この前はそれで家の蛍光灯を割ってしまいました。実話です。
お前の家の蛍光灯全部割ってやるよ、という方は感想を書いて頂ければ←
さて、タイトルである程度の内容は御察しされるかと思います。
度々主人公が霊夢さん、と気安く呼びやがる事(要は私のミス)が有りますので、その場合は御一報下さい。
即刻修正して主人公をいつの話かで痛い目に遭わせますので。
赤い霧の異変
相変わらず、九月に入って尚暑気の衰えは感じられなかった。乾いた熱気が肌を火照らせ、縁側に座る霊夢と園枝の肌に汗を滲ませている。しかし相変わらずというのは、縁側などの日陰の中、即ち日の届かない場所に限った話。
「……空が、赤いですね」
「ロマンティックな台詞みたいに聞こえるけど、可笑しいのよねぇ……」
空は赤い霧に覆われて、それは陽光の一切を遮断する障壁と化していた。未だ修繕しきれていない境内にはほぼ光が届いていない。それ故、室内であれば大した変化も感じられないのだ。だが一度外へ出れば、いつもとは違う事は、例え霧が不可視であろうと温度差で分かったはずだ。一見、ただ空がグロテスクになるが幻想郷中避暑地になる良い現象。人によっては、そう感じる事もあるだろう。しかし霊夢と園枝は、まるでそんな喜色満面ではない。
「……夏の果に 失す陽光や いと恋し」
「何それ、誰の句?」
「即興です。当然の様に有った物が突如無くなると、どうも恋しく思ってしまうな、って」
言葉の応酬を繰り返しながらも二人の顔には、これから先の事をある程度予見しているような、後の事を考えられているのか鬱念が浮き彫りになっていた。その証拠に、今も発する声に力は無く、いつもの霊夢のように園枝までもが気怠げな声色である。
「あの、これって……拙い、ですよね」
「……何が?」
「分かって聞いてますね。幻想郷は農業を主としているのに、このままずっと霧で覆われていれば」
「そうよね……農作物全滅だわ」
はぁ、と二人同時に、深い溜息を漏らした。勿論、園枝と霊夢の述べた理由は大きい。
幻想郷では、外の世界のように肉を食す事は余り無く、魚や野菜が主に食されている。その片割れが無くなったとすれば、食物を食わねば生き延びられない生物は飢餓により死ぬだろう。
そして妖怪も、そうして人間が居なくなれば、畏怖してもらえる存在が消えて死ぬ。
詰まり、避暑地開発の対価が幻想郷滅亡という、阿保臭いハイリスクローリターンという訳だ。
幻想郷住人なら、このままが良い、などとは口が裂けても言えない。
「それにあの霧、妖力が感じられますし」
「そうなのよね。妖力を帯びているから、あの霧自体がもう厄介なの」
通常の、何の耐性も持ち得ない一般人にとって、妖力は一種の毒になるのだ。
園枝は身体に妖力が存在するせいか、百合咲之剣の影響か、何の被害も無いが。
考えてみれば、似通った性質とは言え別の生物が扱うエネルギーを人間が浴びる、或いは体内へ吸収すれば、毒と化すのも当たり前の事。毒と言っても、精々が体調を崩してしまう程度で、建物から出なければ問題は無い。しかし、それがまた農作物の不足もとい消失に直結する。
これでは、幻想郷に多大な被害を及ぼすのも時間の問題だ。
「だからこそ、私の出番ーーこんな巫山戯た真似する奴には、お灸を据えてやらなきゃいけないわ」
「異変解決のスペシャリスト、ですからね」
霊夢は大幣と札を手にし、徐に立ち上がった。『異変』、その言葉は、最初に霊夢と紫から説明されている。定義的には、幻想郷規模の広範囲に渡る事件の内、発生時点で原因不明とされる事象だと言う。原因自体は、妖怪のきまぐれや興味本位による事が多いらしい。
そんな事で幻想郷は滅亡しないのか、と園枝も思わず疑問を口にしたが、ある程度は異変を起こして貰わねば寧ろ困る。それが紫の言い分で、それ以上は聞いていない。
「はぁ、でも面倒臭いわ……」
博麗の巫女という霊夢の立場上、こういった異変が起きた場合は真っ先に解決せねばならない。
決して強制されているのではないが、博麗神社が本来の神社として機能していない事や、霊夢自身の何かしらの考えも有って、自ら異変の解決へ乗り出すらしい。
過去にも何度か異変は起きたそうだが、既にその全てを霊夢は解決していると言った。
なんとも強かな少女だと、園枝はいつ頃か魔理沙が言っていた言葉の意味を理解する。
「おーい!一体何だよこれ!」
その時、上空から高い声が聞こえた。その時点で誰であるかは分かっていたが、この状況に見合わないいつも通りの元気な声に、思わず其方を見遣る。
「……魔理沙は相変わらず元気ね」
案の定浮遊していたのは魔理沙だった。赤い天空に黒と白の混ざり合ったその様は、何処か著名な絵描の描いた絵画のようだ、園枝はそんな思いを抱く。魔理沙は二人の存在に気が付くと、箒から飛び降りて難なく境内へ着地した。遅れて落下して来た箒を、片手で容易く受け止める。
「そりゃどうも。で、これは何でこうなってるんだ?」
「未だ原因不明だそうですよ。なので、これは異変という奴でしょうね」
「あー、やっぱりそうだったか。もう何度目か忘れたけど、懲りないなぁ」
懲りないとは言っても、今回実際に異変を起こしたのが、以前の異変を起こしたのと同じ人物という事はなかろう。霊夢曰く、一度敗れた者は後腐れ無く、あっさりと負けた事を認めるらしい。
それもまた、妖怪の性である。
「で、勿論行くんだよな?」
「……はぁ、行くってば」
「だよな!」
魔理沙の様子を見る限り、どうも彼女は異変解決に乗り気のようだ。
異変や事件や幻想郷崩壊などとは言っても、する事自体は弾幕ごっこ。殺し合いでもなく、弾幕ごっこという決闘の形を取ったゲームなのだ。だからこそ、力を持ったとは言えこんな少女が自ら乗り出すのだろう。
「あの、一つ宜しいでしょうか」
そして園枝は同時に、ある提案を思い付いた。小さく上げた手に、二人の視線が注がれる。
彼は今の所弾幕ごっこの経験は無く、戦闘も二回しか熟していない。それでも、ある程度の相手ならば実践に足る能力は有る。そして、異変に関わってくるのは何も強大な首謀者のみという事は無く、その道中でも弱い妖怪等に、些細な理由から弾幕ごっこを申し込まれる事もあるという。詰まり、安全性は高いということ。人狼や白狼の際は、相手が何故か殺す気全開であったり、弾幕ごっこの出来ない下級妖怪だったりという要因があったが故、ただの殺し合いのようになってしまった。だが今回はそれも無かろう。現に、霊夢は今まで人や妖怪の生き死にを異変では見た事がないと言うのだから。
ーーだから。
「僕も、御手伝いさせて頂いても構いませんか?」
だから、此処で見ておかねばならないと考えた。異変という、幻想郷では度々起こり得る事件。
仮に霊夢や魔理沙が出られない事があったとすれば、園枝もまた一介の異変解決屋になる事も考えている。もし今後もこのような異変が起きた場合、幻想郷に大打撃を与える可能性があるから。
だからこそ園枝は、今の内に経験を積み、何事にも対処出来るように、と志願したのだ。
園枝の言動に、案の定二人は目を点にさせている。園枝のような人物が、自ら異変解決に乗り出すとは考えていなかったのだろう。
「それ、本気で言ってる?」
「本気です。今の内にこういった事柄への対処を可能にしておきたいので」
「大概首謀者は強敵だぜ?」
「いえいえ、何も首謀者まで相手に出来ると自惚れた訳ではなく。僕と対等及び格下の相手がいた場合、此方に任せて先へ進んで貰えれば、と」
うぅん、と唸っている霊夢とは対照的に、へぇ、と魔理沙は感心した風だった。
「ま、それなら良いんじゃないか?昨日のを見るに弾幕は問題無いし、妖力の扱いも中々だったろ?
飛べないにしても、飛んでる相手に距離を詰める必要は無いし、避けられなさそうならいっそ鞘で弾けば良い」
魔理沙は軽く霊夢の肩へ手を置く。それでも悩む霊夢に園枝は、そこまで自分は信用出来ない人間なのだろうか、と肩を落とした。その時、落ちた視線の先で、自分の腰帯の左に差された百合咲之剣が目に入る。そして刀を見つめること数秒、漸く園枝は、霊夢が悩んでいる理由を悟った。
「抜刀に関しては大丈夫ですよ。僕だって人間離れするのは怖いので、硬く禁じておきますから」
「ん?あー、そういうことか。確かにまた刀抜いて変な事になったら拙いしな」
魔理沙も霊夢の考えに気付いたのか、少女らしく可愛らしい動作で手を叩く。
あの時はただ境内を傷付け、敵妖怪を殺める程度で済んだ。しかし、もし次も抜いてしまえば、またあの程度で済むとは限らない。未知の危険物を使わざるを得ない場所に園枝を連れて行くのを、霊夢は渋っていたのだ。
「…………はぁ。ま、良いわ。弱いの相手なら、鞘のままでも大丈夫みたいだし」
納得したと言うよりも、仕方なく、そんな口振りであったが。霊夢もまた、園枝の協力を認める事にしたようだ。明朗快活な笑みを浮かべピースを向けた魔理沙に、園枝もぎこちない笑みを浮かべてピースを返す。
「じゃ、決まりだな。後はいつ行くかだけど」
「夜で良いんじゃない。朝から行くのは気が滅入るわ……って訳で、夜になったら起こして」
結局霊夢は、気怠さを前面に押し出した顔のまま、神社の中へと戻って行ってしまった。
一応結構な危機のはずなのだが、思わずそう園枝は苦笑した。魔理沙も、異変を前にして博麗の巫女がこれで良いのか、と園枝に酷似した微妙な表情をしている。
「ほら、起きたばかりでは本領発揮出来ないんではないでしょうか。それに、仕掛けるなら朝よりも闇夜に乗じて闇討ちなんかの方が効率的ですから」
園枝がこう言ったのは、霊夢のフォローという理由には留まらない。
「ーーだから、そんなウズウズしないで欲しいです」
今にも飛び出してしまいそうな程、爪先でしきりにに地面を叩き忙しなく手を動かしている。
そんな異変の解決に行きたい、という欲求が駄々漏れの魔理沙を制する為だ。
「あれ、ばれてたのか?」
「結構分かり易いです。分かり難くては困りますし、此方としては好都合ですが」
あれでも隠していたつもりらしく、魔理沙は驚いた顔で園枝を見ている。人との付き合いが非常に少ない園枝でも、社会に出て不自由しない程度には人を見る目は有るのだ。然すれば、魔理沙のように分かり易い者であれば流石に気付く。
「ま、確かに園枝の言う事も一理あるかもしれない。ただーーお前、結構えげつない事考えるんだな」
魔理沙は若干呆れたような表情でそう言った。はて、えげつない事とは、と少しの間悩んでいると、闇討ちとか、と魔理沙が付け加える。しかし園枝からすれば、負けてしまえば異変の解決も出来なくなってしまうのだから、そこまでするのは当然という思考なのだ。
「そう、でしょうか。尤も闇討ちとは言ったって、殺し合いではないので。利点は相手の準備を待たずに戦える位ですね」
「十分だろ。真正面からやりあったっていい位だ」
「……それ、ただ全力で戦いたいだけ、とかじゃないですか?」
園枝の言葉に、魔理沙はにっこりと深く微笑んで見せる。やっぱりな、と思う反面、分かり易い人で良かった、という安堵の感情を園枝は抱いた。
ーーーーーー
「博麗さん、勘でこっちへ来たって言ってましたが、大丈夫でしょうか……」
時と場所も変わり、夜分の神社裏に繁る森の中。赤い月の照らす夜道を、霊夢と魔理沙が飛行し、
変わらず園枝は徒歩で付いて来ている。霊夢は少し先の方へいるのを見るに、心の底から早く終わらせたいという一心なのだろう。後方から見ても、その面倒臭いという感情がオーラのように感じられる。
「心配する必要は無いぜ。霊夢の勘は凄いからな」
つい先程魔理沙に叩き起こされた霊夢は、魔理沙が何処に行くと尋ねると、暫し逡巡した後こっちと指差したのだ。園枝は知らなかったが、この先には何やら湖があるらしく、そこいらが怪しいと踏んだという。魔理沙が言うには、多分大体適当、との事だったが。
「それならいーー」
その時、霊夢が突如得物を構えて臨戦態勢を取った。唐突だった為か、思わず園枝も言葉を中断させてしまう。何かあるのかと、魔理沙も懐から何かを取り出し、霊夢の所へ向かった。
「ちょ、っと待って下さーい……」
一人飛行も出来ず、仕方なく霊夢達の方へ走って行く。
「あんた誰よ?」
すると霊夢の声が聞こえると共に、漸く園枝もそれの存在を悟る。昨日も、そして今も霧から感じられる物と同じ、妖力を持った者が上空に浮遊していたのだ。
「さっき会っ……てないか。人間なのに暗闇の中でも見えるのね」
妖力に声の発生源の方へ、首を上げて向き直ると、確かにそこには何者かがいた。
赤い目に、襟首の近くまでに切り揃えられた黄色の髪、それに左側頭部の赤いリボン。
白いシャツに黒いベストのような物を羽織り、黒く長いスカートを履いている。
そんな洋風の風貌をした幼い少女が、霊夢達の前の空間に立ちはだかっていた。
「ハッキリではないけどね。で、邪魔なんだけど」
「連れないなぁ、もう少し話してくれていいじゃない」
どうやら、性格などは見た目通り幼いらしい。だが三人は、とうにこの少女が一匹の妖怪であると気付いている。園枝が見る限り、妖力量は昨日の白狼の二倍程。二倍と言えば強敵のように思えるが、比較対象は下級妖怪。そこに大きな差は存在しないのだ。
「博麗さん、この子は僕に任せて貰っても大丈夫そうですよ」
だからこそ、園枝には都合の良い相手である。霊夢は少女を一瞥すると、何を思ったか軽い溜息を漏らした。
「……大丈夫なのね?」
園枝は何も言わず、霊夢の目を捉えたまま然り、と頷いた。彼の顔はいつの間にか、いつものような抜けた表情ではなく、白狼と戦う前と似た、十分に気を引き締めた面構えだった。黄髪の少女も園枝の方を、まるで珍しい物を見るかのように、何やらまじまじと凝視している。
「……じゃ、頼んだわよ」
「頑張れよー!」
その隙を突く事で、霊夢と魔理沙は少女の傍を高速で飛行し、すり抜けて行った。
だが、少女はそんな二人に対し、何も行動を起こさない。過ぎ去る瞬間、突風がその髪をはためかせても、其方へ向き直る事もしなかった。それどころか、今も尚園枝の事だけを見つめている。
こうも子供に凝視されると、何故か園枝は居心地が悪く感じた。すると少女はそのまま、徐に口を開く。
「…………貴方、人間なの?」
「……はい?」
どうやら少女は、園枝に抱いたそんな疑問故に止まっていたらしい。霊夢と魔理沙が去り行き、木々のざわめきだけが聞こえるこの場所で、少女の高い声はやけに、厭に響いた。
訳の分からない質問に頭を押さえながら、嫌な事を言うなよ、と心の中で彼は呟いた。ただでさえ、自分でも人間離れしたこの身体に驚き、同時に慄いているのだ。それを他者に、それも妖怪にまで言われてしまっては、園枝もショックを隠せなかった。
「人間だよ。元はごく普通で、一寸した理由で今は普通ではなくなったけどね」
「普通じゃないなら人間じゃないんじゃないの?」
「十人十色って言葉があるだろう。人はみんな違うから、僕みたいな変わり種がいるのも仕方ないんだよ」
「ふぅん。そんな妖力持ってるのに、人間なんだ」
何処か諦めたような声色で言った事からして、どうやら園枝の完全否定に面倒臭くなったようだ。
すると、今度は園枝が話を切り出す。
「所で、君の名前は?」
「私?私はルーミアって言うの。貴方は?」
「僕は石塚園枝っていうんだ」
自己紹介を終えると、ルーミアと名乗った少女は周囲に展開した弾幕の数を更に増やし始めた。どうやら、いや、予想通りではあるが戦う気らしい。園枝も鞘ごと帯から引き抜き、今一度柄を強く掴み、鞘へと強く押し込んだ。
「ねぇねぇ、園枝。もしかして、その刀が可笑しいんじゃない?」
「名乗ったは名乗ったけど、名前で呼ばないで欲しいな。で、まぁそうだね、この刀が僕に変化を催したんだ」
やはりあんな容姿であれ妖怪だけあって、百合咲之剣の気配は感じ取れるらしい。
翌々考えてみれば、ルーミアが先程まで凝視していたのは園枝ではなく、その腰に差した刀の方だったのかもしれない。百合咲之剣を見る彼女の顔は、心なしか顰めっ面になっているように園枝には見えた。
「……その刀、何だか嫌な感じがするの。園枝は美味しくなさそうだし、食べれない気がするし、
早くお帰り願いたいわ」
「あぁ、君も妖怪だし、やっぱり人を食うのか。済まないけどーー帰って貰うのは僕じゃなくて、君の方になる」
園枝は鞘と全身に、満遍なく妖力を込める。仄かに赤いオーラのような妖力が身体から迸り、赤い月の照らす夜を彩った。人を食らう妖怪に対峙するは、人を蝕む妖刀の使い手。
少女を相手に刀を向ける園枝は、一見異常者にしか映らない。それでも、園枝の直感は囁いていた。
あの少女には、何かがあると。
「そうーーそれじゃあ、これで決めるしか無いわね」
赤い月夜の下、煌めく星々の如き弾幕が放たれた。
やっぱり、ルーミアとは合わせておきたかったのです。趣味ですが。
あ、主人公は何も、誰であろうと敬語を使うという事はありません。外見年齢や振る舞い、場合によっては実力差などに応じて使い分けます。
本当はもっと原作っぽい会話にしてみたかったのですが、いかんせん主人公のキャラではやり難かったので……原作のあの独特の会話って何だか良いですよね。正直少女の話し方ではありませんが