とある無能力者の生き方   作:異端者

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第二位の崩壊

操車場には第一位と第二位。

それ以外の者もいた。

ミサカ一〇〇三二号。

そして、もう一人。

御坂美琴。

しかし、彼女らに第一位と第二位が繰り広げる異次元の戦いに参加する資格はない。

目の前の光景がそう語っていた。

 

倒れた第二位とそれを見てあざ笑う第一位という構図が。

 

「まァ、楽しめたぜェ? お前は俺の敵だとは認識してやるよ」

 

一方通行に敵と認められることで、垣根の価値は決定された。

垣根帝督はどれだけ成長しようとも第二位でしかない。

翼はその形を維持できずに霧となり、消える。

地面にうつ伏せに倒れた垣根は力のなさを悔やんだ。

 

(……無駄、だったか。所詮、俺は第二位でアイツは第一位だっただけのことだ。俺の意思で戦って、俺の意思で第一位に殺されるんだ)

 

そう。

未練なんてないはずなのに。

垣根帝督はまだ、立ち上がりたいと思っている。

何で、どうして。

垣根には自分自身が何を考えているのかわからなかった。

でも、それでも。

とくん、と。垣根の中で明確な思いが芽生える。

 

――――――――誰かを、救いたかった。守りたかった

 

――――――――何かを、変えられると証明したかった

 

動かない体を必死でもがかせる。

勝てないことははっきりしたのに諦めることはできなかった。

 

そこに。

 

「一方通行……」

 

第三位の少女が、第二位を守るように、一方通行の前に立ちはだかった。

突き出された手には一枚のコインが握られている。

 

「動かないで」

「ハァ? 格下が偉そうにほざくじゃねェか」

 

一方通行は嘲笑気味に御坂の姿勢を称賛する。

だが、この状況を不服とする者がいた。

 

「……ざっけんじゃ、ねえぞ…………」

 

垣根が唸るような声を上げる。

怒りを込めて。

倒れたまま、叫ぶ。

 

「俺が決めたことだ! 俺の好きでこうなってんだよ! 第三位のテメエが第二位の俺に口答えしてんじゃねえよ!!」

「何よ……何なのよ…………」

 

御坂は一方通行から視線をそらさないように注意しながら言葉を返す。

 

「アンタは! 勝手に人の事情に、命を賭けている人間の懐に飛び込んで! 散々ほじくってきただけじゃない! 勝手に、目の前で死なれたら後味が悪いのよ! そうやって、自己満足で全部を片付けて、何で周りの気持ちを考えないのよ!! これじゃあ、必死ですがった私がバカみたいじゃない……」

 

本当にバカだろうが、と思いながらも垣根は考える。

自分がここで本当に死んだら、どうなるか。

黒夜海鳥は自分を笑うだろう。間抜けなヤツだ、と。

木原病理は……研究対象がいなくなるという意味で、あるいは友人として哀しんでくれるだろうか。

出会ったばかりの三人の少女は。木原唯一は。スクールの同僚は。

そして、何より。

あの、無能力者の少年は何と言うだろうか。

まだ、死ぬわけにはいかない。

垣根は確かにそう思えた。

 

(何かが変わるかもしれねえんだ……)

 

確実に、今までとは違う何かが垣根の中を渦巻いていた。

そして。

いいや違うな、と垣根は自身の言葉を否定する。

 

(何かを変えられるかもしれねえんだ!)

 

ふらふらとした体をゆっくり起き上がらせる。

限界など、とっくに超えていた。

頭からつたう血で右目は見えなかったし、膝はガクガクと震えている。高級ブランドのジャケットも血の染みでいっぱいだった。

ただ、それでも垣根は諦めなかった。

 

「へェ……面白ェな、お前。最高に面白ェよ。勝ち目がねェとわかってて、それでも立つか」

 

一方通行は笑う。ただし、それは決して相手を嘲るような笑いではなかった。

そう、一方通行は認めたのだ。

 

「お前が第二位だってのはおよそ見当はついてたぜェ? 何しろ、俺に傷をつけたのは二人しかいねェからなァ? だから、お前は俺の『敵』だ。間違いなくな。俺にとっちゃ貴重な存在だったかもしれねェ」

 

だが、と一方通行は垣根へ致命的な言葉を突き刺す。

 

「結局は『敵』で終わるンだよ。お前の力は。だから俺には勝てねェ。それが壁ってヤツだ」

「……………………」

 

もはや、間にいる御坂美琴など眼中になかった。

いや、第二位の垣根でさえいい運動相手くらいにしか見ていない。

一方通行の、触れるだけで相手を殺すことのできるその両手が、翼のように広げられる。

 

「俺の敵に免じて楽に死なせてやっからよォ……、選べ。右の毒手か、左の苦手か……それとも」

 

金髪に顔を覆ったままの垣根に向かい一方通行はベクトル制御により、人間離れした速度で迫る。

しかし、一方通行の中に違和感が生まれる。

 

(ちょっと待て……何か、おかしくねェか?)

 

それは、もしかしたら自分は何か罠にかかっているのではとかそういうのではない。

目の前の垣根だ。

彼はこれだけの状況にありながら立ったまま、ピクリとも動かないのだ。

直後。

ふらり、とぶれた垣根の体が地面に崩れ落ちた。

 

「……ハァ?」

 

一方通行は興を削がれたような表情で崩れ落ちた垣根を見る。

 

「え? ……冗談でしょ。早く! 目を開けなさいよ! 早く!!」

 

駆け寄った御坂が必死に声をかける。

それでも、垣根は動かない。

 

だが、変化があった。

垣根の背中。本来、白い翼が生えているべき部分から、サラサラとした粉が零れおちているのだ。

それは、わずかな風に乗り、一か所に集まっていく。

一方通行の背後で。彼は、気付かない。その変化に。

しかし、同時に一方通行は別の情報に目がいっていた。

それは、垣根を介抱している御坂の背後。ドロドロとした白い物体が人の形を作り上げていた。

そして。

一方通行の背後では同じようにサラサラとした物体が人の形を形成していく。

 

「何なの……あれ」

「どォなってやがる。……俺は夢でも見てンのかァ?」

 

第一位と第三位が思わず自身の頬をつねってみたくなるような現象だった。

ドロドロと形成された人間は垣根帝督だった。

サラサラと形成された人間も垣根帝督だった。

しかし、彼らには明確な差があった。

ドロドロと形成された垣根帝督は薄い笑みを張りつかせながら、言った。

 

「この俺は垣根帝督の『悪性』を司る。そしてこの俺こそが本来あるべき形の『垣根帝督』だ」

 

サラサラと形成された垣根帝督は優しい笑みを浮かべながら、言った。

 

「私は垣根帝督の『善性』を司ります。……とは言っても私だけでは『垣根帝督』を説明できませんが」

 

こうして、『第二位』は失われ。

『垣根帝督』は生まれた。

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