とある無能力者の生き方   作:異端者

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第二位と最弱は

八月中旬ともなればオープンカフェの客足も多くなる。今も八割方の席は埋まっている。

その中の一席で天谷と垣根はゆったりとした雰囲気でコーヒーを啜っていた。

 

「いやー、参った参った。あのマセガキ共はあんなことでカッとなりやがって本当にマセガキだな」

「そう言ってやるな」

「そうは言ってもよ。あいつら家をごちゃごちゃにしやがって片付けもしねえんだぞ? 俺とレオンで三時間もかかりやがった」

「百合子ちゃんは?」

 

天谷は軽い調子で、

 

「すごかったぞ。何か一時間くらい説教してた。……操折が恐怖で演算できないってどれくらいなんだろうな」

 

そう言って天谷は肩をすくめる。

垣根はその光景を想像して思わず笑ってしまう。

第五位が異能力者にタジタジなどと言われては学園都市も落ち目である。

それより、と天谷はスイッチを切り替え、

 

「第三位が実験の存在に気付いたっぽい」

「証拠は?」

「操折の話によると学び舎の園にもほとんど顔を出さず、たまに見たと思ったら疲れたって感じらしい」

 

ふーん、と垣根は頷いてから、コーヒーを啜る。

彼らは知らないが、御坂美琴の寮は学び舎の園とは別の寮である。しかし、学び舎の園は霧が丘女学院などの複数のお嬢様学校が併用しており、敷地は広い。それに様々なジャンルの店が並んでいて、基本的にはそちらにいるのが普通だろう。

おかしい。

食蜂の話によると御坂はそこそこの頻度で顔を見る程度だがそれでも夏休みとなればその回数も増える。

垣根の中で徐々に違和感が広がっていく。

 

「……可能性としちゃあり得るな」

「だろ? とは言っても絶対って訳でもねえ」

 

その言葉に垣根は眉をひそめる。

天谷は冗談交じりの口調で、

 

「男、とかな」

 

……………………、垣根はあきれ顔と共にため息をついた。

 

「あり得ねえだろ。中学生かそこらのガキだぞ?」

「いやいや、仮にも第三位ともなればそこらのガキよりかは達観した考えを持ってるとも」

「……あの体型のどこにそんな部分があるか知りてえよ」

 

学校に行っていないとは言え、彼らも結局のところ思春期だ。止める者がいなければそちらに向かうのは無理も無かった。

 

「つーか、疲れて朝帰りって……」

「ククッ……バカだな。あの第三位だぜ?」

「んー、そういうモンか?」

 

腕を組みやや真剣に考える。

ほんの数秒、御坂美琴のデート姿を想像するが、

 

「……ねえな」

「当たり前だ。常識が通用しねえのは俺の能力だけで充分だ」

 

うまく言えてるのかそれ? とあざ笑うような視線と言葉に垣根はわずかに青筋を立てる。

垣根は苦笑いを浮かべながらもかろうじてそれに耐えている。

 

(ここでキレたら絶対バカにされんな……ここは耐えるか)

 

そんな垣根の心情を察してか、天谷は悠々とコーヒーを口に運ぶ。

しかし、二人とも思考の片隅では常に実験の事を気にかけていた。

 

「……仮に、アイツが気付いたとして。……どんな行動を取る?」

「さあな。……まあ、『幻想御手』での動きを鑑みりゃ速攻で第一位にケンカを売りそうな感じだけどな」

 

そして彼らは組み立てていく。『第三位が実験について関知した』という前提の元、これまでどう動いたか、これからどう動くかのシナリオを。

 

「どうせ、お得意の電撃を『反射』されて手も足もでないんだろうな」

「でも、実験を止めるのは諦めきれない。だから、どうするか」

 

二人は結論を出しているであろう表情をしながら、あえて口にしない。相手が何を考えているかを探るようにチラリと見る。そして確信する。自分と同じ考えであると。

 

「……第三位を救うために?」

 

ゆっくりと問いかける天谷に垣根はまさか、と首を振る。

だったら、天谷は笑う。

 

「……第一位を殺すため、か?」

 

垣根は曖昧な表情を見せる。それは躊躇いにも見えた。恐怖にも見えた。

同時に。

喜びにも見えた。

 

とくん、と。

垣根の中で何かが渦巻いた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

マンションの一室。天谷の部屋である。

しかし、その持ち主たる天谷は第二位の垣根とどこかへ行ってしまったためいない。

この部屋には三人の少女がいるだけである。

 

「――――良かった、のですかね」

 

花柄のワンピースに頭にも花をかたどったヘアピンをつけた少女がオドオドとした調子で呟く。

鈴科百合子。

『暗闇の五月計画』の後続実験として行われた『セカンドシーズン』の生き残りの一人。

一方通行の『反射』だけなら完全に再現してしまう少女。

 

「構わん。……ああいう者どもと割り切るほかあるまい」

 

ド派手なドレスに茶色の髪をなびかせる少女、美空が答え、ぼやくように言葉を発した。感情を抑えるという考えがないのか、露骨に不機嫌そうな雰囲気を醸し出す。

同じく『セカンドシーズン』の被験者として彼女が発現させたのは『ベクトル誘導』。一定の範囲に『能力の壁』を生成する事でその壁に触れたベクトルを誘導するという能力だ。一方通行や鈴科の『反射』は無害有害のフィルターが無ければ、酸素などの生きるために必要な物まで反射してしまうが、周囲に壁を作るだけの『ベクトル誘導』にはその必要がないという利点がある。

本人の演算能力の低さなどの問題もあるが、使いやすい能力ではある。

 

「……だとしても、どうするべきでしょうか」

 

真っ黒な礼装のような執事の格好をした女性。レオンが答える。

『ベクトル生成』を発現させたこの女性こそ『セカンドシーズン』における優等生だろう。

言うなれば、座標攻撃。一方通行にもできない『ベクトルを無の状態から作り出す』という事を実現した能力の持ち主。

 

「さあの。……わらわ達は基本的に自由だから、とでも言えれば言いがの」

「やはり、不可能ですか」

 

鈴科も美空もわずかに俯く。その目には哀しみの色。

 

「そういう『役目』ですから。ご主人様には申し訳なく思いますが」

 

レオンは表情を変えない。

美空はテーブルに置いていた通信用の端末を握る。

メール機能だろうか。そこには一つのデータが添付されていた。

そこには。

 

『学園都市無能力者「第二世代」のレポート』

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