とある無能力者の生き方   作:異端者

92 / 97
戦況は終息へ

「ったく……」

 

 天谷は呆れたように呟いた。

 その変化の無さに鈴科は思わず首を傾げる。

 無傷なはずがない。鈴科の攻撃はかわす隙間すらない程に埋め尽くされた圧倒的な力だった。

 

「……、」

 

 対して鈴科は俯いたその唇をわずかに歪ませる。

 それは予想通りの事。彼女にとってはその程度なのかもしれない。

 だが、天谷は違う。

 彼には本当にここが限界だ。

 

「百合子。さっさと目を覚ませ。……美空とレオンにそんな情けないところ見せるつもりか?」

 

「……フフ」

 

 鈴科は何もしない。

 ただ、ただ笑うだけ。

 そして狂気に洗脳されたようにゆらりと体を揺らした。

 その目は、天谷と同じく赤い光を帯びている。

 天谷はゆっくりと、慎重に前へ一歩踏み出した。

 

「仕方ねェ。……女を殴るのは趣味じゃねえが、ここはそンな綺麗なまま終われねェよなァ、百合子」

 

 ダン! と天谷の足の裏が鉄の床を叩く音が響く。

 鈴科が能力を再び使う前に、拳の届く距離まで近づけた。 

 だが。

 

「……おい、マジかよ!」

 

 鈴科が地面をつま先で軽く叩くとすさまじい速度で移動する。

 そう。

 まるで一方通行がそうしたように。

 

(……てっきり能力が暴走してるだけだと思ってたが、そォでもないらしィな。大方、『自分だけの現実』を強化しまくったってところか。だが、それだって無理筋の力である事にはかわりねェ。……あまり時間はかけられない、か)

 

 つまり鈴科の使う『ベクトル操作』のレベルそのものが跳ね上がっている。

 おそらくは一方通行とほぼ同等。唯一の差は天谷との戦いで見せなかった『黒い翼』くらいだろう。あの力はほぼ確実に一方通行特有の力。他人がコピーできるものではない。

 

「クソ……数多の野郎ォ」

 

 天谷は鉄の扉の横にある強化ガラスを見つめる。

 天谷の側から見る事は出来ないが、その向こうでは木原数多がほくそ笑みながらその戦いを見ているはずだ。

 力なき少年の無様な姿を。

 しかし、それでいいと天谷は思う。

 その油断こそが天谷が勝つために最も必要な事なのだから。

 

「……行くぞ」

 

 天谷は強く拳を握りしめた。

 鈴科もそれに応じるように身体をわずかに揺らし、両手を大きく広げる。

 直後。

 二つの手が互いの顔に大きく伸びた。

 

――――――――――――――――

 

「……一体、何が」

 

 白井黒子は茫然と研究所を見つめていた。

 ドーム状になっているその研究所はかなりの強度がありそうで、ミサイルを撃っても壊れそうにない。

 にも関わらず。

 内側から巨大な力が拡散したかと思うと、その整った外観がはじけ飛んでいた。

 ところどころに空いた大きな穴がその力のすさまじさを物語っている。

 

(……何をどうしたらあんな事になりますの?)

 

 白井は何が起きたかを確認するために一歩、研究所へと踏み出す。

 そのまま行けば彼女の命は危険にさらされていただろう。

 だが。

 彼女の肩をポンと叩く者がいた。

 それはまさにテレポートを行おうとした直前。普通ならそのままテレポートしていただろう。

 しかし彼女はできなかった。

 厳密には、彼女の肩を右手で触れた少年がそうさせなかった。

 

「……どう、して」

 

 白井とその少年の接点は極めて少ない。

 唯一の接点は御坂美琴ただそれだけ。

 だが、この共通項は二人をバラバラにするには余りにも強すぎる存在だった。

 少年は呟く。

 

「よく頑張ったな。……後は俺に任せろ」

 

 少年は迷わない。

 一時期の第一位にも及ぶ力を持った少女がいるその場所へと何の恐れも持たずに歩き出す。

 白井は止める事ができなかった。

 その歩みはあまりにも自然過ぎて、そうなるべくしてそうなったようにし思えなくて。

 少年の右手を強く握りしめるその姿は白井とは全く別次元のものだったから。

 

――――――――――――――――

 

 まっ白な世界に木原龍華は茫然と立ち尽くす。

 それが幻覚だとわかっていても、抜け出す事はできない。

 そこまで単純ではない。彼女の持っている知識だけでこの幻覚は説明できない。

 

「……参ったな。これじゃあ何も出来ないや」

 

 龍華はわざとらしく呟いた。

 するとどこからともなく声が響く。それは垣根帝督のものだ。

 彼は軽い調子で龍華に告げる。

 

『先に言っておく。俺はお前のいる空間においては「神」って存在だ。お前を不老不死にして永遠に閉じ込める事すらできる』

 

「……、」

 

 龍華は辺りを見回すが、垣根の姿は見当たらない。おそらくこの空間そのものに存在していないのだろう。 言うなれば世界の外側から龍華を見下ろす形だろうか。

 

『……俺と慶を殺す? 笑わせるな。テメエじゃそんな事不可能に決まってるだろ』

 

 垣根の言葉には怒りの色が見えた。

 それはまるで超えてはならない一線を越えた者に裁きを下す神のごとき行い。

 

「……舐めるなよ、第二位」

 

 木原龍華は額に脂汗を浮かべながら笑った。

 まっ白な空間になにかが生み出される。

 それは、龍華自身だった。

 

「……この野郎」

 

 龍華がそう呟いた直後。

 鏡のように映し出された偽の龍華が動く。

 それに答え、龍華も身構えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。