刀憑きの青年   作:桐竹一葉

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文字数維持が難しいです……調整がうまく出来ない私に、何方か文才を分け与えて下さいまし……

こういう楽な話なら、ちゃちゃっと1日で終わるものですが。
戦闘や伏線が絡むと、途端にスピードダウンしてしまうんですよねぇ。



道具屋の乱雑

「はぇー、そんな事がねぇ……道理で」

 

魔理沙は縁側に腰掛けたまま、境内を見詰めていた。園枝と人狼の戦いの跡は、今も尚残っている。

そして、その深い傷痕の残る境内には、数人の小さな影があった。その悉くが、肩にポケットのついた水色の上着、袖に幾つかのポケットが付いた濃い青色のスカートを着用している。

色とりどりのキャスケットは、服だけでは見分けが付き難いが為の工夫だろうか。

 

「……僕、刀が必要無くなるくらい、強くならなくちゃいけないんですかね……」

 

沈痛な面持ちで、園枝は俯いたまま呟いた。この強い日差しも、今の園枝にはまるで堪えない。

自分が人間から逸脱した存在になるという、あの得も言われぬ恐怖が、今も彼の胸中で燻って消えなかった。更に、目の前で自分が荒らした境内の修繕が行われているのでは、彼の心には少々堪えるというものだ。魔理沙はそんな彼に対し気の利いた言葉も浮かばず、ただ苦笑を浮かべるだけだった。

 

「まぁ、ああいう事例も起きるって分かったものね……全く、妖怪が殺す気で攻めて来るなんて事、数える程しか無かったのに。よりによって私が不在の時にねぇ」

 

霊夢は普段通りの様子でそう言って、忙しなく動き回るキャスケットを眺めている。

それら小さな人影は、俗に言う河童という種族だと魔理沙は言った。建築や工業等に精通した種族で、その腕は可也のものらしい。現在は襤褸くなった神社を直す為、河童達は見慣れない機械や資材を持ち運び、せっせせっせと働いている。普段の園枝なら、一区切りついた頃に、機械の話でもするところだったが、今の彼はそんな気も起きないようだ。

 

 

 

 

「……でも、その妖力ーーそれが有れば、結構戦えるんじゃないか?」

 

 

 

そう言った魔理沙の視線の先にいるのは園枝。

そう。昨日刀を抜いた後の事。夜に霊夢から経緯を聞いた後に、園枝には妖力が宿っていたのだ。

霊夢曰く、量は下級妖怪と中級妖怪の間、との事だった。魔理沙の言葉に、園枝はふと空に手を向けてみる。

 

「……それ」

 

抜けた掛け声と共に、一瞬園枝の掌が光る。

すると園枝の掌から、赤い光弾が発射された。魔理沙は改めてそれに驚き、霊夢はそれに対し呆れたような溜息を漏らす。以前のような予備動作も無く、百合咲之剣という媒体も無く放たれた光弾。

それこそが、以前園枝が集中の末、どうにか撃つことが出来た弾幕だった。

鞘を使い、目を閉じ、聴覚すら制限し、自らの体内に眠る霊力を感知し、徐に目を開け。

そんな行程を踏んでようやく放った弾幕を、今園枝は掌から、何の集中もせず、ただ撃つと念じただけで。それだけでいとも容易く、射出したのだ。

 

但し、色も形も違う。以前は青い三日月状の弾幕だった。だが今し方放ったのは、赤い球体の弾幕。

鞘に纏わせ振るのに対し、手に集めて形を成し放つという発射方法の違い。

人間固有のエネルギーたる霊力に対し、妖怪固有のエネルギーたる妖力というエネルギーの違い。

それらが園枝の弾幕を変えているのだ。それ位はなんとなしに園枝も察していたようで、昨日の夜初めて妖力を使い撃った時も、特に驚くことは無く。ただ、あぁ何かが以前と変わってしまったな。そんな違和感と虚無感だけが、彼の抱くところであった。

 

「……一体、どうなっているのか、これは」

「そうだよ。お前一体、何で急に妖力なんて使えるようになったんだ?」

 

魔理沙には今朝一番に、神社へ降り立ちその惨状と河童達に眼を見張る中伝えてある。

ただ一言、妖力が宿ったらしいです、と。その時の魔理沙は、熱で頭をやられたのかと勘違いしていたらしく、真実を言った園枝に憐れみの目を向けていた。だが、何も人間に妖力が宿るのが有りえない、という事は無い。妖力に耐性のある人間なら、他者から妖力を受け取る事も可能だ。

それが非常に珍しい、もとい魔理沙に憐れみの視線を送らせたのは、その耐性を持つ人間が非常に少数であるからだ。増して、仮に耐性を持っていたとしても、それに気付かない、気付いても活用出来ないという事もある。故に、園枝にそんな耐性が有るとは思えず、魔理沙はそのような目をしてしまったのだ。二人して悩んでいると霊夢が、これは耐性がある事前提だけど、と前置いて話し始める。

 

「多分、その刀を抜いた時に、それが内包してた妖力が使い手ーー園枝さんに伝搬したんじゃないかしら」

 

霊夢の推測には、ある程度の根拠が有った。

先ず、園枝が倒した人狼の残骸を園枝が眠った後に見てみたが、あれは生前相当の猛者であった事が窺えたのだ。既に元通りの妖力は無かったが、妖力の残り香ーー残滓の力強さを見るに、あれは相当な強さであったと考え得る。それに対し、今の園枝程度の妖力で対抗する、増して持ち合わせた霊力で対応するなど、無理だと断言出来る。故に、抜刀し狂化した状態の園枝は、今よりも余程多い妖力を持っていたのだろう。詰まる所、今の妖力だけでは百合咲之剣の妖力量の限界には程遠い為、ただその一部が使用後にも体内に残留した。そういう思惟である。

 

「……は、はぁ。成る程」

 

あからさまに無理をして園枝が理解した風に返すが、それが虚勢である事は魔理沙から見ても明らかだった。刀の妖力の一部が身体に残ってるのよ、とだけ言うと、霊夢は煎餅を木皿から一つ取り齧る。周囲には醤油の香りが漂った。

 

「ふぅん……まぁ、無くはないか。ずっとその妖怪と戦ってたなら、身体にも結構な妖力を込めてただろうし。けど、呪い刀に妖力が込められてるって、なんか可笑しい気がするんだが」

 

何気無く、霊夢の膝に置いてあった木皿に手を伸ばし、魔理沙も煎餅を取る。

その手には二枚握られており、何処か遠くを見遣っている園枝の手にほい、と言って煎餅を落とした。

 

「さあ。復讐の為の刀らしいし、若しかしたら持ち主がいつの間にか妖怪になってたんじゃない?」

「あー、それは有り得るな。妖怪になるのも、案外気の持ちようだし」

 

笑えない話題だな、と思いながらも、園枝は何も言わず気の抜けた表情で煎餅を齧った。

大学に通っていた頃教授から渡され食した事のある、草加煎餅という物と似た味である。

無造作にそれを噛み砕ながら、ふと腕の涼しさに自分の右腕を一瞥した。

荒く裂かれた浴衣は、しかしながら血の一滴も付着していない。これは霊夢の話では、身体の再生時に、染み込んだ血までもが再び液状と化し、園枝の身体へと独りでに戻ったから、だという。

 

話を聞いた当初は、何とも気持ちの悪い、且つ人間離れしたその話に、自棄になって腕でも切って試そうかと思い立ったのを、霊夢に直ぐ様止められた。園枝自身、今思い出してもあの時の錯乱ぶりには目を見張る物があった。諦観したつもりだったが、どうやらあの時はただ、ショックで心身共に疲弊しきっていただけらしい。

 

話は逸れたが、園枝は改めて自分の身体を観察している。切創、裂傷、割創まで有り、一部は燃焼し

消えていた。最初に園枝の姿を見た魔理沙は、てっきり園枝がそういった特殊なファッションに目覚めたのかと、頭の件と同時に憐れみの視線を送ってきたが。

確かに、今の服装は少々、いや可也可笑しい。血が付いてないのは幸いしたが、それでもこれはファッションですと誤魔化せるレベルではないのだ。

 

「あの、御二方。この服を修繕して貰える場所なんかは、有りませんかね」

 

茶を啜り煎餅を齧って呑気に構えていた霊夢と魔理沙に、園枝が問いかける。

すると園枝を挟んだ二人は同時して顔を見合わせ、そう言えば、と言い合った。

この服装のことをすっかり忘れ去られていた事で、自分はそこまで存在感が無いのだろうか、と園枝は若干憂鬱に陥っていたと言う。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

所変わって、博麗神社を離れた上空にて。霊夢と魔理沙は、ふわふわとゆっくり浮遊しながら、空を移動していた。しきりに上空ーー二人の飛ぶ方を見遣りながら歩く園枝に、魔理沙は呆れたような口調で喋りかける。

 

「しかし、真面に妖力を使えるようになっても、飛べはしないんだな」

「飛べなくて良いんですよ。人には脚が有りますからね」

 

今の移動方法を簡潔に説明するなら、霊夢と魔理沙は浮き、その二人を一々見ながら着いて行く、というものだ。本来は霊夢が連れて行こうとしたのだが、歩いた方が道を覚えられる、と園枝が言った事で、こうした形となった。だが、園枝の本心は違う。もうこれ以上、迷惑を掛けては気分を害してしまう。それこそが、彼の本来の気持ちである。そんな彼らは、今森の中を進んでいる。

発ってから経過した時間を鑑みるに、神社からはまだ余り離れていないようだった。その上、未だ陽は燦々と輝いている。

 

「ま、私は持ってかないでも良いから助かるわ。園枝さん、結構重いもの」

「筋肉は脂肪の三倍の重量があると言います。見た限りは細身でも、それの大半が筋肉だったとすれば、ある程度重くなるのも仕方ないのです」

 

園枝がそう返すと魔理沙は、筋肉ねぇ、と猜疑心を孕んだ眼差しを送った。

見る限り、そう筋肉は無さそうに見える。先程浴衣の切れ目などから垣間見えてしまったが、彼の肉体はそう隆起に富んだ物ではなかった。

 

「……あの、言っておきますが。幾ら筋肉質と言っても、肉体労働の少ない外の世界での基準ですよ?この世界の基準で測るのは止めてくださいね」

 

どうやら、逸早く魔理沙の思考を察したらしい。園枝は確かに外の世界では、細身ながら中々筋肉がある、と言える程度の肉体を持っている。しかし、肉体労働がデフォルトのこの世界の男衆と比べられては、彼も只の細身にしかならなかろう。

 

「……それで、一体何方へ向かっているんです?只管歩いて来ましたが、こんな森の中をーー」

 

そう言い掛けた所で、園枝は急に言葉を紡ぐのを止めた。彼の視界に、初めて地面と緑以外の物が見えたからだ。

 

「そ、あれがお目当の道具屋ーー香霖堂だ」

 

魔理沙が香霖堂、と呼んだ場所は、この先に続く更に深い森の入り口辺りに建てられた、雑多な代物が多々並べられた店だった。並べられたと言うより、捨てられたの方が正しいとしか思えないその光景は、園枝の歩速を緩める。確かにその我楽ーー雑多の並べられた上には、香霖堂と書かれた看板が立て付けられていた。

 

「何だか……色々と、凄い様態ですね」

「ま、見た目は只の倉庫だよな」

「中も変わらないじゃない。ただ、園枝さんなら場合によっては、良い物も見つかるかもね」

 

霊夢の言葉の真意が分からず首を傾げる。二人は軽い動作で同時に地へと降り立ち、香霖堂の目前まで歩いて行った。園枝も近付いてみて、改めてその混沌具合に呆けてしまう。

薬缶、鎧、槍、壺、木偶人形、家具、更には置物などが乱雑に鏤められた有様は、よもや道具屋とも言えない何かだ。

 

「おーい香霖。邪魔するぜ」

「邪魔するわよー」

「し、失礼致します……」

 

魔理沙が勢い良く扉を開け放った。その瞬間、園枝の鼻腔を強い埃と黴の臭いが擽る。

いつかの、祖父の蔵程ではない。しかしこれは、到底人が営む店とは思えない程だった。

これは店と呼べるのかと、園枝は今更ながら不安を抱く。

 

「おーい、いないのか?」

 

魔理沙、霊夢、園枝の順で、店内へずけずけと踏み入った。無論、園枝を除き。

周囲には、埃まみれの我楽多や、園枝でさえよく分からない代物が多数存在していた。此処に良い物があるのか、と思いながらも翌々店内を見回してみると、彼が急に歩みを止める。

 

「……え、これって!ゲームボーイ!?」

「ほう。どうやら、外来人のお客を連れてきたようだね」

 

その声は店の奥、居住空間の方から発せられたらしい。声に反応し反射的に其方へ振り向けば、其処にはこれまた変わった風貌の男がいた。その男は園枝の存在に気付き、緩慢な動作で立ち上がると、園枝の方へ歩き出す。

 

「あぁ、君とは初対面だね。僕は森近霖之助という者で、この店を営んでいる」

 

霖之助と名乗った男は、この幻想郷の中ではかなり高い部類に入る長身であった。

青を基調にした黒とコントラストの、和装と洋装を合わせたような衣服。

目に掛かる程の銀髪に、丸眼鏡。顔立ちは名前の読み通り凛としているが、何処となく気難しそうな印象も受けた。すると、霖之助は不思議そうな顔をして園枝に尋ねる。

 

「どうしたんだい?」

「えっ……あ、あぁいえ、失礼致しました、僕は石塚園枝と申します。宜しくお願い致します、森近さん」

 

直ぐに名乗りに返せなかった為に慌てて名乗りを終えると、園枝は霖之助に対し、直角四十五度の丁寧な時宜をして見せた。すると霖之助も何故か少しふためいた様子で、此方こそ、と頭を下げた。

店主を務める割には、余り自然な時宜ではない。が、その様子から園枝は、存外付き合い易い人物かもしれない、と柔らかな笑みを零した。

 

「いやぁ、こうも丁寧に対応されたのは久々ーーいや初めてなものでね。つい面食らってしまったんだ」

「こ、この対応が初めてというのは……?」

 

「あぁ。君も知っているかもしれんが、此処の住人は基本的に変わり者が多くてね。本来あるべき店主と客なんて関係性は形骸化していて、専ら代金はツケにされたりと困っているんだ」

 

「な、成る程……確かに、そういった方々も多そうですよね。未だ交流は広くありませんが、なんとなく予想はつきます。増して、此処では確かな実力をお持ちの方も多い事ですし」

 

「分かってくれるかい!そうなんだ。気難しいのは疎か、凄い力を持った輩も多くてね。僕は無力だし荒事は好ましくないから、何も言えないけど」

 

「えぇ、えぇ。心中お察しします。状況は違えど、僕も似たような事は経験した事がありますから」

 

 

 

 

出会って数分で話を弾ませる霖之助と園枝。その二人の姿は、並んでいると似通っているようにも見えて、霊夢と魔理沙はふっと笑い合った。




草加煎餅、美味しいですよ。主人公は茨城県在住ですので、まぁそう遠くも無いし、と。
茨城県の著名な大学と言ったら……予想はつくでしょうか。

因みに、香霖堂は確か魔法の森の入り口近くに設けられていたんだっけか、と考えた為、魔法の森の瘴気やらに主人公が耐え得るか否かはまだ不明です。
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