真昼間の公園で双子のような少女が向き合っていた。
御坂美琴とそのクローンであるミサカ一〇〇三二号。
「どう、して……実験は止まったんじゃ」
「実験というのが『絶対能力進化実験』を指しているなら、続行していますよ。先ほども一〇〇二〇次実験が行われたばかりです、とミサカは説明します」
終わっていない。あれだけの行動も実験を止めるには至らなかった。その事実が残酷なほど御坂の心を突き刺す。
学園都市の闇の重さが深さが御坂を抜けることのできない蟻地獄へと陥れていく。
そこに。
「やれやれだな。帝督の野郎は俺に押しつけてどっか行きやがるし……全く、嫌になるな」
最弱こと天谷が通りかかる。もちろん偶然ではない。
普段は外出時にはつけないのだが、前の反省からか、首にはチョーカーがあった。
「……アンタは」
「帝督がお前にちょっかい出しただろ? ま、俺もそんなトコだ」
「あなたは……」
ミサカネットワークを通じた記憶で天谷は知られている。
天谷は軽く肩をすくめながら、
「おいおい。クローンもついでかよ。まあ、そっちの方が都合いいか」
「……」
二人は顔を見合わせる。こうして見ると姉妹のようだ。
しかし、こうしている今も御坂の内側では何かが確実にわきあがっている。それは嫌悪と言うのが一番近いかもしれない。
「一方通行、垣根帝督、御坂美琴、そしてそのクローンか」
目の前の二人に語って聞かせるように天谷は呟いた。
彼の中のシナリオを。
「そして『木原』に俺。……出るモンは出たし、出すモンは出した。そろそろ始まるぞ」
「何が……」
天谷はわずかに間を作った。核心を告げるために。
「そろそろやられっ放し、絶望しっぱなしってのも飽きただろう?」
「アンタ、何が目的?」
「そうだな。俺らは俺らの目的で動いてる。だからお前らのことは知ったこっちゃねえ」
でもさ、と天谷は言葉を続ける。
「……もう一つきっかけが欲しい。原動力が。理由が。何かが」
天谷は意地の悪い笑みを浮かべる。これは仮初の、人の心を弄ぶような言葉だ。
でも、そんな言葉にも動かされるほど御坂は脆弱になっていた。
それでも、御坂は縋らない。そこまで追い詰められても。
「……私がまいた種よ。自分でケリくらい、つけられるわ」
「そうかよ。ま、嫌いじゃねえけど。そういうの」
そう言うと軽く首を振る。
そして、耳元で囁く。
「……頑張れ」
ああ、と天谷は思い出したように、
「妹、もらってくぞ」
「な、ミサカはこれから実験です、とミサカはあなたの誘いを断るべく手を払い……」
ギリリ! と。クローン体を握る手に力を込める。
「い・い・か・ら! 来いよ」
「……、」
何か言おうとしたようだったが御坂美琴はそれをただ見送るだけだった。
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「んでもって、オープンカフェなんて洒落たチョイスをしてみたんだが」
「何故ミサカがあなたに付き合わなければならないのですか、とミサカは疑問を投げかけます」
ミサカ一〇〇三二号の事務的な声に天谷は思わずため息をつく。
普段なら木原病理か垣根くらいとしか来ないのだが。
「何となくだよ。第三位がそこまで固執する理由があるのか知りてえだけだ」
「お姉さまは単に実験が気に入らないだけでしょう、とミサカは推測を立てます」
天谷はつまらなそうに舌打ちする。
そこまでして自分は実験動物と自覚したいのか。いや、そう決めつけたいのか。
これまでのネットワークにより蓄積された記憶の部分は彼女らの人間性を育てていないはずはない。
何しろ、一万体以上のクローンが活動したのだ。そうなるはずだ。そうならない方がおかしい。
「本当にそう思っているのか? この世界にお前を助けるヤツが一人もいない、と」
「当然です。ミサカは単価十八万とボタン一つで大量生産が可能です、とミサカは合理的な結論を述べます」
「ダメだな。お前はまだダメだ。そもそも、人間がそんな合理的な生き物なら第三位は動かないし、俺も帝督も動くはずがねえだろうが」
「……ミサカにはあなた方の行動が理解できません」
ミサカ……と彼女が言葉を続ける前に天谷は人差し指を彼女の唇にあてた。
ガタン! と椅子が倒れる音と、ピト、という小さな音が重なる。
「今は、俺がしゃべる番だ。……世界はそこまで捨てたモンじゃねえよ。俺だって一度は絶望しかけた。それでも生きてる。過去は切り離せないだろうし、苦労は絶えねえとは、思う。だからってお前らが全滅してもそれはそれで気に食わねえんだよ」
前のめりになったまま、天谷は言葉を続ける。
「それにアイツ……第一位が『最強』の先に辿りつけるとはおもえねえ。アレは所詮、『最強』止まりだよ」
「ではミサカ達と行う実験は無意味なのですか? とミサカはあなたの人差し指をどかしながら問いかけます」
「理論上は可能だな。ただ、成功した時に第一位の精神は完全に壊れる。間違いなくな。それはつまらねえ。俺の遊ぶおもちゃが一つ減ることになる」
そこで会話はぷっつりと途切れてしまった。
二人とも何もしゃべらずにただ紅茶をたしなむ。
それでも、最後に彼女は尋ねずにいられなかった。もしかしたら彼女が人間らしさを獲得し始めた証と言えるのかもしれない。
「……あなたはミサカ達を助けたいのですか、とミサカはあなたの行動が一貫していないこと疑問を覚えながら問いかけます」
さあな、と天谷は否定も肯定もしなかった。
最後に笑って、
「お前はお前だよ。これだけは言える。お前は世界で唯一の存在だ。価値があろうと、なかろうとな。それが人間ってモンだ」