「『絶対能力進化実験』に関連している研究所は二十か所。その内十八か所は既に破壊されておる。……つまり残るは二か所じゃの」
「……残りの数はどうでもいいが」
垣根はチラリと天谷を見た。
「気になるのか? 帝督」
天谷の問いかけに垣根はあっさりと頷く。
この実験の目的は言うまでもなく『超能力者』から『絶対能力者』への進化。つまり学園都市の最終目的への到達である。
そして、被験者はこの学園都市において垣根の唯一の格上である第一位の一方通行。
第二位である垣根が興味を持たない訳がなかった。
どんな理論に基づいているのか。二万体のクローンを殺害して第一位は具体的にどう進化するのか。
実験の全てが垣根の興味をそそっていた。
そしてそれをより詳しく知るためにも。
「……実際に研究所の人間とお話するのが手っとり早いな」
やれやれ、と天谷は首を振りながらもナイフをテーブルから抜き言った。
「行くぞ」
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研究所は二か所。
天谷と垣根は二手に分かれた。
既に第三位があちこちにちょっかいを出しているため、研究所側が何らかの手をうっている可能性は高いが、彼らの実力を鑑みれば余程の強敵でなかれば問題ないだろう。
真夜中の病理解析研究所。
そこにたたずむ一つの影がある。
垣根帝督。
学園都市第二位、『未元物質』を操る超能力者。
高級ブランドを纏った金髪をなびかせるホスト風の少年は携帯を耳に当てていた。
「こっちはついたぞ」
目の前にある比較的大きな研究所を視界に据えながら垣根は携帯のむこうに語りかける。
『相変わらず早いな。距離はこっちが近いのに』
電話の向こうから聞こえる垣根がただ一人親友と認める少年の言葉に彼は肩をすくめる。
垣根は基本的に自身の能力の象徴でもある羽根を使わずに移動する。
無能力者の天谷と一緒に行動するせいで自然と出来てしまったクセではあったが、垣根自身あの羽根が似合っていないことを自覚しているので戦闘の時くらいしか使いどころはないのだ。
「まあな。……そっちの様子はどうだ?」
目の前の静かな……『本来あるべき人の気配』すらない研究所に明確な違和感を覚えながら垣根は口を動かす。
『こっちはダメだ。人の気配が全くと言っていいほどない。……逃げたのかもな』
「だとすれば研究に関するデータも持ちだされてる可能性が高い。……最悪の場合、ただの無駄足に終わるな」
『マジかよ……。ここまで来て何もない、なんて展開はあってほしくねえな』
「それも許容範囲に入れろってだけの話だよ。それに研究者の連中が本当に逃げたなら別の何か……つまり『感知されていない三か所目の研究所』の存在だって疑える。そして襲撃者の襲撃を予測しての撤収なら何らかのトラップがあるか」
『暗部が出張るかもってか?』
天谷の言葉に垣根は軽い調子で口笛を吹く。
確かにこれだけの『闇』に浸かった連中ならば十八か所もの関連施設を破壊されて黙っているとはとても思えない。何らかの対策を講じていると考えるのが妥当だ。
それが情報にある『発電系能力者の襲撃者』を迎撃するためのトラップなのか、もっと直接的に襲撃者を排除するために雇った『暗部組織』なのかを調べるには情報が少ない。また、彼らもそこまで調べる気もない。
だが、垣根は知りたいのだ。『絶対能力者へ至る方法』を。
別に強くなろうとかそういうのではない。そこまで単純な感情でもなければ、そこまで複雑なものでもないような感じもした。
「その可能性が妥当だろ。第三位が動いてる可能性が高いからな。それ相応の対応を取るならそれが一番現実的だ」
『……暗部の奴らこんな深夜まで大変な仕事なんだな』
「大変もなにも元々、夜にする仕事の方が多いってーの」
暗部として生きてきた少年は何でもないような調子で呟く。
切るぞ、と断ってから通話を終わらせる。
携帯をやや丁寧な動作でズボンのポケットに入れる。
そして、ゆっくりと研究所へ歩を進めながら自分に言い聞かせるように呟いた。
「始めるか」
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脳神経応用研究所。
そう呼ばれる研究所の前にも一人の少年がたたずんでいた。
天谷慶。
無能力者でありながら第一位と同じ『ベクトル操作』を発現させてしまい、幾つかの『闇』に身を浸らせ、幾つかの『闇』を生み出した少年。
白いワイシャツに黒のジーンズと制服にも見える服を着た茶髪の少年は軽い調子で呟く。
「いやいや。参ったね。研究所から撤収してるとは……。これじゃあ、予定通りに行くってことはまずねえな」
そう言って、首をコキコキと鳴らす。
もう一度、腰に手を当て研究所を一瞥してから、
「……帝督のわがままみたいなモンでこういう展開になったけど。ま、気にする必要もねえか」
懐から拳銃を取り出し、弾を確認する。
学園都市の銃は『理論上赤ちゃんでも撃てる銃』を開発しているため、発砲時の衝撃が極端に少ないものがある。天谷が使っているものもそのモデルだ。
そして確かめるように呟いた。
「始めるか」