今世紀エヴァンゲリオン   作:イクス±

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長らくお待たせ致しました!
前の投稿からもう一カ月弱も経ってて・・・本当に申し訳ないです。

そして、今回でヤシマ作戦と共にシリアスも終了です。
最後を飾るような怒涛のシリアスが有りますが、綾波回という事で勘弁してください!


あと、今さらではありますがシンジくんが親が親なのでかなりハイスペックな頭を持っております。
だから思考スピードは通常の三倍・・・とはいかなくてもかなり早いのです!

では本編を・・・ゆっくり読んで行ってね!


あ、今回はいつもより長めでーす。


第拾話「月の綺麗な夜に」

「・・・以上が今回行うヤシマ作戦の内容よ。何か質問はあるかしら?」

 

「ありません」

 

「僕もありません」

 

 

ミサトさんの問いに、僕と綾波さんは答える。

 

綾波さんの案内でまた例の下から光が入る部屋にたどり着くとそこにはミサトさんとリツコさんが居り、そこで今日行う作戦の説明を受けた。

何でも日本中から電力をかき集め陽電子砲とかいうのをA.T.フィールドをぶち抜いて叩き込むという作戦だとか。

 

・・・ゴリ押しかよ、なんて思ってないんだからね!

あと陽電子砲ってわかりにくいな、なんかわかりやすい例え考えとこ。

 

 

「それでは本作戦に置ける各担当を伝達します」

 

「・・・」「・・・!」

 

 

「・・・と言いたい所なんだけど」

 

「・・・」「?」

 

 

「実はまだ決まってないのよね~」

 

「・・・」「」ズルッ

 

 

いきなり気の抜けた・・・ミサトさんが素の声で言い放った言葉に、漫画のように体制を崩してしまう。

姿勢を正しながらこちらを見て苦笑いを浮かべているミサトさんを少し睨んで置く。

 

・・・まさかミサトさんにシリアスを崩されるとは、予想外だったよ。

 

 

「役割としては砲手と防御の二つがあるんだけど、誰がどっちをやっても作戦の成功確率の違いは誤差の範囲なのよ」

 

 

そう言ってミサトさんは横に居るリツコさんに目を向ける。

するとリツコさんは手に持ったボードを見ながらミサトさんの言ったことについての詳しい説明を始めた。

 

 

「シンクロ率の高いシンジくんが砲手を担当すれば精密性が上がるわ・・・だけどシンジくんは使徒の加粒子砲を一瞬だけど止めて見せた、だから防御を担当すれば作戦の安定性が上がるのも事実なの」

 

「そういうわけで役割は決まって無いのよ、どっちを担当するかは自分達で決めて貰って構わないわ」

 

 

ミサトさんがそう言って僕達の方を見る。

僕はミサトさんから視線を外して綾波さんの方を見ると、綾波さんも僕と同じようにこちらを見ていた。

 

きっと綾波さんは防御をやるって言うんだろうね・・・なんか嫌だな。

 

 

「ミサトさん、僕に防御をやらせてください」

 

「ちょっと意外ね・・・まぁいいわ、じゃあ砲手はレイが担当でシンジくんはその防御担当!それでいいわね?」

 

「はい!」「・・・ハイ」

 

 

横から送られてくるプレッシャーを気にしないようにしながら、僕は元気よく返事を返した。

 

 

 

・・・

 

 

 

しばらく経って、僕は男女合同の更衣室のベンチに座っていた。

白いカーテンで仕切られた向こうでは、綾波さんがプラグスーツに着替えている。

初号機降りてからプラグスーツを着たままの僕は着替える必要が無いので、綾波さんを待っているような状況だね。

 

しかし陰で着替えている様子が丸わかりなのはいったいどういう事だ。

狙っているとしか考えられない部屋の作りに、僕は頭を抱える。

作った奴頭おかしいんじゃないか?法律の手が届かないって恐ろしいねホント。

 

え?綾波さんの着替えが気にならないのかって?

午前中にもっとダイレクトに見てるからこの程度じゃ動揺しないさ!

 

 

「なんであんなこと言ったの?」

 

「・・・防御担当を申し出た事、だよね?」

 

「そうよ」

 

 

何の前振りも無い突然の質問に一瞬固まるが、すぐにその内容を頭の中で再確認しさっきの事について聞かれているのかと考え念のため確認する。

突拍子も無く何か行動を促される事に大分慣れて来たなぁと考えながら綾波さんへの返答も同時に思考する。

 

と言ってもその事について聞かれるのは一応予想してたんだけどね。

僕は用意して置いた答えを口にする。

 

 

「男なら誰かのために強くなれってね!自然と言葉に出ちゃったんだ」

 

「・・・」

 

「ま、まぁ砲手をやるのが自信無かったってのもあるけど・・・」

 

「・・・そう」

 

 

綾波さんはそのまま何も言わなくなった。

真実を織り交ぜた嘘は信憑性が上がるという・・・これで納得してくれると嬉しいんだけど。

え?どの辺がホントなのかって?

「砲手をやるのが自信無い」って所だよ!言わせんな恥ずかしい。

 

 

・・・まぁホントの事言うと、綾波さんに防御をやらせたくないって言うのが一番の理由なんだけどね。

 

 

ミサトさんに役割をどうするか聞かれて綾波さんの方を見た時、僕は綾波さんがどっちの役割をやりたがるかすぐに理解した。

僕には綾波さんは絶対に防御を担当するという確信が有った。

綾波さんの行動は某正義の味方の行動を当てはめて考えると予測しやすい部分がある。

自身を蔑ろにする、という点で共通してるから自らの危険を無視して防御担当を志望してくるのは容易に想像できるんだよね・・・

 

それが僕的に嫌だったし、綾波さんを危険な目に合わせたくなかったんだ。

いや、格好つけてるとかじゃなくて本当に綾波さんだと危険なんだよ?

 

敵の攻撃を防ぐために使う盾なんだけど、リツコさんの話では17秒しか防げないらしい。

そしてこっちの超電磁砲は一発撃ってから、次の攻撃を放つまで20秒掛かるとか。

つまりは確実に3秒、生身で攻撃を止めなきゃならないという事なんだよね・・・エヴァなのに生身って言うのも可笑しな話しかもしれないけどさ。

たった3秒とはいえあの威力だ、どんなことになるか想像もできない。

だからA.T.フィールドで防げる僕がやるってわけだね!

 

僕のこの考えを誰かに聞かせたら、絶対に「なんで二発目撃つ前提で話してんの?」と聞いてくるだろう。

この作戦では使徒は超電磁砲(陽電子砲)の一撃で沈むと想定されていて、防御なんてのはもしものための予備でしかないのだからその疑問は当然だ。

 

 

しかし僕は逆に聞きたい、「当たると思っているのか?」と。

 

 

絶対に一発目は外れる。誰が撃ってどんなに気をつけても、だ。

外れた時の対応についてミサトさんから説明された時点で、僕はそれを察した。

アニメや漫画に置いて、もしもの時の備えというのはこれ以上に無いフラグとなる事がある。

今さら二次元の出来事が現実で、なんて一々考えるのは無粋だ。

故に僕は瞬間的に二発目の可能性では無く、確信を持った。

しかし、僕の中では絶対と言い切れるほどの理由でも他の人からすればバカな子供の虚言でしかない。

だから綾波さんにはさっきの理由で納得して貰わなくちゃいけないんだよね。

バカだって思われたくないからね!!

 

と、そこまで考えた所でカーテンに映る綾波さんのシルエットが大きくなっている事に気づく。

 

 

「着替え終わったわ、行きましょう」

 

「わかった」

 

 

カーテンのすぐ向こう側に立った綾波さんは僕の返事を聞くと、スタスタと扉の方向へ歩き始めたので僕も立ち上がり扉へと歩く。

綾波さんにさっきの話を続ける様子も無く、追及されずにこの場を超えることができた。

一先ずは安心していいだろうと考え、廊下に出て歩く綾波さんの後へと続いた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「どうしてあんなこと言ったの?」

 

 

少しでも気を抜いたらフラグになるとかちょっと厳しすぎやしませんかねぇ(半ギレ)

 

あの後それぞれのエヴァに乗り込み、暗くなり始めた地上へ出て移動し待機場所へ向かいすぐに到着。

作戦開始まで自由にしてくれていいと言われたのでエントリープラグから出て外の風に当たっていると、初号機の横に並んで立っていた零号機からも綾波さんが出てきて僕の側に座った。

また何か話す雰囲気になってしまい、僕が戦慄していた所に掛けられた言葉は無情にも先ほどの問いかけと一字一句違わない物だった。

 

全然納得してないじゃないですかヤダー!

 

 

「えー・・・と、その、それはさっき言ったと思うんだけど・・・?」

 

「・・・」

 

 

綾波さんは何も答えず、じっと僕の目を見るばかり。

まるで言わなくてもわかるだろ?あ?とでも言っているみたいだ。

 

そうだね!言いたい事がすごく伝わって来るよ!!

 

僕は話題を止めることを諦め、逸らす方向で何か手は無いか考える。

某サッカーやろうぜ!さんも言ってたからね。止められないなら逸らせばいいって。

・・・さて、話題はこのままで僕が答えなくていい方向に持って行く方法か。

そうだ、逆に聞いてみようか。

 

 

「逆に聞くけど、綾波さんはどうしてそこまで防御をやりたがるのさ?」

 

「・・・」

 

「僕が言わなくてもわかってると思うけど、防御はかなり危険な役割なんだよ?」

 

 

一応だが僕は先ほどこの質問に対してちゃんと答えたことになっている。

つまり僕の思惑抜きで考えるとこの状況は、「しっかり答えた質問をもう一回された」と考えることができるんだ。

だから僕が逆に問いかけても、何らおかしくは無いはずなんだ。

 

綾波さんは「質問に質問で返すなーッ!!」などと文句を言う様子も無く、僕から目を逸らして俯いた。

それはそうだろう、ここで下手な答えを返せば僕が綾波さんの秘密にたどり着いてしまう可能性があるんだから。

綾波さんは母さんのクローンだってほぼ確信してる僕には意味をなさない考えなんだけどね。

 

まぁ何が言いたいのかというと、答え辛いのは相手も同じことなんだよ!

誤魔化すような答えを返されても追及するような事を言えば苦しくなり、きっと綾波さんの方から話題を切り上げてくれるはずだ。

つまり僕はこの危機を脱したも同然!どうだL!完全に僕の勝ちだッ!!

 

僕の!勝ちだ―――・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・私が死んでも、代わりは居るもの」

 

 

 

 

 

 

 

・・・―――あ?

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

今、なんて・・・ファッ!?

 

 

「ッ!?」

 

 

僕は目を限界まで見開いて俯いたままの綾波さんを凝視する。

そして次の瞬間にはその言葉の意図に気づき、嵌められたのだと悟る。

本来は意味不明であるはずの発言に心のまま驚いて見せてしまった。

そんなの、「僕は綾波さんの秘密を知っています」と自白したようなものじゃないか・・・!

 

残念!僕の冒険はここで終わってしまった!

 

不吉なメッセージが頭を過る。

きっと気を失い目を覚ましても、次に目の前にいるのは王様では無く父さんなんだろう。

そんな死刑宣告に等しい状況を想像しながら、僕は目の前で冷たい視線をこちらに向けているであろう綾波さんを意識を向けると、そこには依然下を向いたままの綾波さんが!

声はギリギリ上げていなかった、そして僕の驚いた様子を綾波さんは見ていないだって?

つまりはさっきの痛恨のミスは・・・ノーカウント?

 

ノーカン!ノーカン!ノーカウントなんだ!!

 

心の中で絶叫しながら僕はしれっと平静を装う。

班チョーネタはフラグな気がしないでも無いが、何とかなったと思いたい。

まぁ未だに下を向いたままの綾波さんを見てきっと大丈夫だろうと判断する。

 

しかしどういうことなんだ?

様子から察するにさっきの発言は僕を陥れるためでは無いらしい。

だけど他の意図があるとか言われても割とマジでわからないんだが・・・

そこまで考察したところでようやく顔を上げ、僕と綾波さんの視線が交差する。

僕を見つめるその瞳は不安そうに揺れ動いていた。

綾波さんは一体何がそんなにも不安な、の・・・え?

 

 

息を吐くように自然に綾波さんの心境を考察しようとした僕は、その答えの断片を掴んだ瞬間に頭が真っ白になったような感覚に襲われた。

僕は今どんな顔をしているんだろう?間の抜けた顔を綾波さんに晒しているんだろうか。

さっきまでの僕の悩みが全て無駄になるような事をしているが、もはや気にする必要は無い。

 

 

綾波さんに僕が想像するような感情は無いんだ。

 

 

その発想に至った過程でも振り返りながら心を整理しよう。

 

私が死んでも代わりがいる。

そんな言葉を言うときに感じる不安とは何か。

僕がさっき考えたのはそんな内容だ。

そして幾つかの可能性を僕はすぐに思い浮かべることはできた。

 

 

 

『僕がしっかりとボロを出すか不安なのか?』

違う。僕を疑っていたのなら俯いて顔を見ないなんてことは絶対に無かったはずだ。

 

 

『』

違う。

 

 

『俯いてしまい、作戦が失敗してしまって不安だったのか?』

違う。ていうか日本語的におかしいだろ。そこにあるのは失望であるべきだ。

 

 

『僕が予定よりも頭が良かったがために、作戦が成功するか不安だったのか?』

違う。というか自画自賛やめろ。しかもほとんど一個目と内容一緒じゃないか。

 

 

 

 

途中からバグったように可笑しな考えに至り、考察による否定がどんどんツッコミになっていく。

僕の無駄に回転する頭がこんな風にバグる時は大体現実逃避している時だ。

一体僕は何から逃げているんだ?いや、まて。

思考がバグりはじめる直前、一瞬考えて間髪入れずに否定した可能性は何だった?

あの時に思い浮かべた可能性は・・・

 

 

 

『ただ純粋に秘密を知られるのが不安だったんじゃないか?』

違う。

 

 

 

 

その可能性をもう一度考え、僕はまた否定する。

だけどハッキリとその可能性を考えた時点でもう逃げることはできなくなっていた。

もしかしたら?もしも、それが本当の事だったとしたら?正解だとしたら?

それはあまりにも酷いと言えるだろう。僕にとっても、綾波さんにとってもだ。

 

 

だってそれは、僕に特別な感情が無いと成り立たない可能性なんだから。

 

 

僕が秘密を知られてもいいようなどうでもいい奴だったら。

それは不安を感じないだろう。言いふらす心配があるならNERVが黙らせるだけだ。

そこに綾波さんが不安を感じる要素は無い。

ただ単純に綾波さんが知られていい気分がしないだけ、という可能性もあるがそれだけであの綾波さんがここまで不安な感情を表に出すだろうか?きっと、出さないはずだ。

 

だから綾波さんは僕に特別な感情を抱いているという事になる。

友愛?信愛?それとも恋愛?そこまではわからないがとにかく僕が綾波さんにとって失ったら惜しい存在になっているのは間違いないんだ。

 

第三者が僕の考えを見ているのなら、都合が良いただの妄想だと言われるかもしれない。

だが僕の知識を総動員して導き出した答えなんだ。

自画自賛するようだが間違ってはいないと思うし、今も不安そうに見つめてくる綾波さんがその可能性を有力な物にしている。

踏み台転生者みたいに目が腐ってるつもりも無い。

それにさっきも言ったがこれはあまりにも酷い事実だ。

僕自身、できるならこの可能性を感情に任せて否定してしまいたい。

 

 

僕の事を大切に思ってくれていた綾波さんに僕は一体何をしたのか。

 

意地悪な質問をして嫌な事を無理やり言わせ、そして意図とかなんとか言って綾波さんの事を疑いまくる。

これを酷いと言わずになんて言うのか。

 

・・・最低だ、僕って。

 

 

確かに綾波さんがこの短期間で僕に特別な感情を持ってたのは予想外だったさ。

でもそんなのは言い訳にすらならない。

綾波さんの純粋さを見誤っていた僕が悪かったんだ。

友達だと言ったのは僕の方なのに、誰よりも僕は綾波さんを疑っていた。

その事実がとても辛かった。

 

 

 

 

稀に様々なアニメ、漫画のネタを理解し使用する人の事を「汚れている」と表現することがあるが・・・

 

 

・・・僕は今この瞬間ほどに、自分が汚れていると感じた時は無かった。

 

 

 

 

「・・・ごめんね」

 

「?」

 

 

謝らずにはいられなかった僕は、聞こえるか聞こえないかの大きさで綾波さんに謝罪する。

案の定よく聞こえなかったのか、不安な表情から一転して不思議そうな顔をして首を少し傾ける。

本当に最初見た時とは大違いだ・・・まともに話してまだ一日経ってないのにここまで感情を表してくれるようになった。

・・・それほどに僕は影響力を及ぼしていたのかと、改めて実感した。

 

自身の考えの無さ具合に落ち込む僕。

しかし大事な作戦の前だ。こんなマイナス思考では綾波さんを守りきれないかもしれない。

だから無理矢理テンションを上げなければならないんだ。

ひどい事をしておいて、簡単に切り替えるのはあまりにも薄情な事かも知れない。

でも、だからとはいえ腐ったままでいるのもダメだと僕の知識が告げる。

それに謝罪の気持ちは古来から言葉では無く行動で示すものだとされている。

ならば僕はすまないと言う気持ちでいっぱいである事を示すために、焼き土下座ならぬ焼きビームに20秒間耐えて見せよう。

 

・・・と、綾波さんを僕の事情で放って置くのもダメだよね。

僕は思ったことをそのまま言葉にする。

 

 

「・・・綾波さんに代わりなんていないよ」

 

 

そう言うと綾波さんは少し困ったような顔をする。

自分には当てはまらないとか思ってるんだろうけど、それは違う。

僕が言いたいのはそんな事じゃない。

 

 

「仮に綾波さんに瓜二つの人がいたとしても、それは変わらないよ」

 

「・・・どうして?」

 

「色んなことを話して、仲良くなって、そして友達になったのはここにいる綾波さんだけだからね」

 

 

様々な場面で使い古されたような臭いセリフ。

しかしそんなセリフでも、純粋な綾波さんに限っては僕のこの気持ちを正確に伝えてくれる素晴らしいセリフだ。

僕の言葉を聞いても綾波さんはじっと僕を見るばかりだ。

だけどその目は、もう不安を感じさせるようなものでは無くなっていた。

 

 

「僕達のこの思いは、決して他の誰かが変わることはできないんだ!」

 

「・・・そうね」

 

「っ、そうそう!そうだよ!」

 

 

ぐっとガッツポーズのようなものをしながら少し格好つけたように言うと、綾波さんは僅かに口元を緩め微笑を浮かべる。

僕はそれを見て少し照れ臭くなり、捲し立てるように言葉を続けた。

・・・それに、ちょっと救われた気がした。

 

僕はこの勢いのまま、少し気になっていたことを問おうと話しを進める。

 

 

「えっと、綾波さんは―――」

 

 

―――どうしてエヴァに乗るの?

 

 

それを言い切る前に、綾波さんの視線が下を向いていることに気づいた。

支給された端末を見ているらしい綾波さんに習って僕も話すのをやめて自分のを見る。

すると作戦開始時間がすぐそこまで迫っていた。

 

 

「時間だね」

 

「そうね」

 

 

そう言って立ち上がりつつ、自分がまた地雷を踏むような事を聞こうとしていたことに気づいた。

調子に乗るとすぐコレだもんなぁ。

呆れかえりながらさっきまでの会話をさらっと振り返ると、少し思う所が有ったので僕と同じように立ち上がった綾波さんに声を掛ける。

 

 

「綾波さん」

 

「どうしたの?」

 

 

さっきまでの会話を振り返ると代わりだとかなんとか、どうにも綾波さんが死ぬ前提で話が進んでいたように思えた。

だから僕は、どうしても言って置きたいことが有った。

 

 

「綾波さんは死なないよ」

 

「・・・」

 

「だって、僕が守るんだから」

 

「・・・!」

 

 

僕の言葉を聞いて、目を見張って驚く綾波さん。

その驚いた表情を見て、よく考えもせずに言い放った今の言葉を思い返して急に恥ずかしくなった。

何を言ってるんだ僕は・・・!?

 

 

「え、えと、またね!」

 

「・・・」

 

 

黙ったままの綾波さんを置いて僕は逃げるようにエントリープラグの方へと進みだす。

無意識にあんな格好つけた言葉を言っちゃうなんて・・・主人公っぽいかもしれないけど、素直に喜べないなぁ。

しかも最後の最後で締まらないし。

 

 

「儘にならないなぁ・・・」

 

 

僕はエヴァに乗り込みながら、ため息を吐くように呟いた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

『只今より、0時、0分、0秒をお知らせします』

ピッ、ピッ、ピッ、ポーン!

 

 

初号機の中で、某ニコニコする動画の時報を思い出しながら放送を聞く。

作戦開始の時間が来た。

 

 

『作戦開始時刻です!』

 

『レイ!あなたに日本中のエネルギーを託すわ。がんばってね』

 

『了解』

 

 

そんな会話を無線を通して聞きながら、僕は盾を持つ手に力を込める。

一発目が当たるかも、なんて期待は一切持たない。

何時でも走り出せるように腰を低くするイメージをして置く。

 

周りはさっきまでの静けさが嘘のように指示が飛び交い、着々と超電磁砲を撃ちだす準備を進めていく。

そして遂に発射のカウントダウンが始まったと言う所で無線からマヤさんの慌てたような声が聞こえて来た。

 

 

『目標に高エネルギー反応!』

 

「なんだって!?」『なんですって!?』

 

 

僕とリツコさんの驚きの声がダブる。

まさか、一発目を撃つ暇もないのか!?

そう考えている間にもカウントダウンは進み、そして―――

 

 

『発射!!』

 

 

ミサトさんの凛とした声が無線から響き、超電磁砲が発射される。

だが相手のビームもほぼ同時に発射された。

僕は走って零号機に近づきながら、相手のビームの行く先を目で追う。

飛んできたビームはこちらの超電磁砲と交差するように通り過ぎるか思いきや、お互い二つの光の線は突然ぐにゃあ~っと曲がり軌道が逸れてしまった。

そして逸れた二つの光はそれぞれ目的の場所とは違う所に着弾した。

 

その瞬間目の前は真っ白・・・いや手持ちが瀕死になったとかじゃなくて視界が白に染まり、ドーンとか普通の効果音では表現できないような衝撃が初号機を襲った。

この光の中でキンハネタやジョジョネタを言ってみたい衝動に駆られるが、さすがに空気は読むしそもそも揺れる機体のせいでしゃべったら舌噛みそうだ。

 

そんなことを考えているうちに視界は晴れ、僕は再び零号機の方へ初号機を走らせる。

無線の向こうでは、急いで二発目の準備を進めているみたいだ。

焦った様子で飛び交う指示の中、マヤさんの相手のビームを予告する声を聞く。

だが僕はすでに零号機の前に到着して、余裕を持って盾を構えていた。

 

 

『碇くん!?』

 

「っ」

 

 

綾波さんの悲鳴のような声を聞いて、つい「大丈夫だ、問題ない」と言いそうになってしまうのを堪える。

フラグなんて万が一でも建てるわけには行かないからね!

そして次の瞬間、菱形をした使徒の角が強く光った。

 

 

「(行くよ母さん!!)」

 

 

視界を白に塗り潰しながら飛来するビーム。

僕はそれを盾では無くA.T.フィールドで受け止めた。

盾が無くなってから残りの三秒をA.T.フィールドで凌ぐのが正しいやり方かも知れないけど、せっかくだから僕は最初に使うぜ!

Fateでもパズドラでもスキルは使えたらすぐに使うタイプだからね!脳死プレイ言うな!!

 

心なしか午前よりさらに強力になったA.T.フィールド。

だけどそれも5秒ほどで突破されてしまった・・・いや十分すぎるけどね。

僕は今度こそ盾でそれを受け、死に物狂いで耐える。

めっちゃ熱い!!A.T.フィールド越しではわかんなかったけどめっちゃ熱いよコレ!?

 

僕はたまらず再びA.T.フィールドを展開した。

 

こんなの十秒以上盾で止めるなんてできるわけないよ。LCL沸騰するわ!

・・・ていうか思わずでやっちゃったけど、よく考えればA.T.フィールドって何回も出せるよね。

これ繰り返してれば超安全じゃね?ということで考えたら即実行!

 

その考えは的を射ており、もう二回くらい繰り返すことで余裕で20秒を耐え抜くことができた。

遠くを見れば爆発を起こす使徒がいた。

ビームに気を取られて綾波さんが超電磁砲撃ったの気づかなかったよ。

 

 

終わったー!と気を抜くとそれがエヴァにも伝わったのか、ちょっとだけ前面が溶けている盾を取り落しながら前のめりにゴシャッと倒れた。

いや、質量的にそんな軽い音じゃないけどね。

僕は倒れたままペタペタと地面を触り、エヴァを通して外の状況を探る。

んー・・・ほんのり温かい程度だし外に出ても大丈夫かな?

少し暖かくなったように感じるLCLだけど、血の味がする以上生暖かいと気持ち悪くてしょうがないんだよ。

初号機と同じで周りの地面もビームの高熱に晒されたのは一瞬だった筈だしね。

もちろん盾の向こうに行くつもりは無いけど。

 

 

僕は俯せに倒れたエヴァから半分だけエントリープラグを出して、そこから転がるように地面へと降りた。

空気がむわっとしてて気持ち悪いな・・・まぁ中にいるよりは良いけど。

僕はエヴァの装甲に寄り掛かるようにして地面に座る。

 

約束はちゃんと守ったよ綾波さん・・・!

 

そんな当たり前の事考えていると、誰かが近づいてくる音が聞こえた。

その方向を見ると、こちらに走ってくる人影とその向こうにしゃがんでいる零号機。

まぁ一人しかいないよね。

 

 

「やぁ綾なm「碇くん!!」・・・おおう」

 

 

綾波さんの印象からは想像できないほど大きな声で呼ばれ変な声を出してしまう僕。

ビーム受ける前のアレも、やっぱ聞き間違えかなーとか思ってたんだけどマジだったか。

そんな風に軽く考える僕だったが、綾波さんの必死な表情を見て気持ちを切り替える。

近くまで来て立ち止まり、息を整えている様子の綾波さんに僕はハッキリとした声で告げる。

 

 

「僕は大丈夫だよ、綾波さん」

 

「・・・!」

 

「心配してくれてありがとう」

 

 

その必死な様子からそこまで僕の事を心配してくれていたのかと嬉しくなった僕は、つい綾波さんが何かを言う前にそのお礼を言ってしまった。

綾波さんに悟り妖怪を相手にしているかのような不快感を与えてしまったかと心配になった僕だけど、柔らかな笑みを浮かべてこちらを見るその様子を見て安心する。

あ、いや、僕はさとりん大好きだよ?

 

 

「・・・よかったわ」

 

 

こっちを見て綺麗な笑みを浮かべながらそう言った綾波さんの瞳から、一滴の涙が零れる。

綾波さんはそれに気づいたのか、指で拭いながら不思議そうに呟く。

 

 

「なんで、涙が出るの・・・?」

 

「・・・涙はね、嬉しい時にも出るんだよ」

 

 

状況的に僕がそれを指摘するのは無粋かもしれないけど、僕はその疑問の答えを言う。

すると綾波さんは、さっきよりも綺麗な笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「・・・そう、わたしは碇くんが無事で嬉しいのね」

 

「っ」

 

 

綾波さんの言葉に照れ臭くなって目を逸らしそうになるが、ふとさっき聞きそびれた質問を思い出した。

・・・今なら、聞いても大丈夫かな。

 

 

「・・・ねぇ綾波さん」

 

「どうしたの?」

 

「綾波さんは、どうしてエヴァに乗るの?」

 

 

僕の唐突な質問。

でも綾波さんは嫌な顔をせずに答えてくれた。

 

 

「絆だから」

 

「絆?」

 

「わたしには、他に何も無かったから」

 

 

絆というのは、きっと父さんの事だろう。

でもそれよりも後に続いた言葉が、過去を指す言葉だったのが嬉しかった。

「何も無い」というのが本来の形だったとなんとなくわかるその言葉が、「無かった」と変わっていることが堪らなく嬉しかった。

 

 

「綾波さん」

 

「なに?」

 

「これからもよろしくね」

 

「・・・ええ、よろしく、ね」

 

 

笑いながらお互いの顔を見る綾波さんと僕。

そんな綾波さんと見る月は、今まで見たことが無いくらいに綺麗だった。




いやぁ、◇さんは強敵でしたねぇ。

心象についての得写ばっかりで戦闘があっさりしすぎかもしれませんが、原作エヴァもそんな感じなのでしかたないね!

次回からシリアスはほとんど無しです。

ですが、信じるなよ!ソイツの言葉をッ!!

訓練された読者の皆様ならばもうお分かりでしょう。

作者の言葉は信じちゃあいけません!

次回の投稿もできるだけ早くがんばりますがいつになるかわからないので、あんまり期待しないでくださいね。

そして最後にもう一度、お待たせしてすみませんでした。

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