とある無能力者の生き方   作:異端者

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少年と超能力者②

食蜂操折。

学園都市第五位の超能力者である。能力は『精神掌握』。文字通り、対象となる精神を自在に操ることができる。それも記憶の改竄から人格の書き換えまで。人一人の人生を思うがままにできるのだ。

天谷はレベル5の中でも彼女が最も苦手だ。嫌いというわけでもないようだが。

他のレベル5はどこか単純でわかりやすく、その気になれば弄ぶことも可能なのだが彼女は精神系能力者の頂点に立つだけあり、つかみどころがないのだ。

 

(ま、そういうところが面白いんだけど)

 

自分のマンション(暗部の仕事やらを『趣味』で行い、金を集めて買ったそこそこ高級なやつ)に戻っていた天谷は黒いふかふかソファに身を預けながら考える。

 

(しかし、アイツも飽きずに来るもんだねぇ……)

 

食蜂が天谷の家に来るのは一回や二回ではないようだ。

いろんな理由で来るなぁ、と天谷は呆れ気味に呟く。

その時、インターフォンが鳴る。

天谷は慣れた様子で電話に出る。

 

『食蜂でーす☆』

 

「はいはい、どうぞ」

 

ボタンを押してからもう一度ソファに座る……前に天谷はテーブルのチョーカーを首に取り付ける。

食蜂の能力限定の精神干渉阻害チョーカーである。

しかし、食峰の強烈な干渉を防ぐために消費する電力が笑えない量で、持続時間が二十分程度なのである。

 

「お邪魔しまーす☆」

 

インターフォンも鳴らさず入ってくる食峰を迎える。

 

「……お前も飽きねえな」

 

「当然じゃあないですか☆ 私の精神干渉を自己暗示で乗り越えるんですからぁ。そんなことしたの先輩だけですしぃ?」

 

食蜂の精神干渉は絶対的であり、これを退けられるのは彼女より上位の超能力者か同じ精神系能力者のどちらかである。どこぞのツンツン頭の少年も防げるのだろうが、天谷は『ベクトル操作』を持つとはいえ無能力者それでいて精神干渉を防げるのだから、天谷の実力がうかがえる。

 

「とは言ってもほんの数分だけど」

 

その数分がすさまじい、と言わんばかりに食蜂がクスリと笑う。謙遜してはいるが天谷の実力は無能力者というカテゴリではまさしく『最強』だろう。

 

「それに自己暗示なんて大層な事してるようだけど訓練すればだれでも身につけられるよ」

 

誰でも身につけられる才能。無能力者というハンデを補い、怪物クラスの力と互角に渡り合うために彼はどれほどの苦労をしてきたのだろうか。

 

「でもぉ、そういう精神にロックやトラップを仕掛ける技術もありますけど、そんなもの普通だったら私の改竄力でどうにでもなっちゃうはずなんですよぉ?」

 

確かに、と天谷はうなずく。

 

「でも基本的に精神ってのは曖昧だろ。だけど一人につき精神は一つっていうルールもない」

 

その通りである。現実に多重人格などの複数の精神を持つ者は存在する。

それを利用した自己暗示。その究極地点。

 

「つまり、可能な限り精神のバックアップを作る」

 

携帯などで使われる技術だ。暗号を読み解くための方程式自体は簡単だが数が膨大すぎて何年もかけなければ全てを解けない。それを精神に使う。自らを意図的に行うなど尋常ではない。

 

「まあ、そんな防壁もほとんど意味ないわけだが」

 

天谷は首のチョーカーをとんとんと指でたたく。

 

「これがなきゃお前にやりたい放題やられてるよ」

 

「そうですかぁ? 先輩ならぁ、私の能力突破しそうなんですけどねぇ」

 

そう言って目を細める食蜂。彼女は精神系の頂点として戦闘力こそないが人の心に関してはスペシャリストだ。

今、天谷の考えてることを能力無しで読み取っているかもしれない。

 

「で? 何の用だよ。お前が来る時は大抵、面倒な案件ってのが相場だし」

 

そう言って天谷は席を立つ。

 

「いつもの紅茶でいいだろ?」

 

返事も聞かず、紅茶を淹れる。こういう関係なのだろう。

食蜂は、その間足をぶらぶらさせ、適当に待つ。

 

「そんで、何の話?」

 

持ってきた紅茶をテーブルに置きながら尋ねる。

 

「久しぶりにそっち方面の話ですよ☆」

 

ウインクしながら答えた食蜂の言葉に天谷はわずかに表情を引き締めた。

 

「マジか……。で、内容は?」

 

「何でもぉ、『アイテム』がとある研究所を壊滅させるって情報が……」

 

「なるほどね。そんで俺に守れ、と」

 

天谷はうなずいてから尋ねる。

 

「人員とかは?」

 

「確か……。依頼主の意向で先輩一人に任せたいようですよ?」

 

「はあ!?」

 

あまりの言葉に天谷は勢いよくティーカップを置き、紅茶がこぼれそうになる。

しかし、そんなことも気に留めず天谷は言葉を放つ。

 

「誰だよ! そのふざけた依頼主って!」

 

「えーとぉ……。確か、木原病理さんって名前でしたよ?」

 

(あ、の、やろォ……!)

 

額にわずかに浮かんだ青筋が天谷の怒りを表している。

暗部組織『アイテム』といえば第四位の超能力者・麦野沈利が率いる組織である。

その中には経歴上、ご同輩となる絹旗最愛なんかもいる。

 

「ふざけンな! 何であんな女四人に俺が一人で戦わなきゃならねェンだ!」

 

怒りのあまり口癖が入ってしまう天谷。

そんな天谷を食蜂はあざ笑うかのように、

 

「でもぉ。先輩こういう楽しいそうなの好きじゃないですかぁ」

 

「はァ!? こんなもの楽しくねェだろォ! 仮に勝てたとしてもまた狙われるだけだし!」

 

「あ、でもその辺は病理さんが何とかしてくれるって」

 

「あァそォかい! 俺は受けねえぞ!」

 

そっぽを向いた天谷に食蜂は致命的な一言を告げる。

 

「あと、どうしても断るときは『私があなたをもらいうけますので』って言ってましたけど……」

 

「喜んで受けさせていただきます。いえ、やらせてください」

 

天谷は土下座して依頼を受けるのだった。

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