「……何者ですの?」
そう言いながらも白井は何となく感じていた。この、何の前触れもなく唐突に現れる感覚。
(私と同じ空間移動の能力者ですわね……)
「フフ……そんな食いつくような目をされるとこっちも困るわ。初対面の人とは第一印象が重要って言うでしょ?」
「……この出会い方自体が最悪の第一印象ですの」
このタイミングで現れるという事は黒服達の仲間である事は確実だ。おそらく大きめのキャリーケースの中に用があったのだろうが、白井にそれを見逃す気はない。
問題は相手が自分と同じ空間移動系の能力者であるということだ。相互干渉を起こせないということは相手を地面に転移させたり、何て事ができないということになる。
(……最悪の場合、相手に直接鉄矢を転移させることも――――ッ!?)
直後、白井は想定外の光景を見る。
気付けば、結標の横にはキャリーケースが置かれていた。
「そんな、どうしてですの……?」
「そもそも、私とあなたの最大の違いは転移させる物体に触れる必要があるかどうかよ。私は手で触れる必要がないだけじゃない。飛ばせる距離も質量も他の追随を許さないレベルに達しているわ。どう? 素晴らしいでしょう?」
白井はわずかに歯ぎしりする。目の前で実際にやられては反論のしようがない。
つまりスペックは白井より上という訳だ。
ならば、どうするか。
白井は鉄矢を手に取る。
(……相互干渉ができない以上、純粋に力の使い方で決まりますの!)
転移の質量と距離は劣っていても、両者の距離は十メートル程度。白井にとっても問題はない。
白井はなれた感覚で結標の脇腹へと鉄矢を転移させる。
対して、結標は一歩、後ろに下がっただけだ。だが、それだけで鉄矢は虚しく地面を転がる。
「な――――」
「別に、驚くようなことじゃないでしょう? 点へと物体を移動させるなら、その点から外れればその攻撃を避けることもできる。予想できてれば避けるの簡単なのよねー。座標攻撃って」
しかし、それを難なく実行できるというのはやはり、空間移動系能力者の特権だろうか。
「……感知できたからと言って、そのまま避けられるとは思えませんの」
「だーかーらー。私はあなたとは違うの。別格なの。この意味わかる? 私はあなたの一歩先を進んでいるのよ」
まあそれもいずれ捨てるけど、と結標は誰にも聞こえない声で呟く。
結標は傍らに倒れる男を再確認して、ため息をついてしまう。
「……ホント、下っ端だから期待はしてなかったけれど。ここまでとはね」
目の前の白井に語りかけているのか、結標は軽い調子で言葉を続ける。
「それにしても、御坂美琴は大変よねー。こんな事に後輩の介入を許しちゃうんだから切羽詰まってるんでしょうけど。それにしたって……ねえ?」
友人と世間話をする。本当にその程度の軽い調子だった。しかし、そんな軽い言葉にも白井には聞き過ごせない単語が混じった。
「……どうしてそこでお姉さまの名前が出てきますの?」
「あっれ……それじゃあ知らないでこいつらを尾行したの? ……まあ、受け渡しだけならもっと都合のいい場所はあったんだけどね。それだと全体の利害が一致しないし。ここが悩みどころって訳。……黒夜海鳥とか出てこないわよね。……全く、第二位いわく、『アイツが絡むと何が起こるかわからない』らしいし。本当に面倒なヤツね」
まただ。今度は第二位。
もちろん白井は第二位が垣根帝督であることなど知らない。だが、第三位の御坂を超える存在が関わっているというのも看過できない。
(……この女は何を言っていますの?)
『幻想御手』という一つの修羅場を経て、成長した優秀な能力者である白井黒子は何も理解できなかった。
(これは……どういう事件ですの? 裏で何が蠢いていると――――ッ!)
直後。白井は本物の『格上』を体感する。
――――――――――――――――
「ダメだ。こんなんじゃ全然ダメだ」
木原練成は焦った表情でどこかを目指していた。
「まずいまずい。このままじゃこっちの陣営が崩壊する」
現段階でレオンと美空は敵に寝返り、『善性』も一時的にだが動けない。戦況がどんどん木原数多側へ傾いているのがはっきりとわかる。
「どうするの? 練成お兄ちゃん」
隣を歩く木原円周は純粋に問いかける。
「さあな。……向こうの出方次第じゃ俺が出るんだけどさ。ま、その辺は慶の野郎が何とかしてくれるだろうな」
天谷慶。
その単語の重さを木原練成は正しく理解しているつもりだ。少なくとも学園都市内で彼よりあの無能力者を理解しているのは統括理事長くらいのはずである。
「……慶お兄ちゃんのところ行っていい?」
「気になるの?」
練成の問いに円周はあっさりと頷く。
(この辺が気に食わないよなあ……。円周だけじゃなくて、唯一も病理もアイツと垣根帝督に毒されていくし。……ジゴロじゃねえけど、人の心に土足で踏み入りすぎだろ)
その時、一筋の閃光が夜空を切り裂いた。