見るに耐えないような娯楽もたまには見てみてはいかがだろうか。

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どこかの誰かがおそらく主催したただの娯楽

 

 ――さぁさぁお立ち会い。

 

 娯楽の時間でございます。

 はいはい、質問は幾らでもあると思います。私は誰なのか、ここはどこなのか、そして、何が行われるのか。しかしながら、それらの質問を答えるような優しさを私は、全く以て、微塵も、これっぽっちも、持ち合わせてはおりません。

 なのでこう誤魔化しておくことにしましょう。私はこの世界にいるどこかの誰かで、ここはこの世界のどこかで、行われるのはただの娯楽でございます、と。あらあら、短気な方が苛立たれている様子が手に取るように分かります。もしかするとその方は手を取るどころか、手の平で踊らされているのかもしれませんね。だとするならば一体誰の手の平なのでしょうね。踊らされていると教えて、手を取ってくれる方が現れることを祈らせて頂きましょう。そうですね、さしあたって、神様とかに。

 っと、いけない、いけない、話がそれました。えっと、こういう時、何て言えば逸れた話を元に戻せるのでしたっけ。ああ、そうだそうだ思い出しました。閑話休題でございました。

 ここらで本当に。

 

 ――閑話休題でございます。

 

 さてさて、先程ご紹介致しましたように、ここはこの世界のどこかでございます。

 ここにいるのは三人。順番に紹介して行きましょう。私ことどこかの誰かさんです。今回は大変恐縮ではありますが私が実況を行わせて頂きます。

 今回はなどと申し上げますとまるで過去にもあったような、もしくは定期的に行われているような、物の言い方でございますがそんなことはございません。

 私は適当で常日頃から嘘しか吐かない大嘘吐きなのです。嘘吐きが嘘吐きだと言うと嘘吐きのパラドックスが生じますがそれはまたどこかで。或いは既にどこかで語られているのかもしれませんね。ありふれた嘘吐きの話が。

 いえいえ、関係のない話です。私の過去の話などしていませんよ。ええ、はい。

 またまた閑話休題と言いたいところですがどうやらそれどころではないようです。さてさて、私の遥か下。

 ざっと、一万メートル程下に見える下界、っと失言致しました。――というのは嘘ですが。別にここは天界、俗に言う天国などという想像上の世界ではございません。想像はあくまで想像でしかないのです。死んでみなければ天国と地獄があるのか分からないなどと知ったように言いますが想像上のものがこの世に存在するはずがありません。天国などこの世には存在いたしません。いえいえ、天国はあの世だから違うだろうとか、そんなくだらない言葉遊びではなく。

 話を戻しまして、遥か下に少女がいますね。おやおや、過去に同意のもと弟さんを食した方ですか。そんな人もいるのでございますね。カニバリズムでございますね。大変、屈折した方です。屈せず折れず、しかし屈折した方でございます。

 そんな少女の目の前にいるのは、今世間を騒がしている連続猟奇殺人犯の方ですか。おっと、面白いことに全身を拘束されていますね。ラバースーツと言うのでしたっけ、あらゆる光を吸い込むような漆黒の色をしたそれを頭の天辺から足の爪先までどこかの誰かに着せられて両手両足を動けないように同じく漆黒の拘束バンドで拘束されています。一体誰があんなことをしたのでしょうね。いえいえ、どこかの誰かでございます。

 おや? 少女の手にはいつの間にか自動小銃が握られています。正式名称「アブトマット・カラシニコバ-47」、一般的には「AK-47」と呼ばれている銃ですね。あ、はい、正式名称は適当にググっただけです、はい。ただ単に世界で一番有名な銃なのでご用意――もとい、知っていただけです。はてさて、その自動小銃にはサプレッサーが付けられていますね。おっと、これまで面白いですね、青銅で作られて割には非常に軽い。サプレッサーにはヘパイストスと刻まれています。ギリシャ神話に登場する鍛冶の神とは何ら関係のないであろう名前でございますね。あんなものが付けられていては、絶対に壊れず完全無音の銃が存在してしまいます。あれでは撃っても誰も分かりませんね。

 

 ――さぁ、皆さん、ここでベットタイムでございます。

いえいえ、ベッドに入る時間でもございません。だからと言って布団に入る時間でも、はたまたソファは床、公園のベンチに路上で寝る時間でもございません。賭けの時間です。

 どうやら少女は目の前にいる人間の素性を知っているようでございます。何故でしょうね。別に身分の分かるようなものを周りに撒き散らされていた訳でもないというのに。

 

 さぁさぁ、皆さん、全財産を賭けて少女の行動を予測いたしましょう!

 ははははっ! 愉しいでしょう? 私はこの時間が最も興奮してしまう。愉しくて、愉しくて、体中の血液が悦びで震えています。まさしく愉悦しています。

 ほらほら、早く賭けないと! こんなに面白いことはございませんでしょう? 目の前の少女は、連続猟奇殺人犯を殺すのか、放置するのか、それとも助けだすのか。ああ、もう、考えただけでたまりませんね。

 

 おっと、さてさて、皆様の意見が集まりましたね。はいはい、集計中でございます。今回の賭けの選択肢は四つでございます。まず最初に、殺す、次に放置する、その次は助ける、そして最後は――その他、でございます。あらら、四つ目の選択肢にご不満でございましょうか? 気にしないでください。今回、その他をお選びになった方はたった一人です。誰か、ですか? 言う訳がありません。どこかの誰かでございます。

 

 はい、はい、出てきました。なんと、今回の賭けに参加して頂いた方は百五十八万二千百四十七人ですね。お次は選択肢に分けて紹介していきましょう。

 

 まず一つ目、殺すを選んでくださった方々です。はいはい、はい、出ました! 四十七万四千六百五十五人です。いやはや、なるほどこの方々が考える少女の思考はざっとこの通りでございましょうか。

「目の前に殺人犯がいる。それも凶悪な殺人犯が。そして手にはそんな殺人犯を殺せる武器を持っている。銃声は聞こえず人もやってこない。ここで彼を倒さなければまた誰かが犠牲になるのかもしれない。ならば私が彼を殺すべきだ」

 はいはい、偽善者でございますね。世の為人の為にならば人を殺してもいいだなんて、そんな考え方は危険です。しかしこの選択を選んだ方々はそれを理解していらっしゃらないようです。それは信仰を冒涜しているから、などというくだらない理由で歴史的建造物を破壊するような行為と同じなのです。結局、そんな愚かな考え方を持つような人間が言う世の為人の為などという言葉は、世の為自分の為なのです。前者の世とは世界のことではございません。世とは自分のことです。何もかも自分の為にやっているのです。それは果たして、犯罪自慢をSNSで垂れ流すような承認欲求に飢える、思考を放棄した者共とは違うのでしょうか。

 

 さてさて、次でございます。放置するを選んだ方ですね。はいはい、はい、出ました。九十九万六千七百四十二人でございます。おっと、一番目を選ばなかった方のおよそ九割がこちらの回答でございますか。それでは一番目と同じくこの選択肢を選んだ方が考える少女の思考も紹介していきましょう。

「目の前に殺人犯がいる。しかし目の前の彼は全く動けないようだ。恐らくこのまま時間が経てば誰にも気付かれないで死ぬだろう。ならば私は、この銃をどうにか処理して私は知らぬ存ぜぬで過ごそう。触らぬ神に祟りなし、悪はいずれ必ず罰せられる。私が彼を殺す理由など存在しないし、どんな理由や都合があれども悪事をしてはいけない」

 いやはや、これはまた偉く綺麗なお花畑が出来たことです。本当にもう、色とりどりで美しいお花畑が一面に広がっております。美しいだけでございます。ことなかれ主義の皆様においてはこのままゆるやかに自殺することを強要致します。そんな都合のいい設定が現実世界に、いや、どこの世界にも存在するはずがないのです。悪が必ず罰せられるのならば人間は地球資源を乱用し、むやみやたらに消費するという悪事を罰せられているはずではないですか。地球資源の枯渇がその罰だなどと宣う輩がいるのかもしれませんが、それはただの結果でございます。大体、地球資源を使い切ったら無くなってしまって困った困った、さてどうしよう、などと悠長に対策を取れる程度の事象が罰な訳がないでしょう。罰というのは何かから意図的な事象が起こることを指すのです。それに人間が行う悪事を並べれば、人類の完全なる滅亡しか清算できる罰がないではないですか。正義は理不尽に振りかざされ、正当な目的では役立たずなものであり、悪とは集団のはぐれ者に貼られるレッテルです。善悪が絶対的なものであらゆる事象に善悪が存在するなどという概念をお持ちの方は恥晒しになる前にこの世から抹消してさしあげますので後ほど私の方へお声掛けください。

 

 さて次でございます。助けるをお選びになった方ですね。人数は十一万七百四十九人です。それでは慣例の如く助けるをお選びになった方々が考える少女の思考をご推察申し上げましょう。

「例えどんな悪人だったとしても、人として人を助けることに間違いはない」

 何をどうとち狂えばそんな思考が出来るのでしょうか。控えめに言ってゴミ屑でございますね。人として人を助けることには大間違いでございます。人は一個人として自らの利益が出る時にのみ人を助けるのでございます。純粋なる優しさを持つ人間というのはこの世界では淘汰されてしまう人間なのです。まぁ、その方がどちらにとってもいいのでしょう。こんな薄汚い世界で生きるよりも死んでどこか想像上の世界で好き勝手にやりたい放題をしていればいいのです。それに皆様だってそうでございましょう? 純粋なる優しさ。純度百パーセントの優しを振りまく人間なんて見てしまうと、自らの汚さに胸が痛むでしょう。嫉妬するでしょう。妬むでしょう。嫌うでしょう。そんな相手。人のふり見て我がふり直せという言葉のように自らを直すべきですがそんな器用なことは皆様出来ませんもんね。相手の粗探しをして、なければ作り上げてでも蹴落とそうとします。人のふり見てその人を蹴落とすのです。そうやって特出した人間を蹴落としていけば、最低でも自分は普通になれますからね。ええ、最底辺の人間という種族の中では何ら不思議ではないごく普通のことです。生があれば死があるのと同じです。簡単な話ですよね。自分よりイケメンな人間、或いは美しい人間を全員消失させれば自分はイケメンもしくは美しい人間になれます。それと全く同じ事です。ええ、言い換えても本質は変わりません。本質は変わらず、蹴落とした人間或いは消失させた人間の本質も変わらないのです。

 

 っと、四つ目について私がほざくよりも前にどうやら賭けの結果が出るようです。

 

 おっっとー!! 面白い事になりましたね! なんと、少女が自殺致しました! はっはー! これはこれは。思わぬ結果が出てしまいましたね。ああ、なるほど弟さんを食べた後、もう少女には思い残す事は何もなかったのですね。だから彼女はこの特別な状況で、意味不明に死を選んだのですね。いやはや、まさか思わぬところが伏線となっておりました。あっ、ちなみに殺人犯の方は最初から死んでいたようですね。考えてみればそうですよね。全身余すことなくラバースーツに身を包んでいるのですから酸欠になって死んでしまいます。

 

 さてさて、賭けの結果はその他となりましたので、なんとびっくりです。たった一人が皆様の全財産を総取りするという結果になりました。いやはや、なんと幸運な方ですね。素性は分からないのでどこかの誰かさんと呼ばせていただきますが理不尽なまでに運のいい方ですね。何かどこかの誰かさんの意図的なものを感じてしまいます。

 

 おっと、あらゆるところからクレームが殺到しておりますがここでこの娯楽は終了のお時間のようです。

 

 それでは最後に。

 

 この世は理不尽で構成されております。筋が通っているように思えるようなことはすべてまやかしでございます。それでは皆様、そんな素晴らしいまやかしに包まれた素晴らしい世界で素敵な素敵な日々を。

 

 娯楽でも極楽浄土でもなくはたまた地獄でもなく、年中どこかで戦争が起こり悲劇が起こり涙を流す人が現れ怒り狂う人が現れ人生がほんの少しのミスで崩れ去り誰かが死に誰かが誰かを殺し誰かを傷付け誰かを憎み恨み嫉妬し誰かを蹴落とし蹴落とされ他人を嗤い自らを肯定し他人を否定し欲望に塗れ絶望し復習を決意し悪事に手を染め取り返しのつかあないことになり後悔し苦しみ飢え怯え恐れ錯乱するような、しかしどこかにはかろうじてせめて生きていられるだけの家族や仲間との喜び、感動に奇跡、そして愛がある、こんなクソみたいな世界で、どうか、どうか、幸せでも不幸せでも普通でもありきたりでもない、くだらない人生をお送りやがりください。

 

 それでは。




救いようのない世界でも別にいいじゃないですか。とりあえず、足元はすくわれないのですから。


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