静かな病室だった。
ベッドに一人の少年がその端正な顔を向けたまま、眠っている。
垣根帝督。
第一位との交戦で『善性』と『悪性』を顕現させ、新たな力を得るなど第一位に迫る勢いを見せた。
しかし、健闘もわずかに及ばず……最後はどちらが勝ったのかもわからないまま、垣根は意識を失った。
そして、そんな垣根を見下ろす二人の『垣根帝督』。
彼らはそれぞれ垣根の『善性』と『悪性』を司る。
それゆえに彼らの取る行動は垣根と酷似したものになるだろう。
「情けねえな」
『悪性』がどすのきいた黒が広がる口を開いた。
その感情は嘲り、すなわち人の持つ……もっと言えば『垣根帝督』が持つ負の感情だった。
「……第一位とあれだけの戦いをしたのですから、そういう風に言うのは納得できません」
『善性』は反論する。
垣根と同じ容姿とは思えない程、優しい笑みを浮かべている。
互いに真逆の性質を持ちながら、同じ『垣根帝督』というパーソナリティに依存している。つまりは自分こそが本当の『垣根帝督』だということが証明されなければ、いずれ滅びる存在だ。
「この俺こそが『垣根帝督』だ」
「あなただけで『垣根帝督』を説明することはできません」
彼らは最後にそれぞれの持論を呟くと、病室から姿を消した。
次に来たのは、ツンツン頭の少年、上条当麻と御坂美琴だった。
「こいつが……。垣根帝督か?」
「ええ、そうよ」
上条も彼が学園都市第二位だと聞いた時は驚いたが、自身が最後に見た『白い翼』を鑑みると当然だと納得せざるを得なかった。
「そうか……」
上条は静かに意識のない少年を見る。
年齢は上条と同じほど。しかし、意識がなくてもわかる程、雰囲気に違いがあった。
もし、自分がもっと早く駆けつけていれば……。そんな感情がこみあげる。
「アンタ、自分を責めるんじゃないでしょうね」
「……ああ。もっと早くついてればってな」
「冗談でしょ。アンタにだってできることできないことがあるわ。ま、そう考えるのも無理ないんでしょうけど。コイツは見ず知らずの人間で自分で望んで一方通行と戦ったんだから。それでも、守りたかったって言うなら、それは抱え込みすぎよ」
御坂の言葉に上条はわずかに沈黙する。
御坂の言っていることは正しい。でも、上条当麻という少年が持つ性質がその正しさを拒絶してしまう。もはや、狂っていると言える程の思い。しかし、それこそが上条当麻をヒーローたらしめているので一慨に拒絶するわけにもいかない。
「かもな。でもさ、俺がもっと早くこの実験に気付いてれば『妹達』はもっと助かっていたかもしれないし、何より垣根が目を覚まさない、なんて状況にもならなかったんだ」
「まるで、第一位に勝てる自信があったような言い方ね」
彼の右手に宿る『幻想殺し』は秘密が多い。そもそも超能力の類なのか。はたまた彼が関わったことのある魔術による代物なのか。
それだけではない。
彼が来た時に見た第一位の黒い翼や第二位の白い翼は何だったのか。超能力などという単語におさまるような力なのか。
上条にはそんな複雑なことはわからないし、知りたいとも思わない。
ただ、目の前の悲劇を食い止めきれなかったことに後悔の念が湧くばかりである。
「わからない。もしかしたら負ける……。いや、負ける可能性の方が高かったと思う。それでも誰かが傷つくところを見るのは辛い」
御坂は呆れ気味にため息をつく。
「もういいわ。コイツだって、そんな愚痴は聞きたくないでしょ。行きましょ」
彼らとすれ違う形で別の集団が入ってくる。
「おいおい、マジで意識ねえのか。……ざまあねえぜ」
天谷慶、『セカンドシーズン』の被験者であるレオン。
天谷は軽く肩をすくめ、椅子に腰をかける。
垣根が意識を失い植物状態になった。その情報……というか推測のようなものを聞いた天谷はそれを自分に言った何者かによって、意識が朝までなくなっていた。朝起きるとレオンが目の前にいたりしたのだが。
「ご主人様、龍華様には会われたのですか?」
そのレオンの唐突な言葉に天谷は反応する。
「……それがどうした」
「いえ、ただ第二世代がでてきたのかと確認を……」
天谷はここに来て一つの確信を得る。
彼女らは初めて会った日に、天谷の監視が目的だと言った。
では誰から命令されたのだ?
何故、第二世代などという単語が出てくる?
「お前、いやお前ら……何が目的だ?」
レオンはその言葉に笑った。
垣根の顔を見て、天谷に告げる。
「私……いえ、我々の目的は秘密です、が。あなたの味方になるつもりはありませんよ。ご主人様」
今日も学園都市の闇は水面下で蠢いている。静かに、確実に。
しばらく投稿できません。
見ていただいている方には感謝しています。
第二章、完結です。