予想外の先手
そして、来る九月八日。
天谷は自室でゆったりとコーヒーを啜っていた。
あれから、何かが動いたという情報はない。木原練成からの連絡もない。平和そのものだった。
それはそれで退屈な訳だが。
そして、暇を持て余そうとしていた時にそれは来た。
ガコン! と。鈴科が勢い良くドアを開け、駆け込んでくる。普段、大人しい彼女からは考えられない挙動だった。
「どうした?」
「レ……オンさん、と。……、ハァ、ハァ、美空が……」
「レオンとクソガキが?」
息が荒らぐ程、走ったであろう鈴科は呼吸を整えつつ必死に伝える。
「麦野、沈利。……第四位に、私……何も出来なくて、……」
天谷は全ての事情を察すると、わずかに呟いた。
「クソ野郎どもが」
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「動いたな、クソ野郎」
第七学区の地下区画。その一室で、木原練成は通信端末に向かって明らかな苛立ちと共にそう呟いた。
『ハハハハッ! 出だしとしちゃあ上出来だろう? まあ、そんな訳だ。悪いが勝たせてもらうぜぇ? 練成クンよぉ』
「舐めてやがるな。こっちの戦力の方が上だっていう事を忘れてんのか?」
『おいおい、そっちは最強気取ったクソガキに第三位だの協力してくれるかもわからねえヤツらがいるじゃねえか』
そこで木原練成は軽い調子で言った。
「ああ。それでも、俺はあいつらが来る方に賭けるね」
そこまで言うと、通信が一方的に切られる。どうやら、木原数多の反感を買ってしまったようだ。
だが、木原練成は笑う。彼は、密かに天谷を殺す、と決意しながらも一つの確信を持っていた。
天谷という一人の無能力者の影響力は『ただの無能力者』なんて枠には収まらない。そして、その天谷慶は今回の騒乱に一参戦者として名を連ねる形になっている。それも表向きは『木原練成の協力者』として。
「練成お兄ちゃん……?」
部屋を開け、入ってきた木原円周は思わず首を傾げる。木原練成は自身の笑みが凶悪なものに変わっていっていた事に気付かない。
「どうした?」
「あのね、『セカンドシーズン』の内、二人がさらわれたって」
木原練成は舌打ちをする。正直、予想外の切り口だった。別に、彼女らを人質にされたところで動けなくなる人物がいる訳ではないが、目的の一つに含まれていたのは事実だろう。さらにその一人のレオンの能力は戦闘面で絶大な効果を生み出す。ここを押さえられたのは木原練成の戦力目測の一つが崩れたという事だ。
しかし、彼女らが『最初に』狙われると木原練成は思わなかった。優先順位が高い項目とは思えなかったからである。
「どうするの? 練成お兄ちゃん」
「……当然、やる事は一つ。アイツらと全面戦争だよ」
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「さてさて、この俺は次に何をすればいい?」
ビルの屋上。『悪性』は耳に当てた通信端末へと軽い調子で言った。
『そう焦るんじゃねえ。順序ってやつを覚えやがれ』
端末の向こうの不機嫌な声に『悪性』は肩をすくめる。
「そうとがるなよ。こっちだって百パー勝てる訳じゃあねえんだ。最善の状況で戦いたいと願うのは人間にとっては普通の事だと思ったが?」
『ほざけよ人外』
『悪性』はその言葉にもう一度、肩をすくめた。
彼は百%の勝利を確約できる訳ではないが、百%の不敗は確約できる。なぜなら、彼は無限に自身を再生させる不死性を持っているからだ。
「……それで、コイツらはどうすんだ?」
『悪性』が振り向いた先には鉄のゆりかご。いくつもの電極をつけられたレオンと美空が眠っていた。
『ソイツらは後で使うから置いとけ。……んじゃあ、うまくやれよ! クソガキども!!』
切られた通信端末をデスクに置き、『悪性』は扉を見る。そこには、本来いないはずの第四位の怪物がいた。
麦野沈利だ。
「……『〇次元の極点』とやらの副産物か?」
「そういう事。数多の野郎はテメエの兵器化された『未元物質』を輸送する程度にしか見てないらしいけど。まあ、結標の『座標移動』とかの空間移動系能力と違って重量・距離の制限がないのがネックなんだろうから、そう考えたくなるのも無理ないけど」
麦野の能力である『原子崩し』の応用……発展型である『〇次元の極点』は宇宙の規模を点とする理論だ。つまり、理屈だけなら宇宙を掌に収める事も可能なのだ。だからこそ、彼女の転移には距離や質量の制限が起きない。簡単に言えば、宇宙の一法則を掌握し歪めているのだ。
「結構結構。それじゃあ、この俺も第二段階へと移ろうかね」
「……何をする気?」
『悪性』は軽い調子で言った。
「簡単だよ。学園都市の第一位を殺す。この俺が『第一候補』になるのさ」
参戦者リスト
side練成
・木原練成 ・天谷慶 ・木原円周 ・鈴科百合子 ・レオン☓ ・美空☓
side数多
・木原数多 ・『悪性』 ・麦野沈利