とある無能力者の生き方   作:異端者

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心理定規②

 心理定規の能力は『心の距離を操作する』という事に特化して見えるが、他の事もできないことはない。心の距離を測る際の応用で多少なら相手の思考を読み取れるし、ある程度の距離なら簡単なテレパスだってできる。

 

「お前の能力はある意味で俺より恐ろしいな」

 

 第二位の怪物にそんなことを冗談混じりとはいえ、言わせるに足る能力だったのは間違いない。

 それでも、苛立っていた、というのがその時の本音ではあった。心理定規には大層な理想や野望などの目的があった訳ではないが、それでも垣根のしていることは納得がいかなかった。

 確かに、学園都市のシステムが自分にとって都合のいいものとは思わない。大能力者で少し実験に付き合うだけで一年や二年は遊んで暮らせる金が手元に舞いこんでくるのだ。それなのに好んで危険な仕事をする方がおかしいだろう。

 

「……ま、向こうも断らないだろうしな。構わないが」

 

 垣根は心理定規に軽く呟くと、電話をかける。

 

――――――――――――――――

 

 一方そのころちょっとした話題になっている無能力者の天谷慶は黒夜と道を歩いていた。

 

「なァ、慶。例の計画ってホントに動いてンのかァ?」

 

「間違いねえよ。『人的資源』プロジェクト。……間抜けにもこの俺を庇護対象にするつもりらしい。薬味久子、木原唯一あたりが調子に乗ってる証拠だよ。全く、俺が帝督を倒したのをまぐれだとでも思っているんだろうか?」

 

「違ェの?」

 

「……ごめん。実際は死ぬかと思ってた」

 

 そう言って天谷はクスリと笑う。

 そこに電話。

 

「ありゃ、帝督からだ」

 

『もしもし……俺だよ俺。ちょっと用があるんだけどいいか?』

 

「すいません。詐欺は受け付けておりません」

 

 そう言って天谷は通話を切る。直後、再び電話が鳴る。

 

『ふざけんじゃねえぞ、テメエ』

 

「悪い悪い。ちょっとやってみたくなった。それでどうした?」

 

『お前に会いたいってのがいる』

 

「あー……黒夜と一緒ならいいよ」

 

『俺も行く。暇だし』

 

「了解」

 

 天谷は携帯をポケットに戻し、軽いため息をついた。

 

「……何かあったのかァ?」

 

「いや、そんなんじゃねえけど。……ま、興味は尽きねえな」

 

――――――――――――――――

 

 その頃、木原龍華と練成は第三学区の一角にあるマンションで同居生活を送っていた。

 

「ふんふんふふーん♪」

 

「おい、龍華……死んだんだろ? アイツ。少し不謹慎じゃないか?」

 

「うん、そうだね」

 

 木原龍華はあっさりと認める。本人にとっては受け入れたくないと考えられる事実を。

 そして、引き裂くように笑う。

 

「でも、あの子を殺したヤツ全員に復讐してやるんだ。そして、ソイツらの死体を積み上げて復讐してやる……。ヒヒ……」

 

「……龍華」

 

「何だよ、兄貴。邪魔すんな。兄貴も殺すぞ?」

 

「龍華」

 

 練成は気付いていた。

 たった一人の無能力者が大きくなりすぎたせいで妹である木原龍華が壊れたのだと。

 もしかすると。

 木原練成の中で何かがこの時、確実に壊れたのかもしれない。

 

――――――――――――――――

 

「初めまして、心理定規……本名じゃないのは許してね」

 

 天谷が『スクール』のアジトに入って聞いたのは金髪ホステスのような少女の声だった。

 

「……こんな美人が暗部で血を浴びるとはな。世も末ってのはこのことかもな」

 

 心理定規はクスリと笑う。天谷慶。無能力者という話は本当のようでその気になれば、心の距離を詰めることも放すことも容易だ。

 しかし、物事には順序がある。まずは相手の心理に侵入してからでなければいけない。

 

(心の距離……四〇。少し近いけれどこれくらいはよくあることね。人の内側への無意識な探り。それが距離を詰める。……だけどね、それは精神系統の能力者に逆手を取られる一因でしかない)

 

 心理定規は垣根にもわからないくらい微妙に唇を歪める。これで手筈どおり。垣根を元の場所へと引きずり戻すための。

 どうせなら、この男の本性を全て吐き出させてやろうか。この街は黒い。もう、変えようがないほどに。本当に終わっている。この世界に救いはないのだから。

 

(無駄よ。所詮、無能力者に変えられるようなことじゃない)

 

 躊躇なく侵入する。常に笑う茶髪の少年が気に入らなかった。

 だが。心理定規に予想外の事態が起きる。

 一瞬で、破れなかった。何か、ロックを掛けているような感覚だ。

 

(……精神のロック自体は難しいことじゃない。自己暗示を使えば簡単にできる)

 

 しかし、大能力者である心理定規にそれの効果が期待できるのか、と言われればそれほど期待できる訳ではない。もって十分というところだろう。

 

「そう笑うなよ。無能力者の俺にはこれだって重要な技術なんだぜ?」

 

 そう言って天谷は自嘲するかのように笑う。

 その様子に垣根は眉をひそめ、

 

「心理定規……お前、何やってんの?」

 

 右手に力をいれた垣根を見て、心理定規はわずかに肩を跳ね上げる。

 垣根の目から一気に感情が消える。

 殺される。本当にそう思ってしまうような目だった。相手から全てを奪う。首筋に冷たい汗がつたうのを心理定規は気付けなかった。それほどの目。暗部のときだって、彼はこんな目をした記憶はない。

 

「帝督、やめとけよ」

 

「……なにかあると思ったら、これか」

 

 垣根の呟きが終わるか終わらないかのところでドアが開く。

 

「けェい……少し暑い」

 

「……お前は雰囲気ぶち壊すの得意だよな」

 

「うるせェな。慶と違って、私は口調直らねェし……この部屋、クーラー効いてていいなァ。さすがは第二位がリーダーやってるだけはあるなァ……」

 

「慶、この女叩きつぶしてもいいよな?」

 

「ふ、ふざけるンじゃねェ! お前らは私に何をする気だ!?」

 

「……悪いな、俺は中学生は守備範囲外だ」

 

「帝督、俺はもはや黒夜海鳥が守備範囲外だ」

 

「う……なンだよ、それェ」

 

 直後、黒夜の泣きじゃくる声が部屋に響いた。

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