天谷達は第三学区にある木原練成所有の研究所に来ていた。その最深部に位置する巨大な半球状のホールに天谷は一人、立ちつくす。
とある敵を想定した臨床実験のようなものなのだが……。
ホールの上部には上から見下ろす形でアナウンス機能の付いた機械やら、理論値を算出する機材が多数並べられている。
そこに二人の『木原』はいた。
「帝督お兄ちゃんと慶お兄ちゃんの模擬戦闘かあ……。面白そうだね!」
「結果はわかりきってるが、そこに至るまでの過程だな。アイツが『未元物質』にどこまで食いさがられるかだよな」
そんな会話をする一方で、ホールには白くドロドロとした、液体と固体の区分けが曖昧な物質が展開されていく。これは『善性』の生成した『未元物質』だろう。
それを見て、天谷は軽く笑う。
「なるほどね。……帝督は完全に『未元物質』を使いこなせていなかったって訳か」
『はい。……率にしておよそ六〇パーセントというところでしょうか』
緑色の目はその輝きを、より強くしている。これこそが自分の本来の力だと言わんばかりに。
そして、その事実に天谷は打ち震える。
直後、全力で『善性』に突っ込む。
しかし、『善性』の内側から広がる未元物質が天谷を食いつぶそうとする。
「甘いんだよ!」
天谷へと迫る、無数の羽がその輝きを増す。そして、起爆。
それは爆発というより、閃光のさく裂と表現した方が適切だろうか。とにかく、白い光が辺りを包む。
だが、天谷は止まらない。
「そんなハッタリに俺はかからねえよ」
ダン! と一歩、強く踏み出し拳を構える。それに対して、『善性』は動かない。動く必要がないから。
天谷の拳が突き刺さる。
『善性』は地面を転がり、立ち上がる。
「……ずいぶんと強く殴りましたね」
「あ? ああ、悪いな。お前は『未元物質』で出来てるって話だったから、痛覚とか遮断できるのかと思ってたわ」
「……まあ、痛覚を省くことは可能なのですが……。ただ、それによる弊害が生まれる可能性もありましてね、というかこんな話をしてる場合では、……ッ!?」
『善性』が一人でボソボソとしゃべっている間に距離を詰めた天谷がアッパーカットを繰り出す。
同時に、『善性』の背中から白い翼が生まれる。その翼は、光をゆがませ、空気を変質させる。そして同時に『善性』の飛行能力も自由にする。
「飛行……ですか。さすがに『未元物質』は人間の理解しきれる代物ではありませんね」
「それに関しちゃ同感だが……、勝ったつもりにはなるなよ」
天谷は白い壁にそっと触れる。その無機質な物質を……。
むしり取り、『善性』へと投げつけた。
「?」
怪訝な顔をする『善性』。そもそも、『未元物質』の操作権は『善性』が握っている。投げつけ、ぶつかったところで何か意味のあることではない。
そう、直接的には。
つまり、考えられるのは。
(囮……、本腰は他の方法ですか)
そして『善性』は見た。天谷が笑いながら、円柱状の物体が投げつけるのを。
爆音が響く。
だが。
何故か、『善性』と天谷の間に割って入るように木原練成と木原円周が立っている。
「全く……。人の研究所をポンポンと爆発させんじゃねえよ。おかげで、データが吹っ飛ぶところだっただろうが」
「うんうん。そうだよね。これはやりすぎだよね。慶お兄ちゃん?」
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「さて、どうしたもんかね」
学園都市に並ぶビル群。その一角に『悪性』は立っていた。
常にニヤニヤとした表情を崩さない。完全な悪意で構成される表情だった。
そしてもう一人。
「あなたが何を考えているのか知らないけど……」
赤髪のツインテール。学園都市最高の空間移動系能力者である結標淡希。
「別にさ、大したことじゃねえんだよ。ただ、アレイスターとの直接交渉権を得て学園都市の実権を握る。そのために、一方通行を殺して『第一候補』になる。それだけだ」
「あっそ……。それより、貴方が言っていた本命……、準備はできたの?」
「ああ、あれね」
『悪性』は軽く首を鳴らし、言う。
「準備は整った」
「それで? それを使えば私達の勝ちになるの?」
「当たり前だ。……『未元物質』によって構成されるこの世に存在しない軍隊。この俺がそう言ってるんだ。間違いねえさ」
無数に存在するビル群からその軍隊は一斉にその姿を現す。最小のサイズの物ですら、三メートルはあるだろう。それが、百単位で並んでいるのだ。
そして、目標には一人の『木原』がいた。木原練成という『木原』が。
「……私、帰っていいわよね?」
「構わねえさ。この俺の遊びだ。……ただ、まあアイツを瞬殺しちまうなんて展開もあるかもしれねえが」
直後。
ドッ! という音と共に、『悪性』の白が木原練成に殺到していく。
そして、同時に。
木原練成にも変化はあった。
『未元物質』によって構成される軍隊の襲撃に気付くと、軽いため息をつきながらその軍隊の一角に腕を伸ばす。
そして、伸ばした腕の先にあったカブトムシのような生き物が吹きとんだ。
(やれやれ……、こんなところで使うハメになるとは)
伸ばした腕には文字が浮かび上がっていた。
Equ.darkmater、と。