今世紀エヴァンゲリオン   作:イクス±

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お待たせしました!

長い期間時間が空いてしまい、前回の内容など忘れてしまってる読者の皆さんも多いと思うので、超簡単に振り返ります!

超簡単前回のあらすじ。
「使徒フィッシュ! 大人の鑑と化した冬月先生」

長い時間かけた割には短いですが、
ゆっくり読んで行ってね!!


第拾碌話 「どいつもこいつも馬鹿ばかり」

「なぁ、ちょっと気になったんやけど」

 

「ん?」「あー?」

 

 

生徒のほとんどが思い思いの時間を過ごす学校の昼休み。

先日の席替えで奇跡的に一か所に集まる形となった、いつもの3バカの一人であるツッコミバカが自分の席でスマホを弄りながら他二人に話しかける。

そして、同じくスマホを弄っている二人のバカが気の抜けた反応をしたところで、ようやくツッコミバカは画面から目を離し、一つの疑問を口にした。

 

 

「YESロリータNOタッチの、YESって必要なんかな?」

 

 

あまりにも突然過ぎて、それでいてあまりにもアホらしいその質問に、教室は静まり返る……なんてことはない。

 

3バカがバカな話をするのはいつものことだ。

最初のうちは誰もが奴らの正気を疑ったらしいが、今では気にする人などほとんどいない。

せいぜい、時間を持て余しその近くでボーッとしてた奴が暇つぶしに耳を傾ける程度だ。

つい、人の適応能力というものは中々に侮れないものだと謎目線で考えてしまう。

 

 

「……何言ってんだお前」

 

 

ツッコミバカの質問から数秒後、少しフリーズしていたオタクバカが冷静に問い返した。

レジェンドバカ、もといバカシンジも「うんうん!」といった感じにしきりに頷いている。

 

どうやら先の質問は流石のバカ二人にとっても意味不明なものらしかった。

外野からすればいつもとあまり変わらないように聞こえるのだが。

 

 

「だってYESが無くたって意味通じるやん、幼女触ったらアカン! って意味やろ?」

 

「そう言われれば……」

 

「いらない気もしてきたね」

 

 

ツッコミバカの説明を聞いて、詳細を理解したらしいバカ二人はスマホをしまって腕を組んで悩みだす。

3バカが腕を組み顔を顰め悩むその姿は、内容が内容だけに実にバカらしかった。

 

 

「……あれだ、きっと『ロリータ最高! でも触っちゃダメ!』って意味なんだよ」

 

「あぁ、トウジの解釈がそもそも違ったってことか?」

 

「はー、そういうことなんか……」

 

 

バカ一人のバカらしい答えをバカ真面目に聞いて納得するバカ二人。

 

……いけない、バカバカ考え過ぎてバカがゲシュタルト崩壊起こしてきた。

 

 

「これで解決だね」

 

「そうだな、YESは必要不可欠ってことで」

 

「お陰様でようわかったわ」

 

 

3バカの会話を真面に考えながら聞くんじゃなかった。

奴らの会話を終わったみたいだし、ここらで一休み……

 

 

「あ、そうだ」

 

 ん?

「え?」

「なんや?」

 

 

「じゃあさ、YESプ〇キュアのYESってなんなんだろうな?」

 

「ほう」

「謎やな」

 

 

……ほんっとーにバカね、アイツ等。

 

 

「楽しい?」

 

「……行き成りなによ」

 

 

頭の上から突然声をかけられ、少し固まってしまったアタシは自分の机に座り頬杖をついていた体勢から上体を起こし、声の主……レイの方に向き直る。

 

 

「楽しいって、何が?」

 

「いつもお兄ちゃん達を見てる」

 

 

アタシが3バカをいっつも見てるぅ?

まぁ、暇な時は大体あっちを見てる気がしないでもないけど……

 

 

「……そんなに見てるかしら」

 

「アスカがお兄ちゃん達を見てる時は、邪魔しない方がいいって委員長さん達が言ってたわ」

 

「何よそれ!?」

 

 

レイの言葉を聞いたアタシは立ち上がって詰め寄り詳細を問いただす。

すると、前にアタシが3バカを眺めている時に話しかけようとした時に、そう言われ止められたのだとレイは話した。

 

アイツら変な勘違いしてるんじゃないでしょうね!?

あくまで暇だから見てるのよ、暇だから!

話しかけてくれれば、ふっつーに話に付き合うわよ!!

 

 

「今度から普通に話しかけろって言っといて!!」

 

「わかったわ」

 

「まったくもう、なんなのよ……」

 

 

レイが素直に頷いたのを見届けたアタシは、勢いよく椅子に座り直しそのまま力を抜き倒れ込むようにして、机に体を預けた。

今のやり取りだけで妙に疲れてしまったアタシは、このまま授業が始まるまでだらっとしていようかと一瞬考えるが、ふと気になりその体勢のままレイの方に顔だけを向ける。

 

 

「そういや、なんでレイは話しかけてきたのよ? 話しかけるなって言われてたんでしょ?」

 

「どうしても気になったから」

 

 

「なにが?」と聞き返しそうとしたところで、アタシは先ほどレイが楽しいかどうかを聞いてそれに答えていないことを思い出した。

 

 

「アタシが、アイツらの事を見て楽しいかどうかが?」

 

「えぇ」

 

 

コクリと頷いてこちらをじっと見つめて答えるのを待っているレイ。

アタシはそんなレイの視線から一旦逃げるようにして、3バカの方に向き直る。

 

……「別に」と答えれば終わる話だ。

 

何も考えず感情的に否定するような事を言って、こんなのはただの暇つぶしだと伝えればこの話はそこで終わり、アタシは授業が終わるまでだらだらと過ごすことができる。

 

しかし、結局それは口にせずアタシはだんまりを決め込んでいる。

 

特に機嫌がいいわけでも無い。

というか、一瞬前までは変なことを宣ったヒカリ達への不満を抱えていたわけだからむしろどちらかといえば、マイナスかもしれない。

 

だけど何故か、アタシは当たり障りのない言葉を選び始めていた。

口に出してもあまりアタシのイメージに反しない程度で、本心を伝える言葉を。

 

そして少ししてから、アタシはレイの方に向き直らないままで答えた。

 

 

「……エヴァの訓練してる時よりは、楽しいわ」

 

 

アタシは、「ポテチに小型テレビを仕込む方法」について話し合い始めた3バカを眺めながら、そう答えたのだった。

 

 

 

 

 

『非常事態宣告が発令されました。ただちに近くのシェルターへ避難してください。繰り返します……』

ピリリリリッ! ピリリリリッ!

 

 

「……アスカ、非常招集」

 

「あーもう締まんないわね!! レイ、行くわよ! バカシンジもね!!」

 

「えぇ」

 

「あ、うん……ところで今なんでバカってつけたの?」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

市民に避難を促す放送が第三新東京市に響き渡っている中、NERVの中のいつもの会議室でリツコとミサトはそれぞれの作業を進めていた。

 

ミサトは資料を片手にモニターに移された遥か上空に佇む使徒の姿を睨み、リツコはその横で裏にNERVのマークが刻まれたタブレットを操作している。

そんな状況が数分続いた後、タブレットの操作を続けながらリツコはミサトに声をかける。

 

 

「どう? 何か思いついたかしら」

 

「……全然ね、さっきの以外全く思いつかないわ」

 

 

ミサトは使徒の姿を見つめながら苦虫を噛み潰したような表情でそう答えると、腕を組んでリツコの方へと向き直る。

 

 

「それで、声をかけて来たってことは結果出たんでしょ? さっき作戦の勝算は?」

 

「ジャスト1%」

 

「……ちょっち、命を賭けるのには心許ない数字ね」

 

 

そう呟いたのを最後にミサトは腕を組みなおし、さっきよりも一段と渋い顔をしてモニターを睨み始めた。

何か話しては睨み、また何か確認しては睨む。

限られた時間の中で同じ行動を何度も何度も繰り返すミサトを、リツコは呆れた様子で眺めていた。

 

 

「……よし、シンジくんに聞こ」

 

 

そう言って電話をかけるため、スマホを取り出そうとするミサトだったが、ガシャン!という音が突然辺りに響き渡ったことでその行動は中断される。

何事かと振り返ると、先ほどまで操作していたタブレットを取り落としたリツコが目に入った。

 

 

「大丈夫? それ、高いんじゃなかったっけ?」

 

 

ミサトのなんとなくズレた心配にリツコは答えること無く、逆に質問をぶつける。

 

 

 

「ミサト、あなたそれでいいの?」

 

「……あぁ、作戦本部長のくせにってこと? そんなの今更でしょう、シンジくんの作戦やアドリブに助けられたことが何度あったと思ってるのよ」

 

 

苦笑いを浮かべながらそう言ったミサトは再びスマホを取り出そうとするが、「違うわ」とリツコが否定したことで、また中断を余儀なくされた。

ポケットに手を突っ込んだまま困惑した表情で自分を見つめるミサトに、リツコは感情を感じさせない様な表情で静かに問う。

 

 

「あなたは自分の手で使徒に復讐したいんじゃなかったの? 今までのあなたなら、誰かに作戦の全てを委ねるなんて絶対にしなかったわ」

 

「……そういうことね」

 

 

その問いを受けてミサトは先ほどのリツコの言葉の意味を理解し、何処か様子のおかしいリツコを不思議に思いながら、とにかく正直に答えようと真面目な顔をして軽く考えを巡らせる。

しかし返事をするために思い出した事が原因でその表情は無意識のうちに一瞬で崩れ、ミサトはそれに気づかないままリツコに決定的な一言を告げた。

 

 

「……それも、私にとっては今更なのよ」

 

 

そう言ったミサトは、親友でさえ今まで見たことが無いような穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

『―――以上が今回の使徒の情報よ』

 

 

いつもの警報が鳴り、NERV職員の人が運転する車に乗り移動する中、突然僕のスマホにミサトさんから電話がかかってきた。

そして簡単な事情を聴いてから通話をスピーカーに切り替え、後部座席のチルドレン三人で今接近している使徒についての説明を受けていた。

 

 

『何か、使徒に関して聞きたいことはあるかしら?』

 

「……いえ、特にありません」

 

 

ミサトさんの言葉を受け、三人で視線を交わしお互い聞きたいことが無いのを確認してからレイが代表して答える。

 

 

『わかったわ、それでさっきも言った通り碌な作戦が無くてね、あなたたちにも考えてほしいのよ』

 

「任せてくださいミサトさん」

 

『ごめんねぇ、本来は私の仕事なのに……』

 

 

僕の言葉を聞いたミサトさんは申し訳なさそうな声で謝ってきたが、それに対してアスカが正反対のような明るい声で返事を返す。

 

 

「なーに辛気臭い声出してんのよミサト! この前約束したでしょ?」

 

「そうですよ、ミサトさん」

 

「それに、大分今更」

 

『人から言われると結構クるわね!!』

 

 

そんなミサトさんの叫び? を聞いて一頻り笑った僕等は、思考を切り替えて真面目に作戦を立て始める。

 

 

「受け止めるのはダメなのよね?」

 

『そうね……ダメってわけじゃないけど成功率はかなり低いわ』

 

 

ミサトさんが言うには、その作戦は不確定要素があり過ぎるのだそうだ。

着地地点にエヴァが間に合うかわからない、間に合ったとして無事に受け止められるかがわからない、受け止めて一時的に持ちこたえたとしても使徒がなんらかのアクションを起こしてくるかもしれない……などなどキリがない、のだそうだ。

移動速度と受け止めるためのパワーに関しては、アクセルシンクロを計算に組み込むことでグンと成功率が上がったらしいが、それでも一桁だというのだからよほどの数なのだろう。

 

受け止めるというのは個人的に面白いと思ったんだけど、それなら仕方ない。

……というか、それがダメなら答えは一つじゃないか。

 

 

「空中で撃破」

 

「やっぱり、それしかないよね」

 

「そうね」

 

 

レイの言葉に、同じ考えに到達していた僕等も頷きながら賛同し、いざその方向で作戦を立てようとしたところで、ミサトさんから待ったがかかった。

 

 

『待って! 空中で使徒を倒すのは難しいわ』

 

「……やっぱりすでに出た案でしたか」

 

「えー!? 何がいけないのよ?」

 

『火力が足りないわ……今ある対空兵器じゃ、使徒へのダメージは期待できないの』

 

「んなの最初から当てにしてないわよ! エヴァを何とかして空に運べないの?」

 

『国連に連絡すれば用意できるかもしれないけど……今は時間が無いわ、無理ね』

 

 

その会話に続くように、レイとアスカは次々にミサトさんに提案していく。

 

 

「この前みたいにA.T.フィールドを足場にして飛ぶのは?」

 

『それなら何処までも飛べるんでしょうけど、移動速度がかなり遅くなってしまうと思うわ……使徒が着弾するまで間に合わないでしょうね』

 

「アクセルシンクロを使用した状態で再計算」

 

『……ダメね、アクセルシンクロ状態の出力の振れ幅が大きすぎて、正確な計算は難しいけど多分無理、間に合わないわ』

 

「アクセルシンクロ状態で走った勢いのまま思いっきりジャンプなんてどう?」

 

『それの倍近い高さと勢いが必要ね』

 

「……ちょっと厳し過ぎない? なんでこんな八方塞がりなのよ!?」

 

「前回楽した分?」

 

「最悪ねソレ!!」

 

 

アスカとレイの会話で、僕は前回の使徒について一瞬思い出す。

確かにアレは楽過ぎた……停電と使徒襲来が被って当時はかなり焦ったけど、エヴァで通路を駆けあがって地上に出たら、瞬殺できたんだもの。

確かに、そこで楽した分今回が難しくなってるならそれは仕方ないかも……って、いつまでも関係ない事考えてる場合じゃないか。

 

 

「ちょっといいです?」

 

 

思考がずれ掛けていた僕は気を取り直すように、さっきの会話で気になった部分についてで割り込んで質問をする。

 

 

『どうしたのシンジくん』

 

「倍近い高さと勢いがあれば、いけるんですか?」

 

『……えーと、正確にはアクセルシンクロ状態の約1.6〜1.7倍くらいでなんとか間に合うと思うわ』

 

 

倍近くあって越したことはないんだけどね。というミサトさんの声を聴きながら、僕はよくお世話になっているメモアプリを開き、今聞いた情報や自身の考えを書き込んでいく。

 

 

「……できるの?」

 

「できる、と思う」

 

 

メモしながらアスカの言葉に答え、区切りの良い所まで書いたところで切り上げミサトさんに話しかける。

 

 

「いいですか?」

 

『聞かせてちょうだい』

 

「僕が思いついたのは、エヴァを踏み台にしてエヴァがジャンプする作戦です」

 

『……詳しく教えて』

 

「はい」

 

 

僕はミサトさんに言われるがままに自分の考えを口に出していく。

 

倍のジャンプ、と聞いて一番最初に思いついたのは「イナズマおとし」だった。

「イナズマおとし」とは超次元サッカーアニメ、イナズマイレブンの中に登場する二人一組で行う必殺技で、サッカーボールを遥か高くに蹴り上げてから二人がジャンプし、一人が空中でもう一人を踏み台にしてさらに飛び上がり、ボールに辿り着いてそれをそこからゴールまで一気に蹴り落とす、という技だ。

それと同じようにして飛び上がればいいのではないか? と一瞬考えたがきっとそれでは高さも勢いも足りない。

そこで僕は、じゃあただ踏み台にするのではなく、お互いの両足裏を合わせトランポリンのようにして打ち上げるのはどうだろうか? と考えた。

これも元ネタの必殺技があるのだが、今は割愛しよう。

しかしそれを空中で行うのはとても難しい。

とてもじゃないが即興でできるようなことではないと考えた僕は、それを地上で行えばいいと考えたところで、思い出した。

 

そういえばそういう技あったな、と。

 

僕が考えている方法をそのまんま形にした技が、イナズマイレブンの原点とも言える漫画に存在していたことを思い出したのだ。

 

 

『……わかったわ、この作戦で行きましょう。何か作戦名みたいなものはあるかしら?』

 

「SLH作戦」

 

 

何故か、レイが答えた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「……あれ? リツコさんは居ないんですか?」

 

 

会議室にやってきた私達を迎えたのは、葛城三佐……ミサトさんと普段はオペレーターを務めているはずの伊吹マヤ二尉だった。

確かに赤木博士が不在で、かわりを務めるかのように伊吹二尉がいるのは違和感が拭えない。

 

 

「先輩……えーと、赤木博士は現在エヴァの最終点検を行っていますので、作戦立てるに当たっての補佐はかわりに私が行っているんです」

 

「……なるほど?」

 

 

伊吹二尉の説明に対して、釈然としない返答を返すお兄ちゃん。

 

納得はしたけど、やっぱり違和感、という感じ?

 

 

「それより作戦は? SLH作戦で決定なの?」

 

 

アスカはそんなことはどうでもいいと言わんばかりに、ミサトさんに問いかける。

 

……私が名前を決めた作戦。

でも、明らかにお兄ちゃんもSLHを意識して作戦を立てていたから、私が考えたとは言えないかもしれない。

 

 

「えぇ、SLH作戦で決定したわ」

 

「MAGIシステムからも承認され、SLH作戦は正式なものとされました……条件付き、でしたけど」

 

 

……シミュレーションゲームは好き。

好きだから、イナズマイレブンについて調べた。

そこからの関連付けで例の漫画、そしてSLHの事を知った。

でもそれはシミュレーションに関係なさそうだったから、知識だけ。

 

 

「条件付き? どういうことなのよ?」

 

「MAGIシステムが条件付きで作戦を承認したんです、この条件が満たされなければ作戦の実行は認められないと」

 

「……どんな条件なんですか?」

 

 

……お兄ちゃんが言っていることの元ネタがわかる、というのはかなりレア。

つい出しゃばってしまった。

あとで、謝るべき?

 

 

「レイが、踏み台の役目を務める事よ」

 

 

! 

私の話題? 大変、聞いてなかった。

視線が私に集まっている。

何の話か分からないから、どうすればいいのかわからない。

取りあえず、顔に出さないようにする。

 

……全員が真剣な表情で私を見る中、お兄ちゃんだけ半目。

お兄ちゃんにはバレたらしい。

でも他の人にはバレてない。

これはセーフ? アウト? 

でも、このままでは確実にアウト。

 

 

「……レイが作戦の中で踏み台役を務める事が、なんで条件なんですか?」

 

 

!!

お兄ちゃんが説明口調でミサトさんに質問をしてくれたことで、状況が理解できた。

あとでお兄ちゃんには謝罪とお礼、決定。

 

それにしても、私が踏み台役をするのが条件、というのはよくわからない。

私が踏み台役をやると、作戦に欠かせないはずの高さと勢いが足りなくなる可能性がある。

私は、アクセルシンクロが使えないから。

 

 

「アクセルシンクロが使えるアスカとシンジくんが踏み台役と迎撃役をやってくれれば高さと勢い、そして火力は十二分に確保できるわ……でもそれだけじゃダメなの」

 

「当たり前だけど作戦は一度きり、使徒が地上に辿り着く前に撃破できなければアウトよ」

 

「もちろん二人ならやってくれると信じてるけど……それでも保険はかけて置かなければならないわ」

 

「だから、もしも間に合わなかったときのために受け止める役が必要なの」

 

「使徒の着地予定地点に間に合う可能性が高い、アクセルシンクロの使えるパイロットが一人、受け止める役をしなければいけないのよ」

 

「もちろん迎撃役もアクセルシンクロが使えなければならないわ、撃破するためには火力が必要不可欠だもの」

 

「なので、消去法で踏み台役はレイがやる、ということになるわ……高さと勢いはそれでも十分だから」

 

 

……私が踏み台役をやらなければいけない訳はは理解できた。

それに、ミサトさんが何処か言い辛そうだった理由も今ではわかる。

 

 

「ちょっとそれ、大丈夫なの?」

 

「ええと、高さとスピードはどちらも問題は……」

 

「そっちはもう聞いたわ! 私はレイに掛かる負担について言ってるのよ!!」

 

 

高さと勢いに問題は無い、と言ってもそれは私と迎撃役が全力を出せた場合の話だろう。

私は、アクセルシンクロ状態のエヴァの全力を受け止めなければならないのだ。

地面と板挟みの状態で。

 

 

「レイは、零号機とのシンクロ率がそこまで高くは無いわ……だからフィードバックでの負担もその分軽減されるはずよ」

 

 

そう告げながら悲痛そうに私を見つめるミサトさんに釣られるようにして、私に視線が集まる。

皆が私を心配するような表情をしている中、今回もまたお兄ちゃんだけは違った表情をしていた。

とても真剣な表情で私を真っ直ぐに見つめていた。

 

お兄ちゃんは激情家で感情的。

だけど常に何処か冷静で理性的に物事を見ている節がある、不思議な人。

だからお兄ちゃんは、わかっている。

作戦を変える時間なんて無い事も、他の人に無理を言って代役をしてもらうことができない事も。

 

そして私が、踏み台役を辞退する気が欠片も無い、ということも。

 

 

「大丈夫です、やります」

 

 

私は、アクセルシンクロを使えない事に対する引け目は感じていない。

私にしかできないこともあるし、何よりお兄ちゃんとアスカが私の事を心から仲間だと思ってくれていることを、知っているから。

 

でも、だからこそ―――

 

 

 

      ―――私は、自分のできることからは決して逃げない。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

作戦会議を終え、プラグスーツに着替えてからエヴァの元へ向かうチルドレンの三人は、綺麗に並んでエレベーターに乗っていた。

最初は三人とも黙って立っていたが、半分くらいまで下りたところでふと、何かを思いついたかのように一番右側に立っていたアスカがシンジ達の方に顔を向ける。

 

 

「そういえばさ、シンジはなんでエヴァに乗るの?」

 

「……いきなりどうしたのさ?」

 

「単純に気になっただけよ、あと暇だし」

 

 

その言葉に、とりあえず納得したシンジは腕を組んで考え込む。

うんうん唸るばかりで一向に答える様子の無いシンジに痺れを切らしたアスカは、助け舟を出すように自分の理由を口に出す。

 

 

「ちなみにアタシは自分のためと例の約束のためね、ほら……アンタもなんか無いわけ?」

 

「……世界の平和を守るため?」

 

「あっきれた……碌な理由も無しに戦ってたのね」

 

 

あまりにも適当でクサい回答に、ジト目で睨むアスカに対して困ったように苦笑するシンジ。

 

 

「やっすい正義感に任せて戦ってるくせに、そんなに強いなんて反則よ反則!」

 

「そうかな」

 

「そうよ!」

 

 

呆れながらも怒るという器用なことをしているアスカに、何故か照れた様子のシンジはそのままの状態で目的地に着き止まったエレベーターから出ていく。

 

 

「私、聞かれなかった」

 

 

密かにショックを受けてるレイを置いて。

 

……まぁ、レイの戦う理由については、二人ともそれぞれ別の場所でだが聞いたことがあったから問わなかっただけなのだが。

もちろんレイもそれがわかっていたが……なんか、アレだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

時は経ち、作戦開始直前。

 

エヴァ三機はそれぞれの配置に着き、そのうち二機はクラウチングスタートの体勢でその時を待ち構えていた。

 

そして、子供達だけに任せて逃げるわけにはいかないと残ったNERV職員達が見守る中、ミサトの作戦開始の合図に反応して二機はアクセルシンクロによるロケットスタートを決めた。

 

アスカはミサトによる指示とNERVのサポートを受けながら現在進行形で観測、計算され絞られていく落下予測地点へと急行。

 

そしてシンジはスタート地点から真っ直ぐに走り、その先で待機していた零号機の元へたどり着こうとしていた。

 

完全に勢いづいた初号機は、シンジが肉眼で零号機を捉えた瞬間に思いっきりジャンプ。

 

同じく初号機を視界に収めた零号機は地面に仰向けになり、足の裏を空に向けた体勢になった。

 

射出準備が完了した踏み台、というよりは発射台と化した零号機に向けて初号機は重力に身を任せながら正確に落下して行く。

 

そして初号機がジャンプしてから数秒後、二機の足裏は完全に重なり合った。

 

 

「「ッ!!!」」

 

 

技の名前を叫ぶことすら許されない刹那の瞬間を二人は逃さず、お互いに渾身の力を下半身に込め思いっきり蹴りだした。

 

零号機は上半身を地面にめり込ませ、初号機は二機分の全力が生み出した圧倒的な勢いで空へ飛びあがっていく。

 

勢いを殺さぬ程度に編み笠状のA.T.フィールドを頭上に展開し、摩擦熱から身を守りながら上昇していく初号機は落下する使徒を一瞬で追い越した。

 

使徒を追い越してなお上昇を続ける初号機は数秒後、勢いとスピードが少し落ちたと感じた瞬間に空中で一回転。

 

そして頭上に展開していたA.T.フィールドをそれなりの大きさに展開し直すと、それを蹴って今度は使徒に向けて急降下を始める。

 

A.T.フィールドを一瞬横に展開し蹴ったり殴ったりすることによって、自身の軌道を修正しつつまっさかさまに落ちる初号機。

 

そしてある程度狙いが定まったところで初号機はまた一回転し、真っ直ぐに揃えた足を使徒に向けるとシンジは搭乗するときに渡された小型装置のスイッチを押した。

 

するとシンジの要望によって急遽右足に取り付けられたポインターから赤い光が迸り、落下する使徒の背中? の一部を赤く照らし出す。

 

シンジはそれを目印にさらに微修正を加え、赤い光が使徒の中心を捉えブレも無くなったところで真っ直ぐに伸ばした足の片方を引き、某ヒーローキックの体勢にする。

 

そして仕上げと言わんばかりに伸ばした足の先から体を覆うようにA.T.フィールドを錐形に展開し、空気抵抗を極限まで減らした初号機は圧倒的なスピードで使徒に向かって落下して行く。

 

空気摩擦によって赤く染まったA.T.フィールドを纏う初号機の姿は、モニターの向こうからそれを見ていたNERV職員の隠れ特撮オタク達をとても興奮させた。

 

 

「クリムゾンスマッシュ!!!」

 

 

その台詞と共に使徒の中心部に突入したシンジは、次の瞬間には同じ体勢のまま突き抜けて外へ飛び出し、その足に深々と突き刺さった使徒のコアは初号機が弐号機の横へ着地した時の衝撃で粉々に砕け散った。

 

それを横目で確認したアスカは使徒を見上げながら、自分達を覆うように大きめにA.T.フィールドを展開。

 

その一瞬後に起こった大爆発から身を守りながらシンジに労いの言葉を投げかけ、少々ダメージを受けたものの平気な様子のレイに通信を繋げて、無事に作戦が終了したことを喜ぶのだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

作戦が決行され、そして無事終了した当日の夜。

私は自室でゼーレに提出する報告書を作成していた。

ある程度区切りの良いところまで纏めると、一息吐くために立ち上がってコーヒーを入れてからまた座り直す。

そしてコーヒーを飲みながら、自分の斜め上に設置されたモニターをぼーっと見つめる。

 

そこには、それぞれ自室にて思い思いに時を過ごすチルドレン達の姿が映し出されていた。

 

私はその映像を眺めながら、静かにミサトが変わってしまった日の事を思い出す。

 

 

数日前の事だ。

ミサトの昇進パーティーなるものに呼ばれた私は、同じく招待された冬月副司令と共に盛大に祝われるミサトの様子を見せつけられた。

チルドレン全員で作った料理、碇シンジの同級生二人が披露する芸、そしてそれぞれ用意してきたプレゼントや日々の感謝の言葉を受けて、ミサトは大人気無く泣き始めてしまった。

チルドレンや他の参加者は嬉し泣きだと考えているだろうが、私はそれだけでは無いことを知っていた。

 

あの涙の大部分は、罪悪感から来るものだと。

 

ミサトがチルドレン達の事をよく気にかけていたのは、自分の復讐のためだ。

自分の家にチルドレンを住まわせ、家族のように接してきたのも全てチルドレンを手なずけ、実際に戦うことができない自分の代わりに忠実に指示に従い戦う道具を仕立て上げるためだったのだ。

だというのに、ここ最近のミサトときたら度々私の自室を訪れては私に子供達のすごい所を語ったり騙していることについての弱音を吐いたり、とてもじゃないが見ていられなかった。

今まではなんとかそこで初心を思い出させ、調教師、そして監視者としての役割を果たさせてきたが、もうダメだろう。

今回で完全に止めを刺されたと判断した私は、その場を静かに離れトイレに向かう振りをして家のあちこちに監視カメラを設置した。

もちろん、ミサトに伝えるつもりなど無かった。

 

そして次の日の朝、私は監視カメラの向こうからミサトが子供達に謝り倒す様子を眺めていた。

それは概ね予想通りの光景だった。

罪悪感に耐え切れず、ミサトは近いうちに子供達に全て白状するだろうとふんだから、監視カメラを設置したのだから。

 

……まぁ、ここまで早いとは思ってなかったけど。

 

とにかく、私の予測通り白状して謝り倒すミサトを子供達はあっさりと許した。

当然だ、ミサトは後ろめたい理由があったとはいえ今までほとんど素で過ごしてきたのだから、たとえそのことを告白されても「利用されてきた実感」など微塵も沸かないだろう。

故に、子供達が許すところも私は予想していた。

「ミサトの復讐は自分達が果たす」などという約束を子供達の方から切り出し、結んだのは意外ではあったが別にどうでもいい。

まぁ、監視カメラの件を悟らせないために今日は一芝居打つ羽目になったが、タブレットも壊れて無かったし特に苦でもなかった。

 

 

今現在私の中で大きな問題として議題に上がっているのは、碇シンジの異常性についてだ。

 

 

彼は普通の中学生だと周りの人間は考えているが、私からすればそんなことは絶対にありえない。

というか、普通に常識と照らし合わせて考えればわかるはずだ。

 

普通の中学生が、初の実戦で完全勝利を収めることができるはずがないでしょう?

普通の中学生が、あらゆる戦いに於いて有利に立ち回れるわけがないでしょう!

普通の中学生が、未知の脅威に対して異常な耐性を持っているわけないでしょ!?

 

そんな奴はフィクションにしか存在しない!

目の前で起こってるんだから、実際に存在してるんだからとそこで考えることを諦めるんじゃないわよ!!

その異常性をカリスマ性と勘違いして崇めるのはやめなさい!!!

 

碇シンジも碇シンジよ!

作戦や戦術はアニメや漫画に書いてあったことを参考にしました?

動きや技はフィクションの物を参考にしましたですって?

 

ふざけないで!!

空想上の知識を命がかかった実戦で用いるなんて頭がおかしいんじゃないの!?

そもそもエヴァの操縦はそんなに単純じゃないわ!!

実際に生身で経験した事が無いような動きが、そう簡単にできるものですか!!!

もし可能だったのなら、エリートとして育てられたアスカは今頃重度のオタクにされてるわよ!!!

 

どいつもこいつも馬鹿ばっかりだわ!!!

 

 

……ダメよ、熱くなってはいけないわ。

今、私は休憩中なのよ。

冷静に、心を落ち着かせなくては……

 

 

……それでだ。

私はその異常さの原因を、今回解明できるのでは無いかと考えていた。

今までは碇シンジの日常を過ごす様子は、ミサトや諜報部から上がってくる報告書を通して又聞きでしか把握できていなかったが、監視カメラを仕掛けたことによって直接見ることができるようになった。

だから碇シンジを異常たらしめる何かの正体を、掴むなり垣間見るなりできるんじゃないかと思ったのだが……

 

 

……彼の日常は、NERV関連の事を除けば全く以って普通の中学生の日常そのものだった。

ミサトや、諜報部から伝え聞く通りの光景だった。

 

 

もういや、全部投げ出したい……

碇シンジならしょうがないと、考えるのをやめた馬鹿共の一員になりたい……

 

……でも、それは許されないわ。

馬鹿共と私では、立場が違う。

投げ出すことは絶対に許されないのよ。

私のために、あの人のために。

 

そのために碇シンジはどうにかしなければいけない。

作戦を成功させるためには碇シンジがプラチナメンタルの持ち主では困る。

もしもの時のための予備であるアスカのメンタルも、碇シンジのそれが伝染するように強固になって来てるから本当に手に負えない。

 

早々になんとかしなくては……でも、碇シンジがいないと他二人も機能しなくなるだろうから使徒が倒せなくなるし……あれ、これって本当にどうしようもないんじゃ……?

 

 

 

 

………

 

 

……

 

 

 

 

 

 

……そう、そうね。

そういえば私、報告書を作ってる途中だったわ。

まずはそれを片付けなきゃね。

 

こうして私は、チラリとモニターを見てから逃げるように再び報告書を作り始めるのだった。

 

 

……そういえば彼、なんで今勉強してるのかしら?

いつもこの時間はアニメを見ているはずなのに、碇シンジは今ポテチを食べながら勉強中。

まぁ、大したことじゃないか……。

 

 

頭の片隅で、そんなどうでもいい疑問を抱えながら。

 




別に転生者でもなんでもないから、見られて困ることは何も無いシンジくんでした。

あと、本編で描写するチャンスが無かったのでここで説明させていただきますが、シンジくんが迎撃役に抜擢された理由は、空中戦ではA.T.フィールドをどれだけうまく使うかが重要と考えられたためですね。
なので、A.T.フィールドの扱いに誰よりも長け、かつ柔軟性があるシンジくんが選ばれました。


えー、本当にかつて無いレベルで投稿が遅れてしまい本当にすみませんでした。
正直に白状しますと、二月中旬まで全っ然進んでませんでした。はい。
色々忙しかったのもあるんですが、何より自分の集中力が続かなくてプロットだけが貯まるばかり……という状況がずっと続いていました。
ですが!二月中旬、身の回りの忙しさが一旦鳴りを潜め始めたところで、画期的な執筆方法が思いつき、それからはもう驚異的なスピードで執筆を進めることができました!
ええもう、私にしては驚異的なスピードで、超楽しく執筆できました!

……夜寝る前に書こうとするからダメだったんだよなぁ。
なんで気づかなかったんだろ。

とにかく! もうこれほど投稿が遅れることは無い!……ようにがんばりますので、これからも読んでいただけると嬉しいです!!


ではッ!!!





あ、感想待ってまーす!

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