とある無能力者の生き方   作:異端者

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二人の垣根帝督

風が強く頬を殴る。まるで、その場で何かが動いていることを示すように。

一方通行と垣根帝督の戦い。

意識を失った垣根の代わりに二人の垣根帝督が生まれた。

『悪性』を司ると言った垣根帝督は本物と同じ服装だった。

しかし、体は爪の先に至るまでが白だった。わずかな色素を持った高級ブランドのジャケットまでもが白を基調としている。その全てが『垣根帝督という一個体』を表していた。

その目は本来、白くあるべきところが黒く、黒くあるべき部分が赤く染まっている。

そして薄く開かれた口の中は空虚な黒が広がっていた。

そして、もう一人。『善性』を司ると言った垣根帝督。

彼も同じように爪の先までまっ白だったが、『悪性』が感じさせたような禍々しさはない。

服装も同じだ。

だが、その目は本来、白い部分は緑の光を発する。まるで、自分こそが正常な状態の『垣根帝督』だと語るように。

 

「え? 何? いったい、どうなって……」

 

御坂の呟きを『悪性』は鼻で笑う。

 

「おいおい、第三位。説明しただろうが。この俺こそが学園都市第二位の『垣根帝督』だぜ? ……それに俺は負けたわけじゃねえ。ちっとばっか休憩していただけだっつーの」

「なるほどなァ。テメェの能力……『未元物質』はこの世じゃ観測できねェ未知のベクトルを生み出す……それは、つまりこの世に存在しねェ物質を作り出しているのと同意義ってワケか……。ククク、面白ェなお前の能力。少し羨ましくなっちまったぜェ」

 

御坂美琴は疑問に思う。

仮にあれが、目の前で凶悪な笑みを浮かべている何かが本物の垣根帝督だとして。

自分が支えているこの体はどうなるのだ?

先ほどの発言が本当なら、垣根は人間の体で死にそうになったから『未元物質』で人体を生成し新たな『垣根帝督』を生み出したということになる。それも無の状態から。

これでは脳が新しい『垣根帝督』を生み出したのか、宿主の危機を察知した『未元物質』が新しい『垣根帝督』を生み出したのか、わからなくなってしまう。

 

「違います」

 

一方通行の後に佇む、『善性』が否定する。

 

「私達は『垣根帝督の一部分を表す何か』であり、『垣根帝督』ではありません。そして、私達は『垣根帝督』が人格的に死んでしまっても、完全なパーソナリティを手に入れても存在することはできません」

「つまり……。今、『垣根帝督』っていう精神が不完全な状態だから、生まれたっていうこと?」

 

その言葉に『善性』はゆっくりと頷いた。

御坂は何だか思考がこんがらがってきた。

実験を止めるために動いていた垣根は理屈や経緯はさておき、このように二つに分かれた。

では、この戦いはどうなるのだ? 仕切り直しか。あるいは御坂達が退きこのまま実験が再開されたしまうのか。再開だけは避けなくてはならない。

その時、垣根本人がゆっくりと声を上げた。

 

「……お、れが負けたら……終わりになっちまう。まだ…………いける、から。どけ、第三位」

 

掠れた力の無い声だった。

しかし、御坂の腕を握る力は強かった。

 

「……本気、なの?」

「当たり、前だ……。バカが」

 

直後。『悪性』を司る垣根が笑った。まるで、垣根の行動を否定するように。

ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「へえ。それで、納得できるんだ? しちまえるんだ? あっれー? 『垣根帝督』ってのはそんな生き物だったか? 誰かに恐れられ、拒絶され、その全てを壊す。それこそが『垣根帝督』、すなわちこの俺なんだよ。いい加減に受け入れたらどうだ?」

 

囁くように、問い詰める。

そして、この言葉は間違っていない。それが垣根帝督の一面なのだから。

『悪性』はその黒が広がった口をゆっくりと広げ、あざ笑う。

諦めろ、と。そう言っているようだった。

 

「バカが……」

 

垣根は御坂の手を払い、呟く。『悪性』を否定するべく。

 

「俺は、俺だ。お前は俺じゃねえ。……仮にお前が一つの生物と呼べるものだとしても、お前がどこのどいつかなんてものには興味がねえ」

 

ただ、と垣根は言葉を続ける。

 

「……ここはすっ込んでろ。コイツは俺がぶっ潰す」

「ハハ」

 

『悪性』は表情を変えずに声を出し、笑った。

その体が指先と足元から、ドロドロと溶けだしている。

 

「今は、そうやって自分を納得させときゃあいいさ。だがな、お前は必ず気付く。この俺こそが本来あるべき『垣根帝督』の形なんだとな」

 

そう言うと、『悪性』の体は完全に溶け、液体となる。そして、垣根の背中へと向かうと白い翼を形成した。

それは『善性』を司る何者かも、同じだった。何も言わず、静かに笑うと体がサラサラと崩れ始める。そしてその粒子が垣根の背中へと向かい、翼を形成する。

 

(……俺の翼から派生してやがったのか?)

 

背中から何の問題もなく生えている六枚の翼を見る。

先ほどのドロドロ感もサラサラ感もない無機質な翼へと戻っていた。

しかし、同時に。垣根は不安定な状態だ。

翼は本来あるべき明確な輪郭を保てない、エネルギー体のようだった。

そして。

垣根の頭の中に膨大な情報が流れ込んでくる。

そのいずれもが垣根の知識にはない、新しい知識だった。

いや、そもそも人の手に入れられる知識なのかも不明だった。

 

(あ、ガ……? な、ンだこれ……。頭に、頭の中にvdmngが……スゲエ。これなら、どンな相手にだって勝てる気がggggggggaaaaaaaaaaaa)

 

轟!! と爆風が渦巻いた。

その現象に最も驚いたのは御坂美琴だった。

あまりの強風に体が宙に舞う。すばやく磁力を操作し、近くの風車に体を張りつける。

同じように宙に舞ったミサカ一〇〇三二号も引きつけ、安定させる。

ミサカ一〇〇三二号が、垣根を見据えながら言う。

 

「あれは……能力の暴走でしょうか、とミサカはこの状況が非常に危険である可能性を示唆します」

「わからないわ……。暴走、してるようにも見えるけど、何かこう……そんなに単純な言葉で説明できるようなものでもない気が……」

 

御坂の言葉は正しかったのかもしれない。

その力は垣根でさえも理解できているか、怪しいものだ。

それでも垣根は白いエネルギー体のような翼を『噴出』させていた。

さらに。

学園都市第一位の超能力者、一方通行はその翼を見て思わず笑った。

 

(ハハ……。すげェぞ、オマエは間違いなく第二位だ。……あァ、そォか、これが、これがswqprのbvnktか……)

 

そして、第一位の背中から漆黒の翼が同じように『噴出』される。

もう、彼らを止められる者はいない。

それでも。

薄れゆく理性の中、垣根が最後に見たのは。

右手を振りかざし、全力で第一位の黒と第二位の白に走り寄るツンツン頭の少年。

 

「「「ォォオオオオオオオオ!!」」」

 

『三つ』の力が激突し、学園都市の夜空へと残響が響き渡った。

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