とある無能力者の生き方   作:異端者

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八月三十一日(それぞれの一日)
八月三十一日


 そもそも学園都市には意味がはっきりしない点が多すぎる。

 仮に、そこに何かがあったとしても、学生達は気付かない。気付いたとしても口封じに殺されるのがオチというものだ。

 それでも、どれだけ巧みに隠ぺいしても、人間の行う事には穴が生まれる。天谷のように学園都市の目的の一端に触れてしまう人間がいるからだ。

 そして、垣根帝督がその渦に巻き込まれ、現在は植物状態となっている。

 だが、天谷はその程度の事では止まらない。

 

 街路樹に一人の少年が寄りかかっていた。

 黒のワイシャツを着ているが、小さな十字架のペンダントが見えるようにボタンを二、三個ほど開けている。しかし、そんな露出の高い格好でも違和感のないほど端麗な容姿だった。

 その少年の目の前には茶髪の天谷が立っている。

 

「よう、まさかこんなに早く俺に気付くとはな」

「ほざけよ。殺気をそこらじゅうにまき散らしやがって。俺に気付いてもらう気しかねえだろうが」

 

 天谷は拳を握りしめる。目の前の男はおそらく、八月二十一日の夜に自身を一蹴した程の実力者だ。さらにたった一撃だけだったが、能力……それも相当の強度で有している可能性が高い。

 警戒を高める天谷に対し、男は笑った。

  

「おいおい、お前がそんなに警戒する必要はねえよ。……こっちにも事情ってやつがあるしな」

「何だ、お前。『木原』だよな? なら何で……」

天谷の中に違和感が広がる。

『木原』とは何かが決定的に違うような気がする。

それを察したのか男は軽く肩をすくめながら、

 

「そうか、お前は俺の名前も知らないんだったな」

 

彼は、告げる。ゆったりと。

 

「木原練成。……しがない『木原』の一人だよ」

 

――――――――――――――――――――――――

 

木原練成。

そう言った少年は天谷の後を指差した。

今度は何だ、と天谷は後ろを向く。……そして現実から目をそらすように視界を戻した。

 

「……テメエ、」

「どうした? 俺はただお前の知った顔だと思って教えただけだが?」

 

 とぼけたような声を発する相手に、余計に苛立ちが積もってしまう。

 そして、感情に身を任せたまま、彼は言った。

 

「帝督のクローンまで、つくったブフッ!?」

 

 後ろからの唐突な衝撃に天谷は身を地面に転がさせる。

 

「誰がクローンですか。私は垣根帝督の『善性』を司るだけです」

「……善性?」

 

 天谷の疑問にいち早く応えたのは木原練成だった。

 

「どうやら八月二十一日に生まれた副産物のようなモノらしいな」

「はい、私は八月二十一日に垣根帝督の精神が不安定になったため現出しました。なお、『悪性』とは完全に切り離されているため、あちらの行動を読むことはできません」

「ちょっと待て。悪性、だと?」

 

 つまりは目の前の何かのような物がもう一体いるということになる。

 その様子に木原練成はクスリと笑う。

 

「そろそろはっきりさせようぜ」

「何をだ」

「『未元物質』の正体。木原龍華の目的。いずれ起きるであろう最弱……つまり、お前をめぐる騒乱」

「……何が目的だ」

「簡単なことだ。これから起きる殺し合いを全部、俺達で止めちまおうってだけさ」

 

 その言葉に天谷は半ば呆れを覚えた。

 

「おい、お前だってわかってるだろ? 俺の行動基準は守りたい、とかじゃねえ。おれが面白いことかどうか、価値があるかどうか、だぞ」

「ああ、そうだな。……なら、次のヤツは『幻想御手』や『絶対能力者進化実験』をはるかに超える規模だ。これだけは言える。気を抜くと死ぬレベルだ」

 

 死ぬ。その言葉に天谷は親近感を覚えてしまう。無理もない。何だかんだで第四位と戦ったりしている天谷はその言葉とは近い関係にあるだろう。

 どれだけ強かったとしても天谷は無能力者である。銃弾をかわす方法はあっても、知る方法はあっても、受けた傷を自力で治す方法はないし、銃弾を弾き飛ばす方法もない。

 でも、それだけ脆い存在であるからこそできることもある。そんな低い位置からでしか見えない世界もある、と天谷は思っている。だからこそ、彼は垣根帝督に認められた。一人の人間として。そして、認めることはできたのだ。

 

「あの方は……私の素材の一つである垣根帝督は最後に御坂美琴とそのクローンを守るために戦いました。だから、私という『善性』が生まれてきたのです。……あなたは彼が最後に選んだ選択を否定できるのですか?

何かを守る、という決断を」

「……、」

 

 天谷は何も言わない。こんな事で流されるような人間ではないことは本人が一番、理解している。でも、何かが引っ掛かった。もし、本当にこれから悲劇が起きるのなら。それを止める方法を持ちながら、見捨てるのはあまりにも残酷なのではないか?

 天谷は視線を落とす。天谷はそこまで残酷にはなれない。

 

「……条件、がある」

「そう来ると思ったよ」

 

 天谷は自身を恨むように歯ぎしりをした。

 

「俺は俺のやりたいようにやる。その過程でお前らと利害が一致しただけ、いいな?」

「構わない。それくらいの方がこっちもやりやすいしな」

「それと……そうだな。一番強い敵とやらせろ、ってことくらいだな」

 

 一番強い敵、という言葉に木原練成は苦笑いを浮かべる。そのまま、『善性』を見て首をすくめると、彼は言った。

 

「多分、垣根帝督の『悪性』になると思うが……それで、いいのか?」

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