Another World If -Early Days-   作:山吹 色

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そしてその夜。

またもや僕は帰って来た雅さんと、付き合ってもいないのに放課後の保健室の件で意味のわからない痴話喧嘩をし、耳まで赤くして怒った雅さんがM93Rを乱射したので部屋から命からがら逃げて来た。

……そもそも僕が悪いのだろうか?

うん、僕が医務室で健康診断があることを忘れていたから僕が悪いんだ。

そんなことを考えながら立ち入り禁止の男子寮の屋上で体育座りしながらいじけていた。

……武偵校の歴史史上初、異例のSランク転校生。

敗北はしたが担当した教官の太鼓判あり、出身は一般高か。

記事の見出しを見て、一面に載るとは思ってもいなかった。

雅さんに突き付けられた新聞部とやらの手書きの新聞を見せつけられ、事実だったので何の反論もできなかった自分が悔しい。

たぶん、僕はこの件で『役立たず』なんて証明できなかった。

そう、僕は役立たずの証明、つまり役立たずと認めて貰うには、Sランクの認定を外れて負けてれば良かったのだ。

負けたのにも関わらず、Sランク認定されてしまうなんて。

僕は他人の評価で役立たずではないと証明してしまった。

証明されてしまったのだ。

これでは何の言い逃れは出来ない。

明日からは雅さんの手足になってしまうのか。

そう考えると、気分が落ち込んでいく一方だった。

みんなに期待されるのはいいけど、僕にはその期待に応えるほどの実力はないし、この通りみんなが想像するよりも断然強くはない。

身も心も本当に弱いままだ。

ゆっくりと顔を上げ、大きくため息を吐く。

フェンス越しに見上げた夜空は雲はなく、とても綺麗だったが周りが明るいせいか輝く星は見えていない。

誰も近くには居ないので、街の喧騒しか耳に入って来ない。

何も考えずにぼーっと見上げていると、突然、誰もいないはずの背後から声が聞こえる。

 

「よぉ。先客がいたみたいだな」

 

慌てて振り返えるとそこには、ダサいジャージを着、サンダルを履いた秋義が立っていた。

手にはタバコと灰皿をもっている。

びっくりする僕を見て、満足げに笑をこぼす。

 

「想像通りの反応だな龍ちゃん。面白かったぞ」

 

そう言いながらいつものように、何の悪びれる様子もなく意地悪そうに笑う。

龍ちゃんとは秋義が僕に付けてくれたあだ名だ。

僕はあまり気に入っていないが、彼曰くその方が親密感が湧くという。

 

「何でここに来たの?」

「見ての通りタバコ吸いにさ。オレっちの部屋禁煙なんだわ」

「そっか」

「なんだよ?もうちょい驚いても良いでしょ?」

「驚かないよ。何となく分かってた」

 

僕にそう言われて明らかに、思い切りシラケた顔をする秋義。

 

「そういう龍ちゃんこそなんでここに?」

「まぁ、いろいろ考え事をしてたんだ」

「あ〜……だからそんな辛気臭い顔してたわけか」

「辛気臭い?」

「おぅ」

 

ニコニコしながらタバコをくわえ、ライターで火を付けて蒸す秋義。

そしておもむろに、僕の隣に座り込んだ。

 

「僕は本当に役立たずなのに、まさか編入試験でSランク認定されるなんてね……」

「役立たず?おいおい、何言ってんだよ龍ちゃん。オレっちはそんなこと思わないぜ?」

「……秋義?」

「オレっちと虎政と一緒に戦ったじゃんか!オレっちの個人的な感想だけど、龍ちゃん普通に強いと思う!Sランク認定受けてもおかしくないさ」

「それはあの時は……」

 

自分の秘密を危うく暴露しそうになり、僕は慌てて口篭る。

僕の忌まわしき特異体質、ヒステリア・プロフェシーの事は絶対にバレたくはない。

絶対にバレたくないのに、そのまま喋りそうになるなんて。

これがみんなにバレたら、僕はここから飛び降りて死にたくなる。

それをタバコを吸いながら見ていた秋義は屈託のない笑顔で笑った。

 

「大丈夫さ龍ちゃん。そんなに落ち込むな。もし何かあったら相談に乗るよ。だってオレっち達はもう友達だろ?」

「友達?」

「おぅ!友達さ!誰がなんと言おうと仲間だよ龍ちゃんは!だから元気出せ!」

「……そっか。ありがとう」

「礼には及ばねぇよ。オレっちそんな柄じゃないしね。あ、そうだ。景気づけにちょっと面白いものを見したげる」

 

タバコの火を消しながら灰皿に入れ、ゆっくり立ち上がって階段の入口の上にある電灯の蛍光灯を外した。

流石に背も小さな秋義なので、近くにあったビールケースを逆さまにして踏み台として使った。

一体何をするんだろうか?

 

「龍ちゃん。電気ウナギとか電気ナマズって知ってるか?」

 

戻って来た秋義は唐突にそう僕に向かって問いかける。

……電気ナマズか。

 

「知ってる。身体に発電する為の器官を持っていて人間や動物を痺れさせる魚でしょ?」

「おおむねそんな感じだね」

「それがどうしたっていうんだ?」

「人間でも同じことが言えるんだ。人間って脳から脊椎、そして全身へ送る信号って微々たる電気で行っている。電気ウナギなどはそれを司る組織が発達しているんだ」

「なるほど」

 

人間でも同じ……か。

一体どういうことなんだろうか?

秋義が伝えたい話の先が全然読めない。

不思議そうに眺めていたら、秋義は蛍光灯の両端を手に持った。

 

「まぁ見てなって」

 

そういうと両端を持つ手に秋義は意識を集中し始めた。

すると数秒もしないうちに、パリッという音と共に彼の指の隙間を青白い稲妻が走るのが微かに見えた。

まさかと驚いたその時、チカチカと蛍光灯が点滅し、遂に光ったのだ。

何のタネも仕掛けも無いのに、ただ手で持ってただけで蛍光灯は光った。

驚き過ぎて開いた口が塞がらないとはまさにこの事だった。

そして僕は秋義が先程話した事を思い出し、とある一つの仮定に思い当たった。

 

「龍ちゃん。オレっちは生まれつきその電気を発生させる細胞が異常に発達しててさ。人間を気絶させるおろか蛍光灯を点けるぐらいの電流を発生させることが出来る体質なんだ」

「発電体質……?なるほど。だからさっきの電気ウナギの話を持ち出したんだ」

「……うん。オレっち説明下手だからその方がわかりやすくていいと思ってさ」

「凄いな。僕はアニメの中の世界だけかと思ったら、現実にいるなんて思ってもいなかったよ」

「まぁね。この事は武偵校のごく僅かな人しか知らないことだ。それにオレっちは龍ちゃんとこれからもずっと仲良くしたいからこの事をあえてバラしておく。オレっちと龍ちゃんの信頼の証だからな」

 

いつものようにニコニコしながらいう秋義。

それを見てふと僕は思う。

なんでこんなに笑顔になれるのだろうと。

他人とは違うのに、明らかに異なっているのになんで笑えるのだろう。

他人と異なれば、みんな嫌がり、怖がるのでは?

そう思い、自分の事を思い返してみればここ数ヶ月、まともに笑うことがなかった。

いや、笑う暇さえなかった。

心にそんな余裕がなかった。

類は友を呼ぶか、と心の中で呟いた。

なんだ。

簡単な事じゃないか。

難しく考えなくてもいいじゃんか。

 

「1人で悩むなよ龍ちゃん。オレっち達は友達なんだぜ?まだ知り合って数日だけど、知り合った時点で、関わった時点でもう同じ仲間なんだ。1人じゃないんだ。自分に自信を持ちなよ」

「……ありがとう。すっきりしたよ」

「そりゃ良かった。柄にもないこと言っちゃったけどさ。龍ちゃんがピンチの時は虎政といの一番に助けに来てやる。友達ってそういうもんさ」

 

……仲間か。

ずっとぼっちだった僕には勿体無い言葉だと思う。

それ以上に嬉しかった。

そう言ってもらえる人がいて。

自分を理解してくれる人がいて。

雅について悩んでいても仕方が無い事だった。

しかし、彼女と交わした約束を違えるつもりは無い。

僕も男だからね。

二言はないさ。

こうなったらとことん、捨てられるまで使われるまでだ。

 

「お?また来客だぜ?」

 

何かの気配に気付いた秋義は振り返りながらそう言った。

一つしかない出入り口の真上、大きな貯水タンクの隣を見上げる。

……そこには一つの人影があった。

それはおかしい。

先程まであそこには誰もいなかった。

まさか気配を消していたとでもいうのか?

 

「やっと見つけた。お前があの武藤龍輝か。噂通りの女々しさだな」

 

突如、屋上に響き渡る、透き通ったアルトボイス。

声の特徴から察するにどうやら女の子のようだ。

だが、武偵校に来て間もない僕にはこの声の主に心当たりがない。

……特に女の子の場合はね。

 

「もしかして龍ちゃんの知り合い?」

「違うよ。僕も知らない。秋義の知り合いじゃないの?」

「違う!オレっちも知らん!」

「え!んじゃ誰だよ!」

「分からんわ!」

 

予想だにしていない展開に、慌てふためく僕達2人。

それを見下ろす彼女は、とても不気味だった。

というか、不吉だった。

送られてくる視線には、明らかに殺意のようなねっとりとした感覚がある。

物凄く嫌な予感がするぞ。

息を飲み、黙って見上げる僕達2人に彼女はさらに続ける。

 

「ほう。『武偵校の雷帝(ぶていこうのらいてい)』こと天野秋義もいるのか。そして相棒の真田虎政は……いないか。ふむ。これは予想していた以上に好都合だ」

 

意味不明な事をいいながら、彼女はその場から飛び降り、僕達の前に降り立った。

艶やか黒長髪に水晶のように透き通る青い瞳。

外人を思わせるような高い鼻、はっきりとした顔立ち。

ぴちっとした紫色のタンクトップにホットパンツ。

ホットパンツから伸びる白くて綺麗な足が、夜の闇に栄える長身の女の子。

そして一番目を惹くのは、ぴちっとしたタンクトップからあふれるたわわな胸だ。

ここからでも谷間がはっきりと見える。

あ、やばい!

見ちゃダメだったんだ!

いい脚だと、彼女の脚に見蕩れる秋義の隣ですぐさま視線を逸らす僕。

直ぐに感覚を確かめるが、大丈夫だ。

まだヒスってはいない。

女の子を相手にする時は一番気をつけなきゃいけないな。

油断大敵だ。

それにさっき言っていた『武偵校の雷帝(ぶていこうのらいてい)』って何なんだろう?

 

「秋義。『武偵校の雷帝(ぶていこうのらいてい)』って何なんだ?」

「あ、そうか。龍ちゃんは知らないんだっけ。活躍して有名になった武偵に付く『2つ名』ってやつだ。いわゆる称号みたいな?」

「なるほど」

「オレっちは公式ではまだ付いてないんだけど、非公式ではそう呼ばれている。つまり、裏を返せば奴はオレっちの体質を必然的に知ってる事になる」

「…………」

 

そういうことか。

この程度しか回らない頭をフルに活かして考えを纏める。

そしてまず思い至ったのは、なぜ彼女がここにいるかと言う根本的な疑問だった。

そう、ここは男子寮の屋上だ。

1階から来る以外には道は無い。

あるとすれば外壁を登るか、ヘリとかで来るしか考えられない。

しかし、そうなると誰かしら不審に思って通報するはずだし、僕達も気づくはずだ。

それに少なからず、僕達を知っている。

 

「私は美堂 蘭(みどう らん)。上の命令で武藤龍輝(あんた)を殺しに来た」

 

高らかに宣言する彼女。

美堂という名前を聞いて隣にいた秋義が微かに反応する。

殺意の混じる視線が向けられる、緊迫した雰囲気に飲み込まれ、僕は身動きが取れなくなっていた。

運動なんて微塵もしていないのに激しく動悸し、不自然に息が荒くなる。

まるで大蛇にでも睨まれているような、そんな感覚に苛まれる。

次に感じたのが、人に殺されるという恐怖。

初めて感じた瞬間だった。

僕が狼狽えるのを隣で察知したのか、秋義が右手を牽制するように出し、僕の1歩前に立ちはだかる。

そして目では『逃げろ』と訴えてきた。

 

「龍ちゃんはオレっちの大切なダチだ。てめぇなんかみたいな訳の分からん輩に殺されてたまるかよ」

「ふふふ。ここはお前が出る幕ではない。命は誰だって惜しいだろ?お前も殺されたくなければ大人しく龍輝を差し出せ、雷帝」

「オレっちをその名で呼ぶな。それで脅しのつもりか?残念だが龍輝を殺したかったからまずオレっちをぶち殺すんだな。それまでは何が何でも行かせねぇよ」

「なるほど。これで交渉決裂か。覚悟は出来てるみたいだな」

「覚悟なんて常にしたらァ。死ぬ覚悟もな」

 

互いに牽制し合い、火花を散らして睨み合う2人。

僕は秋義の指示に従うか、一緒に戦うか迷っていた。

ここで指示に従って逃げれば、秋義が死ぬ。

だが、一緒に戦えばおそらく2人とも死ぬ。

ヒスって無い限り、おそらく、いや、確実に僕は殺られる。

戦闘において素人の見立てではあるが、彼女と彼の間にはれっきとした戦力差がある。

さすがに今の僕でもわかる。

こっちは人を殺せない、殺すなんて定義していない武偵。

あっちは任務のため、何のお構いもなしに人を殺す殺し屋。

でなければ、ここで僕の殺害宣言はしないだろう。

何人かわからないが、おそらく人を殺している。

そうでなければ、こんな死神にも似た禍々しい殺気なんて出せない。

それにこれは僕の勘なのだが、彼女はまだ何かを隠している。

迂闊には手は出せない。

 

「『邪眼の魔女(じゃがんのまじょ)』か。通りで名前くらい聞いたことあるわけだ」

 

睨み合う秋義がポツリと呟いた。

これも2つ名か。

静かに佇む秋義は続ける。

 

「美堂 蘭。裏社会じゃ通称『邪眼の魔女』と呼ばれる、とある組織に所属する有名な殺し屋か」

「ほう。物知りだな雷帝」

「知らないはずはない。有名人だもんな」

「それがどうしたっていうんだ?」

「邪眼。西洋では有名な伝承で『イービル・アイ』とも『悪魔の眼』とも呼ばれる。目を合わせた者に幻を見せる。それゆえに人々から恐れられてきた」

 

流暢に淡々とそう語る秋義。

そんな彼の話を黙って聞く彼女。

相変わらず、ピリピリとした空気は変わらない。

 

「ふむ。そこまでバレてるなら、なおさら生かしてはおけないな」

 

ポキポキと指を鳴らしながら、戦闘態勢に入る彼女。

ゆっくりと秋義も拳を構えて戦闘態勢に入る。

その前に、彼は僕に向かって声には出さずに唇だけを動かした。

 

(もしも生きて戻れたら、虎政と3人でラーメンでも食いに行こうぜ。オレっちの奢りでさ)

 

いつもと同じ、あの屈託の無い笑顔で彼はそう言った。

授業で習ったばかりの読唇術で読み取った僕は言葉を失った。

それは、明らかに死亡フラグだった。

勝てないと分かっていて、狙われた僕を助ける為に命を擲つ。

出来たばかりの友を守るために。

そんなこと、赦してたまるかよ!

引き止めようとした瞬間だった。

彼は僕の手をすり抜け、怒声をあげながら彼女へ向かって突撃して行った。

 

『──がはっ!?』

 

勝負は一瞬で決まった。

彼が彼女の懐に飛び込み、右アッパーを喰らわせようとしたその時だった。

それよりも疾く、彼女は半歩身を引いて躱し、ガラ空きになった彼の脇腹に右の手刀を突き立て、いとも簡単に彼の身体を貫いた。

夜空に飛び散る血飛沫、響き渡る秋義の断末魔。

僕はあまりの衝撃的な光景に、頭が真っ白になり、彼の名を叫んでいた。

続けざまに彼女は血で真っ赤に染まった右腕を抜くと、ゆっくりと崩れ落ちる彼の顔面に回し蹴りを入れる。

まるでボロ雑巾のように吹っ飛んできた彼を僕は全力で受け止める。

その時だった。

 

──ドゥンッ!

 

一発の銃声が鳴り響き、彼女は咄嗟に身を捩って背後から飛来した弾丸を躱す。

 

「動かないで!動いたら当てるわよ!」

 

鼻にかかった甲高い声が屋上に響き渡る。

そこには愛銃を構えたツインテールの少女、雑賀 雅が出入り口の前に立っていた。

 

「美堂 蘭!天野秋義殺害容疑で現行犯逮捕するわ!大人しくお縄につきなさい!」

「はぁ。仕方が無いか。今日は帰る。つまらない茶番だったぜ」

「あ、ちょっと!待ちなさい!」

「武藤龍輝。次に会うときは必ず殺すからな?首洗って待ってろよ?」

 

雅の忠告を無視し、フェンスを飛び越えて姿を消した蘭。

舌打ちしながら小走りで僕に駆け寄る雅。

僕は死にものぐるいで、大量に出血する秋義の傷口を抑えていた。

 

「龍輝!一体何があったのよ!」

「内容はあとで話す!それよりも救急車を手配してくれ!秋義が負傷した!」

「わかった!」

「くそっ……僕は、ホントに何もできなかった……」

「龍輝……」

 

がっくりと項垂れる僕を尻目に、ケータイ越しに救急車を要請する雅。

それから救急車が到着したのは、10分後のことだった。

 

 

 

……to be continued ! !

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