ゴッ!!
絹旗の拳が天谷の腕に文字通りめり込んだ。
「……ッ……!!」
天谷は絹旗の拳をかわそうとした時に踏ん張った左足に痛みが走ったのだ。結果、次の一歩が出ずに腕で受け止める形になったのだ。
「どうやら先ほどの奇襲は超無意味ではなかったようですね」
「結局、私の活躍って訳よ」
ズキズキと痛む左足を見る。おそらくは捻挫の類だろう。
(やっちまったな。左足に加えて片腕もとられるとか……)
絹旗の『窒素装甲』の威力は想像通りのものだった。右腕が全く動かない。力も入らなかった。
(それだけじゃねえ。腕がうまく動かないと体のバランスも崩れやすい)
左足と右腕の痛みに耐えつつ、二人の少女を視界に入れる。
まずは目の前の二人を倒さなければ状況は加速度的に悪化する。
おそらく麦野と滝壺も先ほどの爆発には気づいているはずだ。こちらに到着するのにそう時間はかかるまい。
(さっさと決める!)
当然、痛みの残っている左足に鞭を入れるように踏み出す。
「ぉぉぉぉおおおお!!」
あえて真正面から突っ込んだ天谷を見て、フレンダは鼻で笑う。
「あー、ダメね。こりゃあ」
軽く首を横に振るとにやりと笑う。
「超死にやがれ」
軽く呟いた絹旗が拳を振るう。
しかし、天谷は首を横に振りそれをかわす。
そのまま、絹旗をすり抜け、フレンダへと突っ込む。
「え? ちょ……ッ!?」
突然の出来事にフレンダは反応できない。
天谷は拳をフレンダに当て……はしなかった。
「はぁ……」
「ちょ、え?」
動きを止めため息をつく天谷にもう一度同じような声を出すフレンダ。
絹旗も唖然としている。二人には天谷の行動が理解できないようだ。
「あー。ダメだこりゃ。全然ダメ」
天谷は自分に言い聞かせるように呟く。
「さっきの奇襲は……まあ及第点としてもその後に手が続いてない。殺しのプロなんだからもっとしっかりやんないと」
それに、と天谷は肩を竦めながら付け足す。
「俺、女ぼこる趣味ないし。終わりにすっか」
だるそうな調子で勝手に話を進める。
「(……さっきから何一人で呟いてるのかな)」
「(さあ、今のうちに超つぶしてしまいましょう)」
二人はささやき合うと、それぞれ行動に移る。
フレンダが再びどこから出したのかもわからない小型ミサイルを放つ。
ボゴ―ン!! と洒落にならない爆発音が響くが天谷はそれを難なくかわしている。
「超どんな能力を使っているのでしょうか」
「結局、見当もつかないって訳よ」
実際には能力など使っておらず、ただの身体能力なのだが何かというと異能につなげてしまう辺りは学園都市の人間らしい。
しかし、それは天谷にとっては好ましい展開だ。
相手が自分を無能力者と知っているなら、そこから生じる油断をつく。
逆に相手が自分を能力者と警戒しているならハッタリなどをかけ、かき乱す。
天谷は常にそうやって勝利をつかむのだ。
「だーかーらー。俺は帰るからもうここは好きにしろっての」
左足と右腕もそろそろ無茶もきかない天谷としてはここらが潮時のようだ。
しかし現実は思うようにいかないことがほとんどである。
天谷の携帯が鳴ったのだ。
着信した名前を見て、思わず顔をしかめた。
「……もしもし」
『はーい。病理ちゃんですよー』
「何の用だよ……」
げんなりとした調子の天谷に木原病理は真逆のテンションで応える。
『いえいえ。もしかして慶くんが面倒になって依頼遂行もしないまま帰ろうとしてるじゃないかと思いまして。確認をしたかっただけなのですが……』
ギクゥ!! という擬音がピッタリなほど天谷は肩を震わせた。
「な、なんだよ……。そんな事するわけないだろう?」
図星だったという事が電話の向こうまで伝わるであろう返答だった。
しかも、天谷は余裕で電話なんかしているがその間も、絹旗が瓦礫をぶっ放したり、フレンダが爆弾を乱舞させたりと色々派手な事になちゃっているのだ。
ここでもう一度同じような事を繰り返したい。
人間、不運な時はとことん運に見放されるものだ。
「ったく、たった一人になーに手こずってんだか」
絹旗、フレンダいずれのものでもない声が響いた。
直後。
ドゴーン!! と壁が一筋の閃光にぶち破られた。
そして天谷はこの能力を知っている。
「……マジかよ」
麦野の『原子崩し』によるものだった。
壁には大きな穴ができ、淵はドロドロに溶けている。
「さーて、覚悟はいいわよね?」
麦野の不敵な笑みに天谷は胃に痛みを覚えるのだった。