暗部の仕事も終え、面倒な『木原』も追い払った垣根は満を持して行動に移った。
それは、自身の下らない欲求を満たすためのもの。
第一位に全力でぶつかる。ただ、それだけ。
しかし、垣根はそのために幾つかのプロセスで実験の本当の目的を知った。
確実に。この実験は一方通行が『絶対能力者』に至るためだけに行われているだけではない。
ならば、何なのか。これが第二の命題になる。
夜の鉄橋だった。
この実験の生み出した波紋の中心に飲み込まれた少女がポツリと呟いた。
もう嫌だった。戦い続けるのが。
抗って、抗って、抗って。戦って、戦って、戦って。
それでも、この街は彼女に哀れみを与えなかった。
狂っている、としか思えなかった。二万人もの人間を『実験動物』として扱い、それをクローン体の彼女らに刷り込ませた。まだ、世界を知らず、純粋で、何色にも染まってしまう彼女らに。
「……どう、して」
誰も救ってくれないのか。やはり、自分が悪いのか。あの時DNAマップを提供してしまった自分の責任なのか。
それに、彼女らにだって未来があるわけではない。
短い寿命。
世間からの冷たい視線。
そんな中で彼女らを救うことに意味があるのだろうか。
もう、御坂は自分が何をしたいのかもわからなくなっていた。
無茶苦茶なしがらみに絡み取られ、重すぎる十字架に押しつぶされそうだった。
でも、と彼女は二つの希望を、淡い、希望を持つ。
一つはあのツンツン頭の少年。
もう一つはチンピラのような金髪の少年。
名は垣根帝督だったか。御坂は彼が自分より格上の第二位であるという情報をつかんでいた。
ちょっとした探究心で。研究所の引き継ぎが百か所を超えたことを知った時に。何かが引っ掛かり、調べてしまった。
でも、救ってくれるとは限らない。
縋るような思いで彼を調べ自分の上にいる者だと知ったからってさらにその上にいる第一位と戦ってくれる確証なんてない。
だが。
それでも世界は彼女から一筋の光を奪い取りはしなかった。
「よう、第三位」
高級ブランドのジャケットを身にまとった痩身、金髪の少年。
第二位、垣根帝督に間違いなかった。
「アンタは……。」
隠す必要もない、と判断した御坂はそっけない調子で言った。
「第二位。垣根帝督よね」
「へえ、調べたのか? 俺の情報のロックは結構、厳しいんだけどな」
「私を誰だと思ってるの?」
学園都市で最高の発電能力者だけのことはあり、彼女はハッキングも悠々とこなす。もちろん、セキュリティの厳しさによってはシステムを奪いきれないこともあるが。
垣根はヒュウ、と口笛を鳴らし、
「いや、こっちも似たような状況でよ。手詰まりだ。統括理事会の連中が動いたみてえでよ。思うように情報を取得できない。……美空ちゃんがさじを投げるんだから仕方ねえよな。とにかく、だ。今夜の実験場所を教えてほしい」
「……、どうするつもり」
「簡単だ。第一位をつぶす」
その言葉に御坂は思わず目を見開いた。本気で言っているのか、と。
だが目の前の男はニヤニヤとしているが、決して冗談を言っているようには見えなかった。
第三位には無理だった。第一位を超えるなど。
でも第二位はわからない。超えられるかもしれない。
もう、死ぬしかないと思っていた。
でも、希望が目の前にあった。
そして、彼女は第三位の超能力者であると同時に、たった十四歳の少女だった。
零れおちる。願いと、涙が。
「お願い……」
第二位に、プライドも何もかもを捨てて頼む。
そうなってしまうほど彼女の精神はズタズタだった。
「私を、私を……助、けて」
その言葉に。その涙に垣根は少しだけ驚いた。同時に納得した。
闇を知らないこの少女は戦い続けるには弱すぎたのだ。垣根のように両手を血で染め上げるには覚悟も何もかもが足りない。
でも、それが普通だ。
そんな風になるのは自分だけでいい、と。垣根は思う。
数え切れないほどの人間を殺してきた。それでも、やっと、守りたいものを見つけられた。
それが垣根帝督。
表の光を浴び続け、闇に触れた途端にこの街の苦しさを知った。でも未練を残せるほど大切な何かをつかめた。
それが御坂美琴。
垣根はわずかに笑った。
自分が第一位を殺すためなのか、第三位を守るためなのか、何のために戦うのか。今の一言でわからなくなってしまった。
でも、その全てが戦う理由になる。
「じゃあ、教えろよ。実験場所」
第二位が、動く。
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操車場。周囲に積み上げられたコンテナ。中央には列車が走るであろうレールが敷かれていた。
そして、そこには怪物と向き合う少女がいた。
ミサカ一〇〇三二号。
第三位、御坂美琴のクローン体として目の前の怪物に殺されてきた。
その目の前の怪物。一方通行は実験を行う度にある出来事を思い出す。
ただ一度。実験に乱入し、最強である自分を打ち負かした少年。
その少年は実験に組み込まれた。本来、存在しなかった二〇〇〇一次実験として。
結局、止まらない。少女の無機質な声が響く。
「実験まであと一分です。被験者、一方通行は所定の位置についてください」
「しかし、よくもまァ飽きずに殺されるモンだなァ? 人形」
一方通行の言葉に少女は一切の反応を見せない。
そこにわずかな苛立ちが積もる。
いつも、そうだった。彼がどれだけ声をかけようとも、彼女らは淡々と実験を行い、単純作業の積み重ねのように殺されてきた。
そんな、つまらない存在。
そのくだらない実験が始まる、ほんの直前だった。
ズドン!! と。
一方通行と一〇〇三二号の間の地面に、何かが降り立った。
まるで、天使のような、六枚の純白の翼を背中に宿す者。
その男は凶悪な笑顔と共に、言った。
「――――――――よう、第一位。いきなりで悪いが、俺と殺し合ってくんねえか?」