Another World If -Early Days-   作:山吹 色

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2nd bullet.明日無き学科へようこそ - welcome to the assault -

その日、僕は雑賀 雅と共に武偵校へバスで向かい、教室に着くと前日にするはずの自己紹介をするハメになった。

あがり症の僕はキョドりながらも無事に自己紹介を終え、休み時間になると周りの生徒達から質問攻めに遭う。

隣の席はなんと雑賀 雅で、後ろの席は秋義、前の席は虎政だった。

知ってる人が周りにいると、こんなにも落ち着くなんて自分でもびっくりだった。

しかし、教室の中では雅と話すことはあまりなかった。

チャリジャックとコンビニ強盗の二つの件は武偵校でも広まっていたらしく、知らぬ間に僕が解決したという噂が広まって有名人に仕立て上げられていたのだ。

その後、僕は新聞部の記者と名乗る女子生徒達に追いかけ回され、校舎の中を逃げ回るハメになる。

体力には自信が無いもので疲れ切って机に頭を伏して休んでいると、後ろの席の秋義がニヤニヤしながら肩を叩く。

 

「おいおい。人気者は疲れるなぁ?大丈夫か龍輝?」

「疲れるも何も死にかけてるよ」

「こんな事でへばる様じゃ午後の実習は真面目に死んじまうぞ」

「本当に?それだけは勘弁だよぉ」

「まぁ、強襲科に転入したのが運の尽きだな」

 

ケラケラ笑いながらそういう秋義。

冗談か本気か分からない笑い方に戸惑う僕。

午後の実習、真面目にサボりたくなってきた。

そんな時、舞先生にもらったあの鍵の事を思い出した。

そうだ。

実習に行くふりして屋上で時間を潰そう。

外から鍵をかけて置けば誰も入って来れないはず。

怒られるのが嫌だったが、実習がもっと嫌なのでそうしよう。

そんなことを心に決め、僕は午前中の授業を耐え抜き、休み時間はひたすらストーカー如き女子生徒達に追い回されるのであった。

……そして待ちに待った昼休み。

秋義と虎政と共に取った昼食の焼きそばパンをそそくさ口に詰め込み、教室を出ていく。

強襲科の実習棟に行くふりしてこっそりと屋上へと向かう。

バレないように音を立てずにゆっくりと鍵を開け、静かに扉を開けて忍び足で入る。

ぱっと下ろしていた顔を上げ、前を見た瞬間、フェンスの前に僕は人がいる事に声を殺しながら驚き、慌てて扉を勢いよく閉めてしまった。

 

「……ん?誰だテメェ?」

 

僕が入って来たことに気付いた彼はゆっくりとこちらを振り向く。

ドスの効いた低い声と鋭い眼光に僕はびびって後ずさりする。

黒いロングコートに黒の革手袋、同色のデニムに編み上げブーツ。

宝石のように赤い瞳、漆黒に染まる髪を風に靡かせ、佇む全身真っ黒に染め上げた謎の男がいた。

男はタバコを片手にゆっくりとタイルに胡座をかき、こちらを見詰める。

 

「僕は……武藤龍輝です。お邪魔でしたら帰ります!失礼しました!」

「……武藤?ちょい待てや」

「ヒッ!?」

 

パァンッ!!

さすがに凄い怖かったので早急に退散しようとしたら、不意に響き渡る銃声。

僕が握ろうとしたドアノブを、その人は見事に撃ち抜いて破壊したのだ。

カラカラと転げ落ちるドアノブを見て固まる僕。

ゆっくりと振り返ると、その人は銃を握り、銃口をこちらに向けていた。

 

「武偵校で噂になってるっていうから、ちょいと気になってたところだな。少し話そうや」

「は、はぁ」

「悪い悪い。お前をビビらそうと思ったわけじゃないんだ。そんな怖い顔するなよ」

「アナタは一体何者ですか?何故ここに?」

「あ〜……それならこれに書いたるから読んでみ」

 

にこにこしながら男は懐に銃をしまい、タバコの火を消さずに投げ捨てると懐から出した雑誌みたいなものを僕へ投げる。

何食わぬ顔で僕は雑誌を受け取り、何の警戒心もなく開いて心から本気で後悔した。

それは僕にとっての鬼門。

男が投げたのは普通の雑誌ではなく、大人の見る雑誌だったのだ。

つまりはエロ本。

こういうのに僕は免疫は皆無、例え写真といえども女性の裸体はヒスる為のスイッチになる。

しまったと思い慌てて閉じたが、時は既に遅かった。

体の芯からふつふつと湧き上がる熱い血液の奔流。

視界がじわじわと変わり、数字の浮かび上がる特殊な世界に切り替わる。

そこに至って俺はある事にふと気が付いた。

 

(ちっ……嵌められたか)

 

初対面の人にお近づきのしるしにとエロ本を投げる奴なんているのだろうか?

無論、答えはNOだ。

論じて結を出す程の事ではない。

断じて一般的な常識だ。

そんな非常識な事をすれば、その人のモラルに関わって来る。

キチガイか或いは変態の烙印を捺されるのが見え透いたオチだ。

となると普通に考えて、お近づきのしるしなんて考えられない。

そうなると……出てくる答えは一つ。

俺の持つ『ヒステリア・プロフェシー』か、或いはそれにまつわる何らかの、サヴァン系の能力を彼は知ってるという事になる。

サヴァン系の病は先天性の物がほとんどだが、後天性という数奇なる悪病を持ち合わせている俺はバレる事は無いと思っている。

この忌むべき悪病の事を知ってるのは、俺と親しい間柄の連中のみ。

だが、彼は最初から分かっているような素振りだった。

顔には出してはいないが、直感で感じた。

つまりは予め俺の、ヒスるスイッチを押す為に投げた事になる。

俺の雰囲気の変化に気付いた彼は不気味に口元を緩める。

何者なんだ、一体?

 

「目付きが変わったな。それにさっきのひ弱そうな雰囲気とは裏腹にやたら殺気立ってるやん。おぉ怖い怖い。お前さん一体どした?」

「どうしたもこうしたも、アンタがこんなもん投げるからだ」

「そりゃあ悪い事したな。気に食わなかったなら謝るわ。まぁ、許してもらえるとは思ってないけど」

「……アンタ、一体何者なんだ?」

「ふふふ。まぁ、いっぺん殺り合って見れば分かるだろ?お前さんもその方が手っ取り早いしな」

 

そう言いながら彼は楽しそうに笑むと、再び懐から右手に銃と左手に30センチぐらいの棒のようなものを5本、指に挟んで取り出す。

俺はその獲物を見て宙に浮かび上がる数値から瞬時にスペックを分析する。

この銃はベレッタ社の『M8045クーガー』をベースに、恐らくカスタムしたものだろう。

スライドが紫色に塗装された、世にも珍しいモデルだ。

マガジンは標準の純正品を使っているため、使用する弾丸は45ACP弾、装弾数が8発。

チャンバーに装填していた場合、トータルの装弾数は9発。

それにトリガー部のスプリングを重くしているらしく、引き金が通常よりも少し固い仕様になっている。

考えられる理由は、命中精度を上げるためか、握力が強すぎてトリガーを破壊する可能性があるからだ。

そしてあの棒の様なものだが、こちらのスペックは未知数だな。

これは……一番厄介かもしれない。

 

「さて、先攻は譲るよ」

 

呑気にそんなことをいい、余裕がある態度を示す彼。

……ブラフか?

もしもブラフだとすれば、カウンターが怖い。

しかし、攻撃してみないことには分からないし。

迷った挙げ句、俺は懐から愛銃『S&W 40 shorty』を抜き放つ。

武偵同士での戦いは装弾数がものを言うとあのクソ女医、クローク先生から教わった。

防弾制服などを身に纏う武偵は普通に撃ち合うだけでは銃の意味をなさない。

なぜなら着ている防弾制服などで遠くから撃たれた弾丸は多少なりとも威力が落ちて弾かれてしまうからだ。

そういう事もあり、武偵同士での戦いは威力が高い至近距離からの撃ち合いになる事が多いという。

もちろん、頭はNGだ。

これを武偵の専門用語で『ガンカタ』というらしい。

空手にある敵がいると想定して演舞を舞う形式の競技『形』と銃の英訳『gan』を掛けて作られた造語だ。

中には『銃道』と呼ぶ人もいる。

相手は8発なのに対して俺のは弾が小さいとはいえ11発装填できる。

僅差とはいえ、理論でいえば俺の方が勝ってるはず。

パパパァンッ!!

抜き放つと同時に素早くトリガーを3回引いて彼に発砲する。

重なるように屋上に響き渡る3発の銃声。

クロスレンジから離れた所からの3連早撃ち(トリプルクイックドロウ)を見舞ってやる。

スローモーションで見えている放たれた銃弾は空を切り裂き、真っ直ぐ彼に向って飛んでいくはずだった。

次の瞬間の光景に俺は目を疑った。

彼は何の変哲もない棒を持つ左腕を大きく振り抜く。

ヒュンッと空を切る音がしたと思うと、指から離れた6本の棒がまるで意思を持った生き物のように一瞬で1本に連結した。

──ギギギンッ!!

そして彼はそれをまるで弾丸が見えているかのような動きで弾道に合わせて振り抜き、亜光速で飛来した弾丸を全て打ち返したのだ。

 

「っ!?」

 

咄嗟に身体を捻り、自分の元に戻って来た弾丸を紙一重で躱す。

 

「そんじゃ行きますか!」

 

弾丸を打ち返して意気揚々とその言葉を放った彼は、尋常じゃない恐るべき瞬足で俺との間合いを詰める。

 

(ちぃっ!!速すぎる!!対応が間に合わないッ!?)

 

脇に携えたナイフケースに左手を当て、慌ててククリ刀を抜き放つ。

──ガキィンッ!!

間一髪で振り下ろされた棒を辛うじて受け止める。

素早く振り払うと俺は隙が空いた彼の横っ腹に銃を押し付けて引き金を引こうとしたら、自分の脇腹に凄まじい衝撃と激痛が走る。

 

「ぐぁ……!?」

 

思いのほか強烈過ぎる衝撃のあまり横に転がっていく俺。

その原因は、あの不安定な態勢から放たれた彼の右脚のミドルキックが俺の脇腹に綺麗に決まっていたのだ。

くそ……気付いていれば追い付けたはずだったのに。

ゆっくりと立ち上がる俺を見て、とても感心する彼。

 

「あの一撃を止めるなんて、マジでビビったな。あれを防いだ事があるのは今までで1人しかいないぜ?」

 

驚いたようにそういう彼。

最も驚いたのは俺のほうだが。

 

「まだくたばんなよ武藤?試験(テスト)はこれからだ」

「テスト……?」

「あぁ、そうだ。追試なんか受けたかねぇだろ?なら本気で来い」

「こ、これがテストだって?」

「2度は言わねぇよ。めんどくせぇからな。病院送りにされたくなきゃ死ぬ気で来いよ武藤?」

そう言いながら倒れる俺の前にかがみ込んで、こめかみの辺りに銃口を押し付ける彼。

今さっきの言動で彼がこの武偵校の教師という事はわかった。

だが、ここまでやる教師がいるのか?

見た目も学校の教師とはかけ離れてるし。

 

「どうした?殺る気無くしたか?せっかく殺る気を出すために大人の本を見せてあげたのに。……萌えんかったか」

 

この瞬間、俺は自分の推理が根本から間違っていたことに気が付いた。

彼は最初から俺の能力を知っていて、能力の起爆剤を知っていてエロ本を読ませた訳では無い。

ただエロ本を読ませたかった文字通りの『バカ』で『変態』だったのだ。

こんな人に完全にシリアスに、警戒していた自分がバカバカしく思えてきた。

俺はククリ刀をタイルに刺し、ググッと頭を上げて身体を起こすと、こめかみに押し付けた彼の銃のスライドを左手で握る。

次の瞬間、銃を分解し整備する為にあるテイクダウンレバーを握った親指で押して立ち上がり様にスライドとバレルをまるごと抜き取る。

 

「おろ?」

 

不意を突かれ、 某漫画のような情けない顔で驚く彼。

それもそのはず、スライドとバレルを抜き取られたら、銃としての『撃つ』という機能を無くすことになり、本来の意味をまったく成さなくなるからだ。

続けざまに呆ける彼の頭を目掛け、回し蹴りを放った。

──バシッ!!

しかし、あの棒のような武器で軽く受け流され、すぐさま神速の反撃のなぎ払いが来る。

──ガキィン!!

よろめくも素早く態勢を立て直し、俺はタイルに突き刺したククリ刀を左手で抜き放ち、峰を右手で抑えながら放たれたなぎ払いを受け止める。

 

「ここまでやるとは思わなかったぜ武藤!!やればできんじゃねぇかよ!!」

「アンタこそ本気で来ないと痛い目見ると思うぜ?」

「はっ、いってくれんじゃねぇかド素人が。こんなにも面白ぇ奴と殺り合えるなんて久々だ!腕がなるぜ」

「初めてのテストなんでね。手は抜けないさ」

「いいぜ……どこまで行けるか、テストの文字通り、お前を試してやるよ!まずはシフト1!」

 

その掛け声と共に棒でククリ刀を押し切り、神速とも言える連打攻撃が始まる。

──ガガガガガガッ!!

 

(右!左!下!斜め左上!次は袈裟!!)

 

ヒスっているため、身体能力が上昇して彼の行動がスローモーションで見えているとはいえ、次々と打ち込まれる連撃を捌くのがやっとだった。

もしもヒスってなかったら、全身複雑骨折だな。

そんなことを考えて背筋が凍りかける俺。

しかしなんて速さだ……この人ホントに人間か!?

 

「ずいぶん耐えるじゃねぇかよ!シフトチェンジ!2!」

 

そういった瞬間、迫って来るなぎ払いの軌道が変化した。

まるで棒が鞭のようにしなり、自分への到達点に時差が生じ始めた。

 

(くそったれ!!何なんだよ!これ!!)

 

到達点がズレるため、ククリ刀でのガードが間に合わない。

──ズドドドドッ!!

凄まじい勢いで振り抜かれる連撃を、防ぐ間もなく身体中に浴びてしまった。

物凄い衝撃と言葉にはならない激痛が全身を駆け巡る。

俺は声にならない悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちる。

 

「ハァ…ハァ…。なかなかしぶとい奴だな?武藤?」

「っ……」

「大丈夫か?心配するな。手加減はした。はー楽しかった」

 

そう言いながら楽しそうに笑むと彼は荒らげる息を整えつつ、ゆっくりと俺を抱き起こす。

 

「……アンタ、名前は?」

「強襲科担当教官。教務科の葛城健児(かつらぎけんじ)だ。今回のお前の編入試験の担当さ」

「葛城……健児?」

「おう。よろしくな」

「教官だったのか。やっぱり強いなぁ。勝てないのは当然か」

 

苦笑いしながら俺はフェンスに寄りかかる。

 

「武藤龍輝。お前は合格だ。ついでに武偵の格付けだが……俺の独断でお前を『Sランク』として武偵局に申請しておく」

「Sランク!?それは買い被りすぎじゃないか!?」

「いや。買い被りじゃないぜ。教官である俺をあそこまで追い込んだ上、転校してもう一つ以上の事件を解決している。それだけで充分だ。俺の目が間違って無ければ、お前はそれほどの力を秘めているさ」

「……」

 

そう言いながらゆっくりと立ち上がり、空を見上げて大きくため息を着く葛城教官。

 

「楽しかったぜ武藤。また相手してくれよな」

 

それだけ言い残すと、彼はゆっくりと屋上を後にした。

しばらくして、ようやく動けるようになった俺は医務室に向かうべく、痛む身体に鞭打ちながら歩き始めた。

俺、武藤龍輝は本日より正式に強襲科へ編入されることが認められ、また転入して異例の翌日の試験で『Sランク武偵』として認定されたため、瞬く間に有名人になってしまった。

だが、これが 雑賀 雅との『役立たずを証明する』の約束は、無残にも俺が役立たずという事を証明出来なくなってしまった。

そして、治療を受ける為に向った医務室であんな追い討ちを掛けられるなんて、俺は予想だにしていなかった。

 

 

 

 

 

 

……to be continued ! !

 

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