Another World If -Early Days-   作:山吹 色

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微睡みの中、またゆっくりと目を覚ますとそこは純白に包まれたベッドの上だった。

 

(――っ!!)

 

ぼんやりする意識の中、ゆっくりと身体を起こすと、何故か脳天がジンジンと疼き痛む。

痛みのあまり僕はベッドから落ちそうになった。

はて、階段から落ちたのだろうか。

思い出した。

雑賀 雅とかいう女の子の飛び踵落としをもろに受けたんだった。

そりゃあ、気絶ぐらいするよな。

しかし、ちょっとぐらい手加減してくれても良いじゃないか。

 

「あ、起きたの?」

 

ぼーっとしていると1人の女教師が部屋に入って来た。

ほんわかな優しい声。

クリーム色の髪の毛をゆるふわカールにし、つぶらな瞳と長いまつげ、メロンのような大きな胸が目に止まる。

スーツを着てはいるが、グラビア女優バリのスタイルの良さ。

童顔で初めは生徒かと思ったが、首にぶら下がってるネームプレートを見て教師だと分かった。

 

「君が……武藤龍輝くん?」

「はい」

「初めまして。去年から(超能力)(捜査)(研究科)の非常勤講師をしてる白百合(しらゆり) (まい)です。よろしくお願いします」

「舞先生。こ、こちらよろしくお願いします」

「はい。それにしても困りました……いま主任が留守でして、何故か私が運ばれてきた武藤くんの面倒を見ることになってしまいました」

 

SSR?

あ、確か武偵高のパンフレットに書いてあった超能力捜査研究科か。

僕には縁のない言葉だな。

非常勤講師ということは、いつも勤務しているわけではなく、あくまで専門的な講義かなんかしてるのか。

困った、というか困り果てたという表情でベッドの隣にあった椅子に座る舞先生。

 

「でも大丈夫です!武藤くんは軽い脳震盪とちょうど頭のてっぺんに軽い打撲なので1日寝てれば治ると思います」

「そ、そうですか……ちょっと質問良いですか?」

「はい。どうぞ」

「SSRの非常勤講師の先生が、なぜ医務室にいるのですか?」

「えっとですね……それは主任のお願いで私は非常勤講師ではあるんですけど、多少の医務の経験もあるので任せられたんだと思います。今学期、我が校の医務室と隣接する武偵病院、そしてSSRを担当している先生が主任だけなんで」

 

苦笑いしながらいう舞先生。

武偵病院……?

ちょっとその言葉に引っかかる僕。

主任?

はて、どっかで聞いたことあるような、無いような。

脳震盪の後遺症か?

あと少しなんだけど思い出せない。

ベッドに座り込み、考えること数分。

突然、医務室の扉が開いた。

 

「おう白百合ぃ!待たせたなぁ!」

「しゅ、主任!!」

「なんだなんだ?待ちくたびれたような顔してぇ。よう龍輝!!リハビリ復帰おめっとさん!会うのは一ヶ月ぶりか?」

「せ、先生!?」

「おいおいおいおい。しけたツラ仕上がって。そういやお前、登校初日に同学年のおチビにフルボッコにされたんだってな?」

 

ニカニカしながら僕の頭を撫でる白衣を着た美人は、一ヶ月前に会ったきり音信不通になっていたあの女医だったのだ。

 

「主任?龍輝くんは頭のてっぺん怪我してるので触るのはどうかと……」

「触診だ触診。ん、大事には至ってねぇな!大丈夫だ!」

「ほ、ホントですか?」

「おう。心配すんなよ。オレのお墨付きだ」

「ところで先生?失礼ですけれど、お名前を伺ってもよろしいですか?前聞くのを忘れていて」

 

僕の頭をなでなでする女医に、突拍子も無く聞いてみる。

すると女医はちょっと不貞腐れたような顔をしながら言う。

 

「そういやそうだったな。オレの名前はクローク・エンジェルハーツ。東京武偵高超能力捜査研究科でずいぶんと前から主任教師を勤めている。まぁ、いろいろあって公にはなってないがな。ちなみに隣接する武偵病院では外科担当医。専門は脳外科。そして本校の医務室の管理を任せられている保健医でもある」

 

ドヤ顔をするクローク先生に苦笑いを浮かべる僕。

なんかすごいな、この人。

いろんな意味で。

 

「ついでにオレは龍輝の保護者代理だ」

「えっ!?」

「未成年者生活保護代理人制度だ白百合。ニュースで聞いた事ぐらいはあるだろ?曲がりにも『超偵(ちょうてい)』であるお前が知らない筈はない」

「は、はぁ……」

「というわけで上司命令だ。龍輝が武偵高に慣れるまで少しの間、世話してやって欲しい」

 

――超偵。

武偵の中でも『超能力』を駆使して事件を調査する者を指す言葉、と確か何かの辞書に書いてあった。

よく覚えてないけど、書いてあった気がする。

クローク先生の超偵という言葉を聞いて、ちょっと暗い表情を見せる舞先生。

 

「別に能力を使え、と言ったわけじゃないぞ白百合?オレはただ、オレの代わりに龍輝の世話して欲しいと言っただけだ」

「……は、はい。かしこまりました」

「なにぶん、いろんなゴタゴタがあってあっちこっちに出張三昧だからな。当分は帰って来れないんだ」

「ゴタゴタ……ですか?」

「あぁ。白百合には関係ない事だ。気にするなよ。んじゃ龍輝を頼む」

 

それだけ言い残すとクローク先生は医務室から去っていった。

医務室に二人だけ取り残された僕達の間には、なんとも言い難い空気が流れる。

 

「さて龍輝くん!!」

「ひゃいっ!」

「あ、ごめんね。急に大きな声を出して驚いちゃった?今から校内を案内してあげるね」

「大丈夫です、はい」

「さぁ行こう。きっと楽しいよ」

 

そう言われるがまま、僕は舞先生に手を引かれ、医務室を後にした。

なんだかんだで校内を周り、その間に見知らぬ生徒に話し掛けられ、人見知り全開の僕。

それを見て無邪気に笑う舞先生。

た、助けてくれてもいいじゃないですか!

と内心、突っ込んでいたのは言うまでもない。

そして最後に着いたのは、僕が所属する強襲科の訓練をする実習棟の……屋上。

普段は立ち入り禁止になっている場所に舞先生は僕を連れて来た。

荒涼とした風景に、隣接する武偵高の校舎が哀しく佇んでいる様に見えた。

何も無い、何の変哲もないタイルが敷かれた屋上。

吹き抜ける風が、舞先生の髪を靡かせる。

時折、鼻を掠める硝煙の匂いに、慣れない僕は顔をしかめた。

 

「舞先生?ここは?」

 

僕は恐る恐る聞いてみた。

舞先生は僕に振り向かずに、こう言った。

 

「私達がまだ武偵高の生徒だった時、みんなでここで遊んでたの」

 

舞先生が……武偵高の生徒?

そう言われて驚く僕。

だって見る限り、彼女は武偵高の卒業生には見えないからだ。

 

「そう……なんですか。何故、僕をここへ連れて来たんです?」

「ん?あぁ、私は君にもいっぱい仲間を作って欲しいなって思って」

「仲間?」

「うん。今から5年前、まだ武偵高の生徒だった私は多くの仲間を失った。私が想いを寄せていた大切な“あの人”も」

「あの人……?」

 

どこか悲しい声で、そう言う舞先生。

僕にはその意味がよく分からなかった。

しばらくその殺風景を眺めたあと、舞先生は振り向いてゆっくりとした足取りで僕に近づいてくる。

そして、ゆっくりと右手を僕に差し出した。

その綺麗な掌の中には、小さな鍵があった。

 

「先生公認で使っていいよ。君がここで新しい仲間を作るの」

 

どこか悲しげに舞先生はそう言った。

僕は何が何だか分からないまま、その小さな鍵を受け取る。

そして防弾制服の胸ポケットに仕舞い込む。

 

「よし、校内案内はこれで終わり。あとは行きたいところに行って、自由に見て回っていいよ。もう六時限目でみんな自由履修をしてる頃だから」

 

そう言うと舞先生は屋上から去っていった。

というわけで、ちょっと屋上を散策する事にした。

何の変哲もない場所だが、もしかしたら何かあるかもしれない。

肝っ玉は小さいが好奇心旺盛な僕の直感がそう告げるのだ。

それに降りていったら、また人見知り全開してしまう。

辺りを良く観察しながら恐る恐る歩いていると、いろんな物が落ちているのに気が付いた。

散らばった無数の空薬莢、投げ捨てられたタバコの吸殻、弾痕の付いた空き缶、いたるところに弾痕があるタイルや壁。

落ちていたタバコの箱を拾って手に取ってみる。

んー、なんて書いてあるんだ?

marlboro menthol……?

雨風のせいで腐敗が進んで読めないや。

それに英語も苦手だし。

挙句の果てに折れた日本刀の刃先まであった。

あっ、危ないな。

そういえば、ここで何をしていたんだろう?

昔の……武偵高にいた頃の舞先生達は?

そんなこと思っていると、屋上の隅に何か光る物を見つけた。

何だろう?

ゆっくりと近づいていくとそこにあったのは……

ザックリとタイルを貫き、根元にまで深く突き刺さったグリップがメッキ加工された赤紫色のバタフライナイフだった。

グリップエンドには血のような真っ赤なヒモが結ばれており、風が吹くたびに不気味に靡いている。

もちろん、刃があるかどうかは抜いてみないと分からない。

慎重に手を伸ばし、グリップを握って引っ張ってみる。

 

「んぐぐぐぐ……」

 

ぬ、抜けない。

ちくしょう。

なんかわけが分からないが腹が立ってきた。

絶対抜いてやる。

態勢を整え、両手でグリップを握って全力で引っ張る。

そのときだった。

少しぐらついたと思い、力を抜いた瞬間、シャキンッと言う快音を響かせバタフライナイフはタイルから抜けたのだ。

 

「うわぁっ!?」

 

情けない悲鳴を上げて尻餅を着く僕。

咄嗟に目を閉じたものの、ゆっくりと開けるとそこにあったのは……

夕陽にぼんやりと浮かび上がる、幻想的な紫色の色合いの刀身が姿を現した。

この世の金属とは思えないほど深く、色濃い妖艶な紫色の刀身に僕は目を丸くした。

よく見てみると峰の部分に、何やら紋章のような模様が刻まれている。

五芒星に……鳥?いや、鳳凰かな?

よくわかんないけどお宝発見っ!!

なんて心の中で叫びながら僕は小さくガッツポーズをすると、それを丁寧に刃を仕舞い込み、ポケットに入れる。

とりあえず戻ろうと下の階へ通じる階段の扉の前に立った時、不意に凄まじい殺気を感じて一時停止する。

人の気配……あれ?

そういえば、さっきまで誰もいなかったぞ!?

振り返らずその場で停止したせいでなんとも言えない恐怖と不安に飲み込まれる。

変な汗がじわじわと出て来るのが分かった。

とりあえず何か起こる前に、威嚇射撃をお見舞いするか……?

ゆっくりとショルダーホルダーに仕舞ったS&W 40 shortyに手をかける。

いや、下手に刺激してボコボコにされるのがオチだ。

プロフェシー状態ならまだしも、今はひ弱な軟弱男子なんだし。

今日はホントに厄日だなぁ。

気の強い女の子には蹴られるし、海に落ちるし。

まぁ仕方が無いか。

今はどうやってこの状況を打破するかが重要なこと。

 

――カチャリ。

 

背後から聞こえる、銃の引き金に指を掛け、狙いを定める時のあの音。

緊張が最高潮に達したそのとき。

突然、前の扉が開き、2人の男子生徒が飛び出してきた。

一人は金短髪の僕と同じぐらいの背格好のショタ。

もう一人は黒髪アシメの高身長イケメン。

2人は出てくる否や、振り向いた僕を庇うように前に立ち、拳を構える。

……え、拳!?

 

「大丈夫か?新入り?」

「は、はい」

「俺達が来たからには安心しな。お前にゃ絶対に怪我はさせねぇ」

「は、はぁ」

虎政(とらまさ)後衛(バックアップ)は任せる!オレっちは斬り込んでくるぜ!切込隊長・天野(あまの)秋義(あきよし)!!いっきまーす!!」

 

金短髪を逆立てた髪型で天野秋義と高らかに名乗った少年は、意気揚々と敵と思われる黒ずくめの2人に突撃していく。

相手は拳銃を携帯している、丸腰で突っ込むなんて命知らずにも程がある。

見てられない僕は思わず呼び止めようとしてしまう。

 

「ちょ、危ない!!」

「大丈夫大丈夫。アキは銃弾程度じゃビビリもしねぇよ。たとえ撃たれても……」

 

そういった瞬間、猪突猛進する秋義に目掛けて一発の銃弾が放たれた。

銃声が鳴ったそのときだった。

秋義はスピードを落さず、そのまま右手の拳を勢い良く突き出す!

――バチィンッ!!

凄まじい音と共に拳から激しく火花が散り、弾丸が明後日の方向へ弾け飛んでいく。

そう、秋義は亜音速で飛ぶ弾丸を見切り、それを殴って弾いているのだ。

な、なんて人だ……。

 

「アキが使ってるグローブは俺の“お手製”でな。あんな弾丸程度じゃぶち抜けねぇよ。あれを壊すなら対戦車ライフルでももって来ることだな。さて、次はこっちの番か……」

 

残った虎政と言ういかにもヴィジュアル系にいそうな風貌のイケメンはしれっとそういうと、背中に背負っていた近未来風のカラーリングの、自分の身長よりも大きな剣を抜き放つ。

そして何食わぬ顔で柄のスイッチのようなものを押すと、幅広い両刃剣の刀身が二つに割れ、三脚のような形になり、そこからガトリングガンの銃身が現れた。

接近攻撃を仕掛けようとしていた黒ずくめの一人が、それを見るや否や動きを止める。

それもそのはず。

いきなり剣の中からガトリングガンが出て来たら、誰だって困惑するに違いない。

 

「よぉ?これ以上近付いたら俺の宝具その1『真田丸』で蜂の巣になるが……どうする?ま、そこにいても結論は同じなんだが?」

 

不気味に笑み、そういう虎政に恐れをなしたのか黒ずくめの一人はそそくさと退散する。

さきほどまで必死に銃撃していたもう一人も、秋義の弾丸弾きにうんざりしたのか、タイミングを見計らって退散していった。

 

「あーぁ、逃げられた」

「アキ、お疲れ」

「おう!虎政の真田丸はいつ見てもカッケーなぁ」

「あ、あのー2人一体何者ですか?」

「そうそう。さっき舞先生の綺麗な尻と大きなおっぱいを追っかけてたらここについて、そしたら舞先生戻って来たから隠れてたんだけど、あれ?さっき一緒にいた奴はってなってさ」

 

ニヤニヤしながら言う秋義に全力で頷く虎政。

なるほどね。

下心丸出しでついてきたんだ。

変態だな、この二人。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は真田虎政。装備科兼車輌科二年。主に武器の魔改造やオリジナル武器の製造開発を勝手にしている。まぁ、よろしく」

「同じく強襲科二年の天野秋義だ。よろしくな」

「僕は武藤龍輝。秋義くんと同じ強襲科二年に転校してきました。よろしくです」

「おぉ?オレっちと同じか!仲良くしようぜ!な?」

「おいアキ、やめてやれ。武藤がびっくりしてるだろが」

 

馴れ馴れしく肩を組んできた秋義にびっくりする僕。

そんなこんなで僕達は出会い、波乱に満ちた僕の武偵生活が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――to be continued!!

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