とある無能力者の生き方   作:異端者

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何と何がぶつかるのか

 最初に動いたのは天谷だった。素早く恋査の懐に飛び込んでいく。

 しかし。

 

「――――形状変化。『未元物質』の偶発的覚醒を確認。これより第二位……」

 

「やらせるかっての!」

 

 しかし、天谷は恋査の体勢が整う前に拳を放つ。放たれた拳は正確に恋査の額へと打ちつけられ、彼女の脳を揺さぶる。

 そもそも恋査の体はサイボーグ化されており、まともな攻撃は受け付けない。彼女の肉体でなければ無茶な改造に耐えられはしなかっただろう。やはりネックは第一位から第六位までの能力を再現できることか。唯一の救いは一方通行の『反射』だけなら無効化できることだ。もっとも、それで戦力差がどうこうなるわけでもないのだが。

 

「――――さすがですね、慶。それでこそ薬味久子が執着する人材です」

 

「別にお前らに認められるために頑張っている訳じゃねえよ」

 

「ええ、そうでしたね」

 

 二人はほぼ同時に目を細める。恋査としては時間を一定まで稼げればいいわけで、会話が多いのはむしろ僥倖と言えるだろう。天谷も焦って攻めたところで意味がないのは承知している。

 

「それにしても慶は随分と強くなったようで……『あの時』は私に触れることすらできなかったのに」

 

「生憎と、二年間で過激すぎる経験値がつまれてるからな。さすがに触れられないはねえよ」

 

 と言っても、恋査の肉体には全くダメージが入っていないのだろうが。

 

「それでは……再開しましょうか」

 

「ああ」

 

 再び二人は動き出す。

 この時点で恋査にはいくつかの選択肢が生まれる。移動手段すら第一位の『ベクトル操作』や第二位の『未元物質』で構成される翼で飛ぶこともできる。飛んだ時点で天谷の攻撃が届かないことを考えるとかなりのアドバンテージだろう。

 強く蹴られたコンクリートは砕けている。どうやら、第一位の『ベクトル操作』で移動したようだ。

 恋査の能力切り替えには一秒前後のタイムラグが存在する。隙があるとすれば、その一秒だろう。拳が〇・三秒で飛来することを考えればその一秒は決定的だ。

 

「邪魔、だ」

 

 顔へと伸ばされた右腕を跳ね飛ばし、膝を腹へといれる。

 しかし。

 

「……痛っ!」

 

 膝を抱えるような形で天谷はぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 

「お前……なあッ! 何も肋骨までサイボーグ化することないだろ……」

 

「もともとそういう用途で体を弄られてますから」

 

 そう言って恋査は体の調子を確かめるように自分の脇腹を撫でる。

 

「しかしさすがですね。二年前と比べて身体能力が格段に向上しております。これでは私が初手に対応できないはずです」

 

「あー……そっか」

 

 目をそらしながら天谷は呟く。

 

(体のほぼ全体をサイボーグ化してるってことは素手はもちろん銃もきかないってことじゃねえか。……はあ、俺も能力欲しいなあ)

 

 今さら嘆いたところで変わるものでもないが、こればっかりは才能の問題だ。努力だけではどうしようもない。

 つまり現状、天谷に恋査を倒す手段はないという訳だ。ならば、とる方法は一つ。

 

(逃げる!)

 

 くるりと踵を返し、別のルートを模索する。第二十三学区への最短ルートは選べないが、それでも恋査にやられて白井の救援へ行けないよりははるかにマシだ。

 だが。

 

「させると思いますか?」

 

 わずかな声が天谷の耳に届くのと同時に閃光が頬をかすめる。その高熱を帯びた閃光は地面のアスファルトをも溶かしていく。

 

「第四位……『原子崩し』か」

 

「あなたには最近、縁の深い能力でしょう。……もっとも、この程度では本物に遠く及ぶものではありませんが」

 

「ったく、逃げる事もできねえってなると……倒すしかねえか」

 

 しかし、そんな都合のいい切り札は存在しない。運よく仲間が来てくれる可能性だってかなり低い。どうするべきか……。

 

(練成の野郎ォ……これを予測してなかったのか?)

 

 もちろん天谷には予測できなかった。

 だが、独自の情報網を持つ木原練成になら、可能かもしれない。恋査の後ろにいるであろうあの女にも辿りついていた可能性もある。

 

「…………」

 

 ここで重大な疑問点が浮かび上がってきた。

 

 この抗争は一体どこの誰の都合で動いている?

 

――――――――――――――――

 

 結局は全員の総意がこの抗争を生んでいたのかもしれない。特定の個人に明確な利益が出るとは限らないからだ。いや、むしろこれだけの怪物たちが集まる抗争を誰かがコントロールできるという話の方が信憑性に欠けている。

 

「全く……困りましたねえ」

 

 木原病理は一見優しそうな笑みと共に呟いた。

 目の前には黒夜海鳥がうつ伏せに倒れている。原因は彼女の目の前にいる二人の少女だ。

 

「フン……わらわの母体になった計画の被験者がどんなものかと思えば……単純に欠陥品ではないか」

 

「力だけで全てが決まるとは言いません。しかし、ご主人様を守りたいなら、この程度で満足してはいけなかったはずです」

 

 美空とレオンはそれぞれ語りかける。黒夜の意識がないことなどわかってはいる。それでもあえて話かけたのだ。

 

「……しかし病理様。あなたはさすがに強いですね」

 

「冗談よしてください。私に生み出されただけの劣等種が勝てると思ってるんですか?」

 

「ふむ……子は親に勝てぬというアレか」

 

 美空は詰まらなそうに呟いてから病理の右手を凝視する。

 病理の右手は銃口のような空洞に形を変えている。垣根帝督の『未元物質』から生み出された内臓兵器の一つの形だ。最も、本来であれば『未元物質』自体が宿主を食いつくそうと独自に活動するはずなのだが、これは『木原』の技術で何とか抑え込んではいる。もちろん、制限はあるわけだが。

 さらに、木原病理の頭には美空、レオンの能力に関するデータがしっかりと入っている。演算速度。能力の限界値。使用傾向……項目こそ様々だが、そこからの分析も怠ってはいない。

 放出される白い弾丸は正確にレオンの体を撃ち抜いていく。

 

「ぐ……っ」

 

 レオンが膝をつくのを見て、美空はため息をつく。

 

「やれやれ。わらわに攻撃が通らんからレオンに攻撃か。随分と卑怯な真似をするの」

 

「黙ってください。慶くんと勝手に同居しやがって。ぶち殺してやる」

 

「嫉妬か……醜いのお」

 

 美空は指先を軽く振り、病理は右手を振りかざす。

 勝負は次で決まる。

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