Another World If -Early Days- 作:山吹 色
夕飯後、ちゃんとシュークリームも作り上げ、それをしげしげと見ていた雅に絶句されるがどうやら味には満足してくれたらしい。
まるでその辺にいる無邪気でとても可愛らしいお転婆少女のように、小さな小さなそのか細い両手でシュークリームを持ち、夢中になってもぐもぐと食べてる雅。
あはは……ほっぺにクリームが付いている。
どれだけ美味いんだろうな。
そんな僕はふと思う。
僕と大して変わらないような歳の子たちが、未来は担う立派な武偵になるために勉強しているんだなってこと。
あんなに小さなか細い手で、あの狙撃銃の引き金を引き、凶悪な犯罪者を相手に戦っているであろう彼女。
もしも武偵じゃなくごくごく普通のどこにでもいるような可愛らしい女子高生だったら、こんな生活なんてしていなかっただろう。
それを考えて偲びないなんて思ったりしている自分。
そんなことを考えながら食器の片付けも済ませ、再びくつろげる時間が来たかと思いきや、お笑い番組か動物バラエティ番組を見るかで何故か雅とリモコンの取り合いが始まってしまった。
お互いに身長も低い為、はたから見たらなんか子供の喧嘩のような始末。
挙句の果てにとうとう一方的な言い争いになり、口下手でめっぽう弱い僕は散々罵声を浴びせられ、何故かご立腹の雅さんに部屋を追い出されてしまった。
僕の部屋なのにあまりにも理不尽すぎる。
そんなこんなで僕は雅が寝る頃を見計らって帰るという名目で、ぐるぐると街を徘徊していた。
とりあえず慌てて持ち出した拳銃とククリ刀をショルダーホルダーと腰に携え、私服姿で行く宛のない風の如く右往左往している。
青いワイシャツに黒地の短い丈のノースリーブのジャケットを着、ズボンはチェック柄のスラックス。
靴はコ〇バースのハイカットスニーカーの赤。
首には赤と黒を基調にしたヘッドホンを掛けている。
はたから見たら、僕があの武藤龍輝なんて分からないだろう、たぶん。
「はぁ……どうしてこうなっちゃったかなぁ」
なんてブツブツ言いながら、通りかかったコンビニに時間を潰すために入っていく。
普段は雑誌とかあまり読まないのだが、時間を潰すためにと仕方なく手に取って読み始める。
明後日には、アイツとの勝負が待っている。
別に勝つ気は無いが、とにかく不安で仕方がない。
たまたま手に取った雑誌を読み始めてから5分が経過したぐらいの時だった。
隣から聞き覚えのある声がした。
確かこの雑誌コーナーの隣といえば、成人誌、いわゆるエロ本コーナーだけど。
「ぉー……これ見ろよ虎政」
「うーむ。けしからん乳だ。どうやらこの娘はお仕置きが必要らしいなぁ?どう思う秋義?」
「いやいや、違う!違うって!脚だよ脚!やっぱり虎政には脚の良さが分からんのか」
「あぁん?女のステータスはデカいとかチッけぇとか胸じゃねぇのか秋義?脚って何なんだよ?」
「脚線美って言葉知っているよな?ああいうのが好きなんだよ。なんかこう……」
エロ本を片手に身振り手振りをまじえて脚の良さを熱弁する金髪ショタ。
そしてその隣に静かに佇む美形イケメンは、手にしたエロ漫画に釘付けになっている。
……ちょっと待って。
君たちまだ17歳だよね?
未成年が堂々と成人誌コーナーにいて、なおかつ武偵高の制服を着たまま2人仲良く並んでエロ本を読んでるなんて恐れ知らずの何者でもないよね。
つーか、なんでこんな所に天野秋義、そして真田虎政がいるんだ?
そんなことはどうでもいいか。
もう放課後なんだしね。
まじまじと見てるとバレるので料理雑誌で顔を隠しながら2人の様子を窺う。
正直、私服姿はあまり見られたくないので、別人のフリをしながら新しく手に取った料理本を読む。
ふむふむ。
「なっ!?唐揚げってこう作ると美味いのか!?」
その雑誌に斬新な唐揚げの作り方が掲載されていて思わず声を上げてしまう。
な、なんだこれは!?
生姜を衣に使うだと!?
「ん?今の声……どこかで聞いたような?」
「空耳だろう秋義?」
「うむ。いや、隣から聞こえた気がしたけど……まさかねぇ」
「聞き間違いだ」
「そうかなぁ」
しまった!?
声を上げてしまうとは。
慌てて雑誌で顔を隠す僕。
2人はチラチラとこちらに視線を向ける。
バ、バレたか……?
そんなことを思ってると、エロ漫画に釘付けだった虎政が何かに気づいて窓の外に視線を向け、眼光を鋭く光らせる。
そして隣にいた秋義の肩を叩く。
何があったんだろう?
「団体様のご来店だ。そろそろおっぱじめるらしい……俺達も派手に歓迎しようぜ秋義」
「21時30分ジャスト。脅迫状通り……か。はぁ、やんなっちゃうよ」
「グダグダ言うな。今回の
「この
「うるせー電気ナマズ。さっさと片付けるぞ」
電気ナマズ?
秋義の新しいあだ名か?
それはともかく、なぜ2人がここにいたのかようやく分かった。
だから念には念をいれて防弾製の制服姿を着込んで、客を装い
2人はそう話すとエロ本コーナーから離れる。
わざわざそうだとしてもエロ本コーナーにはいる必要ないと思うけど、あえて触れないようにしておこう。
……ってことはここにいたら危ないんじゃ?
なんてことが脳裏を過ぎる。
しかし、時は既に遅かった。
「どぅっ!?」
僕が急いで出入口に向かった時、武装した集団がなだれ込み、無様にもそいつらに跳ね退けられてしまった。
見事にタックルを食らい、情けなくなるほどあっけなく店内に押し戻されて床の上を転がっていく僕。
突然の出来事に店内にいた買い物客、そして店員がパニック状態に陥る。
……くそったれ。
今日は本当に厄日だな。
行く先々で必ずなにかハプニングが起こるよ。
ツイてない、いや、疫病神か何か厄介なモノが憑いているんだろうな。
痛みに悶えるのも束の間、武装集団は躊躇いもなく手に握る銃の銃口を買い物客の足元に向けて威嚇射撃した。
「全員床に伏せろ!てめぇらは人質だ!殺されたくなければ動くんじゃねぇぞ!」
リーダーらしき人物は声を荒らげて宣言する。
勢いよくヘッドスプリングで起き上がり、咄嗟に掃射を側宙で避けて売り場の棚の影に隠れる僕。
なんでかは知らないが、こんな時に限って対処法を分かっているかの様に身体が勝手に動く。
しかも普段は超が付くほどの運動オンチな僕が、ヘッドスプリングだの側宙だの普通に出来てしまう。
やはり生存本能による火事場の馬鹿力なのだろうか。
まだ銃声が尾を引く中、先程とは打って変わって静まりかえる店内。
1人、また1人と武装集団の下っ端に手足を縛られてレジの前に並べられていく買い物客と店員。
音を立てずに少しだけ動き、背中越しに棚に陳列された商品の隙間から奴らの様子を窺う。
ちっ、みんな揃いも揃って覆面をかぶってるから顔が分からない。
それにどのみち包囲されてるようなものだから、隠れても見つかってしまうまで時間の問題だ。
結局、逃げ道は自分で開くしかない。
生唾を呑みながら愛銃『S&W 40 shorty』をショルダーホルダーから抜き、ククリ刀を鞘から音が立たないようにゆっくりと抜く。
マガジンリリースを親指で押し、マガジンを取り出して残弾数を確認しながら神経を研ぎ澄まし、辺りに奴らが近づいてこないか細心の注意を払う。
……残弾数は3。
そういや慌てて出てきたから残りの弾も予備のマガジンも部屋に置いてきたんだった。
ゆっくりとマガジンを戻してため息をつく。
頼りになるのは、お前だけのようだな。
ククリ刀よ。
武偵になって初日、まだ武偵高で訓練すら受けてないのにもう戦場、というか実戦にいるなんてどうかしてるぜ。
運が悪いと言われたらそれまでなんだが。
(あれ?秋義と虎政は?)
さっきから見当たらないけど、一体どこに隠れてるんだ?
まぁいいや。
そう思いながらふと何気に視線を落とすと、足元には何故かエロ本が開いた状態で落ちていた。
な、なんでこんなところに……ってヤバイ!!
たかだか本、いや、写真とはいえども女性の裸体そのものを見るのは俺にとって非常にまずい。
女性の下着姿を生で見た時に匹敵、あるいはそれ以上に裸体の場合は刺激が強すぎる。
プロフェシーのスイッチは知っての通りもの凄く浅い。
とにかく実物ではないにせよ、下手をしたらこんなのだけでも僕の場合はヒスってしまう可能性が高い。
咄嗟に目を逸らすが、時はすでに遅し。
身体の芯が激しく熱を帯び、視界が徐々にあの時と同じ様に変わっていく。
あぁ、なってしまった。
本日2度目のプロフェシーモードに。
「そういや逃げた野郎があと1人、どこに行った?」
「隠れる場所は決まってる。すぐに見つかるさ」
「それもそうだな。さてさて、楽しい楽しいネズミ狩りの始まりだ」
「あんまり抵抗するなら撃ち殺しても構わないよな?」
「おいおい、あんまりはしゃぐなよ?」
そういう奴らの会話が、遠く離れている僕の耳に入って来る。
なるほどね。
ネズミ狩りか。
そりゃあ楽しいだろうな、今から狩る側と狩られる側が入れ替わるからね。
さてさて、ジッとしてても埒があかないから行きますか。
ゆっくりと棚の陰から出て、銃とククリ刀持ちながらわざと奴らの前に出ていく。
「よう?今からネズミ狩りなんだろ?わざわざ出てきたんだ。俺と一緒に遊ぼうぜ?」
不敵な笑みを浮かべながら近づいて行く僕。
それを見た奴らはここぞとばかりに、一斉に僕を取り囲む。
「馬鹿だな!お前!大人しく捕まってればいいものを」
「さぁ、そんな玩具は捨てて床に伏せな!」
「はぁ?玩具?お前ら玩具と本物の見分けもつかないのかよ?」
「う、うるせぇ!馬鹿にするとぶっ殺すぞガキ、あぐぅ!?」
「うるせぇのはテメェだよ。この銀蠅が」
大きく口を開けて吠える奴らのうちの1人の口の中に、素早く飛び掛りながら右手に握る銃を突っ込んで押し倒す。
続け様に仲間を助けようと銃を構えた2人目の銃を蹴落とし、落とした銃を取れないように蹴飛ばす。
そして流れるような動きで、ククリ刀を返して峰で奴らの側頭部を遠慮なく殴り飛ばして失神させる。
さらに背後から殴り掛かろうとした3人目を振り返りもせずに首筋に再び持ち替えたククリ刀を寸止めする。
プロフェシーモードの僕は、その場で銃を口に突っ込んだまま5人中、3人を行動不能にした。
「おいおいどうした?今からネズミ狩りすんだろ?早く狩って見してくれよ?まぁ、変なことしたらお前らの仲間が2人確実に死ぬけどな?」
「く、くそっ……」
「何なんだよお前はっ!?」
「知ってどうすんだよ?お前らには関係ねぇだろ。ここで降伏して俺に大人しく捕まるか、お仲間を見殺しにしてネズミ狩りをまた続けるか?二択だ。選ばせてやんよ」
「………」
またもや僕は押し倒した奴の胸辺りに腰を下ろし、不敵な笑みをこぼしながら立ち尽くす2人に言い放つ。
もちろん、これはハッタリだ。
武偵は如何なる時も人を殺めてはいけない。
武偵法だかにたしか書いてあったっけな。
覚えてないけど。
――その時だった。
突然、立ち尽くす2人のうち1人が奇声のような不気味な笑い声を上げた。
ケラケラと笑いながら、よろよろと僕ではなく、僕が座る仲間に握っている銃口を向けた。
目は虚ろ、焦点すらあっていない。
……な、何事だ?
危険を感じたその時、ゆっくりと指が引き金を引き絞ろうとした。
や、やばい!撃つ気だ!
「天野秋義!参上!!」
間一髪、颯爽と天井から飛び降り、そいつの真後ろに着地する秋義。
な、なんだ。
そんな所に隠れてやがったのか。
そして秋義はそいつの頭を背後から鷲掴みにすると……。
パリパリパリパリッ。
あれ?今、指の間に稲妻のような電気が微かに見えたような気が。
「ちょいとごめんよ。力加減がイマイチできないんでね」
そういった瞬間、鷲掴みにした手が青白く光り出し、パリパリと音を立て始めた。
頭を鷲掴みにされた奴は電気ショックを受けた時のように、大きく一回痙攣すると白目になり、口から泡を吹きながらその場に力無く崩れ落ちた。
それを隣で見ていた最後の1人が、恐怖のあまり逃げ出そうとするが、振り向いた時にはもう遅かった。
棚の陰から現れたもう1人、真田虎政に行く手を遮られた。
「おっとお兄さん?まさかこんなことをして逃げる気じゃねぇだろうな?」
「ひぃいいい!」
「無駄な抵抗は止めな」
「ち、ちくしょう!」
「どのみちお巡りさんがここに来るんだ。大人しくしてればあんな風にはならないぜ?」
泡を吹きながら倒れた仲間を指さしながら、虎政は慌てふためく一人の両手に手錠を掛ける。
そして全員に手錠を掛けてから、僕達は人質になった人を開放し、事件は幕を閉じたのだった。
――to be continued.