「な、んで……こんな」
園枝は一人、木に凭れ掛かり、座っていた。夢の中ではない、其処は確かに、博麗神社の境内間近だった。しかし、彼の表情は尋常では無い。夏場である事もあるが、それでも可笑しい程の発汗。
息も絶え絶えに、身体を震わせ、肩で呼吸をしていた。一言で表すならば、疲労困憊。
嘔吐きそうになるのを必死に留め、息を整えんとする。身体中の筋繊維が疲弊しきって、まるで弱い火で炙られているかのように感じていた。
「っかひゅ……はぁ……」
苦しみに顔を歪めて、園枝は自らの右腕を見る。そこには、以前霊夢から買い与えられた、藍色の浴衣があった。だが、それ以上に特異な点がある。
「……っぐ、いぃっっづぅぅっぐ……」
それは、藍色の生地が破け、園枝の腕の皮膚すらも破かれ、其処から多量の血が流れ出している事。
大型の刃物で深く抉られたような傷口は、園枝自身見ていて血の気が引いてしまう程だ。
その上、応急手当てなど一切されていない、そのままの生傷である。痛いなど至極当然の事で、本当ならば今直ぐ悲鳴を上げたい位だった。それでも声を上げられないのはーー
「何処だ人間!姿を表せェ!」
ーー境内には、
ーーーーーー
いつも通り、の朝ではない。今日は不思議と、そう暑くはなかった。何故かと起き抜けに空を見れば、あの嫌という程照りつけていた日差しに、仄かに暗雲が垂れ込めていたのだ。そう言えば八月ももう終わっていたか、と寝惚けた眼を摩りながら悟る。季節も夏から僅かにずれた為か、以前程の乾いてしまうような暑さは無かった。今あるのは、じっとりと身体に粘り着くような蒸し暑さ。
気分は余り良いとは言えなかったが、それでもあの人里の時などよりはマシと思い、相変わらず朝餉の匂いを漂わす居間へ向かった。
「……あれ?」
だが、其処には霊夢の姿が無い。何処に行っているのかと周りを見回していると、ふと卓の上に置かれた置き手紙が目に入った。料理のすぐ傍に置いてあったそれは、恐らく霊夢の書いた物であろう。
料理が一人分だけ置いてある事から、既に食い終えたらしい。手触りの良い和紙の置き手紙を手に取り、それに書かれた字を見る。
「うわ、達筆……」
園枝の言う通り、書かれている字は非常に美しいものだった。やはりシャープペンシルや鉛筆などでは無く、文明通りの筆書きである。この世界での字形の美醜の基準など、新参者の園枝では知らないが、少なくとも外の世界の基準では、十分過ぎるほどに整っていた。
「あ、現代文なんだ」
字形は九成宮醴泉銘に近しく、古典等には興味の薄い園枝も、容易く読み取る事ができた。
その内容は、如何にも霊夢が書いたような、簡潔な内容である。
『人里から妖怪退治の依頼が入ってるから、少し行ってきます。昼くらいには帰れるので、少しだけ昼食は我慢して下さい』との事だ。
「……あれ、料理出来ないと思われてる?」
自分で作るという選択肢を考慮に入れていない霊夢の文に、園枝は苦笑する。確かに今まで作ったことはなく、経験は皆無であるが、簡単な料理程度なら問題なく作れるだろう。そう思い立つも、勝手に食材を使うのは気が引けて、結局自分で作るのは止めた。
「まぁ、良いか。それじゃ、頂きます」
手紙を折り畳み傍に置くと、両手を合わせ律儀に礼をする。目の前の料理は人に作ってもらった物であり、何より他の生物の命でもあるのだ。園枝はそんな考えから、常日頃から礼を欠かしていない。
外の世界では、コンビニエンスストアで買った握り飯でも、スーパーマーケットで買った惣菜にも、礼を欠かすことは無かった。彼なりの拘りである。
「……うん、やっぱり博麗さんの料理は美味しいな」
箸に挟んだ魚を口に含み、咀嚼した後そう呟いた。料理の種類自体は質素な物で、一般的な家庭の朝食よりも些か少なく、彩りにも欠ける。だがその味は、店から出されたとしても、何の疑問も抱かず食してしまう程であった。
「あの歳で料理も出来て、妖怪と戦えて、一人で暮らせるのか……本当に、強かな事で」
齢二十にもなって少女に朝食を作ってもらい、剰え少女の住居に住まわせて貰っているという、自分と霊夢の対比に、思わず園枝は溜息を吐く。今の自分では、弾幕ごっことやらも出来ないし、料理も此処までは出来ないし、この世界では一人暮らしなど出来るかどうか。冷静な自己分析は、寧ろ自分へのダメージになるだけだった。
「これじゃ、只のヒモじゃないか……」
ヒモとは言え、霊夢が精神的、或いは肉体的に離れたく無いなどと考えている訳ではない。
そも貢いでいる、養っていると言うには語弊があり、保護されていると表現するのが、現状は最適解となる。いつ爆発するか分からない爆弾。それを目の届く場所に置いておくという目的で、自分は此処にいるのだと。そう考え、園枝は自分がヒモであるという事は無い、と必死に自己肯定した。
「でも、迷惑な事には変わりない……か……」
そう言って、園枝は身に纏う藍色の浴衣を見つめる。
如何に霊夢が金銭的に余裕が有り、人一人保護するのに問題なくとも、彼女の負荷が増している事に変わりはないのだ。霊夢とて、好き好んで男を家に置いておく筈がない。きっと、嫌々ながらどうしようもなくーー
「…………はぁ、本当に申し訳無い」
考え事に思考を費やしている間に食い終えた食器を、流しへと持っていく。皿洗いは後で良いか、と考えると、園枝は真っ直ぐに境内へと向かった。この後は、境内の掃き掃除、縁側の雑巾掛け、室内の塵取り、衣服の洗濯となる。僅かにも躊躇いなく、園枝に自分の服を洗濯して貰う辺り、霊夢は男がどうとかなどは気にしていないようだが。それでも園枝は、霊夢には自分という桎梏が纏わり付いている、という考えに至ってしまう。
「あー、もう。今はいいや、取り敢えず掃除」
頭を掻き毟ると、思考を無理矢理抑圧するように、園枝は竹箒で境内を掃き始めた。
どうこう園枝が考えた所で、どうせ過程も結果も変化は無い。故に、彼の行動は正しかったと言える。一心不乱に箒で掃いていると、園枝は顔に一陣の風を感じた。温くはあるが、汗ばんでいる彼にはそれすらも快く思える。
「はぁ、涼しい……掃除が捗りそう」
ーーもう、その必要も無いがな。
ぞわり、そう表現する事しか出来ない、凄まじい寒気が、園枝の全身へと迸った。
背後から聞こえたその声は、霊夢の声でもなく、増してや園枝の声でもない。低い、男の声。
その声をただ一度、耳にしただけだ。ただそれだけで園枝は、怖気がついてしまったのだ。
境内に出たばかりの時は、周辺には誰もいなかった。増して、この石の地面で音を立てずに歩くなど、出来るとは思えなかった。そしてだからこそ、恐ろしくて仕方がなかった。
園枝は即座に確信する。この相手は、人間では無い、と。
「…………ど、何方様、でしょうか」
声を震わせながらも、どうにか男の声に応える。声どころか、身体さえも震えてしまいそうだったが、どうにそれを食い止める。初めてだった。こうまで何者かに、恐怖の感情を抱く事は。
振り返らずにそう言った園枝に、男は何処か苛立ちを孕んだ声を出した。
「貴様、その刀は何だ」
その瞬間、園枝の右腕に何かが触れる。否、触れたのではなく、通り過ぎた。一陣の風は、次に腕に吹いたのかと錯覚する。だがそれは、直ぐに違うということが分かった。
「……ぁ、っぐぅ、ぁあああああッ!」
何かが通り過ぎた、園枝の右腕。そこには、大きな裂傷がつけられていたのだ。浴衣毎斬り裂かれた園枝の腕からは、夥しい量の鮮血が噴き出す。藍色だった浴衣の右腕部は直ぐに鮮血で染められ、袖の端からは溜まった血がぽたぽたと地面に落下していた。見れば、園枝の傷口は鋭利な切創などではない。裂創、荒い鉈で強引に引き裂かれたようなその傷は、園枝までもが目を背けたくなる程に痛々しかった。
「答えろ、その刀は何だ」
園枝の悲痛な絶叫など意にも介さず、男は再度園枝に問うた。そして、園枝は漸く、男の姿を目に入れる。そして、目を見開いた。男は確かに、人間ではなかった。妖怪だったのだ。
鋭利な牙に爪。ぎらぎらと刃の如く光り輝くそれは、一目見ても凄まじい切れ味である事がわかる。
身体中に生え揃った体毛。黒く長く、そして硬い質感の毛は、動物を彷彿とさせる。体型は人と酷似しているが、それでもその筋肉の膨張は凄まじい。
そして極め付けに、男の顔。人間と似たような目の形状をしながらも、その造形も色も違う。
口が大きく出た毛だらけの顔に、鋭く赤い目。
詰まり、人狼。そう形容する他無い、人外であった。
「ぐぅぅっ……あぁッ!」
恐れ慄いた園枝は、咄嗟に腰の剣帯に差した刀を鞘ごと引き抜き、狼男の顔面へと振るう。
使えなくなった右手も代わりに、左手を使った逆手持ちの要領で。軌跡を描き、百合咲之剣は可也の速度で、狼男の顔面へと飛んで行く。霊力で強化されていなくとも、園枝の筋力はそれなりに有る。鞘付きの重い太刀の居合切りを顔面に食らえば、普通は重症となる筈だ。
「効かぬわ!」
そう、普通の、そして人間であれば、だ。だが人狼は人間でも、普通でもない。人外の強靭な肉体は、園枝の必死の一撃を、いとも容易く見切って掴んでしまった。
「……は?」
一瞬は痛みも忘れ、目の前で起きた事象に只唖然としていた。自分の放った渾身の一撃が、不意を打ってまで放った一撃が、こうも容易く防がれる。刹那、園枝は悟った。
ーー逃げるしかない
「っっくそッ!」
鞘を掴まれながらも、園枝は箒によって掻き集めた砂塵を、一瞬で地面から掠め取る。
人狼は園枝の咄嗟の行動に不意を突かれ、僅かに行動が遅れてしまった。結果、園枝は右手に掴んだ砂を、人狼の顔に振り撒く事に成功した。
「ぐぉ!き、貴様ァ!」
怒りに身を委ね滅茶苦茶に腕を振る人狼。左腕で攻撃しながら、右腕で目と鼻を擦っている。
しかし、どうにか一旦距離を取る事ができた園枝には、よもや攻撃など当たらなかった。
幸い、それによって鞘から人狼の手は離されている。無闇矢鱈に鋭利な爪を振る人狼から目を話す事無く、音で特定されないよう静音で、けれども出来る限りの速さで、園枝は神社の脇にある木々の中へ身体を隠した。
ーーーーーー
そうして、現在に至る。未だ鼻は回復していないようで、園枝を捉えることは出来ていない。
もしもあの時目だけしか潰せなければ、今頃は奴に殺されていたことだろう。
容姿から判断しただけだが、相手は狼。ともすれば、その嗅覚は途轍もないと推測出来る。
そして鼻が使えれば、目が見えずとも園枝を殺すことは容易い。何故なら右腕か流れ落ちる多量の血が、強い鉄の匂いを発しているからだ。
「(痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!痛みで思考が鈍る!手が動かない!足が震える!)」
脳内で強く大きくけたたましく、痛いという信号が幾度と無く発せられている。
激痛による歯噛みはあまりの強さに、歯茎からも流血していた。
先程砂を撒いた際、園枝の腕の傷口にも、僅かながら砂が入ってしまったのだ。肉の中でじゃりじゃりとぶつかり合う砂は、園枝の痛覚を細かに刺激する。
「(何で何で何で!何で僕を狙う!いやこの刀か!?さっきはこの刀を気に掛けていた!じゃあこの刀のせいか!?今この状況はこれが引き起こしたのか!これがーー)」
思考が生きる為のものから現実逃避に移り変わった頃、不幸中の幸いというべきか、腕の痛みによってどうにかその思考を中断できた。刀のせいであるなら、刀を渡そう。そうも考えたが、直ぐに諦める。
相手が何用で来たのか分からない以上、不用意に近寄るのは危険すぎるのだ。
確かに刀だけが目当てで、園枝本人はどうでもいい、という可能性もある。しかしそれと同様、刀に憑かれた園枝諸共殺す。そんな目的であるかも分からない。若しかしたら、偶々人間がいたから殺しに来たが、刀の気配が気になっただけかもしれない。そう考えると、とても人狼に接近しようなどとは思えなかった。
「(叫びたい!今直ぐこの痛みを口にしたい!訴えたい!苦痛を!)」
鋭く、滲むような右腕の痛みに、強い欲求が生まれる。傷口近くを全力で握り締めて尚、痛みからは目を反らせない。
しかしそんな欲求に反して、園枝の身体は何一つ行動を起こすこと無く、震えるだけに留まっていた。それは、彼の持つ精神力から来るものだろうか。園枝は痛みに支配され掛けた脳を、必死に、必死に回転させていた。
「(くそっ!先ずは考えろ!今はまだ朝!博麗さんの助けは期待できない!魔理沙さんも今来ていなければ今日は来ない!奴の鼻が復活する時間は後僅か!それまでにどうやって窮地を抜ける!)」
段々と、右腕の訴える痛みが和らいだように、園枝は感じている。痛みが大半を占めていた思考は今、彼の生への執着によって、効率的な思考パターンへと移行した。痛みの警鐘の音を小さくした脳を、余すこと無く活用。
「(今の内に逃げようとしても、運動能力もきっと段違い!更に鼻が復活すれば多少の距離でも匂いで悟られる!逃げる事は出来ない!ならばどうする!奴と真っ向から向かい合うか!いや無理だ!僕の微量な霊力では奴にーー)」
その時、園枝の頭に閃光が走った。そして、腰に差した百合咲之剣の方を向き直る。赤い鞘も白い百合も、まるで変わらない。いや、少しだけ変わりがある。園枝の右手から流れ出した血に、鞘の赤が尚の事色濃くなっていた。そして、園枝はある事を思い出す。
「(そう言えば僕は。この刀を……まだ一度も抜いた事がないよな)」
曰く、この刀は妖刀であると言う。園枝は、妖刀というのは使い手に様々な害を及ぼす代わりに、絶大な力を与える。そんな代物だと考えていた。今は抜いていない為に何の力も得られてはいないが、若しかすればーー。
「(……でも、抜いても良いのか?)」
柄に手を掛けようとした所で、その左腕はぴたりと止まった。来た始めの頃、霊夢と紫から言われた事を思い出しているのだ。抜刀するという事は、どうも封印を解く行為である気がしてならない。
どれ程の力がるのかなど計り知れないが、それでも強い力を秘めている事は、なんとなしに分かっていた。
強い力を持つ呪い刀。大概この手の物は、力が大きい程害も大きいという物であると、園枝は外の世界で得た知識を思い出す。
そして以前霊夢に、言われていた事がある。
『刀は抜かないように』
と。それは園枝を蝕むと同時に、過ぎた力を与えてしまうから、ではなかろうか。そう園枝は推測していた。今は抜いていない為に何の影響も無いが、若しかすればーー。
「(……でも、このままじゃ死ぬかもしれない)」
それでは意味が無い。今更ながら、園枝はそんな考えに至り、頭を横に振った。
今は後の事など、考えている余裕も暇も無いのだ、と。
害を及ぼすのが何だと言うのか。主を蝕むのが何だと言うのか。今抜く事を渋って死んだとすれば、それは何よりも大馬鹿者だ。後の事を考えて今死ぬなど、駄洒落にもなりはしない。
もしもこの刀を抜けば、蝕まれ死んでしまうかもしれない。もしこの刀を抜けば、自分は疎か人にまで害が及んでしまうかもしれない。
「……でも、まだ死にたくない」
園枝は、本当に小さな声量で、何処か自嘲げにも感じられる呟きを漏らした。
今を生きねば明日は無い。今を生きれば明日は在る。ならば、選ぶべきは後者しかなかろう。
後の事など、存外どうにでもなるものだと、彼は此の期に及んで開き直ったようだ。
「(大体……僕は人の事を考えて、自らの命を捨てられる程、優しい人間じゃない)」
園枝は吐息を吐いた。自分の心が完全に固まった事で、痛みも恐怖も、先程までとは比べ物にならぬ程、小さくなっている。今までぎちぎちと嫌な音を立てていた歯が、ゆっくりと開かれた。
滲むような右腕の痛みが、流砂の如く流れ消えていく。不思議な気分だった。
この二十年間、一度も感じた事の無い、強い安心感。それらは先程まで園枝を苛んでいた要因を、
悉く消し去っていた。
「何で、奴がこれに執着するのかは知らないけど……」
理由は知らない。だが、仮にも人を深く傷付けたのだ。ならば、それだけの報復を受ける覚悟もまたあるのだろう。園枝はその思いを最後に、無駄な思考を止めた。そして徐に、右腕を杖に立ち上がる。やはり右腕はまだ痛んだ。強く強く、痛みを発している。だが、今の園枝には、どうもそれが苦しいとは感じられなかった。刀を握らねばならない手が痛むというのに、園枝は何も思わない。
「……人の腕を、よくもまぁこんな事に」
園枝の表情は、今も変わりない。しかし、その心は違った。
園枝はこの状況に、心の何処かで昂ぶっているのだ。人狼への恐怖による、一種の現実逃避であるのかもしれない。脳内の興奮物質が作用して、狂ってしまったのかもしれない。だが彼は、自身に起きた変化に気付くことはなかった。
「目には目を、歯には歯を……だっけ」
いつの間にか、震えも止まっていた。園枝は腰に差した百合咲之剣の柄に、一切の躊躇もなく手を掛ける。今の彼は、触れた際の痛みへの危惧などまるで無いようだ。手を掛けたまま、幾分か楽になった痛みに顔を歪めながらも立ち上がる。既に、痛みという無駄な感情は、頭の中から消えていた。
「……いいや」
園枝は、後の事など至極どうでもいい、と徐に瞠目する。人狼の発する声も、今だけは何も気にならない。
ただ今の園枝は、自分の呼吸音と心臓の鼓動だけに集中している。
ーー死への恐怖が、園枝を動かした。
ーー死への恐怖が、園枝の思考を放棄させた。
ーー死への恐怖が、園枝を闇へと誘った。
不意に小さくし始めた、長い深呼吸。何故かこんな状況で園枝は、空気が美味しい、などと的外れな思いを抱いている。まるで無駄な感情から解放され、五感が鋭くなったかのような。心地の良さが、園枝の全身を支配している。
ーーさっきまで痛い程にばくばくと鳴っていた心臓は、既に鎮まっていた。
ーーさっきまで酷く震えていた手足は、既に止まっていた。
ーーさっきまで慄いていた感情は、既に収まっていた。
「……頼むよ」
ーー赤と白だけが彩る百合咲之剣を、血に染まった右手で抜いた。
いやぁ、漸くバトル&抜刀ですね。本当は人狼じゃなくてワーウルフとかのが良いのかな、と思いましたけども。やっぱり和名じゃないとね、はい。いっそ喋れない妖怪でも良かったんですが、ある程度力のある妖怪は総じて喋れそうですし……第一、喋れないと困ってしまうんですね。色々。