「第一位、死ねよ」
「悪ィがオマエに殺されるのだけはゴメンだ」
一方通行と『悪性』の間で無数の衝撃が巻き起こる。第三位など蚊帳の外になってしまうほどの威力だ。
だが。
(……計算通り)
御坂は何かを確信し、笑う。握りしめたコインが役に立たないことは知っている。彼女がしているのは直接的なこと……ではない。
(どうやら、あの第二位もどきは電気信号的なネットワークを構築しているみたいね。あの子たちのネットワークより規模は小さいけど複雑さは比じゃない)
つまり、御坂には『悪性』のネットワークに干渉する余地はないのである。
その事実は揺らがない。それでも、御坂には……御坂『達』には勝算があった。
衝撃を生み出し続ける一方通行が。
前髪に紫電を迸らさせる御坂が。
ビルの屋上にいる二人の精神能力者が、同時に笑った。
直後。
がくん! と『悪性』が呆気なく平衡感覚を失い、地面に膝をついた。
(……!? な、なん……何が!?)
焦る。原因を捜す。自滅を疑う。
そもそも『悪性』の存在は垣根帝督という元となるオリジナルから分裂している。その片割れとなる『善性』が何らかの手を使ったならそれは不可能ではないのかもしれない。
(あの偽者兼偽善者が……ッ! 何をしやがった!?)
しかし、結論どころか推論すら至ることはない。なぜなら目の前で第一位の怪物が笑っているからだ。
「何が……何がおかしい!?」
「安心しろよ。オマエは自滅なンかしてねェし、片割れが何かしたわけでもねェ」
「なら……何でだ! この俺のネットワークが崩されるはずがねえ!!」
「……そンな訳ねェだろ。オマエのネットワークは『悪性』っていう一側面に頼り切ってた。だからこそもう一方の『善性』に対しては極端な拒絶反応を示す。当然、侵入されちまえばネットワークは崩壊する。それを恐れるオマエは強力かつ繊細なフィルターを作り、外からの情報を悪意的に抽出し続けた。……全てを疑い続けた結果だ。オマエのネットワークは性質上『より多く、より膨大な情報』を手に入れるために膨張をつづけたンだ」
機械的な話だが、人間的な側面も見え隠れしている。膨大な情報は言うなれば知的好奇心とでも変換できるだろうか。拒絶反応は恐怖、フィルターは自己暗示……。これら全てが垣根帝督という人間を表現しているとするならば。
「……だとしても」
それだけの安定した理論を確立させられても。
『悪性』は否定を続ける。
「お前らの言う垣根帝督はそんなに単純じゃないんだろう? だったら第一位。お前ができるのは精々表面上の〇と一を読み取るだけのはずだ! 十五分じゃそれが精いっぱいなんだ!!」
「……そうだなァ」
一方通行は引き裂くように、笑う。
「確かに、俺一人なら、なァ……」
「はあ……」
深くため息をついたのは第三位の御坂美琴だ。
つまり……
「そ、そうか……この俺のネットワークは電気信号の羅列。表面上の〇と一の読み取りなら第三位にもできる……。その情報をそのまま第一位に送り続ければ、第一位はその先の解析を効率的にできるって訳か……」
「とは言ってもそれだけの並立作業でも一時間以上かかったし、あと数回充電しちゃえば私も文字通りの電池切れだったんだけどね。ホント、危なかったわー」
あの少女達をかたどった人形を出しても、第三位は揺らがなかった。それだけ、成長しているということか。
「アンタにはあの子たちの墓を暴いたでっかい罪があるわけだけど……覚悟はできてる?」
前髪の紫電が徐々に大きくなっていく。おそらく、不安定な状態の『悪性』は再生も満足にはできないだろう。つまり、第三位の電撃一つで破壊は可能という訳だ。
しかし。
(バカが……)
『悪性』は笑う。最後の最後で自分に運が向いた、というような表情だ。
(お前らがバカみてえな高説垂れたおかげでネットワークの再構築も修正も完了してんだよ! 後はこの俺の意識をそっちに移すだけだ!!)
今度は同じミスなどしない。全ての弱点はフィルターに含んだ。
だが、そこまでやってもなお。
「何で……崩れる? お前らには……お前らにはネットワークの解析が精いっぱいだろうが!」
「第一位と第三位だけならね」
『悪性』の耳に聞きなれたような声が届く。違う、これは垣根帝督の記憶だ。
この声は……
「心理定規ッ……テメエ!」
「あの人の声で私の名前を呼ばないでくれる? 正直、寒いのよ。最強がどうとか、直接交渉権がどうとかっていうの。アナタなんか壊れてしまえばいい」
「ふざ、けるな……この俺がこんなところで、」
そこまで言って気付く。心理定規の後にもう一人、誰かいることに。
「操祈……テメエもか」
「私……あなたにファーストネーム許して覚えはないんだけどぉ」
つまらない物を見るような目で彼女は言う。
『悪性』を一瞥してから、
「っていうかあ……私を呼ぶほどのことでしたぁ? これ」
「そうか……お前、らは……この俺のネットワークに……『善意』を流し込むことで……この俺のネットワークを……」
壊したのか、と言うことはできなかった。
そして、少しずつ、その兆候が現れる。白い体はボロボロと崩れ去り、立ち上がることすらもうできない。言葉もうまく紡げない。
「……ここまでね、偽物。アナタには墓を暴いた罪を償ってもらう」
御坂がピーン、とコインを指ではじき宙へと舞わせる。
「あ……や、やめ……」
もう遅い。コインは御坂の指へと着地していく。紫電が御坂の体全体を迸っているのが確認できる。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
彼女の代名詞、超電磁砲が『悪性』の体を撃ち抜いた。