とある無能力者の生き方   作:異端者

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躍動する右手

 怪物とちっぽけな人間の戦いが始まる。

 人間たる上条当麻は唯一の武器となる右手を握りしめて鈴科へと突っ込んだ。

 

「……バカみたいですね」

 

 鈴科はその選択に呆れた表情を取り、足を軽く動かす。

 遊ぶ気もなかった。さっさと目の前の敵を殺し自分の目的の為に動く。

 そう決意した彼女は目にもとまらぬ速度で上条の懐へと潜り込み、その指先を上条の腹へと伸ばす。ソレの指先が触れた瞬間に上条の腹へ指をめり込ませ血を逆流させる。それで終わり。

 だが。

 その直前に上条は右の拳でとっさに裏拳を放った。

 普通ならこの右手は鈴科が常に展開させている『反射』によって無駄な徒労に終わるはずだ。

 しかし上条当麻の右腕は反射されない。その絶対に等しい壁を簡単に打ち破る。

 

「……ッ!?」

 

 鈴科はその衝撃に明らかな不信感を抱き、素早く距離をとった。

 頬のあたりに、ズキズキとした痛みが走る。

 

(……あの人も能力が私と同じ、なンて事はないはず。だとすれば元からそういう性質を持っている……?)

 

 考えられるのは能力そのものを打ち消す、という突拍子もない可能性。

 だが。

 『反射』という絶対的な壁を破って鈴科へ拳をぶつけるという事実がそれを証明している。

 上条当麻はその右腕を武器に第一位を模した少女へと突っ込んだ。

 

「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 だが。

 所詮無能力者に過ぎない彼にはその壁は厚く、高いものだった。

 鈴科が軽く足をつま先で叩く。

 そうしてわずかに彼女が避けるだけで上条の拳は空を切ってしまう。

 

「……能力を打ち消すのには少々驚きましたが、当たらなければ何の意味もありませン」

 

「クソ……!」

 

 上条が慌てて横に飛びのいた。

 直後。

 元いた場所の地面が真っ二つに引き裂かれる。まるで、獣の爪で引き裂いた後のように。

 

(ここの傷はこれが原因か……!?)

 

 第一位の力を得た鈴科は慢心しない。さらにたたみかける。

 次はその亀裂に手を突っ込み、地面を引きはがす。

 その巨大な鉄の板となった地面を横薙ぎに投げつけると、高速で回転した板が上条の首元に迫った。

 それをギリギリでかわす。

 だが。

 

「残念、囮です」

 

 避ける事に集中し、他の行動がとれなくなった上条に鈴科が接近する。触れるだけで人を殺せる指先が上条を襲った。

 それで終わるはず。

 しかし、状況はさらに回る。

 

「俺を忘れてンじゃねえだろォなァ!」

 

 自身の肉体に対するベクトル干渉だけを打ち消せる天谷が割って入った。

 天谷は伸ばされた鈴科の腕を掴み、自分の胸元へ引き寄せ蹴りを入れる。

 

「ゴホ……ッ、!?」

 

 天谷の目からはすでに赤の光は失われていた。

 だが、それでも今の流れを掴む動きは完璧だ。

 そう。

 あくまで無能力者としては。

 まだ終わらない。

 第一位の怪物。その模造品となった鈴科はその力のありったけを振るう。

 

「……いい加減に、倒れてください」

 

 爆風が吹き荒れる。そのベクトルは天谷にはどうしようもない。

 それでもその風は天谷には届かなかった。

 パキィン! とガラスの割れるような音と共に風……正確には空気への干渉が途切れる。

 原因は上条の持つ『幻想殺し』。

 

(……まさか、これは――――)

 

 直接ベクトルを干渉させようとすれば天谷に止められる。

 遠距離から空気へ干渉しても、上条の右手で打ち消される。

 もっと物理的に投擲しても、彼らはそれをかいくぐってくる。

 

(――――どうすれば、)

 

 鈴科の手札がすべて失われた。何も出来る事がない。

 二人の少年がゆっくりと迫りくる。

 

「……ここまでだな、百合子。もう意地張るのはやめろ」

 

「うるさい……私がやらなければ、美空とレオンは、」

 

「それは……俺が背負う。だから、オマエはここで寝てろ」

 

 少しずつ。天谷が歩み寄ってくる。

 止めなければならない。彼はここで倒さなければならない。

 そうじゃないと、自分がしてきた事が無駄になってしまうから。

 道化で終わりたくなかった。

 

「……うわァァァァあああああああああ!!」

 

 半ばやけくそに天谷へ突っ込む。指先を伸ばし殺しにかかる。

 そんなの届くわけがない、と心のどこかで思いながら。

 そして――――

 

「……頑張ったな、百合子。お前をこんなにしたアイツは俺がけじめをつけるから……」

 

 少年の拳が鈴科の額に突き刺さった。

 彼女の中で蠢いていた何かが、すうっと消えていった。

 

――――――――――――――――

 

「……やれやれ」

 

 木原数多は部下の運転している護送車の内部で呟いた。

 彼の手に持つ端末には上条当麻、天谷慶、鈴科百合子の戦いが映し出されている。

 それも、今終わったのだが。

 木原数多はそれを不快な表情で確認し、部下へ言い放った。

 

「……今すぐ、病理の残した研究結果を奪え」

 

 まだ、終わらない。

 『木原』が生み出した第一位の怪物。

 そこから生まれる余波は幾多の少年少女を巻き込んでいく。

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