第一位と第二位。
操車場で科学の頂点に立つ二人が向かい合っていた。
「オイオイ、来ていきなり殺すとかどンな愛情表現だァ?」
「そんな人形と一万回も実験してたらよ。マンネリ化するんじゃねえかと思った俺の気遣いだ。感謝しやがれ」
「ハッ、その翼も台詞も似合ってねェぞ? メルヘン野郎」
「心配するな。自覚はある」
お互い笑みを崩さない。それぞれがそれぞれの力で勝算、余裕を保っているからだ。
第一位は『ベクトル操作』を。
第二位は『未元物質』を。
それぞれが唯一無二の圧倒的な力を内包している。
破壊と創造。矛と盾。最強と最優。
彼らを比較すれば、キリがないほどの項目が浮かび上がる。
「そンじゃよォ。お前にはちィとばっか激しくシてもいい、ってことだよなァ?」
「先にばてんじゃねえぞ。第一位」
直後だった。
ズドッ!! と一方通行がコンテナから腰を上げ、音速で垣根へと迫る。
垣根は一方通行が自身の元へ到達する前に空へと舞う。
「テメエは何でも『反射』するなんて言われてるようだが、そいつは正確じゃないな」
空を舞う天使は、囁くように、言う。
「もし、本当に何でも反射するならお前は酸素や光……とにかく生きるために必要なものまで『反射』してるってことになっちまう」
つまり、と垣根は結論付ける。突破口を。
「お前は無意識の内に『反射』に有害と無害のフィルターを作って、有害なものだけを『反射』してるんだよ。……だったら話は簡単だ。お前が無害だと思ってるもので攻撃しちまえばいい」
「随分と調べてンじゃねェか。格下らしいンだよ。その考えそのものが」
地面を軽く踏みしめ、周囲のベクトルを操作することで垣根と同じ飛行を体現する第一位が言葉を返す。
「確かにそういうモンはあるなァ。言われてみて最もだぜェ? だから何だ? まさか、酸素で攻撃するってンじゃねェだろォなァ?」
「……………………」
一方通行を避けるように空を飛んでいた垣根は何も言わない。
確かに、一方通行の『反射』の仕組みがわかったからと言ってそれを破ることのできる能力者などいるはずもないのだ。
そう。
ほかならぬ垣根帝督を除いては。
「この世界は素粒子によって作られている」
「あァ?」
怪訝な顔をする一方通行。
彼には目の前の男の考えを読むことができなかった。
「フェルミ粒子、クォーク粒子。……まあ、種類ってやつはいろいろあるな」
だが、と垣根は言葉を続ける。
「俺の『未元物質』にその常識は通用しねえ」
直後だった。
一方通行の『反射』をくぐり抜けた未知のベクトルが、一方通行の腕の皮膚を焦がした。
ジュワ! という音と共に感じた痛みのようなものに彼はわずかに顔をゆがませる。
「……ッ、テメェ。それは」
この状況を生み出せる者は一人しかいない。
垣根帝督。彼の能力である『未元物質』が絶対的と思われていた反射の壁をくぐり抜けたのだ。
そして、一方通行には今のベクトルを解析することができなかった。この世に存在するありとあらゆる法則と照らし合わせても一致しない。
一方通行はその事実にわずかに驚き、笑う。
「ハッ、面白ェ能力を使うじゃねェか。この世界のベクトルじゃ反射されちまうからこの世界に存在しないベクトルによる攻撃ってかァ? 格下の考えそうなことだ」
「何だ? 火傷なんて初めてで痛かったか?」
「冗談だろォ? こンなの、まだ気持ちイイぐらいだっての!」
地面に降り立った一方通行はトン、と軽く地面を足で叩く。
しかし、ベクトルを制御されたその動きは小石や砂利を銃弾の嵐に変えて垣根へと迫る。
垣根は六枚の翼でそれを受け止める。
この程度の攻撃なら『未元物質』で構成される白い翼はビクともしない。
「わかってねえな、第一位。いつの時代だって最強と思われていた何かは敗れてきたんだぞ」
そう、歴史を振り返ればそれはいくつもある。
名将、武田信玄の率いる戦国最強と言われた騎馬軍団。
圧倒的な物量でアメリカが臨んだベトナム戦争。
だが、そんなものだけではない。もっと身近に最強が敗れた事例がある。
一方通行は天谷慶に敗北している。
垣根は最強を名乗る少年をあざ笑う。
「そんな野郎が、俺の上にいるなんて信じられねえよ」
もう一度、翼を振るう。
ばら撒かれた『未元物質』が周囲のベクトルを歪めていく。
何かが、一方通行の皮膚を焦がしていく。
(どォなってやがる。……アイツの、この光の元はなンだ?)
一方通行は痛みをうっとうしそうに耐えながら思考を進めていく。
(アイツの能力……『未元物質』だったか? この世に存在しねェベクトルってことはこの世に存在しねェ物質で攻撃してる可能性が高い。だとすれば、だ。何がこの光線……ッ!?)
一方通行の視界の中心には、月。綺麗な満月があった。
そして、直後。
月の光が垣根の背中から生える白い翼に触れたかと思うと、その光がぐにゃりと歪に折れ曲がり、一方通行に突き刺さった。
「……ク、ソ……がァ。月の光を変質させてやがンのかァ」
「へえ。大した洞察力だな、第一位」
でもさ、と垣根は笑みを深くする。
「今のは『回折』だ。――――――――逆算、終わるぞ」
第二位の全てを塗り替える白が、第一位に迫る。
――――――――――――――――――――
そして、もう一つ。激突するべき二人がいた。
木原龍華と天谷慶。
「そんなわけで。あなたから出てくるのは少し予想外だったけど。……どういう風の吹きまわし?」
「さあな」
公園だった。
夜になり、下校時刻を過ぎているため今は木原龍華と天谷の二人しかいない。
「たださ。帝督が一方通行と楽しんでっからさ。俺も楽しみたくなっただけだよ」
「なるほどね。あなたらしいや……でも、私はあなたを殺す」
「んで? 俺の後にいる男は、誰?」
後ろには黒のジャケットを纏った男が確かにいた。
無表情、無機質な目。何の感情も抱かない男が。
「氷室クン。やちゃって」
直後。
最弱と最弱が激突する。