刀憑きの青年   作:桐竹一葉

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更新速度が著しく落ちたような……最近は予定が立て続けに有りまして、それの影響ですね。


和解を望むは吸血鬼

「という訳で、見に行こうぜ」

「という訳で、見に行って欲しいの」

 

魔理沙とレミリア曰く、紅魔館の周囲にのみ、この晴天の中大雨が降ったらしい。確かに、奇異と言えば奇異だろう。こんな晴れやかな蒼穹の下で、よりによって紅魔館にのみ雨が降るのは。

しかし奇異ではあれど、有り得ないなどとは思えない。そんな事如きで有り得ないなどと抜かしていては、これから先幻想郷という非常識の世界で生き抜くことは能わないのだから。

よりによってというのは、レミリアのような吸血鬼は雨を苦手とするからだ。触れてしまうと動けなくなるので赴く事が出来ない、と言う。

 

何とも無茶苦茶な言い分にも思えたが、確かに吸血鬼が雨を嫌うという話は、園枝とて小耳に挟んだ事はある。厳密に言えば、流水を苦手とすると言われていた。流れる水は、穢れや邪悪な物を洗い流すという意味合いがある為、魔に属するレミリアは苦手なのだろう。キリスト教の洗礼などもまた、そんな意味合いが有るのやもしれない。常識の通用しない、幻想すら常識たり得るこの世界では、そんな伝承やお伽話のような話であれ、十分な真実になる。

 

「……雨が降っただけじゃない」

「私が帰れないでしょう?」

「若しかしたら異変かもだぜ?」

 

面倒臭さを前面に押し出して言う霊夢に、レミリアと魔理沙は二方向からの口撃を返す。

レミリアが帰れなくては、この神社に居座ってしまう可能性もある。第一、吸血鬼との共同生活など園枝からすれば、幾ら優れた容姿を持ったレミリアであれ、ぞっとしない話だ。

異変であるとすれば、それはどんな形であれ博麗の巫女が解決するのが筋というもの。それが幻想郷の数少ない常識であり、謂わば決まり事やら様式なのだ。

 

「…………はぁ。為す術なし、ね。私にとっては」

「「そういう事」」

 

やけに和やかな表情を張り付け、レミリアと魔理沙が声を揃える。直ぐに息の合ったコンビネーションを発揮する二人に、霊夢は呆れながらに感嘆の声を上げた。すると、魔理沙が思い出したように声を上げ、その後申し訳なさそうな表情へと変わる。

 

 

 

「あー……第一、そこで震えてる園枝が哀れだからな。早めにレミリアを送還してやろう」

 

 

 

魔理沙が指差したのは、霊夢の背後の部屋ーーの襖障子の隙間から、僅かに隻眼を覗かせる園枝であった。

 

「し、仕方ないでしょう……寧ろ、何でそんな直ぐに馴染めるんですか……」

 

障子の縁を掴む手は僅かに震えていて、その覗かせる眼に、いつぞやの戦いを彷彿とさせる覇気は僅かにも残っていない。本当に、これは誰だろうか。それがレミリアの感想だ。

霊夢達からすれば、情けないとは思いつつも、人柄から考えれば納得出来なくもない行動だが。

それでもレミリアは、常時の園枝を知らない。狂的な負けん気と戦闘意欲に身を委ねた、人間から逸脱したような園枝しか。

 

「流石に怯え過ぎよ。もう異変も終わったんだから、後腐れなんて無いでしょ?」

「そうそう。昨日の敵は今日の友ってな。まぁ、明後日なんだが」

「わぁ……驚きの適応力。流石の常識破りです」

 

彼にとっての常識に当てはめれば、敵の首領もとい首謀者と出会った場合、暫しの間は警戒を怠らず、増して自分達の居住地に入れるなど到底しない。出来る程敵を信用するという事が出来ない。

口頭でもう争うつもりは無いと言われたとしても、園枝ならば絶対に取り合わないだろう。

取り付く島も無く、お帰り下さい、と丁寧に去って欲しいという旨を伝える筈だ。

 

 

 

「というか、昨日も来てたんだけどな」

「寝てる園枝さんに、普通に触れたり血を飲もうとしたりしてたわね」

 

 

 

なんたる事だろう。園枝は声に出す事もできず、目を見開いて静止したまま、只々心の中で叫ぶ。

自分の意識が途絶えている間に、前日まで敵対し、剰え殺し合いすらしたような相手に肉薄されていたというのか。傷だらけの肉体に触れられたと言うのか。この身に滴る紅血を吸い出さんとしていたのか。嗚呼、なんたる事か。しかもその口振りから、霊夢と魔理沙はその場に居合わせて尚、傍観していたのだろう。吸血鬼の吸血と言えば、やはり首元に牙を立て、噛み付くことで傷口から吸い出すという方法がベターだ。では、それをされた場合、フィクションなどではその吸血対象はどうなっていたか。

 

 

 

「あ、あぁぁぁ…………」

 

そこまで考えを巡らせ、その答えが、吸血対象もまた人外の存在となる、というものであると導き出した時。先程レミリアの声に反射的に境内へ出た際の運動と、そんな思考のショックにより、園枝の意識は急激に暗転して行った。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「まさか、気絶してしまうとは思わなかったわ。そんなに驚いたのかしら?」

 

園枝の意識が失われてから凡そ一時間後。雨が降っている為向かえないレミリアを留守番とし、霊夢と魔理沙が紅魔館へと赴いた後の事だ。最初は霊夢とて乗り気ではなかったようだ。が、雨を止ませた暁には、後日紅魔館で西洋料理の正餐を振る舞うという約束事を取り付けると、急に仕方ないわね、と張り切りだした。何も日々の食事に困っているわけでは無いのだが、完全なる未知の料理、それもあんな品格ある場所の食事とくれば、霊夢も気になるのだろう。何れにせよ手詰まりであるなら、報酬で微動した心を一気に動かしてしまえ、という魂胆だ。

 

「けど、これを解決してくれるならなんだって良いわ。それにーーあの雨、僅かに魔力を感じる」

 

即ち、魔力により強制的に、意図的に降らされた雨という事だ。意図して雨を降らさねばならない状況、それをレミリアはある程度心当たりがあるのだろう。安っぽい卓の上で頬杖をついたままに、一つ深い溜息を漏らして忌々しげに目を細める。

 

「多分、あいつ(・・・)よね。言ってなかったけど……多分あの二人なら大丈夫でしょう」

 

そう独り言ちてころころと笑う姿は、いつぞやの威圧感など微塵も感じられない、見た目通りの幼気な少女のそれであった。但し、その身に纏う妖力は健在である。実力者ならばその妖力を見破る事も出来る為に、それを微笑ましいと笑える者は幻想郷ではそうそういない。

 

「うーん……まぁ、ちょっと脅しが過ぎたかしら」

 

そう言って視線を移した先は、未だ若干ながら苦悶の顔をしている、包帯だらけの青年。園枝だ。

顔には幸い骨折箇所も無く、包帯は巻かれていないが。首から下を見れば、よもや古代エジプトのミイラだろう。痛ましい姿で、所々には血も滲んでいる。平均的に考えれば軽傷の集まりだが、それでも骨折箇所だって有る。しかしながらレミリアは、それを見て自責や後悔などといった感情は、微塵も湧かなかった。

 

「……でも、心が躍ってしまったんだもの」

 

それどころか、あの時の昂りを思い出して、愉悦に浸っている。あの時の園枝は、今日の園枝と比べて見ると、何かが可笑しいと彼女自身悟っていた。異変に身を置き猛る姿こそが真なのか。それとも、こうして平和を謳歌している姿こそが真なのか。レミリアには、判別がつかない。つく程に、園枝の事を知らない。

 

「嗚呼……少し、貴方に興味が湧いてしまーー」

「ヒッ……」

 

その時、何処からか声が聞こえた。自分の言葉を遮ったその声に、思わずレミリアは呟きを中断してしまう。場所ならば分かっている。今、隣で呑気に眠っているーーと思われていた園枝の位置からだ。そしてその声も、レミリアには聞き覚えがある。異変の時、悔しさに顔を歪め自分の無力さを嘆いた、あれと同じ声。しかし、異変の時のような覇気の篭った声ではない。

寧ろ、何かに恐怖を抱き、思わず漏らしてしまった短い悲鳴。そんなところだ。

 

 

 

「まさか貴方、起きてるの?」

 

 

 

びくん、と園枝の身体が動く。それは余りにも分かり易い挙動。例えレミリアのような、人生経験の豊富で鋭い者でなかろうと、園枝が起きている事など丸分かりだった。その上翌々見てみると、反射的に怯えて動いてしまった所為で、傷が傷んでいるらしい。次はぷるぷると、某液状生物のように震えだした。痛みに耐えている事もまた、彼女には手に取るように分かる。

 

「いや、もう分かったわ。手出しなんてするつもりも無いし、起きなさい」

 

断定的な、確証を得たであろうレミリアの口振りに、園枝も諦めたようだ。はい、と小さく返して、レミリアの方から背けられていた首を、彼女の方へと向けた。その目はしっかりと開いていて、寝起き特有の垂れたものではない。随分前から起きてたみたいね、とレミリアは呆れ返ってしまう。

 

「少し怯え過ぎよ。嘘なんてついたりしないから、脱力しなさい」

「いえ、いえいえいえ……だって、殺すなんて言われて、警戒を解くのは……ですね、無謀、と言うか……」

 

完全に吃ってしまっていた。どうやら、余程あの時の脅し(・・)は効果があったらしい。

レミリアは自分の演技力に感心すると同時に、少し効き過ぎではないか、と不満も抱いている。

園枝の目を見れば、よく分かる。軽い冗談や場を和ませる為の発言ではない。口では軽く取り繕っていても、その目は違う。剽軽な口調で必死に悟られまいとしていても、その目は訴えかけて来る。

園枝は、本気で自分に怯えているのだ。戦ったからこそ、園枝とのアイコンタクトじみたものを、レミリアは容易くなし得ていた。ただの双眸から、その揺らぎや奥底の感情を見透かし、思いを読み取ってしまう。

 

「えぇと……この際だから、種明かししてあげる。あれはね、ただの演技よ」

「…………え?え、えん、演技?」

 

唐突なカミングアウトには、今まで怯えていた園枝もそれを上回る驚きに、目を開閉させていた。

あれというのが何を指すか、園枝も分からないでもない。あの戦闘か、殺すという遠回しな発言か、あの威圧感か。レミリアの言葉自体には納得出来たし、候補も直ぐに浮かぶ。彼意外な程に、その言葉を受け入れていた。そう、言葉の表面だけ。

 

「あ、あれが演技ですか?それって冗談ですか?」

「真面目も真面目、大真面目よ。あれっていうのは……殺すっていう旨の発言ね。戦いについては真面目だったけど」

 

呆気なくそう言うレミリアに、園枝は恐怖心と猜疑心の綯い交ぜになった視線を送っている。

その身体の所為で後退りは難しいが、こうも満身創痍でなければ、きっと後ろに下がっていた事だろう。

 

「戦闘は真面目って、やっぱり殺す気だったんじゃないですか……」

「ちっ、違うわよ!本気とかそういう意味じゃなくて、全力ではないけど手は抜いてないって事!大体、本気で殺すつもりだったら出会い頭で終わってたでしょう!?態々近寄って戦う事もないし!」

「あぁ……やっぱり、手加減されてたんだ……はぁ、全力でやったのになぁ……」

「うわぁもう面倒臭いわね貴方!」

 

予想外のネガティヴっぷりに、レミリアは思わず頭を抱えてしまった。あの時の園枝を最も近くで見て、感じていたからこそ、此処まで繊細で面倒で女々しい、かつ覇気の無い人物だとは考えていなかったのだ。

 

 

「なんて……今のはちょっとした冗談です」

 

 

が、そんなレミリアの予想を裏切るように、今まで暗い表情だった彼の顔が、急に平然としたものに変わる。夕立が急に止んだように、彼の陰鬱だった面持ちはいつの間にか、平常な状態を如実に表す、揺らぎない目をしたものとなっていた。急な変化に、今度はレミリアの方が目を開閉させている。

 

「失礼しました。ただ少し、揶揄いたくなってしまって」

 

そんな彼女の様子が可笑しかったか面白かったか、園枝は表情を自然に和らげた。

戦っていた時にレミリアが見た、好戦的で愉悦混じりのそれではない。ただ、微笑ましいから笑っている。ただそれだけの、酷く自然で違和感のない顔だ。

 

「本当は貴女が来た時から、違和感はあったんです。仮にも敵対していた筈なのに、博麗さん達と同じように、何故僕まで敵意を含まない目で見ているのかと」

「……貴方も、分かるの?」

 

貴方も、という言葉は一見して意味の分からないものだろう。しかし園枝は全容を把握しているらしく、然り、と徐に頷いて見せた。

 

「やはり、間近での手合わせをしたからでしょうか。不思議と分かるんですよね、御相手の考えというか、漠然とした感情なんかは」

 

彼もまた、レミリアと似たような感覚を覚えいたらしい。

間近で鞘と拳を交えた仲でもある。間近で相手の呼吸も、痛覚も、苦悩も、激情も、緻密な感情を肌で感じあった仲でもある。たった一夜の熱戦は、しかしながら二人の間に、信頼関係じみた奇妙な関係を齎す程のものであったという事だ。レミリアは最初から遊ばれていたのかと、脱力して卓の上に上半身を伸ばした。責めるような、けれども、通じ合う何かがあるという共感に喜色を浮かべて、

園枝の目を見据える。

 

「そう、よね。ははは、何だ……私を騙した訳ね……」

「え、あー、いや……正直な話、怯えていたのは本当です。過剰に見せてはいましたが、それでも少し怖かったです」

「え?ど、どっちよ?演技だったの?本気だったの?」

 

あやふやな言葉に、レミリアは惑わされて困惑している様子。それを見て園枝は少しだけ、ほんの少しだけ、反抗心を満たされていた。自分を手玉に取ったようだったレミリアに、一泡吹かせられた気がして、少しばかり嬉しかったのだ。

 

「最初、怖がっていたのは半演技で半本気です。理由は、確証が無かったから。さっきも言ったように、スカーレットさんの目はどうも敵意だとか、そういったのが感じられませんでした。しかし、それを隠しているだけで、本当は僕を殺す気なのでは?と」

「そんな事しないって言ってたじゃない……」

「言葉だけで納得出来る程、他人を信じる事が出来ない汚い人間ですので」

 

汚い人間などとは言ったが、その実園枝自身はそんな思考を持つのも、本来は当然の事だろうと考える。自身の実力がレミリアの数段上であったとすれば、多少は油断なども混じるが、警戒は解けるだろう。しかしながら、相手は遥か上に座す吸血鬼。ただ敵意は感じられない、などという曖昧な理由では警戒を解く事が出来なかった。

 

「でも、一回敢えて貴女の目の前で眠る事で、試してみたんです。少しーー結構怖かったんですがね」

「……あぁ、そういう事。敵意の有無を、敢えて二人きりの中無防備を晒す事で確かめた、と」

「御理解が早くて助かります」

 

平然と、怖かったなどと御託を並べてはいる。しかし、それを実行する事は、常人からすれば中々に精神を擦り減らすだろう。増してレミリアの言う通り、二人きりなのだ。本当に危険に陥った際、

助けてくれる人物は誰一人としていない。その行動力は、レミリアをも唸らせている。

自分が園枝の立場であったら、と仮定しようとしたーーのだが、彼女は自分が格下というシチュエーションを考えるのは、想像上であっても嫌なようだ。透き通るような青の髪を振り乱し、浮かべた考えを放棄する。同時に、ある疑問が浮かび上がって来た。

 

「ん?それじゃあ、何で敵意が無いって分かった後なのに、さっきは怯えたような声を出したの?」

「あぁ……あれは演技でも無いですよ。だって、怖いに決まってますよ。あんな声で興味が湧いたなんて言われたら、もう……つい声が漏れてしまったんです」

「え?そんなに変な声だったかしら?」

 

惚けているかの如きあっけらかんとした様子に、園枝は苦笑を浮かべずにはいられなかった。

あの声は恐らく、彼女が意図して出したのではなかろう。ただ本当に、胸の内の好奇心を言葉に乗せただけなのだろう。だがそれが園枝には、と言うより人間には恐ろしく感じて仕方ないのだ。

見た目には不相応な、年齢特有の深みを感じさせるあの雰囲気。この吸血鬼さんは安全かもしれない、などと油断してた所での事だから、尚更恐れてしまう。

 

「兎にも角にも、貴女は安全であると、仮定は出来ました。これから宜しくお願い致しますます、スカーレットさん」

 

しかし、それを表面にまで出す事は極力避ける事にした。これ以降、幻想郷で彼女達紅魔館の住人達とも交流する可能性は有るので、今の内に無用な軋轢を生みたくはないからだ。寝ながらで済みません、と謝罪しつつ、いつも通り愛想の良い微笑みを浮かべた。レミリアも気にしていないのか、或いは少しは自責の念もあるのか、いいわよ、とだけ言って園枝の謝罪を止める。その後、咳払いを一つした。

 

「改めて、自己紹介するわ。私は紅魔館の主、レミリア・スカーレット。知ってるとは思うけど、吸血鬼よ。宜しく頼ーー」

 

すると、急にレミリアの言葉が途絶える。何かを思い出して、それが原因で止まった様子。

如何したものかと声を掛けようとすると、一足早くレミリアが口を開いた。

 

 

 

「貴方の名前、聞いてなかったわ」

「…………あ、そうだった」




「ここの理論はおかしい、ここの説得力が足りない」という事でしたら、是非感想にでも書いて頂ければ。
今回は、レミィお嬢様は断じて本気じゃなかったんだ!殺す気なんてなくてただの脅しだったんだ!
と伝えたかっただけです。それで6720文字も取るのか……(困惑

レミリアは主人公に興味が湧いた為に、取り敢えず敵対は止めておくか、と考えました。
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