とある無能力者の生き方   作:異端者

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二十三学区へと

「よお、恋査」

 

「垣根帝督……ではありませんね。大方ネットワークの片割れでしょうか」

 

 地面に降り立った金髪痩身の、もっとも垣根帝督の外見を表している『憧れ』はゆっくりと茶髪の少年に視界を移した。

 

「……何か見覚えのある知らないヤツが来た」

 

「俺は垣根帝督の『憧れ』かね……」

 

「まーたネットワーク出身者か……」

 

 垣根帝督の分身はどこまで増えるのか。正直、これ以上はこちらがパンクしてしまいそうだと天谷は思う。

……もっとも、垣根の目覚めが早まる兆候ならば万歳ものなのだが。

 

「……しかしそうなると困りますね。私の計画が狂ってしまいます」

 

「……計画?」

 

 恋査の言葉に天谷は思わず眉をひそませる。相手は統括理事会御用達のサイボーグなのだ。この行動にどんな思惑が隠れているかわからない。

 体に自然と力がこもる。次の行動へ向け、神経を恋査に集中させる。

 

「――――病院に連れ込んでから……」

 

「よーし死ね。一瞬で死にやがれ!」

 

 意味もなく銃を発砲し、舌打ちをする。

 

「酷いですね、慶。いきなり撃つのは卑怯ではありませんか?」

 

「どうせ痛くもなんともねえんだろ……それに、俺にも時間ってのはない」

 

 御坂美琴は一度、了承こそしたがそれで引き下がる保障はどこにもない。むしろ、白井のもとへ向かう可能性の方が高いのだ。

 

「……まあそういう話なら、やることは一つだろ? 慶」

 

 ゆっくりと口を開いた『憧れ』に天谷は不快な表情を滲ませる。

 

「いい加減に帝督も目覚ましてくんねえかな。……正直、ややこしいし」

 

「それは私達にもわかりかねる事案ですからね。無駄な希望は持たせないようにさせてもらいますよ」

 

 天谷は『善性』の言葉に肩をすくめて、

 

「わかったよ。でも……まあ、頼んだぞ」

 

「はい」

 

「任せろ」

 

 今度は逃げるように走ることはしない。ここから立ち去るのにそんな大仰なことは必要ないからだ。振りかえり際に恋査と目があった。

 彼女の目は淀んだ光を帯びたまま、じっと天谷を見据えていた。

 

 

――――――――――――――――

 

「さて……ここですわね」

 

 白井黒子は第二十三学区にある研究所へ到着した。表向きには宇宙開発の拠点となっているようだが……。

 

(……初春の情報によれば、この研究所は三日ほど前から不自然な動作不良で一時的に閉鎖しているとのことでしたの。もし……今回の件と関わりがあるとすれば)

 

 三日。何かここで下準備することがあったとするならば充分な時間だった可能性は高い。そもそも学園都市はボタン一つで様々な情報・物資が取引されているような街だ。三日も時間をかけるようなことなど滅多にないだろう。

 白井はスカートのポケットから端末を取りだし、操作する。

 

(……情報の上では電気系統のトラブルとありますが、この辺の電気的配線は、情報バックアップのためにリンクしている場所が多いですの。通信にも便利ですしね。にも関わらずトラブルがここでしか起きていないというのは偶然にしてはできすぎですの)

 

 端末をポケットへ戻し、再び前へと歩を進める。ネットで囲まれた研究所の外観は半球状のドームのような形になっている。重力関係の研究棟なのだろうか。

 

(……あの中に何があるのかはわかりませんが、私は私の務めを果たすまでですわ!)

 

 だが、同時に。白井はわかっていた。後ろに誰かがいることを。

 

「……全く。あの時に殺しておくべきだったかしら。のこのこと戻ってくるくらいなら」

 

 聞き覚えのある声に白井は振り返りながら答える。

 

「そうですわね。……ですが、事の顛末を鑑みるに『やらなかった』のではなく、『できなかった』のではありませんこと?」

 

「……、」

 

 赤髪ツインテールの少女はあえて答えない。隠す意味もないと思っているのだろうか。

 

「図星のようですわね。ここで沈めて差し上げますわよ。……結標淡希さん?」

 

「……ったく、あの医者め。あんな準備をしてるとはね。正直、想定外だったわ」

 

「……?」

 

 口惜しそうに独り言を呟く結標に白井は眉をひそめる。

 その様子に気付いたのか、結標はわずかにほほ笑んで、

 

「そんなに身構えなくてもいいわよ。今すぐに帰るなら見逃すし……ああ、そうだわ! 私に協力してくれるなら歓迎するわよ? もちろん仲間を説得するのも任せていいし」

 

「あら、驚きですわ。あなたのような方に仲間と呼べる人がいたとは……」

 

「交渉決裂、ね」

 

 結標は少し残念そうに息を吐く。しかしそれは本当に少しだけだ。

 

「結局……ここで消すしかないみたいね」

 

 結標の目に黒く淀んだ何かが蠢く。殺気とかそういうものではない。物理的に淀んでいる。まるで何か異物を摂取し、それを内側から出しているかのようだ。

 

「あらあら……目に疲れが見えますわよ?」

 

 白井の皮肉に結標は笑った。

 

「できれば使いたくないわ。お互いのためにも」

 

「何か隠れた力でもおありで?」

 

「そのまさかよ。……でもこれって借り物に近いし、私の本来の計画からは大きく外れてるのよね……」

 

 何かをブツブツと呟きながらも結標は手に持つ軍用ライトを握る力を強める。

 対して白井は鉄矢を指先で挟む。

 

「さて……お互いもう聞く事はありませんわよね?」

 

「ええ、私としても億劫なことは終わらせるべきだと思うわ」

 

 白井が体に力を込め、結標が姿勢をわずかに前傾させる。

 直後だった。

 二つの同種の力場が強く、激しくぶつかり合った。

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