とある無能力者の生き方   作:異端者

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防衛編~1~

 天谷は日の沈んだ学園都市を走り抜けていく。連れ去られた二人の少女を捜索しているのだ。

 彼は通信端末を片手に叫ぶ。

 

「練成! 木原数多の野郎はどこにいった!?」

 

『焦るな。向こうは戦力がこっちを上回ってる。今、突貫しても死ぬだけだぞ』

 

 天谷は無能力者でしかない。だから、打つべき手を一つでも誤れば、一瞬で殺される。木原練成は言外にそう言っていた。そして天谷がその事を一番理解できる。

 

「……クソが」

 

『どうした? そんなにアイツらを助けたいのか? もしかしてこ……』

 

「黙れ、殺すぞ」

 

 天谷は走りながら考える。

 レオンと美空が連れ去られた理由は明らかに『セカンドシーズン』の影響である。第一位のベクトル系統の能力の希少価値はとてつもなく、そこから生み出される利益も大きいからである。学園都市の主軸を成している風力発電にも利用できるし、その他多種多様な現象に干渉できる可能性を秘めている。

 だが、逆に。

 彼女ら二人がさらわれて、鈴科百合子がさらわれない理由はなんなのか? という疑問は残る。

 鈴科の能力は第一位と同じ『ベクトル操作』である。反射しか使えないものの、価値や成長の可能性を考慮すれば充分に有用な能力なはずだ。それをしなかった理由が天谷にはわからない。

 つまり、考えられる可能性としては、

 

(フェイク……?)

 

 その一語が浮かぶ。しかし、鈴科がそんな事をする人間にはとても見えない。

 だから、もっと深く読むとすれば、

 

(……美空とレオンの狂言)

 

 その可能性も浮上する。思い返せばレオンは明確に『味方ではない』と宣言していた。だとすれば、天谷を……あるいは、その先にある木原練成達を一網打尽にするために一役買っても無理はない。仮に、彼女らの目的がわからなかったとしてもその可能性は否定できない。木原練成からの情報すらも百%信用できるという確証はないのだ。それに突き詰めれば、鈴科が嘘をついているような気さえしてしまう。

 何が、本当で何が嘘なのかわからない。そもそも、本当に抗争が起きているのかさえ。木原数多サイドがレオンと美空を誘拐する形で先手を打ったのかさえも不明だ。

 と、するなら。

 

「まさか……これもフェイク?」

 

――――――――――――――――

 

「……ハッハ。どうなってやがる?」

 

 木原練成は笑った。こんな事実は簡単に認めたくなかった。

 

「俺が……情報操作にきづかない、だと? おそらく『悪性』の仕業だな。……それにしても、『善性』の野郎はッ!?」

 

 そこで、『善性』が木原練成の脳内へ強引に思念を発してくる。

 

『練成、さん……レオ、ンさんが……ジジ、うら……まさ、かネットワークが……ッ!』

 

 プツン、という音と共にその思念が切れる。

 

「……ネットワークの、崩壊……」

 

 木原練成は机に頬杖をついて、言う。

 何らかの理由で、『善性』のネットワークが停止したようだ。だとすれば、その原因は何か。

 まず『悪性』が単独で行う事は不可能だ。誰かの助力があった事が前提となる。

 では、誰がやったのか。

 麦野沈利の能力はそういうタイプではない。それに考えてみれば、そんな事ができるのは第一位くらいのものだ。

 だが。

 いるのではないか? 一方通行ほどの演算能力はなくても、彼と同じ『ベクトル操作』に分類される能力を持った人間が。

 それがレオンであり美空である。

 もちろん、彼女ら二人だけでできる訳ではないだろう。しかし、彼女らがどんな方法でネットワークを破壊したのかという疑問は残る。

 ヒントはあっても、答えにあと一歩届かないもどかしさがあるのだ。

 

(……だが、いつまでも停滞する訳じゃねえ。実際にネットワークを乱せるのは五分、十分……そんなところか。さあ、お前達にはどれだけの負担がかかっている?)

 

 

――――――――――――――――

 

「ゲホッ……ゴホッ……ハア、ハア」

 

「全く、やってくれたの……ッ!」

 

 美空とレオンは電極を取り外し、飛び跳ねるように起き上がる。口の端からは血が零れていく。

 

「何だよ。これがお前らの提案した『条件』ってヤツだろ?」

 

「この……ッ! 百合子がいなければ意味がないではないか!!」

 

「ああ?」

 

 木原数多は睨みつけるように目を細める。

 

「そもそも、テメエらの命があるだけでも奇跡に等しいんだぜえ? ……それに俺の研究にアイツはほとんど無価値だからな。ま、応用できねえ訳でもねえが」

 

「……美空様。交渉の余地なし、です」

 

 レオンが能力を行使し、ベクトルを生成する。狙いは木原数多の頭部だ。喰らえば間違いなく意識を刈り取られるだろう。

 しかし、木原数多は一歩さがるだけでそれを避ける。

 

「……あのガキにできた事がこの俺にできねえ訳ねえだろうが!」

 

 木原数多はレオンにボディーブローをみまわせて、舌打ちする。

 木原数多としてはここで『セカンドシーズン』を完全に手中に収めたかったのだが、これだけの実力差を示しても屈しないというのは若干の想定外ではあった。

 だがもちろん完全に予想できなかった訳ではない。

 

「……まあいいわ。お前らが俺に逆らえる訳じゃねえし。あと、次逆らったら全員死刑な?」

 

「舐めるな、数多。わらわには死ぬ覚悟程度はあるぞ?」

 

「んなこたあ知ってるんだよ」

 

 木原数多は一枚の紙を差し出す。

 

「今後の予定だ。きっちり動けよ」

 

 そこに書かれている内容は普通の学生では絶対に関わらないであろう血なまぐさいものだった。

 

「てな事で永遠に抜け出せない『こちら側』でようこそ、ってなあ! 歓迎するぜ、クソ野郎」

 

 そして、彼女らは闇へと堕ちていく。

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