刀憑きの青年   作:桐竹一葉

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今回は漸く『鞘が武器』のタグの効果が発揮されます!
そして文字数がまた嵩んでしまいました……8700です。
ま、まぁ、少ないよりは多いほうが良いですよね!ね!


あぁ、読む人いなかったか……


林中に証明を

「「で、話は終わったの(か)?」」

「「は、はい」」

 

香霖堂の居住空間に敷き詰められた畳の上。園枝と霖之助は、あの後小一時間程談笑を続けてしまい、痺れを切らした霊夢と魔理沙に無理矢理中断させられ、謝罪している最中だった。

見ず知らずながらああも話が続いたのは、霖之助の愚痴がそれだけ多かった事、園枝が存外聞き上手であった事、道具の知識がお互い有った事、何より自分と似たような人物であった事が有るのだろう。

 

「あ、あぁそうだ。話し込んで忘れていたが、今日はどんな要件で此処へ?」

 

すると正座をしていた霖之助が、徐に立ち上がった。霊夢と魔理沙ももう気は済んだようで、寧ろ

霖之助の言にはっとしている。

 

「そうそう。実はさ、園枝の服を直して欲しいんだ」

 

そう言った魔理沙を一瞥し、霖之助はふと園枝の方へ向き直った。すると何やら怪訝そうな顔をして、顎に手をやり首を傾げる。

 

「君の服ーーそれ、そういう趣向じゃなかったのかい?」

「ち、違います!」

 

切り傷に焦げた跡まで多種多様の傷跡、そんなものがファッションのつもりだと思われていた事に、若干ながら園枝はショックを受けた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「成る程、戦った跡だったんだな」

 

藍色の浴衣を手に取り、その傷跡を霖之助は懇切丁寧に見詰めている。園枝はまじまじと見られる事に不慣れなようで、若干恥ずかしそうにしていたが、されるがままだった。

霖之助は、浴衣の傷跡を見る度に何やら唸っている。

 

「……これは、相当な死闘だったんじゃないか?弾幕ごっこでは、とても」

「…………えぇ、そうです、ね。事の詳細は話し兼ねますが、酷い有様で」

 

それも当然。普通弾幕ごっこでは、精々一部が破けるか、少々焦げたり、浅く小さな切り傷程度だ。

それがこんな惨状では、霖之助が気にかけるのも当たり前。園枝は表情を陰らせ、霖之助の問いに

答え頷く。

 

「しっかし……何で態々修繕するんだ?そりゃ安く済むけど、こんだけになるとなぁ」

「そうね。自分でやったなら兎も角、やむを得ない事だし、多少は出費するけど」

 

埃を舞わせながら店内を物色する魔理沙と霊夢が、園枝に言った。霖之助は、僕の稼ぎが無くなってしまうだろう、と小言を呟いている。すると園枝は、申し訳の無さそうな、遠慮がちに笑みを浮かべた。

 

 

 

「だって……人から貰った大切な物ですから。可能な限り大事にしなきゃ、って思いまして」

 

 

 

そう園枝が漏らすと、急に園枝を除く三人は、大きく溜息を吐いた。急に揃ってそんな反応をされたせいか、失言をしてしまっただろうか、と焦り出している。が、どうやら違ったらしい。霖之助はその大きめな手を園枝の肩に置いた。

 

「君は、良い奴だな」

「え?」

 

意味も分からず困惑する園枝に、魔理沙は抑揚ある声を発する。

 

「幻想郷じゃ、人の事とかこうやって素朴に考える奴って、珍しいんだよなぁ」

 

霊夢も概ね同じ意見のようで、然り、としきりに頷いていた。園枝にとっては当たり前の、ごく普通の考えなのだが、幻想郷ではその心も普通ではないらしい。熟変わり者が多いという事を園枝は再確認した。

 

「さて、凡そ検討はついた。二日もすれば修繕出来るよ」

 

霖之助が何気なく発した言葉に、園枝は思わず目を見開く。大きな目が更に開かれ、霖之助は思わず驚いたようだ。

 

「ふ、二日!?これを二日で出来るんですか!?」

 

これというのは、これだけ襤褸くなった浴衣を、という事だろう。妙に驚く園枝に、霖之助は当たり前のように、そうだよ、と言ってのけた。服飾に感しての知識は零の園枝だが、それでもこれを直すのがどれ程面倒かつ大変であるか位の想像はつく。

 

「あぁ。その間はそれを預かるがーー替えの服なんかはあるかい?」

「…………あっ」

 

だがどうやら、それをすっかり忘れていたらしい。失言ではなく失念していたか、などと下らない思考を巡らせて呆けていると、霖之助がカウンターであろう場所から、何かを取り出した。

それは、折り畳まれた衣服。青を基調とした黒とコントラストのあやふやな服。そう、霖之助の衣服と同じ物である。

 

「無いなら、一時的に僕の服でも貸すが。幸い数着かある事だし」

 

どうやらこの香霖堂、乱雑な外見に反して、アフターサービスも万全なようだ。感謝の言葉を述べると共にそれでお願いします、と霖之助に頭を下げる。霖之助はそんな彼のような態度に慣れていないのか、止してくれ、と苦笑していた。

 

「数少ない善良なお客様の一人になって貰えそうだからね。此方も可能な協力は惜しまないよ」

 

善良な、という言葉を霖之助はやけに強調していた。霊夢と魔理沙は、何食わぬ顔で物色を続けているが。聞いていても無視しているのか、聞こえていないのか、それは恐らく前者だろう。

霖之助は無駄だろうな、というどこか達観したような顔をしていた。

 

「……あの、それでですね。物は相談なんですが、ね」

「ん?どうしたんだい?」

 

 

 

 

園枝が遠慮がちにそう話し掛けた時、ドアの外から大きな音が聞こえた。

否、音というよりは、声と表現した方がこの際適切であろう。それは、獣の如き吼える声。

しかし、どうも普通ではない。通常の野犬のような生易しいものではなく、非常に低いのだ。

声量からも、大型の獣である事が分かる。

 

「……妖怪ね」

 

そうだな、と魔理沙も肯定した。霖之助は微弱ながらも感じ取っているのか、それっぽいな、と曖昧に口走る。だが、園枝はそんな落ち着いた中で、一人驚愕していた。獣に対してではなくーー

 

「体長凡そ1.5米の狼型、妖力量は少なめ、ですかね……」

 

この数秒で其処までの情報を感じ取れた自分自身に、だ。

つらつらと、当然のように述べた園枝に、霊夢と魔理沙は驚いた様子で彼の方へ向き直る。霊力すらまともに扱えなかった園枝が、姿も見ずに敵の情報を得るという、ここまでの進歩を突如見せたのだから当然だ。

 

「……好都合です。皆さんのお手を煩わせる必要は有りません」

 

その時、三者は揃って園枝の変化を察する。彼の呟きには、今までに彼からは感じられなかった、明確な敵意が含まれていたのだ。そして園枝の双眸は、先程までの穏やかなものではなく、まるで敵を前にした戦士。すると、園枝はまるで戸惑いも躊躇もない確かな足取りで、ドアへと進んだ。

その場にいる三人は、何かを感じていた。纏う雰囲気が、微妙に変化している、と。

 

「ちょっと、園枝さん。何してるのよ」

 

余りの急変に呆然としていた霊夢が、どうにか園枝を引き止めんとする。

途中で霊夢が立ちはだかり、宥めるような口振りでそう言った。だが、園枝はまるで止まらない。

それを聞いてもいない様子で、強引に踏み出す事で霊夢の制止を払いのけた。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

霊夢の声は、よもや届かない。彼はそのまま、ドアを徐に開け放ちーー

 

 

 

 

「っふ」

 

 

 

短く鋭い吐息と共に、目の前に迫っていた獣へと目にも留まらぬ速さで、鞘による刺突を繰り出した。この一瞬で帯から鞘ごと抜き払い、突いたのだ。

 

「ーーなっ」

 

それが自分以外の誰の声であったかなど、今の園枝には至極どうでも良く、また意に介する事も出来ない。今彼の意識が向けられる対象は、吹き飛ばされる眼前の狼のみだ。

白い体毛の、只体格の良いだけの白狼、そんな印象を受ける。だがその身体には確かに妖力が宿っており、空中で回転する事で体勢を立て直し無事に着地した狼に、園枝は改めて妖怪で合っていた事に驚いた。

 

「狼かぁ……」

 

ふと、園枝はある時の事を思い起こす。黒い体毛の人狼、その全身の毛が逆立つ程に恐ろしい気配を。それと、今眼前で唸り声を上げ憤怒を露わにする白狼を比較し、参った風に鼻で笑った。

奴の妖力も、奴の速度も、奴の威圧感もーーこれは余りにも違い過ぎる。

 

 

 

「丁度いいや、ちょっと試させて貰おう」

 

 

 

呟いた瞬間、白狼は再び駆ける。此度の突進は、最初に扉を開けた瞬間の突進よりも数段早い。

7米は開いた筈の距離が、ほんの一瞬で半分程間合いを潰していた。地面が微かに爆ぜる音と共に急発進する白狼。それに対し、園枝は真正面から、迫り来る白狼へと向かい歩き出した。だが、その歩速は途轍もなく緩やかで。一歩分にも満たない距離へと詰め寄った白狼はーー

 

「鈍い」

 

容易く、弾き飛ばされた。

霊夢達は、もう驚く事が出来ないようだった。只呆けた顔をして、その様子を見守る事しか出来ない。鞘の殴打を顎に喰らい飛ばされた白狼は、またしても空中で回転し体勢を整える。

 

「あれ……あ、妖力か」

 

すると園枝は何かを思い出したような声を上げ、漸く赤い妖力を鞘、そして身体全体へと妖力を込めた。どうやら、先程までの二発の反撃は、全て無強化状態でのものだったらしい。園枝は馬鹿したな、とひとりごちて笑いながら、反撃を警戒する白狼へと歩み寄り始めた。

 

 

「先ずはーー速度」

 

 

その瞬間、次に爆ぜた地面は園枝の足元の方だった。ぼう、と強い砂塵の起きる音と共に、園枝は駆ける。白狼にも引けを取らない程の速度は、そのまま白狼の元へと一瞬にして園枝を運んだ。

目の前に来て尚手出しをしない園枝に、しかし白狼は手を出せない。

 

 

「良し。それじゃあ、次にーー膂力」

 

 

刹那、攻めあぐねる白狼の真横に、凄まじい風が起きた。破裂音じみた音を立てて落下、否、振り下ろされたのは、百合咲之剣。それも、赤い鞘に収まったままの。白狼は何が起きたのかも理解できず、ただ園枝の剣戟の風圧に慄き、遅れて飛び退いた。飛び退いた際見たのは、自分が今いた地面の横が、深く陥没している光景だった。

 

 

「これも良し。次はーー脚力」

 

 

次に白狼が遅れて感じたのは、腹部への馬鹿げた衝撃と激痛。その痛みに薄れる視界の中見たのは、右脚を振り抜いた格好の園枝だった。即ち、今自らの腹へ放たれたのは蹴り、そう自覚した時には、

更に遠くへと吹き飛ばされていた。痛みと衝撃に、今度は真面に体勢を整えられず、無様に地に落ちる。

 

 

「良し、と。次はーー戦い方か。それじゃあおいで、わんちゃん」

 

 

園枝は嘲りの念が垣間見える笑みを浮かべながら、白狼の元へと遅く歩み出す。

白狼には園枝の一歩一歩が、まるで一歩一歩着々と迫る、死神のように感じられた。

そしてその恐怖と実力差は早くも正常な判断を狂わせ、愚直な行動へと差し向けさせる。

 

 

「そうそう、そうやって攻撃し続けてくれ」

 

 

鋭利な爪牙が素早い連携で、園枝へと振るわれ向けられた。

左足での爪による斬撃、右足での爪による斬撃、顎での牙による咬撃。しかし、それらは悉く、園枝の脆弱な身体に傷一つ付けられはしない。左足の攻撃を左脚で弾かれ、右足の攻撃を右脚で弾かれ、

顎の攻撃を鞘で弾かれ。全ての攻撃手段を施行して尚、園枝には届かない。死に物狂いの必死の猛攻を、薄ら笑いを浮かべて容易く去なす彼の姿は、白狼からすれば恐怖の対象に他ならないだろう。

 

 

「駄目だ、もっと早く。後二倍くらい早くして欲しいな」

 

 

白狼は園枝に対し、理解出来る言語を使えない。しかし白狼は園枝の言葉を理解する事は出来ていた。だからこそ、園枝に遊ばれている事が、どうしようもなく苛立って、不甲斐無くて仕方ないのだ。白狼はより一層必死に、かつ殺意を交えて攻撃する。もう何度も何度も繰り返している攻撃を、心の何処かでは通じないと分かっていても続けているのだ。

 

 

「うん、良い感じ。後はーー弾幕」

 

 

そう園枝が呟いた瞬間、彼の手が強く光った。拙い、と思い回避行動を起こそうとするも束の間。

反応が遅れた白狼の顔面に、園枝の左掌が翳され、赤い光弾が直撃した。直径は人の顔を三つ並べた程の大きさで、ぼん、と破裂音を立てる。

 

 

「どうかなぁ」

 

 

呑気な声色で白狼の状態を気にかける園枝。対して白狼は、既に気を失いかけていた。

幸い、所詮は弾幕故、威力はそう高くない。殺傷能力も、園枝如きの妖力では無いに等しい。

それでも、下級妖怪である白狼の意識を持っていくのには、十分な威力を持っているのだ。

 

 

「それなりに効いてるみたいだね。実戦でも使えるようで良かった」

 

 

それなりに、どころではない。弾幕の本来の用途を鑑みれば、十分な威力である。

だが園枝がそれなり、と言ったのは、直撃させて尚白狼が気を失わずに立っているから。

もう意識は薄れて、失い掛けであると言える。それでも、白狼は園枝への憤怒で、自らを奮い起こしていた。目の前で顎を摩り何かを考えている、この巫山戯た人間を。そんな感情が精神を支配する中、園枝が笑顔で放った一言は、怒りという導火線に猛火を点けるものであった。

 

 

 

「あぁ、もう終わったよ。ほら、お帰り」

 

 

 

白狼は最大量の声を振り絞り、咆哮を放つ。同時に、自らの身体へ強く訴え掛ける痛覚すらも無視をして、地面を蹴った。突風が吹き荒び、砂煙が園枝の視界をも遮る。

これなら届く。この速度にこの状況なら、あの人間の首を引き千切り噛み殺せる。そんな確信を抱き、瞬時に距離を詰める。園枝の移動速度の倍にも届き得る、劇場に任せた最後の突進はーー

 

 

 

「諦めが悪いね」

 

 

 

その細い右腕に握られた刀の鞘に阻まれた。鞘が障壁となり、白狼の顔面へと衝突する。

高速の突進により衝突時のその威力は、園枝が最初に放った刺突以上に、白狼へとダメージを与えた。衝突の瞬間、呼吸すらも止み、何も考える事など出来ず。すると園枝が、衝突し宙に浮いた白狼の首を、左手で素早く強く掴んだ。

 

 

「もう終わりって」

 

 

そのまま首を地面へと叩き付ける。身体中を地面へと勢いよく落とされ、強い衝撃が白狼の大柄な

身体が僅かに跳ねた。それを園枝は強引に抑えつけたまま、百合咲之剣を逆手に持ち。

柄頭が空に、鐺を地面に向けるような形となったそれを、彼は全力で振り下ろす。

 

 

 

「言ってるじゃないか」

 

 

 

白狼は、顔面へと振り下ろされる鞘に死を感じていた。全力の自分がこうも容易くあしらわれるのでは、勝ち目も無かろう。これで死ぬのだ、と。しかし、白狼の予想は外れる事となる。

今の今迄何も言えなかった三人の内誰かが、ゆっくりと口を開けて漏らす。

 

 

「は、外した……?」

 

 

白狼の顔面へと振り下ろされたように見えた鞘は、白狼の真横の地面に埋まっていた。

その跡は若干ながら地面に突き刺さったもので、それがどれだけの力で放たれた一撃であるかは、想像に難くない。死んだと思いきや、辛くも存命している事に呆けている。そんな白狼に、園枝はふっと笑い、首を抑えていた手を離した。

 

 

 

「分かったでしょ。ほら、もう帰った方が良いよ」

 

その顔を見て、白狼は漸く完全に理解する。この人間には、絶対に勝てない、と。

 

 

 

「御免ね、実験台みたいにしちゃって。致命傷では無いだろうから、早く休まなきゃ」

 

園枝の言葉を聞くと、白狼は何を思ったか、少しの間園枝の目をじっと凝視しだした。

そしてまたしても白狼は理解する。この人間は、只の人間では無い。異常の人間であるのだ、と。

自分の顔へ送られる視線を感じ、どうしたの、と声を掛けると、白狼は何をするでもなく、尻尾を向けて足早に去って行った。その後ろ姿が見えなくなった時、漸く園枝は刀を下げ、腰の帯に差した。

 

「………………どうにかなったな」

 

園枝は大きく深い溜息を一つ漏らす。明瞭で分かり易い疲弊を含蓄したそれに、いつも通りの気の抜けた声に、初めて霊夢と魔理沙は我を取り戻す事が出来たらしい。佇む園枝に、急いで二人は駆け寄った。

 

「ちょ、ちょっと園枝さん!今のどういう事よ!あんな戦えたの!?」

「そうだぜ!この前は集中しなきゃ出来なかったのに、何で瞬時に弾幕が撃てるようになってんだ!」

「え、えっと……取り敢えず、落ち着いて落ち着いて」

 

目を見開いたままに詰め寄る二人に、思わず園枝も困惑してしまう。落ち着けるか、という眼差しを送られるが、園枝とて二人の質問に同時に答えるなどという技術は持っていない。

先に質問をして来た霊夢から、と決めると、園枝は右手で落ち着くよう示唆し、咳払いをした。

 

「っと、先ずは何故こんな事が出来るようになったのか、ですが。それは正直、僕にも詳しく分かりません。ただ、身体が強くなって、妖力が使えるようになったのにーーなんとなく、気が付いたんです。使い方も、本能的に、と言うか」

 

そんな馬鹿な、という意思を二人は顔で訴えている。実際、そう思われても仕方が無いのだ。

元々自分の身体に有って、それを使う為にある程度の修行を重ねた。それならば、何の疑問も抱かなかろう。だが園枝は、偶々残っていた妖力を昨日発見し、更に何の修行もしてはいないのだ。

霊力や妖力等に精通した者であれば、それは現実的では無く、虚言に類であるとしか思われないだろう。猜疑に満ちた顔をする二人に、園枝は出した右手の人差し指と中指を立てた。

 

「次に何故弾幕が簡単に撃てるようになったか、という事ですが。これも今説明した事とほぼ同じです。尤も、これはある程度霊力で撃ち方を学んでいたから、というのもあるんでしょうけどね」

 

やはり、二人共納得が行かない様子だ。それもまた、当然の事である。

霊力と妖力は、抑持つ存在が違うだけあって、扱い方は千差万別とは行かずとも、中々に違って来る。それを一回霊力で撃ってみただけで扱えるようになるなど、可笑しいとしか言えないのだ。

 

「僕にはよく分からんが、取り敢えず感謝を。追い払ってくれて有難う、園枝」

 

うぅん、と霊夢と魔理沙が悩む中、いつの間にやら加わっていた霖之助は、柔らかい笑みを見せてそう言った。本心からの謝罪であったのだが、園枝は案の定いえいえ、と返す。

 

「あれは、僕の為になってしまいましたので。感謝される謂れは有りませんよ」

「いいや、それでも結果的にそうなったんだ。ならば感謝するべきだろう」

「え?あ、はぁ……」

 

存外我の強い人なのかもしれない、霖之助の言動にそんな一面を園枝は垣間見た。そして、園枝はそこである事を思い出す。自分が、衣服の修繕費を持ち合わせていなかった事に。

本当なら園枝は、霊夢が店内を見ている内にこっそりと金が無い事を伝え、一週間以内に払うからツケにして欲しい、と頼むつもりだった。そうする事で、少しでも霊夢の負担を減らそうと考えていたのだ。霊夢からは言われていないが、境内の修繕にも多大な金が掛かるであろうことは、園枝も理解している。だからこそ、金の消費を抑えたいと思っていたのだ。

 

「……あの、それでですね、霖之助さん」

 

口籠もりながらも、その先を口にしようとしたその時。霖之助が何も言うこと無く、首を横に振った。どういう事かと逡巡していると、霖之助の口が声を出す事無く動く。

 

『金は必要ないよ』

 

読唇術など習得してはいないが、どうやら読みは当たっていたらしい。言った事に気付き驚いた様子を見せる園枝に、霖之助は手の親指と人差し指で輪を作り頷いた。園枝はそれに頷き返し、微笑んだ。何と気前の良い人だ、と。すると、霖之助は折り畳まれた服を突如差し出して来た。今彼の着る、青と黒の衣服である。それについて、ああ、と霖之助の意図を悟った園枝はーー

 

「よいしょ」

 

浴衣を脱ぎ出した。

 

「「はっ?」」

 

考え事と議論に熱中していた霊夢と魔理沙が、園枝の行動に思わず口と思考を止める。

しかしそんな様子など気付く素振りもなく、園枝は脱ぎ終えた浴衣を渡した。

何も、全裸という訳ではない。上は確かに裸だが、下には来た頃と同じ、黒いデニムを着用していたのだ。だがそれでも、上半身はしっかりと見えている。筋張った腕、微かに浮き出た僧帽筋、力まずとも隆起のくっきり現れた腹筋、折らずとも盛られた上腕二頭筋。確かに、筋肉質と控えめに言うならば、吝かでもなかろう肉体だ。

 

「それでは、宜しくお願いします」

「うむ、確かに受け取った」

 

帯と浴衣を適当に折り畳み渡すと、霖之助から同じ衣服を受け取る。そして霖之助が浴衣を丁寧に折っている間に、園枝はテキパキと衣服を着ていく。無論、その間も霊夢と魔理沙は唖然としていた。

 

「…………よし、着替え終わりました」

「あぁ、こっちも畳み終えたよ」

 

早くも作業を終わらせた園枝と霖之助。そして二人は、その背後に佇む気配に気付けなかったらしい。

 

「「この馬鹿!」」

「「うぐっ!」」

 

霊夢の手が園枝の頭を、魔理沙の手が霖之助の頭を捉えた。ごつ、と鈍い音がして、二人の頭に拳が叩き込まれる。予想だにしなかった痛みに、二人共頭を抱えてしまった。

 

「な、何で外で脱ぐの!?馬鹿なの!?」

「あのなぁ、何で止めないんだよ!?何で普通に対応してんだよ!?」

 

上半身だけじゃないか、と園枝は勿論、霖之助までもが心に思ったが、口に出すのは止めておく事にした。

どうも言ってしまったら、更に攻撃を受けそうな気がしたのだ。済みませんでした、などと適当に謝罪しながら、二人は頭の痛みに堪え立ち上がる。

 

「えー、まぁ兎に角。君ももう疲れただろうから、帰ったらしっかり休む事だ」

「お心遣い、感謝申し上げます。正味な話、中々疲れてしまいましたので、帰ったら直ぐに寝ようと思います」

「あぁーーそれじゃあ、また来ると良い」

「えぇ、また来ます」

 

霖之助の言葉を受けると、霊夢と魔理沙は未だ憤怒を露わにしながら、帰路へとついた。

いつの間にか空は橙色を呈しており、時間が経つ事は思うよりも早い事を園枝に実感させる。

最後に時宜を一つすると、彼は浮遊する霊夢達の後へ続いた。

 

 

 

 

「(あぁ……嫌な実感だ。本当に、人間離れしてしまってるんだな……僕は)」

 

「(石塚園枝、か。普通の客が来たのはいつ振りだろう)」

 

「(あぁもう……本当、何で人前で普通に裸を晒せるのかしら)」

 

「(しっかし、あの時の園枝……何か、様子がおかしかった気が)」

 

 

 

夕焼けは彼らの背を、酷く鮮やかに照らす。

四者はそんな思いを抱いたまま、其々帰るべき場所へと帰って行った。




霖之助が無料にしたのは、一見さん初回サービス、撃退サービス、善良なお客さんサービスです。
元々霊夢や魔理沙なんかはツケで全て利用していたようですし、一回程度なら気前よくしてくれるかなー、と。

ちなみにこの話で出てきた『(こじり)』という物ですが、これは刀の鞘の末端部、或いは其処に取り付けられた飾りの金物の事です。これから先、刀の用語がポンポンと出て来る可能性もありますので、こんなん知らんよ、と思われましたら、是非ご報告を。

はい、そしてやっとこさタグ回収出来ました。回収完了です(虐待おじさん
戦闘自体人狼の時が初だったので、回収がしようにも出来なかったのですよ……
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