世界(政府にとって)最凶能力者   作:ウィルソン・フィリップス

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ホルスご夫妻の息子さん

ジャージ市(服なのか服から来ているのかは不明だ)にお住まいのホルス氏は、それはそれはいい人だった。

具体的に言うなら、街でたむろするゴロツキどもに寒いだろうと言って手袋を渡すくらいにだ。

そんなホルス氏にはこれまた素敵な奥様がおり、ちよっとお節介すぎる超いい人なのである。すがる藁すらない身として、卑しくもホルス氏で居候させてくれないかとお願いすれば、やっぱり了承してくれた。

まさに扉絵になってもおかしくない超善人老夫婦だった。

 

もうこの夫婦ヒトヒトの実モデル菩薩でもいいんじゃないかな。

一文無しの言葉も通じない外国人が、グランドラインの隅っこで一か月も無事で生きているということに感謝していると、せかせかとホルス夫人がやってくる。

 

「ああ大丈夫です。さっきご飯は食べましたのでおやつはいらないです。……ああ、いらないです見合い相手もいらないです」

 

ちっちゃいおばあちゃんのくせして押しが強い。力が強い。うん、ありがとう。ありがとうございます、……ってだからほっぺたに葡萄をおしつけんなや。シミになるやろうがや。

やはり農家のおばちゃんは体力というか、筋力がある。強い、そして痛い。

 

 

どうやらホルス夫人の繰り返し出てくる「my san」と「ダール(?)」という単語、押し付けられてくる息子さんの写真を見る限り、ダールという息子がいるらしい。ホルスの子供の名前がダール(豆)とは妙な感じだ。これじゃない。

「うん確かに普通に好青年っぽいですが、その写真ちっくと古いでしょう? 何年前に撮った写真さね? その人もうおっさんだよね?」

伝わってなどいないはずだが、年季のはいいた白いドレスを押し付けてくるのはやめてほしいです、ホルス夫人。……すみません、嫁には行きません。私の夢はとりあえず独り立ちですから。

その後のホルス夫人の語っているのを見る限り、恐らくだが息子のダール(仮)は、海軍で働いているらしく、父親に似てとってもやさしいらしい。

良く家業を手伝ってくれていたようだ。最近は帰ってきていないが、時々便りをくれるらしい。

明らかに数十年は前だろう古びた写真を抱きしめながら奥さんはニコニコお話ししてくれる。

 

親が子を心配するのは、国どころか世界を超えても一緒らしい。全く譲る気がしない嫁に来ないか攻撃を避け、コテージで繕い物をしながらチクチクしていると、今度はホルス氏がニコニコ手紙をもってやってきた。奥さんもうれしそうにかけより、またもやダルダル行っているところをみると噂の息子がやってくるらしい。

ついにこの世界での海軍とのファーストコンタクトとなったわけである。

 

しばしば悪党のごとく描かれる海軍。

できれば顔なんぞ合わせたくないが、もはや自分にとっては聖人クラスの大恩人のご子息である。例え乗り気でなかろうと、ここで逃げるなどはあんまりにも失礼だ。この前なんて私に「daughter」なんて呼んでくれたのである。ご夫婦をがっかりさせることなんてできるはずもなく、まあ大丈夫だろう、などといい加減な予測をたてて帰郷するらしいダルちゃん(出典:ホルス夫人)を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

のそりと、丘の向こうからあらわれたシルエットにやっぱりと思う。出来れば、後方支援のほうで戦闘職ではない人ならいいと思ったのだがうまくいかないものだった。身長は滅茶苦茶でかいし、筋肉モリモリである。

さらに近づけば、白黒の牛柄模様のケープらしきものを羽織っている。

奇妙なことにその男は、分厚いケープをかぶりながらこちらに走ってきている。

ピンクの羽根のコートを着る大男がいるこの世界ではそれほど奇抜ではないのかもしれないが、やはりおかしい。

2メートルは超えているだろう長身、上級兵であることを示す正義のコートがはためいているのに、その牛がらの布は全く頭から動く様子がない。

いや、そもそもそれはケープではない。被り物だ。

だが、犬の被り物をしているガープではないだろう。あれは茶色い大型犬だったはずだ。

 

 

ああ、そうだ犬だ。

 

そもそも、酪農家のホルス夫妻の息子というから、先入観があった。

乳牛の息子なのである。

カウとか、モウとか、ムーとかそんなところだろうと。闘牛でも来るんじゃないかと思っていたのだ。

 

そうじゃない。

そうじゃないのだ。

 

目の前に迫る巨体を見つめる。

肩には中将以上を示すコート、鍛え抜かれた肉体に、爪のある手。

そして、白と黒。

 

 

 

 

 

……白と黒の毛皮を纏ったその顔を。

 

 

 

 

 

 

「ダルメシアン中将じゃねええか!」

 

 

 

 

 

 

 ついに優しくて、親孝行のダル(仮)さんと対面する。

 いきなり大声を上げた不審人物(私)を鋭すぎる眼光が貫く。

 犬面の向こうからこちらを見つめる眼光は鋭すぎる。私は怪しいものじゃありません、うっかりおたくの親御さんに助けられた迷子です。そんなことをぶつぶつと日本語でつぶやく。

 

「なんで、ホルシュタインの息子がダルメシアンなんだよ。白と黒しかあってねえじゃねえか。衝撃で脇役なのに思い出したわ。え、この人まさかホルスタイン・ダルメシアンとかいうの?ないわー、まじないわー。ホルス氏そのネーミングセンスはないわー」

 

 なんだか難しそうな表情でせかすように夫婦を追い立てる。

 久しぶりのようだが、あまりいい雰囲気ではなさそうだ。ホルス夫人も、ちょっと困惑気味である。……あ、わたしは夫人と一緒にですか?了解です。

 遅れてやってきた(恐らく中将が早すぎた)海兵にご同行をお願いされる。連れていくというか、保護されているような感じだ。

 もしかして、これって帰省ではなくて避難誘導をしに来たのか?

 

 

 疑問がかすめた時には、すでに砲台の鈍い音が響いていた。

 

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