Another World If -Early Days- 作:山吹 色
──武偵校屋上ヘリポート。
現在の時間は16時22分。
日が傾き始め、辺りは茜色に染まりつつある頃。
俺こと葛城健児はテストの件を終え、とある人物に呼び出されたので武偵校の屋上にあるヘリポートに来ていた。
両手をコートのポケットに突っ込み、タバコを吸いながら待つ。
「おぉ?遅刻サボり魔のお前にしちゃ早いじゃねぇか?葛城」
「うるせぇ……こちとらいろいろと忙しいのに呼び出したのはアンタだろが」
吸ったタバコの煙を吐き出しながらそう愚痴りつつ振り向く先には黒髪赤目、口は悪いが手術の腕は確かと評判のある脳外科医クローク・エンジェルハーツが欄干に腰掛けていた。
今回はいつも着ている白衣ではなく、スニーキングスーツと呼ばれるボンテージのような黒い戦闘服を着ている。
身体にぴっちりと張り付くような服なので大きく出た胸とか艶かしいクビレがはっきりするため、見た目が超絶にエロい。
簡単に言えば、ライダースジャケットの戦闘服版だな。
ちなみに俺らが着るとなんかダサいので絶対に着ない。
その上にファーのついたコートを着るのが彼女流のファッションらしい。
似合ってない訳では無いが。
「ところでクローク先生よぉ。なんで俺をこんな所に呼び出したんだ?」
コートの下の黒Yシャツの赤ネクタイを緩めながら、単刀直入に質問を投げかける。
「うちの息子の件でだ。どうだった?」
「息子……?あぁ。将来性に見込みはある。俺の一撃を受け止め、反撃する程の腕だ。ちゃんと鍛えれば良い武偵にはなるだろ。ただ……」
「ただ?」
「『あの一族』の片鱗はあった。やっぱり」
「……そうか」
『あの一族』という単語を聞いたクロークは悩んだ表情を浮かべる。
ヒステリア・サヴァン・シンドローム。
とある条件下で本人の身体能力を飛躍的に上昇させる奇異な能力だ。
遺伝性が強く、親から受け継いで先天的に生まれ持つ子が多いと言われている。
医学的には詳しく分かっていないが、巷じゃ有名な話だ。
実の所、俺も知らない訳じゃない。
武藤龍輝に不意にエロ本を投げ付けたのも、そのスイッチを探り当てる為だ。
ずばり的中したのだが、アイツはまだ自らの能力を使いこなしてはいない。
強力な力に呑まれてなされるがまま、だった。
まさに彼女、クローク先生の言う通り。
しかし、問題はそこからだ。
先程もヒステリア・サヴァン・シンドロームは遺伝性の先天的な能力と言ったが、アイツは事故による脳の負傷でそれを発現させた。
つまり遺伝的にも、先天的にも、どれにも当てはまらない、実例がまったくない後天性のヒステリア・サヴァン・シンドロームなのだ。
その能力は恐らく未知数と考えてもいい。
戦ってわかったが、同年代の武偵と比較して動きや判断力に天と地の差程に違いが出た。
母校の教官になって一年、いろいろな生徒たちを見てきたが、明らかに違って見えた。
過去に1度、俺は相棒とその能力と近いスペックを持つ相手と戦った事がある。
経験者のだから言えるのだが、あれは正しく人間ではない怪物だった。
2人がかりで戦い、死闘の末、無残にも敗れた。
「……片鱗が見えたとなればアイツらに対抗できる切り札になる。それに気付かれたらアイツらは確実に龍輝を殺しに来る。本当の母親でもないのにね。こんな事に巻き込みたくはなかった」
「アンタらしくもねぇな。ぶつぶつ弱音吐きやがって。俺は徹底的に殺るまでさ。あの時“あの人”を倒していればこうなる事はなかった。アンタだけが背負い込むことじゃねぇよ」
「アハハハ。まさかお前ごときに励まされるなんてな」
「……ぅるせぇ」
「あの地点で結末は分かっていた。だからオレはお前たちを……かつての教え子たちを頼れるんだよな」
血のように真っ赤に染まる茜空を見上げながら昔を思い出す様につぶやくクローク先生。
しかめっ面をしつつも俺はコートのポケットからタバコを取り、咥えながらパチンっと先端にジッポーライターで火を灯す。
軽くニコチンが入った煙を吸い上げ、フーッと吐き出した。
もくもくと茜空に立ち上るそれを何気なく見上げたその時だった。
──ガチャリ。
ヘリポートから降りる階段へ繋がる扉が開き、1人の青年が姿を現した。
「すいません!遅れました!」
男子とは思えぬ、女の子のようなハスキーがかった高い声で謝る。
何やら分厚い資料のようなものを脇に抱え、白桃色のショートボブヘアを揺らしながら小走りで駆けて着て頭を下げる青年。
というよりも幼い見た目からして少年という言葉がしっくりくる。
服装は通っている武偵大の制服らしい。
紺と朱を基調にしたジャケットとモノクロ調のチェック柄のネクタイを締め、同色のスラックスを履いている。
それを見て苦笑いするクローク先生。
「どうしたどうした?今度は時間厳守の真面目ちゃんのアランが遅刻するって。明日の天気は大荒れか?」
「アハハハ」
「仕方ないじゃないですか!クローク先生に頼まれた資料を搔き集めてたんですから!」
ニヤニヤしながら彼をバカにするクローク先生。
それにつられて俺も笑ってしまう。
ムキになったのかまるで女の子みたいに顔を真っ赤にしてプリプリする彼。
彼の名は
武偵校に隣接する武偵病院に勤める双子の姉を持ち、現在は武偵大に通っている武偵校時代からの俺の相棒だ。
なりは非常に女々しいが、武偵校時代は俺とタメを張ったとんでもないヤツだ。
見た目以上に武術と隠し武器の扱いに長けていて、武偵校時代は『暗器の達人』と呼ばれていた。
しかし、俺は強襲科を卒業したのに対して彼はまったく戦闘とは掛け離れた『
その後、俺は逆推薦で武偵を統括する国家機関『東京武偵局』に入局し、一ヶ月で教師免許を取得して再び武偵校に戻って来た。
一方、彼は推薦で武偵校よりも勉強ができるという武偵大の強襲科に進学し、今まで以上に戦闘技術の腕を磨いている。
しかし、俺は勤務地は武偵校にはなっているが、正式な所属は武偵局の特務捜査課になったまま。
つまり簡単に言うと教官と捜査官を兼任しているというわけだ。
──特務捜査課。
警察など公共の国家組織では解決できない特殊な案件を捜査し、解決するのが主な仕事で公安零課や武装検事に匹敵する権限を持つ。
だが、特務捜査課は公にはなっておらず、知ってるのは国のお偉いさんだけ。
この職種は秘匿義務を有するため、気軽に口にしてはいけない決まりがあり、要請があれば人を殺す為のライセンスを持っている。
武偵であって武偵ではない、それが特務捜査課なのだ。
同じ殺しのライセンスを持つ公安零課と違う点は、上層部から『誰々を殺してくれ』という要請が無ければ人が殺せないという事のみ。
自分の判断で殺人を犯せば、法によって裁かれるのだ。
通常の殺人罪よりも重い処罰を受ける事になる。
クローク先生は政府と繋がりを持つ以上、俺の所在を知ってはいるがアランはそれを知らない。
……それよりも、だ。
アランにあれだけの資料を用意させたというのは何かあったという事だろう。
一体何だろうか……?
「ところでアラン?何だよ?その脇に抱えた膨大な資料は?」
「あの人達の資料だよ。警視庁やら武偵局に行って集めてきたんだ。なんか閲覧許可が必要なとこもあったから非合法のやり方をして得た情報も中にはある」
「……大丈夫なのかよ」
「アハハハッ!!でかしたぞアラン。さすがは我が教え子だ」
いつもと同じ高笑いをしたクローク先生はアランから資料を受け取る。
俺はのうのうとタバコを吸いながらそれを眺めていた。
真剣に読んでいたクローク先生は大きくため息をつく。
「警察も武偵局もまだ何もつかんでいないか……予想どおりの役立たずだ」
「そうらしいですね……活動しているかも分からない」
「何かあってからじゃ遅い。俺は引き続き、教官として龍輝と接触を続けて行く」
「ふむ。それは任せた。オレは今からちょいと出張があるから調査は次回だな。随時報告はよろしく」
「「了解」」
そして解散とクローク先生は言い残し、背を向けたまま手を振りながら階段のある方に去っていく。
「ねぇ、葛城」
「あぁ?」
「なんか、武偵校を卒業してから随分と変わったね?昔とは180度さ」
「そうか?そういうお前こそ変わってねぇな。相変わらずだ」
「アハハハ。言われちゃった。その防弾コート、まだ着てるなんてね。ビックリしたよ」
俺の着ている栗毛のファーが付いた防弾コートを指差し、あの頃と何も変わらないニコニコと笑顔を零しながらいうアラン。
それを見てしかめっ面しながら、ぶっきらぼうに俺は答える。
「俺が憧れた人から譲って貰ったヤツだからな。捨てるなんて無理」
「そっか。分からないでもないね。僕も一緒だし」
「へぇ」
「ねぇねぇ?一回手合わせしてみようよ?久々だし、お互いどれくらい強くなったかさ」
「いいじゃねぇか。どこまで強くなったか、久しぶりに試すのも。あの頃と変わって無ければ俺は倒せんぞ?」
ニッと不敵な笑みを浮かべ、距離を置く俺。
ショルダーホルダーから愛銃を抜き、6本の棒、通称『six rod』を構える。
一方、アランはさきほどの可愛らしい笑顔とは違い、懐から抜いた武器を構えると目付きや雰囲気が激変する。
アランが使う銃はGLOCK17の俺と同じスライドが紫色のカスタムモデルだ。
装弾数は17発だが、俺よりも経口が小さい9mmパラベラム弾を使う。
そして彼が使う武器で最も注意しなければいけないのが、恐らく拳銃よりも威力がある投擲武器だ。
クナイやスローイングナイフはもちろん、アランが使うのは投擲用に魔改造された短剣のレイピアである。
投げ方も非常に特殊で、投げた対象物に
下手したら弾丸よりも強力で、コンクリの壁に穴をぶち開けるかもしれん。
それほどの破壊力がある。
しかし、俺には秘策があるのだ。
俺は生まれた時から『
日本語に訳すと、『
文字通り、一つの物事に没頭すると他に注意を向けられなくなる病気だ。
小さい頃はそれを不気味がられ、疎まれてすっかり無口で気弱な少年だった。
それが原因で酷いイジメにあった時もある。
俺はそれが嫌いで嫌いで仕方なかった。
だが、ある人の言葉で俺はこの能力の使い方を見出した。
戦うことに没頭すればいいと。
戦闘中に集中力を高めると、迫り来る弾丸などを僅かだが見切れるようになる。
それを逃さずに動けば打ち返せたり、叩き落とすことも出来るようになった。
武藤龍輝のテストの時がいい例だ。
ちなみに集中力を持続させ、見切れる時間に段階があり、俺は『シフト』と呼んでいる。
シフトは最大6で最長30秒間もの間、高速で飛来するものを見切れ、その間だけ身体能力が上昇しスーパー状態になれる。
経験上、使用回数は無制限。
体力がそこを尽きるまで何度でも使えるが、 肉体的な体力の消費は大きい。
とりあえずこれを使えば、アランの投擲武器は防ぎ切ることは出来るし、チャンスを作れるはず。
互いに獲物を出し合い、準備は整った。
「お前こそまだそのGLOCK使ってんじゃねぇか」
「うん。やっぱり使いやすいからね」
「そうか。んじゃ……」
「いくよ!」
「オラぁ!」
つかの間の静寂を引き裂くように、重なる2人の掛け声。
同時に駆け出すと激しくぶつかり合い、銃声と甲高い打撃音がまるで音楽を奏でるように響き渡る。
乱れ舞うマズルフラッシュと咲き散る火花が、薄暗くなる夕空に鮮やかに彩る。
そのリズムに合わせてぶつかり合う2人はまるで演舞を綺麗に舞っているようだった。
その顔はとても、とても楽しそうだった。
「はぁっ!」
「チェックメイトだ」
激しくぶつかり合う2人の動きが止まり、倒れ込む俺のM8045の銃口がアランの顔面に向けられ、そして馬乗りになるアランの握るレイピアの切っ先が俺の喉の数mm前で止まる。
暫しの沈黙が流れる。
「「引き分けか……」」
見事に2人でハモリ、何が面白かったのか2人で大爆笑して幕を閉じた。
…………to be continued ! !