とある無能力者の生き方   作:異端者

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虚構の中で

 きっと、『悪性』は垣根帝督の過去で、『善性』は垣根帝督の今で、『憧れ』は垣根帝督の未来となるのかもしれない。

 だが、そんな願望を垣根の本音はどう思っているのだろうか。

 

――――――――――――――――

 

 垣根は長い夢を見ていた。それも一つではない。いろんな夢が絶え間なく流れ続けるのだ。

 ある時は天谷が、黒夜が、病理が、垣根の近くにいる全ての人間が殺される夢だった。

 ある時は自分がそれを実行する夢だった。

 しまいには、自分がそれらの人間に恨みや憎しみの言葉を殺される夢を見た。

 夢の中の垣根はどうやら自分の意思で動く事はできず、シナリオの通りに動く操り人形のように淡々と実行していくのだ。それはただのプログラムに過ぎない、と言い聞かせてはいるもののさすがに何度も見せられるとショックになってくる。

 でも、そのうち気付いてしまう。この夢にハッピーエンドのような夢は一つもないのだと。

 夢はその人の願望を写すという。だとするなら、少しくらいそういうのがあっていいはずだ。垣根もそういった願望を今は持っている。

 だから、わかった。これは誰かが見せている夢なのだと。その状況に納得させるまで垣根を起こさせないように。目覚めた垣根がそうなるようにしようとしている。確かに効果そのものは薄いかもしれないが、人間には精神があり、当然垣根にもある。すり減らさせて、すり減らさせて垣根を追い詰めるつもりなのだ。

 

「――――夢想空間。……いや、願望空間とでも言うべきか? ま、今の『未元物質』ならありえない話じゃねえが」

 

 あくまで思考の中で垣根は呟く。こうしている今も垣根の精神を壊すべく、バッドエンドはエンドレス再生を続けている。

 

「さあて、誰がやった? てなことは置いといて……取り敢えず抜け出しますか」

 

 ただ決められたものを流し続けるプログラムに用はない。垣根はその先へ進みたい、進まなければならない。

 だが。

 

「……結局、繰り返すのか。面倒だな」

 

 目の前にはまた同じ光景。どうやら、この夢を抜け出すにはただプログラムを破るだけでは抜け出せないようだ。

 

(何が必要だ? 何が目的だ? この夢はどこへ向かっている?)

 

 第二位の演算能力はあるはずもない情報を、いるはずもない敵を求めて奔走する。

 

――――――――――――――――

 

 別の場所では誰かが笑っていた。それは学園都市と同じ場所にあるはずなのに誰も認知はできない。

 虚数学区・五行機関。

 

「フフ……アレイスターめ。最初は何をしでかすのかと思ったが……なかなかに興味深い方法で『プラン』を進めているじゃないか」

 

 その青白い輝きを放つ天使は違和感を与えるように、口を歪めた。

 天使が見下ろす先には金髪の少年。垣根帝督がそこにはいない虚構の敵と戦っている。

 

「虚数学区に第一位より早くたどり着くとはね……。いや、むしろ彼の方がswqhだからなのかもしれないが」

 

 そこまで言って、天使は不機嫌そうに表情を変える。

 天使の後ろには一人の少女が立っている。メガネをかけ、気弱そうに天使を見つめる少女はしかし、強い決意をもって天使へ話しかける。

 

「あなたが……何を狙いとしているのか、私にはわかりません」

 

「何も、狙ってなどいないのだがね」

 

 しかし、少女はその声すらも無視する。

 

「私は……私は……あの人に救ってもらいました。だとすれば、あなたと共食いになってでも……あの人が教えてくれた世界を守ってみせます」

 

「残念だが、その言葉は私に興味を与えかねないよ。……どうしてそこまでこだわるのか、とね」

 

 さて、と天使は思いついたように言う。

 

「私も暇をつぶそうかな」

 

 

 

 

「クソったれが!」

 

 垣根帝督は夢の解析を進めていた。もう、夢ではなくただの監獄に等しかったのだが。

 そして、彼はその第二位の頭脳をもってしてあと一歩まで来ていた。

 しかし。

 

「何で俺が俺と戦わなきゃならねえんだよ!」

 

 垣根の目の前にいるのは自分とまったく同じ姿をした人間だった。三対六枚純白の翼、金髪に整った端正な容姿。そして、高級ブランドのジャケットまでもが、同じなのだ。

 

「クソ! クソ! ステータスまで一緒なのか? 攻撃が……」

 

 だが、目の前の誰かにはないが垣根にあるものがある。精神的な疲労だ。自然と演算速度が遅くなっていることにすら垣根は気付けなかった。

 垣根の翼が宙に霧散する。

 

(しま――――)

 

 目の前の誰かは容赦なく翼を振り下ろされる。

 その直前。

 白い翼を青白い翼が防ぎ、砕いた。

 そして、天使はゆっくりと仮想的な地面へと降り立つ。

 

「やれやれ……君と『直接』会うのは初めてかな? 第二位……垣根帝督」

 

「……ずいぶんと舐めたマネしてくれたじゃねえか。俺は知らないヤツに助けを求めた覚えはねえぞ」

 

 垣根の戦いは加速していく。その身に何が降りかかっていたのかもわからないまま。

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