Another World If -Early Days- 作:山吹 色
葛城教官とのテストを受けた後。
僕は激痛を伴う身体へ必死に鞭を打って救護科実習棟にあるという医務室へ向っていた。
しかし、僕にとってとても重要な事をこの時は完全に頭から離れていた。
新学期の初めといえば毎年恒例の行事があるという事に。
半ば死にそうになりながら、この痛みを何とかしようと無我夢中で医務室へ足を進める。
階段を一歩ずつ、ゆっくりと降る度に電流のように全身を走り抜ける激痛に表情を歪める。
ようやく降りきってたまたまフロアにあったベンチに腰を下ろして休憩する。
これじゃ、いつになっても辿り着けない。
……どうしたものか。
そんなふうに途方に暮れる僕。
しかし一体何だったんだろう。
葛城教官が使った、あの不規則変化するしなる棒のトリックは。
すごく気になる……。
ヒスった僕でもあの棒の先端の到達点を見きれなかったし。
銃弾に反応する速度が尋常じゃなかった。
まさか……あの人も?
いや、有り得ない。
サヴァン系の能力は本来ならば遺伝によるもの。
必ずしも同じ先祖の血縁で無ければどう考えても説明がつかない。
それに僕の能力は偶然、事故のせいで発現したものだ。
たぶん、誰にも気付かれない。
そう言えばさっきからひたすら廊下を歩いてるが、誰一人として会わないけどどうしたんだろ。
そう思いながら再びゆっくりと立ち上がり、気を失いそうになりながらもふらふらと歩き出す。
あと少しだ、頑張れ僕。
ようやく医務室の前まで辿り着き、やっとの思いで扉にしがみつく。
「失礼しまーす……っ!?」
扉を開けた直後にビックリ硬直。
僕が向けた視線の先には可愛らしいピンク色の下着姿の女の子がいたのだ。
サラサラの銀髪ロングストレートヘア。
左右で色の違う、薄紫色と薄紅色のオッドアイ。
くりくりした大きな瞳に銀色の長いまつ毛、小さいが形の良いお椀型の胸。
まるで全てがお人形さんみたいで、ちっこ可愛い。
身長は雅さんとどっこいどっこいだが、胸の大きさでは彼女が僅差で勝っているように思える。
しばらく見蕩れていたその時、ある事を思い出してガックリ項垂れる。
(あぁ、そう言えば今日は“健康診断”の日……たしか女子生徒は医務室で診察するんだったっけ?あちゃあ)
──健康診断の日。
新学期早々真っ先にやってくるイベントだ。
少しの間、忘れていた事にショックを受けていたら、恥ずかしそうに左手で胸を覆い、右手を握りながら口の前へ持っていき、何か言いたそうにか細い脚を内股にしてもじもじし、すごく赤面している彼女。
それを見て僕はすぐさま我に返り、慌てて後ろを向く。
「ご、ごごごめんなさいっ!直ぐに出ていくから!」
目の前の光景に痛む身体の事なんて頭から吹っ飛んでいた。
これ以上はマズイ!!
急いで医務室から飛び出そうとした時、何かに気付いた彼女は扉から出ようとする僕の手を引き、近くにあったロッカーの中に一緒に飛び込んだ。
勢いよくロッカーの扉を閉める彼女。
広さ60平方センチメートルのロッカーの中に、俺が下敷きになるような形で彼女を抱えて入っている。
「診察とかマジでだるぅ」
「太ってたら最悪だぁ」
「早く帰らせてや」
「身長伸びてると良いな♪」
「お腹空いた」
すると医務室の扉が開き、ゾロゾロと診察のために入って来る女子生徒の声が聞こえる。
「な、なな」
「しーっ。声を出さないで。中にボク達がいることがバレちゃう」
何がなんだか分からず慌てふためく僕。
冷静に僕の口を手で塞ぎ、か細い声で注意を促す彼女。
僕は冷静に状況を整理し、その指示が適切と判断して黙り込む。
しかし、彼女は冷静になった振りをしているのか、顔は未だに赤面している。
……なるほど。
あのタイミングで僕が医務室から飛び出したら女子生徒達と鉢合わせするから、わざわざロッカーの中に押し込めたのか。
けれども、一緒に入る意味はあるのだろうか?
という疑問も吹き飛ばすほど、彼女の柔肌がもろに僕に密着し、可愛らしい彼女の顔との距離も近い。
下を向けば彼女の可愛らしい小さな谷間が顔を覗かせる。
身動きが取れぬ上、視界の逃げ場がない。
そして態勢が態勢のため、痛めたところが壁に押し当てられ、地味に痛い。
詰んだ……確実にヒスるフラグだわ。
「あの……あんまり見ないで下さい//」
と彼女がいうので、見ないように咄嗟に瞼を閉じる。
そ、そうか!
見なければ問題はないじゃないか!
どうやら僕は目を閉じるという簡単な事を忘れていた。
しかし、身体が密着している以上、互いの感触はどうにもならない。
下着姿を見てヒスるのは運よく回避したが、今度は密着してヒスるフラグはどうやら回避不可能。
身体の感覚を確かめたが、じわりじわりと効いてきている。
ヒスり始めているが今回は遅い。
大丈夫、持ち堪えるんだ!
やればできる子、武藤龍輝!
なんて言葉を心で呟きながら、念仏のように繰り返す。
平常心、平常心。
そう言えば銀髪の女の子なんてうちのクラスにいたっけ?
実の所、あんまり馴染めてないからわからないけど。
「あ、あの……//」
「ん?」
「もしかして武藤龍輝先輩……ですよね?//」
「……先輩?だとすると君は一年生?」
「はいっ//昨日転校してきた者ですっ//名前は
耳に口を近づけて小声で話し始める彼女。
狐太郎って……。
それって男の子の名前じゃないか。
女の子なのになんで?
「君は女の子だよね?なんで男の子の名前なんだ?」
「それは……家の決まりなんです//生まれた子には狐太郎と名付けろって//本当は誰にも知られたくなかったんですけど//」
「そうなのか……ところでなんで僕の名前を?」
「噂には聞いていました//とても凄い方だって//」
耳に彼女の甘い吐息が当たり、なんかくすぐったい。
なんか身震いしそうだ。
「お会い出来て嬉しいです//先輩//」
「……う、うん」
「でも先輩はボクのヒミツを知ってしまった//そして下着姿も見てしまった//言い逃れは出来ません//責任を取って下さい//」
「せ、責任!?」
「大きな声を出さないで下さい//みんなにバレちゃいます//」
小悪魔みたいに時にあざとく、時に甘く耳元で囁く狐太郎。
どんどん心拍数が高くなるのが嫌でもわかる。
こんな状況でそんなことを迫られたらさすがに困惑するだろう。
ヤバイ、落ち着け!
平常心!
ここで我を失ったら、狐太郎ちゃんの努力が無駄になる。
「せ、責任って僕は何をすればいいんだい?」
「それはですね……//」
「ん?」
「あのですね//その//武藤先輩//責任を取ってボクの、御主人様になって下さい//」
「えぇっ!」
突拍子もない告白。
あまりに衝撃的すぎて思わず声を出しそうになり、慌てて口を抑える僕。
なんてこったい。
「ねぇちょっと?今、ロッカーの中から声がしなかった?」
ざわめき出す医務室。
どこかで聞いたことのある、鼻にかかった高い声が唐突にそう告げる。
その声の主が誰だか俺は直ぐにわかった。
狙撃科二年生のエースにして怪物娘の異名を持つ雑賀 雅。
僕と何故か奇妙な同棲生活をしている女の子。
武偵校からお墨付きを頂いている、Sランク武偵。
まぁ、僕もSランクだけど。
よりによってこんな時にいるのかよ!
あんなのに見つかったらもうこの世の終わりだ。
その瞬間、身体中の血の気が引いていくのがわかった。
だんだんと近づいてくる足音。
次第に高まる心拍数。
もうおしまいだ!
死を覚悟して瞼をきつく閉じた時、その瞬間は訪れた。
──ガチャリ。
扉を開ける音が……何故か僕達のいるロッカーとは別の方向からした。
不思議に思い、ロッカーの通気口の隙間から外を覗いてみる。
「「うおっ!?」」
再び聞き覚えのある男の子の声がハモって聞こえた。
そして遅れて聞こえる女子生徒達の悲鳴。
目を凝らしてよーく見てみる。
あれは……虎政と秋義!?
お前らも隠れてたのか!?
「しまった!!」
「ちっ、バレたか!!ずらかんぞ秋義!!」
「待ちなさいこの変態どもっ!!絶対にとっ捕まえてやるわ!!」
「ふふふ。俺達が見つかったからって無事逃げきれたと思うなよ親友?」
「お前らも道連れじゃあ!!」
そう絶叫しながら、バンっと僕達の隠れているロッカーの扉を開け放ち、舌を出してアッカンベーをしたまま逃走する虎政と秋義。
あまりにもいきなり過ぎて開けられて呆ける中にいた僕達二人。
それを見た他の女子生徒は再び悲鳴を上げる。
僕達二人を見つけた下着姿の雅は、始めは呆けていたが、正気を取り戻してワナワナ肩を震わせ始める。
背後へ次第にどす黒いオーラを纏い、挙げ句に猛獣の如き凄まじい殺気を漂わせる。
や、やばい!!
早く逃げないと殺されるっ!!
しかし、同じ態勢で居続けた事と上に狐太郎が乗っかっているため、身体が固まったのと相乗効果でまったく身動きをとることが出来ない。
その瞬間、雅の背後の窓の向こう側から何かを反射させたような煌めきが見えた。
こういう場合はたいてい狙撃手のスコープかも知れない。
いろんな意味で危機感を覚えた僕は上に乗った狐太郎を押しのけて、軋む身体をもろともせずにロッカーを飛び出し、仁王立ちしていた雅を押し飛ばす。
突然、医務室の窓ガラスが蜘蛛の巣状に割れ、1発の弾丸が寸分の狂いも無く僕の眉間に飛来する。
僅かだが走馬灯の様なものが見えたので本気で死を覚悟した時、ちょうど真横の空間がぐにゃりと歪んで裂け、真っ暗な闇の中から白刃を閃かせ、勢いよく日本刀が飛び出して来る。
──ギィンッ!!
間一髪、日本刀が銃弾を真っ二つにし、弧を描いてまるでブーメランのように真後ろに佇む狐太郎の持つ鞘に納まる。
真っ二つになった銃弾は髪の毛を掠って、咄嗟に避けた僕の頭上を斜めに通過し、もう一片は僕の足元を穿った。
ビックリしてひっくり返る僕。
有り得ない光景を目の当たりにして静まり返る女子生徒達。
僕に押し飛ばされたのが不満なのか、すごいふてぶてしい態度で起き上がり、立ち上がる雅。
そしてずかずかと狐太郎の前に歩み寄り、彼女に問いただす。
「……アンタ見ない顔ね。何者よ?」
「失礼です。ボクの素性を聞く前に自分から名乗るのが礼儀ってものです」
「あら?これは失礼したわね。あたしは雑賀雅。狙撃科二年。武偵ランクはS。よろしく」
「ふむふむ。ボクは九音狐太郎。超能力捜査研究科兼強襲科一年。武偵ランクは嫌なことにあなたと同じSなのです」
「狐太郎って男の名前よね?つーか一年生でSランクですって!?」
「別にあなたにそんなことを聞かれる言われはないですね。あ、あと武藤先輩の忠実なる犬です♡」
……は、はい?
僕の犬?
唐突な発言に突っ込めず、呆ける僕の腕にむぎゅーっと抱きつき、満面の笑みを浮かべる狐太郎。
え、どういうことですか?
誰か教えてください!
困惑する僕の心境を察したのか、更に狐太郎はこう付け加える。
「さっきボクの秘密を知ったんですから、ボクを飼ってくれるんですよね?先輩!」
「えっと、僕はバカなんでわかりやすく理解できるように説明して貰えるかな?狐太郎ちゃん?」
「わかりやすく?むぅ。鈍感すぎますよ先輩?簡単に言うと……先輩に裸を見られちゃったので、先輩が責任を取ってボクにあんな事やこんな事をしつけていいって事です♡」
「は、はぁ!?」
「龍輝……一体どういうことなのかしら?あたしもバカなんで納得するような説明をしてもらえると助かるわ」
笑って誤魔化しているように見えるが、声色が完全に怒っているよ雅さま。
握る小さな拳に怒りマークが何十個も浮き出てますよ?
今にも殴りつけられそうな勢いです。
しかも狐太郎ちゃんってば、誤解を招く発言は止めてくれ!
あんな事やこんな事言うなや!
そもそも僕は裸なんか見てないし!
そして僕のガラスのハートに突き刺さる周りの女子生徒達の冷ややかで鋭い、軽蔑の視線。
あぁ、もう死にたい。
今すぐにでも。
「とりあえずちゃんと説明でも何でも後でするから、今すぐ帰らせて下さい。マジで」
怒り心頭の雅さまの眼前でビクビクしながらいう僕。
逃げたいというのが一番だが、下着姿の女子生徒達に囲まれていたら、僕の貞操もそうだけど一番厄介なものが目覚めそうだから。
予言の冷獣、もとい、ヒステリア・プロフェシーが。
もはや感覚で分かるようになって来てるぞ。
健全な男子の意見として言えば、色とりどりの下着を見れてもはや絶景、見晴らしがいいと言えばいいが僕としては地獄絵図だ。
……マジでヤバイ。
これ以上この場所にいたら、完全にヒスる。
「ダメよ!この場で今すぐにでも説明して!」
「あーもう無理!!失礼します!」
「ちょ!?龍輝!!コラ!待ちなさい!」
「先輩!?待って下さいよ!?ボクも一緒に……」
「ちょっと待てぃ!!アンタ!!下着姿のままであたしの龍輝に付いていこうとするな!」
お怒りの雅さまの金切り声が響く中、僕は半ば強制的にその場を離脱して医務室を飛び出す。
下着姿のまま医務室から出ようとする狐太郎ちゃんを制止する雅の姿を尻目に僕は猛ダッシュで教室に逃げ帰った。
この不名誉な噂は瞬く間に学校中の女子生徒達の間で広まり、僕はめでたくあの変態2人の仲間入りを果たし、無事にトリオになったのだった。
めでたしめでたし。
……ってこんな話の締め方があるかっ!!
P.S. こんな報告はいらないとは思うけど、それ以降、僕は雅さまにまったく口を聞いてもらえなくなりました。
……どうすればいいのでしょうか?
…………to be continued ! !
読者の皆様、おはようございますこんにちはこんばんは!
作者の山吹色です!
後書きを書くのは久しぶりでちょっと困惑してますが、もしよかったらこの後書きを読んでいってくれると、なおこの作品を面白く読んでいただけると思います!
さて、さっそくですが皆様!
皆様はこの作品に登場するキャラクター達の声がどんな風に脳内再生されているのでしょうか?
もしもアニメ化されたら、まずされることはないでしょうが、いろいろ妄想を膨らませてると思います!
なので、イメージしやすいように、妄想しやすいように我がオリキャラ達に作者がイメージする声優さんを当ててみました!
・武藤龍輝(CV.下野紘)
・雑賀雅(CV.釘宮理恵)
・天野秋義(CV.梶裕貴)
・真田虎政(CV.鈴木達央)
・白百合舞(CV.堀江由衣)
・クローク=エンジェルハーツ(CV.冨岡美沙子)
・葛城健児(CV.神谷浩史)
・神橋=N=アラン(CV.沢城みゆき)
・九音狐太郎(CV.茅野愛衣)
以上です!!
さぁ、皆様?
楽しく脳内再生、いや、妄想出来ましたか?
まぁ、これからもどんどん新キャラが増えていきます!
楽しみにしていてください!
それではまた、お会いしましょう!
山吹色