天谷が学園都市の裏で蠢く騒乱の前兆を感知し始めた頃。
彼らとは別にもう一つの四人が動き始めていた。
木原数多に所有する研究所の一つ。そこにその四人うち三人は集まっていた。
「で? 『木原』が私に何の用? 下らない内容なら消し炭にするから」
そう言ってガンを飛ばすのは学園都市第四位の超能力者こと麦野沈利。
しかし、彼女の機嫌が悪い、最大の原因は彼女の横にいる人間だ。いや、そもそもそれは人の枠を超えているのかもしれない。
一言で言うなら『悪性』。もっと言えば『垣根帝督の悪性』だろうか。
麦野は横でニヤニヤとする彼を見て露骨な嫌悪を示す。無理もない。かつて自分のプライドと共に第四位の肩書きをコテンパンにした張本人とも言える人物なのだから。
「おいおい、そんな顔するなよ第四位。この俺は、少なくとも今は味方、そうだろう?」
このクソ野郎が、と舌打ちして麦野は視線を戻す。
「それで、何の話しだ」
「簡単なんだよなぁ、これが。お前らを『絶対能力者』にしてやろう、という俺のありがたい気遣いだ。感謝してくれていいんだぜぇ?」
その言葉に麦野は眉をひそませる。
「……確か、第一位がそんな趣旨の実験を失敗させたって聞いたけど?」
「ああ、そうだな。でもよぉ……。あんなスライムをプチプチつぶすような実験で本当に『絶対能力者』になれると思うか?」
確かにそうだ。原因不明の光線で破壊されたが、最高の演算代理機器であった『樹形図の設計者』の出した結論。
『第三位のクローンを二万回、殺害することで被験者・一方通行は「絶対能力者」へとシフトする』という前提。これは何を基準に定められたのだ? そのことには何者かの作為を感じさせる。
「だとして……?」
「いい加減に第四位だの第二位だの、下らねえ序列にもムカついてんだろ? だったらここで、至るところまで至っちまえよ」
「それが『絶対能力者』ってわけか……。面白そうじゃねえか。気に入ったぜ、この俺は」
木原数多の提示した条件はこうだ。
まず、木原数多が二人に対して、『絶対能力者』へと至る過程を示す。その上で彼らが木原数多の依頼を遂行する、というものだ。
「で? 依頼ってのは何だ?」
「これだ」
木原数多は二人に対して、数枚の資料を投げ渡す。
それを見た麦野は眉をひそめた。
「……こんな奴らが具体的に、どういう価値を生み出すの?」
「ああ、それはお前らが知る必要のねえことだ。……お前らはただ、俺に従えばそれでいいんだ。かわりにお前らが『絶対能力者』なれるってんなら悪い引きあいじゃねえはずだ。そうだろう?」
麦野としては第四位という中途半端な立ち位置から前進できればそれでいいので、文句はない。強いて言えば、第二位と共闘することぐらいのものだ。
では第二位……垣根帝督の『悪性』は何を考えているのか。それは単純だ。
彼は垣根の負の感情で構成された人格だ。暴力を好み、殺しを楽しむ。そんな、垣根の一部、『悪性』を示す存在。
「イイね、これなら第一位の野郎をぶっ潰して『第一候補』になれる。……やっぱ、『第二候補』じゃダメなんだ。『第一候補』にならねえと」
「へえ、なかなか面白いじゃん。……これなら私の『絶対能力者』も夢じゃないわね」
「ま、そういう訳だ。いいよなぁ?」
木原数多は悪い笑みを浮かべ、言う。
その後ろに突如、人影が現れる。赤い髪のツインテールの少女だった。
結標淡希。学園都市の空間系能力者においては、ぶっちぎりの性能をほこる程の能力者だ。とは言っても、とあるトラウマのせいで自分を上手くテレポートできないという弱点があるのだが。
「遅かったじゃねえか」
「別にいいでしょ。私はこっちの都合を優先させてるんだし。……見るところ、第二位と第四位の勧誘はうまくいったようね」
「……おいおい、誰だ。こいつは」
麦野の声に結標は不機嫌そうな顔を見せながらも言葉を返す。
「結標淡希よ。……最初に言っておくわ。利害の一致とかの成り行きで今は手を組んでるけど、私達の目的を邪魔するなら、その瞬間から私達は敵よ」
「……あっそ。まあ、それくらいでいいんじゃない? 私達の関係なんて」
そう言いながら肩をすくめる麦野。
暗部としての意識があるのか、仲間とは絶対に認めていない。
「んじゃあ、俺ら四人の目的を達成するに当たって、必要な物品がある」
「?」
怪訝な顔をする麦野と薄い笑みを張りつかせる『悪性』に向かって、木原数多は軽い調子で告げる。
「さっき話した『樹形図の設計者』……、実は七月二八日に原因不明の光線で撃墜されてんだ」
「はぁ?」
驚きの声を上げる麦野を無視して、言葉を続ける。
「んでもって、各国政府は宇宙に散らばった『樹形図の設計者』の残骸……とでも言うべきかな。とにかく、そういうモンを手に入れようと躍起になってんだよなぁ。そこで、だ。いち早く、手に入れた残骸をお前らで守り通してくんねえか? これが、第二の条件だ」
こうして、対抗馬は出揃った。後は、騒乱あるのみだ。