Another World If -Early Days-   作:山吹 色

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武偵校へ転校初日、2回も散々な目に遭い、無事自宅へ生還すること0時30分。

警察やら武偵局に提出する報告書だのなんだのでてんてこ舞いになり、もうとっくに日をまたいでいた。

とぼとぼと男子寮の自分の部屋の玄関を潜り、スニーカーを脱ぎ捨て、ふらふらとリビングへ歩いて行ってソファーにどっかりと座り込む。

そして大きくため息を一つ。

明日もまた学校があるなんて考えると気が重くて仕方が無い。

でも、虎政や秋義がいるからだいぶ楽といえば楽なのかな。

そう考えながらホルスターやら何やらを外してテーブルに置く。

再び立ち上がり、思い立ったように風呂場に向かう。

のそのそと更衣室に入り、上着を脱いで洗濯機の前に置いておいたカゴに入れようとして手を止める。

 

(……これって、雅さんのパンツっ!?)

 

可愛らしい、両サイドにフリルの付いたあの時に見たパンツが、カゴの中に大胆に置いてあった。

まぁ、僕は洗濯物を入れる為に置いといたもので間違いはないけど、彼女のちょっとデリカシーに疑問を覚える。

自分が入った後に僕が入る事を考えたら、普通はそのまま置いておかないよね。

見られた時はあんなに恥ずかしがってたクセに、こういうのはイイんですか?

なんていうか、同い年の、女子高生とは思えない。

もしも一緒に入れておいて、後々、文句を言われて凹みたくない、絶対に。

匂い着いたからどうすんのとか、最低とか、同い年の女の子に言われただけで恥ずかしくて死にたくなる。

まさに恥ずか死ぬ。

……なので。

 

「うんしょっと」

 

洗濯機のフタを開け、中を確認。

何もないことを何度も確認すると、僕の着ていた衣類を全部脱いでぶち込む。

こっちに入れておけば問題は無いはずだ。

こうしておけば、何も言われることは無い。

……あ。

パンツを見た事は黙っておこう。

余計なことを口走るとまた痴話喧嘩みたいな争いに成りかねないからね。

そんなことを胸の奥に刻みつけ、浴室の扉を開ける。

身体を洗い、肩まである髪も洗い、後ろ髪をヘアゴムで結ってゆっくりと浴槽に浸かる。

湯気が立ち昇る天井をぼーっと見上げて更に身体を浸ける。

今日はいろいろあり過ぎて、精神的にも肉体的にも疲れているらしい。

何気ないこのお風呂の時間が、至福の時に思えてくる。

しかし、今日、いや、正確に言えば昨日か。

2回もヒスり、武装ドローンなんかをやっつけて、それで終わりかと思えばコンビニ強盗に襲われて。

既に実践デビューしているわけですが。

……よく考えたらおかしい事だらけだ。

今まで一般的な男子高校生だったのに、武偵校へ転校した途端にチャリジャックに遭うし。

命を狙われてる理由は無い。

他人に恨まれる理由に心当たりはないわけじゃないけど。

……考えても埒があかないや。

眠くなってきたので考えるのを止め、浴槽から上がる。

更衣室へ戻り、身体を拭きながらふと鏡を見る。

髪の毛が肩まであり、前髪は完全に目に掛かっていた。

今は結っているのでこれだけ見たら、女の子だと思われそうだな。

いや、実際女の子と勘違いされた事は多々あるのだが。

 

(うわー……髪の毛切らなきゃ。美容室めんどくさい)

 

なんて思いながらドライヤーで乾かす為、結っていた髪の毛を解いて櫛で梳かしながらドライヤーを掛ける。

完全に乾いたところで下着を履き、いつも着ている青と白の水玉模様のパジャマを着て更衣室を出る。

その瞬間、どっと疲れが押し寄せて身体が重くなる。

どうやら眠気がピークに達したらしい。

襲いかかって来る睡魔に抵抗しつつ、寝ぼけ眼を子供のようにごしごし擦りながら寝室に向かう。

この部屋は五人部屋だ。

しかし、今現在は僕1人で住んでいるのでベッドが四つ空いている。

僕は2段ベッドは使わず、窓の下にある1段ベッドに寝るはずだった。

寝室に入るとそこには……。

 

「すぅ……すぅ……」

 

あろうことか、いちご柄の子供のようなパジャマを着た雅さんが、小さな両手を顔の前で小さく握り、まるで子猫のように丸くなって寝ていた。

 

(寝床取られた……ボクのおフトン……)

 

さすがにここまで来ると苛立ちを覚えたが、起こすまではいかなかった。

なぜなら、彼女の枕元には攻撃的なマズルフェイスが特徴のマシンピストル『ベレッタM93R』が2挺、置いてあったのだから。

ヒスってないのになぜ分かったのかと言うと、よく遊ぶシューティングゲームで登場する拳銃だからだ。

ただ単に特徴的な形だったから、ド素人の僕でも見ただけで分かる。

月夜の明かりに鈍く輝くガンメタピンクとガンメタブラックのツートンに塗装された、可愛くも凶暴なそれが僕のふつふつと湧き上がる苛立ちを一瞬で払拭した。

もしも怒り任せに僕は彼女を起こしたと仮定しよう。

一瞬で僕の身体が蜂の巣になってしまうだろう。

サブマシンガンよりも小振りな大きさで、無数の弾丸をバラ撒く拳銃。

それが、自動小銃(マシンピストル)なのだ。

冷静に考えた結果、パジャマ姿の丸腰で挑んで死ぬことになる。

ならば僕は保身に走るとしよう。

まだ死にたくないので、仕方なく、大人しく近くの二段ベッドの下で寝ることにした。

恐らくLA115A3 AWMがメインウエポンで、この2挺はサブウエポンなのだろう。

見るからにこんなふうに凶暴な武器を持っているのが、小さくてかわいい女の子だなんて。

世の中、おかしい事だらけだな。

なんて思いながら、押し入れから布団を取り出し、よろめきながらベッドに敷く。

そそくさと敷き終えると、ベッドに倒れ込む様に横になる。

そのまま布団に潜り込み、ゆっくりと瞼を閉じる。

疲れていたのか、僕はそのまま眠りについた。

 

 

 

──翌朝。

眩い朝日が差す中、あたしは目を覚ました。

昨晩、好きな番組が見たい為に喧嘩し、追い出した舎弟を待っていたのだけれど、なかなか帰って来ないので先に風呂に入り、律儀に敷いてあったベッドに寝た。

ゆっくりと上半身を起こし、 乱れたパジャマを直して辺りを見回す。

寝ぼけ眼を擦りながらよく見回すと右側の二段ベッドの下の段に、布団が敷いてあった。

……帰って来たのかな。

起こそうとも考えたが昨晩のことが後を引き、何故か話しかけづらい。

どうしようと悩みながらベッドから出て、彼が寝ているであろう下の段のベッドを覗き込む。

 

(……誰?この子?……うわぁ、可愛い)

 

そこには黒長髪の小柄な女の子(?)が寝息を立てていた。

青と白の子供っぽい水玉模様のパジャマを着、大の字になって寝ている。

長い前髪が顔を覆い、顔は見えてない。

不覚にもあたしはその子の見て、可愛いなんて思ってしまった。

 

(どうしよう……まさか、あいつの彼女とか?)

 

何故かは分からないが不意にそんなことを考えてしまう。

普段はナヨナヨしてるけど、いざと言う時にかっこ良くなるし。

見た目はダサいけど、人気ありそうよね。

男だもん、彼女の1人や2人ぐらいいてもおかしくはないわ。

あの時のあいつはあたしが今まで見てきた奴らより、格段に強かった。

誰よりも、どんな奴よりも。

まさか武偵校にいて、あたしよりも強い奴を見た事はなかった。

そりゃあ、ちゃんと観てればいっぱいいるんだろうけど、今まで1度もあったこともなかった。

それが今になって突然、あたしの前に現れた。

気に食わなかったのはあるけど、嬉しくもあった。

 

『やっと、やっと見つけたよ。師匠(せんせい)。』

 

心の中でそう本気で思った。

あれは武偵を目指す前。

当時中学三年生だった私は、買い物先で自爆テロに巻き込まれて両親と姉、そして可愛い妹を亡くした。

一寸先も真っ暗で絶望的な中、私は師匠と仰ぐ人物、彼女に出会った。

彼女はそのテロの際、犯人の拿捕及び人質救助の任務に付いていた。

国際的にも有名な武偵で、わずか21歳にして『未成年生活保護代理者』の資格を取得していた。

彼女の好意であたしは事実上、彼女の養子になった。

歳も近くて話しやすく、とても笑顔が素敵な方だった。

あたしはまるで亡くなった姉と話しているような気がして寂しくはなかった。

そんな彼女は、武偵として戦いながら自分の大切な人を探し続けていた。

五年前に起きた事件以来、行方不明になっている人を。

あたしは力になりたいと思った。

恩返しとかではなく、大切な人を失ったからこそその人を見つけてあげたい。

だから武偵校に入学する為、通っていた中学校まで変えて必死に武偵になるための訓練を続けた。

彼女の厳しい教えにも耐え、血塗れになるまでやった訓練にも耐え抜き、中学校を卒業する時には彼女に認められる実力を得た。

武偵校に進学する為の推薦も決まり、努力が実った頃だった。

そんなある日、彼女は武偵の仕事で海外に遠征する事になった。

 

『ねぇ雅。貴方は私が想像するよりも強くなったわ。でもね、足りないものがある。貴方が信頼出来る仲間よ。まずは武偵校でパートナーを作りなさい』

 

それだけを言い残し、彼女は部屋を後にした。

それから一年間、彼女は連絡すら寄越さなくなった。

あたしにパートナー?

そんなのいらないわよ。

なんて内心思っていた。

武偵校に入学してから一年間、あたしは自分に釣り合うパートナーを探し続けていた。

でも、武偵校にはあたしの実力と釣り合う生徒がいなかった。

もう諦めかけていた時、通信科に用があって入った際に聞いたとある電波で今回のチャリジャックがわかった。

気まぐれな私がたまたま受けた依頼で、まさかあんたみたいな奴に出会えるとは思っていなかった。

これが恐らく、最後のチャンスだと思った。

師匠を助けたい、その一心で。

寝ている彼女を見ながら、そんなことを思い出していると、彼女が目を覚ました。

 

「ん~……あ、おはよう雅さん」

「雅さん?」

 

大きな欠伸をしながら起き上がるその子は言った。

どことなく聞いたことある、弱々しいナヨナヨした雰囲気のある喋り方と声。

え……ちょっと待って!?

その正体を知ったあたしは唖然とする。

 

「ちょ、あんた……まさか龍輝!?」

「うん。そうだよ?あ、いつもは髪上げてるもんね」

「っ!!び、びっくりさせないでよね!!まったく!!」

「ご、ごめんなさい!!」

「はぁ~……」

 

思わず馬乗りになり、殴りそうになる拳を止めてため息をつくあたし。

びっくりして顔を覆う彼。

本当にナヨナヨしてて頼りないわね。

 

「もう!はやく朝ごはん作りなさい!あんたのせいでお腹空いたじゃないの!」

「え、それって僕のせいですか!?」

 

そんな感じであたしの新しい生活が始まる。

この後、コイツとあんなことが起こるなんてあたしも、こいつにも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

……to be continued ! !

 

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