だが、こんな偶然があると思ってはいなかったので当然、持ち歩いていない。

もし、彼女にそんな隙を見せれば、たちまち洗脳されて何をされるかわかったものではない。

 

「もしかしてぇ……チョーカーが無いんですかぁ?」

「…………」

 

そのことにさっそく気付かれ、天谷の焦りが広がる。無能力者が超能力者と対等に接するにはそれ相応の準備というものが必要になる。

ゴソゴソと必死でポケットをあさる。しかし、無常にも何もない。何も出てはこない。

ゆっくりと。

食蜂の手からリモコンが伸びる。目標は間違いなく天谷だ。

その時、天谷は何かを掴む。

ほぼ同時にリモコンのスイッチが押された。

 

「……あれぇ?」

 

疑問の声を上げたのは食蜂だった。

演算はミスなどしていないし、妨害するような何かも無いはず。

しかし、目の前の少年は精神を自分のままで保ち続けている。

確かに、彼は普通の人間よりはるかに強力な力で自身の精神にロックをかけることができる。

 

(だけじゃ、説明できないわよねぇ……)

 

まさかそんなに都合よく彼が『ベクトル操作』を開花させる訳がない。最も、今こうして食蜂の精神操作を退ける何かを持っていた時点でも都合がいいのだが。

彼の手からはキーホルダー程の大きさをした小さな機器が見えた。

 

「それって……」

「まあ、ナノデパイズをばら撒く機器ってやつだ。……効果は対象の演算を一定時間、それも無意識のうちに乱す、だったかな?」

 

多分この周りでまだ活動してると思うけど、と天谷は肩を軽くすくませる。

つまり、天谷が特別な何かをしたというより、食蜂が特別な形でしたミスだったのだ。

 

「まあ、効果はせいぜい、一時間……お前の演算能力を鑑みると半分の三十分ってところか」

「あのぉ……私がその間に襲われたりしたらどうするんですかぁ?」

 

そう言ってクスリと笑う食蜂を見て、天谷は思わずため息をつく。

同時に手持ちのナノデパイズはもうない。次は本当にやられるだろう。

 

「じゃあな」

 

ガシ! と力強く腕を掴まれる。

引っ張り返すが存外、力が強く引き離せなかった。

そして最も質の悪い笑みと共にこう告げた。

 

「ボディガード。よろしくお願いします☆」

「……クソが」

 

また面倒なのに捕まった、と天谷は静かに呟いた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「んで。何の用だ」

 

マンション。天谷の一室でソファで向き合う形で二人は座った。

天谷の首には黒いチョーカーがつけてある。

 

「それよりぃ……この三人は何なんですかぁ?」

 

結構、強い語気で話しかけられ、天谷はつい本当のことを答える。

 

「居候。何か面白そうだから置いといてる」

 

ピクリ、と食蜂の眉が明確に動く。

 

「……つまりずっと一緒?」

「騒いだらつぶすからなマセガキ。つーかルームシェアくらい騒ぐ意味もねえ」

 

何か言われる前に言葉でもって押さえつける。

レオンがコーヒーを運ぶついでに、食蜂に何か囁きかけ食蜂の額に青筋が浮かんでいたような気もするが面倒なことになりそうなのでスルーしておく。

それよりも、と天谷は話題を切りかえる。

 

「お前は何しに来たんだ。まさか、何もねえ訳じゃないだろうが」

 

食蜂は再び口元に薄い笑みを張りつかせてから、ゆったりとした調子で、

 

「まぁ、そうなんですけどねぇ? ……御坂さんについて何ですが」

 

今度は天谷の眉が明確に動く。

それを無視した上で食蜂は軽い調子で言葉を進めていく。

 

「帰ってこないんですよ。たまに顔見たと思ったら、やけに疲れ切った感じですし。……男と遊んで朝帰り何ですかねぇ?」

 

そう言ってクスクスと食蜂は笑う。

すっとレオンが口を天谷の耳元に近付ける。

 

「(気付かれたのでしょうか)」

 

その言葉に天谷はわずかに頷いて見せる。

まるで、何かの行動を示し合わせているかのような動作だった。

 

「あ、あの……」

 

部屋から出てきた鈴科が不安そうに見つめてくる。

覗き込むように顔を半分出している様は一方通行の面影など感じさせなかった。

対して、美空はずかずかと食蜂の前まで来ると、食い入るように見つめる。

現在、能力を使えない食蜂は何事かと思い怪訝な顔をするが。

 

「……ふむ、少々大人びているだけのお子様じゃの」

「何か言ったかしらぁ?」

「み、美空! 失礼ですよ!」

 

パタパタと駆け寄り、保護者のように頭を下げたり、美空に下げさせたりとシュールな光景を見せる鈴科に笑いをこらえながらも天谷はレオンに対し、

 

「お前もちょっかいだせよ」

「御冗談を。これ以上やったらこの家が戦場と化しますよ?」

 

そんでもって加熱した食蜂と美空が取っ組み合いに突入した。

 

 

 

 

 

 

 

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