『絶対能力者進化実験』を基点にした三人の超能力者の物語はもうすぐ大詰めを迎える。それは確実だった。
ただ、その前にとある人物に災難が降りかかっていた。
垣根帝督。
学園都市第二位の超能力者。
高級ブランドのジャケットを身に纏った少年は珍しく焦っていた。
本来、第二位の実力を持つ彼を焦らせる人間などそう多くはない。
しかし、道端で出会うと思わず顔を引きつらせてしまうほど目の前の人物は垣根にとって天敵だった。
木原病理。
『木原』の一人にして『セカンドシーズン』の実験実行者。
垣根は何も言わずにスルーしたかった。
しかし、木原病理は軽い調子で、
「あっれー? 帝督クン、何で無視するんですかぁ?」
ブチブチッ! と垣根は額に青筋を浮かべた。
彼は『セカンドシーズン』が発覚した時、明確に告げた。
あまり出しゃばるな、と。
最近は出てこないので気にしていなかったが、いざ、面と向かわれると不気味なものである。それが、木原病理という女性の持つ雰囲気のようなものだった。
そして、垣根はゆっくりと探るように言う。
「何の用だ」
「いえいえ。今回ばかりは本当に偶然ですよ。いくら私でもストーカーのようについて回って、タイミング良く出てくるようなことはしません」
それをしそうだから、垣根は警戒しているのだが。
木原病理はそれに気付かないのかキョトンと首を傾げている。
それから思いついたように、
「せっかくですから、どこかでお茶でもしませんか?」
「どういう思考回路でそこに行きついたんだ、テメエ」
しかし、内心は木原病理に何度もオープンカフェやらの洒落た店に連れて行かれるせいで、そこに行くのが習慣化してしまったという過去もあるな、と垣根は悔しがる。
だが同時に木原病理は実験について何か知っているかもしれない。
そして、何かの罠を張っているかもしれない。
第二位の頭脳をかき乱す程の『木原』を持っている。それが、煩わしくもある。
こんな時、どこぞの『最弱』なら上手くかわせるのだろうが、あいにく垣根にそんな機能はない。
「クッソが……何が目的だ」
「いやですねえ。友人とお茶を飲むのに目的なんて必要ないでしょう?」
「誰が友人だクソボケ」
それでも道を並んで歩く。拒絶しきれないのが垣根としては痛いところだ。
どこかに逃げ場はないかとあたりを見回す。
「実はですね」
そんな垣根に対し、木原病理は悠々と口を開く。
「あなた方が実験に横やりを入れるものですから、少々、面倒なことになっているんですよ」
「面倒?」
垣根が怪訝な顔になる。
実験と言われれば『絶対能力者進化実験』くらいしか思いつかないのだが、それで間違ってはいないだろう。
「木原龍華が何か裏でこそこそと動いています」
「木原、龍華? ……ああ、あのガキか。成長しねえヤツだよな」
「ですが彼女はそこそこの『木原』を持ってますよ? 少しは警戒したら……」
「いらねえよ、そんなの。相手が『木原』ってならそれは慶の仕事だし、俺が割って入ると逆に面倒なことになりかねないしな」
「ずいぶんと割り切ってるんですね」
垣根はその言葉に肩をすくませる。
割り切っている、と言うよりは信頼している、と言った方が正しい。
垣根は第二位という巨大な力を持っているが、その力の源である『未元物質』を理解しきれていない節がある。もちろん、垣根としても理解しておきたいのだが。
「ここですね」
木原病理がさしたオープンカフェは学園都市内ではよく見られるような平凡なものだった。とは言っても、普通の学生なら足を運ぶ機会など、それほどないとは思う程度にきちんとした作りになっている。
適当な席に案内されると、彼らは会話を再開する。
「そんで?」
「ええとですね……。とにかく、気をつけてほしいんです。噂では統括理事会の一人があなた達をマークしているようですし……」
垣根は思わず眉をひそめた。
統括理事会と言えば、学園都市の行政などを管理している十二人の重鎮である。重要な案件は統括理事長である、アレイスターの独断で決められてしまうが、それでもこの十二人が持つ権力は絶大だ。
「誰だ。潮岸か」
「違います」
木原病理は呆気なく否定する。
潮岸は軍事部門ではかなりの力がある。しかし、とても用心深く他人を絶対に信用しない。
この局面で無意味に動くような人物ではない。
むしろ、今回の場合は遊び心のある人物だろう。
「ですが、まあ大丈夫です。今回は私が手を打っておきますから」
「?」
怪訝な顔をする垣根に木原病理は二コリと笑ってみせる。
「……何がしてえんだ」
「さあ? あなた達と同じで楽しみたいだけですよ? しがらみを」
「変わった趣味だな」
ウェイトレスの持ってきたコーヒーを啜りながら、皮肉を口にする。
「それより、今度、実験に付き合ってくれませんか?」
「注文の多い女だ」
「そう言わずに、ねえ? 別に減るものでもないでしょう」
彼らの他愛のない会話。
しかし、それを笑って見る人間は確かにいた。
十二人の、中に。