刀憑きの青年   作:桐竹一葉

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一寸した用事の為、1日遅れてしまいました。その癖文字数は5300……
つ、次は多めになる予定、です……


鮮紅色の幼鬼

ルーミアとの戦闘も終え、異様に濃い霧のかかった湖を通過する事10分。

 

「此処、みたいだ、けど……」

 

園枝は今、赤い館の目の前にいる。比喩でもなんでも無い、本当にそうとしか形容できない館だ。

ルーミアとの戦闘から10分程経ち、霊夢達と同じ進行方向へ赴いてみると、存外簡単に到着した。

行く途中途中では、倒された少女達がそこら中に転がっていたりもした為、凄い光景だな、と驚いたものである。それに、その少女達がまた可笑しな事に、羽が生えていたのだ。虫のようなそれに驚きつつ、既に幻想郷の思考に適応して来ていた園枝は、あぁこういう種族もいるんだな、程度の軽い感想しか抱けなかったが。

 

「はぁー……豪奢な外観だなぁ」

 

テラスや花壇、広場などの設けられた広大な庭。その中心部に、全てが血のように赤く塗られた洋館が建っていた。そして園枝は今、赤い洋館の門の前で佇んでいる。外の世界では、相当な財力をもっていなければ、こんな建築物は建てられなかっただろう。

 

「でも、博麗さん達が入った後みたいだ……外壁も傷んでる」

 

園枝がそう呟き一瞥したのは、門の前で気絶していた、チャイナドレスを着た赤い髪の女性。どうやら弾幕ごっこの後のようで、軽傷ながら所々衣服や肌などに攻撃の痕跡がある。元々露出の多い扇情的な服装に加え、弾幕ごっこの影響で破れている箇所もある。普通の男であれば多少なりとも動揺を抑えられないだろうが、園枝はそれに酷く興味の無い目をしてした。興味があるとすれば、それは彼女が如何にして霊夢達に敗北を喫したのか、それ位である。

 

「まぁ、起きてたら敵対してたかもだし、幸いか。それじゃあ失礼します」

 

誰も答えない事を分かりつつも、園枝は赤髪の女性に時宜を一つすると、開いた門を通った。

この赤い霧に包まれた夜でなければ、この空間は嘸素晴らしいものだったのだろう。園枝は庭園の

出来の良さに感嘆の声を上げながら、徐な足取りで洋館の扉へ向かっている。顔を世話しなく動かし、周囲を見回せば見回す程、この庭園の出来の良さには驚かされた。

 

門から続く道を中央に、両脇には柔らかそうな芝生が広がっている。煉瓦の外壁に沿って一際大きな何らかの樹木が植え込まれており、それはデザイン性に加え、侵入し難くするという機能性を兼ねた仕組みになっているようだ。煉瓦製の花壇には色彩豊かに多種多様の花が植えられ、この距離にして

園枝の鼻腔に芳香を届かせる。庭園の奥に設けられたテラス席は、テーブルもチェアも白い鍍金を施された金属の物で、赤い洋館に緑と花の空間に於いて調和を助長していた。

 

園枝は本来和風建築が好みなのだが、洋風建築にまで興味が湧くような、趣ある造りであった。

一時はこれが異変の最中である事も忘れ、此処で紅茶の一つでも飲んでみたい。などと呑気な事を考えてしまったが、馬鹿な事を考えるな、とどうにか自分の欲求を抑制した。

 

「ふぅ、駄目だ駄目だ。切り替えなくちゃ」

 

自分にそう言い聞かせて、自らの両頬を強く叩く。不思議とそれだけで緩んでいた意識が引き締められ、園枝の顔はルーミアと戦った時と同じ、緊張感を持った表情に戻っていた。

抑、此処に霊夢達が来ているという事は、仮にも敵の本拠地であると言える。そんな中情景に見惚れているなど、なんたる失態か。園枝は自らの散漫な意識を悔いて、注意深く周囲を観察しながら洋館の扉へ到着した。

 

「…………行くか」

 

霊夢と魔理沙という先遣隊は、恐らく館内まで侵入しているのだろう。庭園に残った小さな弾幕の跡を見てそう悟った。だとすれば、館内に敵が残存しているとは考えられない。故に園枝は、何ら躊躇いも無くその扉を開けた。

 

 

 

「……こ、これは」

 

 

 

そしてその先に見たものは、幾千にも思える程の、夥しい数の少女達が倒れ臥す、死屍累々たる光景であった。勿論門にいた赤髪の女性と同じく、軽傷を負い気絶しているだけだが。

 

「さっき通った湖と同じ、種族みたいだけど……メイド?」

 

背に羽を生やしている事、小柄である事は、先程通過した霧の濃い湖と変わりない。

しかしどういう訳か、ここの少女達は皆揃ってメイド服を着用しているのだ。案の定彼女達の服も破れたりはだけており、童女趣味の者には垂涎するべき光景だろう。が、園枝にそんな趣味はない為、

ただ凄い光景だな、というだけの思いを抱き歩き出した。

 

「多分、此処に首謀者がいるんだろうなぁ」

 

気絶した少女達を足蹴にしないよう気を付けながら、視界に入った階段の方へ向かう。

園枝の履いた革靴の音は、抑えていてもこの広い館内には響く。内心、存在を悟られてしまったらどうしようか、などと戦々恐々としながら、360度周囲への観察を怠らない。

そのまま何事も無く階段へ辿り着き、高価であろうレッドカーペットの敷かれた螺旋階段を、一歩一歩着々と登って行く。

 

「…………ん?」

 

その時園枝の耳朶を、小さいながら何かしらの音が打った。度々鳴る甲高い金属音、建物の壁に何かをぶつけるような打撃音、そして何者かの高い声。それらが二階、階段を登りきった際に、右の廊下の方から聞こえたのだ。

 

「もしかして、戦闘中?」

 

足音を出来得る限り小さく抑えながら、壁に身体を張り付ける。そのまま頭だけを動かし、そっと顔を覗かせた。すると、其処では園枝の予想通り、弾幕ごっこが行われているようだった。

見れば、戦っているであろうその二人の人影は、目にも留まらぬ凄まじい速度で空中戦を繰り広げている。ルーミアと園枝の対決などとは、よもや圧倒的にレベルが違うと言えた。

 

片方の影はどうやらナイフを使うようで、移動の最中に幾つものナイフを投擲している。

そのナイフもまた異様な速度で飛来するが、もう一つの影はそんな物を物ともせず、容易く躱していた。また、時折ナイフを投げる影にもう一つの影が肉薄し、棒状の何かを振るい小さな針を飛ばす。

が、それをナイフ使いの影が紙一重の見事な動作で避け続けている。

何とも熱戦、何とも高度ーーそして何より、美麗であった。

園枝も一時我を忘れて、眼前で行われる激戦に魅入ってしまう程に。弾幕ごっことは言え、所詮は闘争。彼はそんな事は好ましいとは思えない性質である。だと言うのに今だけは、そんな考えが覆されてしまった程に、その戦いは華麗であった。或いは、それは闘争よりも演武と形容するべきである。

 

そして、漸く我を取り戻すと同時に、ある事に気が付いた。それは二つの影が、一度拮抗を止め、互いに地へ降り立ち距離を取った時。ナイフ使いであろう、メイド服を着用した銀髪の背高の少女は知らなかった。だがもう一つ、棒状の何かを振るい針を飛ばしていた人物については、心当たりどころかよく知る者だ。

 

 

 

「は、博麗さん!?」

 

 

 

園枝の意図せずして出てしまった大声に、銀髪の少女と同時に霊夢が其方へ向き直った。

銀髪の少女は突如現れた園枝に対し、何者だというような警戒の念を目に宿し、視線を向けている。

対して霊夢は、やっと来たのか、と言わんばかりに呆れたような念を目に宿し、視線を向けている。

戦闘を遮ってしまった挙句二人の視線を受け、園枝は弁解をも言い淀んでしまっていた。

 

「あの男も貴女のお仲間?」

「まぁそうね。此処まで遅いとは思わなかったけど」

「うっ……返す言葉も御座いません……」

 

銀髪の少女の問い掛けに、霊夢は鰾膠無い言葉を返した。園枝もルーミアという下級妖怪の少女を相手に苦戦してしまった為に、否定も出来ず肩を落とす。増してあのような、勝ちとも呼べぬ勝ちを選んでしまったのだから、尚更というものだ。そんな見るからに覇気の無い園枝に銀髪の少女は、奴は脅威たり得ない、と判断したらしい。直ぐに視線を霊夢に戻し、その目には滾る闘争心を宿らせた。

すると霊夢は、視線を少女から外さずに口を開く。

 

「園枝さん。悪いけどこれ以降は、貴方がどうにか出来る程甘い相手はいないの」

「…………はい」

 

銀髪の少女の強い視線を一身に受けながらも、霊夢に怯んだ様子は無い。

対して園枝は、傍からそれを持ているだけでさえ、身体が芯から震えてしまいそうになる。どうにかそれを抑えられていても、恐怖心は掻き消せない。増して園枝は、ルーミアを相手に此処までの時間を掛けてしまった。そしてそれらを全て理解しているからこそ霊夢は、敢えて園枝に辛辣な言葉を投げかけている。現状残った敵、それはこの異変の首謀者のみと、霊夢は推測していた。故に、園枝に任せられる事はもう無いのだ。

 

「良い事を言うわね、巫女。その程度の力じゃ、お嬢様には手も足も出ないもの。それに此方としても、お嬢様に戦わせるような事はしたくないから」

「……そういう事。せっかく相手方もこう言ってくれてるから、今の内に帰った方が良いわ」

 

実力不足である事なら、ついさっき嫌という程に実感した。

銀髪の少女と霊夢との戦いを垣間見た。ただそれだけでも、自分との実力差ならよく分かる。

何方と比べても、足元にさえ及ばない。このまま(・・・・)では、勝負にもならず一瞬で終わるだろう。

 

ーーそれでも、死ぬ程悔しいんだ。

 

 

 

 

 

「あら。館の主たる私が、雑魚とは言え侵入者をーーみすみす見逃すとでも?」

 

 

 

 

 

刹那。重苦しい程の圧力が、その空間を圧迫した。

全身の毛が逆立つ。意識が遠退く。眩暈が起きる。息が苦しくなる。心臓を鷲掴みされたよう感じる。手足が震える。額に脂汗が伝う。歯が音を鳴らす。

それらを一瞬にして引き起こす程の悍ましき気配、それは園枝の後方から放たれていた。

見たくない。逃げ出したい。そんな感情が一瞬にして悔しさも消し去ってしまう。

けれど、見ない訳には行かない。目を向けねば、今にも殺されてしまいそうに感じて。

震える身体で、背後へと向き直った。

 

 

 

「お初にお目にかかるわね。私はレミリア・スカーレット、この紅魔館の主にしてーーこの赤い霧の原因ですわ」

 

 

 

其処に居たのは、少女だった。酷く小さな背丈で、非常に小柄。黒い小さな翼が生えている事を除けば、何も可笑しい事は無い。青く短めな髪、幼気な面立ち、濃いピンクのナイトキャップ、同じ色のドレス。些か変わった風貌ではあるが、別段可笑しいという事は無い。

 

「あ……ぁ……」

 

なのに、震えてしまう。相手の風貌など関係も無く、無条件に身体の芯から。

本能的な恐怖、それだけが園枝の抱く感情だった。怖い、という思いだけが心と頭を支配して、真面に話す事すら叶わない。そして園枝の本能は同時に、ある事を悟っていた。

この怪物は、人狼よりも数段強い、と。

 

「あらあら、可哀想ね。中途半端な実力だからこそ、他者の力を理解してしまう。いっそ只の人間なら、その恐怖も幾分か薄れたのに」

「……っ!園枝さん!逃げなさい!」

 

霊夢はどうにか園枝を動かそうとするが、それは無駄に終わる。

彼は今、目の前に現れた死に、何も考えられなかったのだ。逃げるなど、考えられない。

逃げる事など出来る筈が無い、そう感じ取ってしまったから。よもやこの怪物の言う通りにするしか無い、そう精神が服従してしまったから。

 

「逃がさないわ。貴方には、私と一緒に来て貰うとしましょうか」

 

レミリアの一言と同時に、霊夢が先程の戦闘と同じ程の速度で、園枝の元へと駆け出す。

初速にして凄まじいその移動速度は、警戒状態にあった銀髪の少女でさえ、一瞬反応出来なかった程だ。

 

「貴方の相手は私よ」

 

しかし銀髪の少女は、まるで瞬間移動をしたかのように、文字通り刹那で霊夢の前に立ちはだかった。それの原因について心当たりがあるのか、霊夢は憎々しげに少女を睨む。園枝を即座に奪取し、

外へ放り投げてでも逃がそうと考えていたのも、少女の手によって防がれてしまった。

 

「頼んだわよ、咲夜。私はこの子羊と、少し遊んで来るわ」

「はい、お任せ下さい」

 

レミリアはそう言って、呆然とする園枝を指差す。

咲夜と呼ばれた銀髪の少女は、レミリアの言葉に恭しく答えた。そんな中霊夢は、その刃物のように鋭い視線をレミリアへ向けている。

 

「……レミリアとやら。アンタ、まさか殺す気じゃないでしょうね」

「スペルカードルール、といったかしら。その非殺傷を是とする規則は」

 

霊夢の威圧感を多大に含蓄した問いに、レミリアは的外れな答えを返した。

戯けるな、と殺気を放つ霊夢。しかしそれに対して、レミリアは深く、けれども慈悲や慈愛など一切感じさせないまま微笑んで見せる。

 

 

 

「けれどそれって、破った所で何の罰則があるって言うのかしらね?」

 

 

 

「アンタはーー自分の行動が何を起こすかも分からないのか!」

 

霊夢の形相は、今迄に無い程の憤怒に歪んでいた。さしものレミリアも笑って済ます事は出来なかったか、相応に鋭い眼差しを霊夢に送る。

 

「知らないわね、そんな事は。さて、それじゃあ行くとしましょう」

「ぅ、あ……」

 

必死にレミリアへ迫ろうとする霊夢だが、それを咲夜は由としない。多量のナイフを投擲し、彼女の動きを制限した。その間に、レミリアは園枝の襟元を掴み、歩き出す。

 

「園枝さん!逃げて!」

 

幾ら霊夢が呼び掛けようが、園枝には応じる事が出来ない。今の彼にできる事は、ただレミリアの意思に従い、僅か一刻でも存命の時間を引き延ばす事だけだった。

 

 

 

ーー僕は、何て弱いのだろう。

 

半ば上の空の意識の中で、そんな思いが彼を苦しめた。

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